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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


ある木陰の出会い

 追手を振り切ったと確認したところで、リフティ・ココノセは一度バイクを止めた。
「ああもう、しつこかったぁ」
 輸送任務の途中で敵――連邦のサイバー騎士に見つかり、追われるハメに陥ってしまったのだ。
 ここらはもう戦闘区域からは離れているし、すでに連邦よりもUMEの勢力地域に近い。
 あとは報告だけで今回の仕事は終わりだ。
「・・・さて、と」
 ようやっと落ちついたのだ。今のうちに怪我の手当てをしておくべきだろうと思い、念の為に注意深く周囲を探った。
 サァッと、穏やかな風が吹いていく。
 少し離れた所にポツンと立っていた大きな木――太い幹の向こうで、風に流されてチラチラと揺れる髪が目に入った。
 敵か、味方か・・・・・・・・リフティは警戒の眼差しを浮かべてライフルを構え、ぐるりと木の周囲を回って――目に飛び込んできたのは、気持ち良さそうに眠っている一人の青年の姿。
 まるで粉雪のような真っ白な髪。見るからにわかる、綺麗な肌。
 あまりに穏やかなその様子に、リフティは思わずライフルを下ろした。
 直後。
 ぱちりと、突然。・・・・・・彼が目を覚ました。
「っ!」
 瞬間的にライフルを突きつけたが、だが彼は恐れる様子もなく、ただ一点を見つめていた。
 ゆっくりと立ちあがった彼は、視線を動かさないままリフティに向かって歩いてくる。
「止まりなさい!」
 見せつけるようにして再度ライフルを構えなおすと、彼はぴたりと立ち止まった。
 だが視線は変わらない。
 真っ直ぐに寄せられる――敵意の見えない視線に、リフティは戸惑いを感じて眉をひそめた。
「大丈夫ですか?」
「・・・え?」
 問われて、初めて気付いた。
 彼の視線はただ一点に・・・・・・リフティの怪我に向いていたのだ。
 たったいま自分は、警戒心むきだしで銃を突きつけていたのに・・・・・・。そんな緊張した空気を無視した暖かい声音に茫然としていると、彼は穏やかに笑って救急セットを見せた。


 結局。
 雰囲気に流されて、リフティは木陰でのんびりと座っている。
 隣には至極真面目に怪我の手当てをしてくれている青年。
「はい、終わりましたよ」
「・・・・・・ありがとう」
 人好きのする笑みを浮かべる彼が、ふと表情を変えた。
「そういえばまだ名前も名乗ってませんでしたね」
(・・・・・・・・・・・なんだっけ・・・)
 彼の雰囲気に何かを思い出しかけて、だけど思いつかなかったので放置することにした。
 彼のほうはといえば、リフティのそんな様子には気付かなかったらしくそのまま言葉を続ける。
「私はキウィと言います」
 じっと、キウィと名乗った彼の視線がリフティを待っている。
 リフティは小さく息を吐いて苦笑した。
 直接には言われていないが、キウィの技術や様子からおそらく連邦のアイアンメイデンだろうと見当をつけていた。
 一方リフティはUME所属の車両支援パイロット。
 お互い敵対しているはずなのに、この雰囲気はなんだろう?
「あたしはリフティ」
 名乗るが早いかクスリと笑って立ちあがると、キウィに向かって手を差し出した。
「来て。お礼に良いものを見せてあげる」
 キウィはきょとんとした表情でリフティを見上げた。
「ほら、早く」
 動く様子のないキウィの手を引くと、キウィは引っ張られるままに立ちあがる。
 にこやかな笑顔でキウィをバイクの高部座席に座らせると、リフティもバイクにまたがりスロットルを回した。


 景色が飛ぶように流れ、うるさくも楽しい音を奏でて風が過ぎて行く。
 バイクで走っていたのは、時間にすれば一時間くらいのものだったが、その一時間のあいだ――二人はとくに会話を交わすこともなく、だが気まずい雰囲気になることもなかった。
「この辺で良いかな」
 遮るもののない草原の向こうに、沈みかけた夕陽が赤い光を放っていた。
「どう?」
 バイクから下りて声をかけたが、キウィの返事はなかった。
 適当な草の上に座り、橙の光で染められた空と雲を眺める。
 かさりと草を踏む足音が耳に届き、続いてリフティの隣に影が落ちた。
「綺麗ですね」
 緑の大地に腰を下ろしながら、キウィは楽しげに答えた。
「言ったでしょう? お礼に良いものを見せるって」
 狙い通りの返答にクスクスと嬉しい笑みが零れる。
 それからは、言葉はなかった。
 ただ、陽が沈むまで、その美しい夕焼けを眺めていた。
 ――そうして、辺りが闇に染まり始めた頃。
 コトンと肩にかかった重みに、リフティは隣に座るキウィの方へと顔を向けた。
「あらやだ」
 今更敵もなにもあったもんじゃないような気はするが。
 それでも一応彼と自分は敵同士。
 その敵の前で、よくもまあこんなに眠れるものだ。
「ま、今は仕事中じゃないしね」
 眠りやすいように体制をずらしてみると、キウィの頭がちょうどリフティの膝に乗る形になった。
「たまには女の子の膝枕ってのも良いでしょ」
 出会った時から感じていた何かに気がついて、リフティは誰に言うでもなく明るい声で呟いた。
 ――兎みたいだ。
 どこがどう兎みたいなのかと聞かれると困ってしまうが、キウィの纏う雰囲気は、なんとなく兎を思い出させた。
 ここのところ張り詰めていた神経が久しぶりに休まったような気分で。
 リフティは、優しい微笑を浮かべてキウィの寝顔を眺めていた。