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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


都市マルクト【ビジターズギルド】初めての会員登録
初めてのセフィロト

ライター:高原恵

 ビジターズギルド。ゲートの前のでかい建物だと言えば、その辺の婆ちゃんだって教えてくれる。
 中に入っても迷う必要はないぞ。上のフロアにお偉方の仕事場があるんだろうが、用があるのは一階の受付ロビーだけだ。階段昇らずまっすぐそっちに行けばいい。
 軌道エレベーター『セフィロト』探索を行う者達は、まずここで自らを登録し、ビジターとなる。書類の記載事項は余さず書いたか? 書きたく無い事があったら、適当に書いて埋めておけ、どうせ誰も気にしちゃ居ない。
 役所そのまんまで、窓口ごとに担当が別れている。お前が行くのは1番の会員登録窓口だ。
 並んで待つ事になったり、待合い席に追いやられる事もあるが、気長に待つんだな。
 同じような新人を探して、話なんかしてるのもいいだろう。つまらない事で喧嘩をふっかけるのも、ふっかけられた喧嘩を買うのも悪かない。
 まあ何にせよ、書類を出せば今日からお前はビジターだ。よろしく頼むぜ。

●1本違いで大違い
 都市マルクト――そこはセフィロトの第1フロア。都市区画『マルクト』の入り口に新しく作られたビジターの街である。
 街といっても、タクトニムの排除が終了した地域の周囲を、無骨で頑丈な外壁で取り囲んだ区域であるに過ぎない。『審判の日』以前はどうだったか知らないが、今の都市マルクトの街並みは廃虚同然である。それでも上下水道や電気が今も生きている分、廃虚よりは遥かにましであるのだが。
 そんな廃虚より遥かにましな空間を、腰を越えるほど長い銀髪である美少女メイドさんが、てくてくきょろきょろと歩いていた。
 ……いや、これは見間違いでも書き間違いでも何でもない。確かに、綺麗な雪のごとき銀髪をもつ小柄なメイドさんが都市マルクトを歩いているのである。1人きりで。
「ええと、先程の方のお話だと、この道をまっすぐに……」
 そのメイドさん――森杜彩は、いつの間にやら繁華街の方へと足が向かっていた。繁華街はマフィアの手にある娯楽の殿堂だ。はっきり言って、いかがわしさの高い区画である。何しろその手の店が建ち並んでいる他、あちこちに何かの売人やらどこぞの店の客引きがたむろしているのだから。
 そういう場所に、美少女なメイドさんが1人で足を踏み入れると、どういうことになるかは火を見るより明らかである。まあ彩が普通のメイドさんであったなら、ただでは済まない所であるだろう。
 今言ったようなことを危惧したのか、通りがかった1人の青年がさすがに彩を呼び止めた。
「お……? ちょ、ちょっとちょっと! そこのメイドのお嬢ちゃん、待ちなよ待ちなってば!」
「はい? 私……でしょうか?」
 慌てて呼び止めた青年に対し、彩はゆっくりと振り返って聞き返した。
「そう、あんただ、あんた。そこのメイド服着てるあんただよ。いったいそんな格好でどこ行く気なんだい」
「あの。どこへと言われましても。私はただ、ビジターズギルドに行こうと……」
「ちょっと待て、そっちじゃないぞ!」
 彩が目的地を口にすると、青年がそう叫んで大きく頭を振った。
「そっちは繁華街の入口だ。ビジターズギルドはあっち。だいたいそんな格好で繁華街行くと、すぐに恐い狼が群がってくるぞ?」
「え、そうなんですか? おかしいですね、教えられた通りに歩いてきたのですけれど」
 首を傾げる彩。彼女自身は、先程道を尋ねた者から教えられた通りに歩いてきたつもりであった。が、青年は彩がどこから歩いてきたのかを聞いて、納得したように頷いた。
「あー……そりゃ1本間違えて曲がったな。ギルドへ行くならその1本先で曲がるんだ」
「でも、言われた通りに歩いてきたのですが」
「分かってる。あんたも、そして道を聞いたって奴もたぶん間違ってない。でもな、そこの道、昨日新しく手前に道が出来たんだ」
 なるほど、手前に1本新たに道が出来たのなら、言われた通りに歩いてもずれてくるはずである。それでなくとも迷路かと思えるほどの道の複雑さ、慣れた者でもうっかりすると道に迷うのではないだろうか。
 結局、彩は青年から道順を記したメモをもらい、丁重に礼を言ってから改めてビジターズギルドを目指して歩き出した。

●来るべき事態に備えて
 さて、彩が都市マルクトへやってきた理由であるが、メイド服姿だからといって何もメイド仕事で来た訳ではない。そもそも彩が着ているメイド服、こう見えても対物理戦用強化服である訳で。ここから考えても、何やら戦闘が絡んでくる用件であると推測される。
(お兄様に術でここまで送っていただきましたが……ここで何があるというのでしょう)
 ビジターズギルドに向かう途中も、きょろきょろと興味深気に街を眺める彩。普段仕事で行く場所として、廃虚や原野、森林に荒野などが多い彩としては、ここ都市マルクトみたく機械ばかりの場所は珍しいのである。今の彩の様子を一言で表すなら『おのぼりさん』という表現がぴったりくる。そのくらい、物珍し気な目で街を見ていたのである。
 そんな彩だが、実は兄よりここセフィロトでの活動が今後考えられるので、とりあえずビジターとして登録しておくようにと言われてやってきたのだった。ここで活動するからには、ビジター登録しておいた方が何かと都合がよいからであろう。
 そうこうしているうちに、彩はようやくビジターズギルドの前までやってきた。ゲートの前にある大きく古い建物がそれであった。
 中へ足を踏み入れる彩。中も外観に負けず劣らず、あるいはそれ以上に古くぼろぼろであった。何せ床が擦り切れてコンクリートの下地が見えていたり、壁のあちこちにひび割れが走っていたり、所々に弾痕が残っていたりもするのだから。
(お掃除のしがいがありそうですね)
 こんな建物内の有り様を見てこのように思った彩。さすが家事全般が得意なだけのことはある。伊達にメイド服(まあ前述の通り、普通のメイド服ではないのだが)を着てはいないということか。
「こちらに行けばいいんですね」
 案内表示を見て、彩は受付ロビーへ向かう。いくつもの受付窓口が並び、中で受付嬢たちが応対している様子などは一見役所のようにも見える。いや、昔は実際に役所的な業務のための建物であったのかもしれない。
 けれども役所と決定的に違うのは、窓口の前で並んでいたり待合席に座っている者たちが物騒な格好をしていることであろう。何せ黒光りする銃に、頬擦りしながら順番を待っている者だって居るくらいだから。
 そんな所に1人ぽつんとメイド服姿の彩が混じっているという図は、ある意味シュールであり、またある意味この都市マルクトの混沌さを象徴しているとも言えた。
 彩は会員登録に必要な書類の全ての事項を書き終えると、それを持って1番窓口の列へと並んだ。会員登録はここ1番窓口で行われるのだ。
 彩の前には10人ほど並んでいたが、意外とスムーズに流れてゆき、あまり待つことなく自分の順番がやってきた。酷い時にはある程度時間が経っても、まだ半分も列が進んでいなかったりするのだから、今日の彩はついていると言っていいだろう。
 そして彩は書類を受付に提出し、無事にビジターとしての登録を終えた。何だか呆気無いが、登録作業というのはこんなものである。
 彩が窓口を離れると、通りがかった大男がきょとんとした様子でこうつぶやくのが聞こえてきた。
「……ここ、メイドは募集してねえよな?」
 当たり前といえば当たり前な反応である。
「いえ、ビジターとしての登録に参りました」
 つい大男に答える彩。それを聞いた大男は一瞬おやという表情をしたが、すぐに笑ってこう言った。
「お、そうか。いや悪かった、格好で決めちゃいけねえよな。ま、ビジターになったんなら、いずれどっかであんたと一緒になることもあるかもしんねえな。そん時はよろしく頼むぜ」
「はい。こちらこそよろしくお願いいたします」
 彩はにっこり微笑んで、大男に深々と頭を下げた。
「丁寧にそう言われると何か照れるが……おお、そうだ。何か聞きたいことがあれば、分かる範囲で答えてやるぜ」
 照れたのか苦笑して言う大男。なかなかに親切であるらしい。そこで彩は、こんな質問をぶつけてみた。
「それではお言葉に甘えまして……。実はこちらに参ります前に、『タクトニム』という敵が居ると耳にしたのですが……」
 それは兄が口にしていた言葉。彩は率直に目の前に居る大男に尋ねてみた。
「ああ、それか。俺もそう知ってる訳じゃねえが……」
 そう言って、大男は自分の知っているタクトニムに関する知識を彩に語った。
 タクトニムとはある敵の固有名詞という訳ではない。セフィロトの内部を徘徊するシンクタンクやモンスターの総称である。そう、敵は1種類ではないのだ。だがしかし、何故タクトニムのような存在が居るのかは、まだとんと分かっていないという。
「1つだけ確実に言えるのはな、あいつらは俺たちに対して強い競争心を持ってるってことだ。敵対視してんじゃねえかとも思えるくらいだ。……遭遇したらまず間違いなく戦闘になる。あんたも十分に気を付けるんだぜ」
 大男は真剣な表情で彩に言った。その言葉には、実戦に裏打ちされた経験が多分に含まれているように感じられた。
「もしや、遭遇されたことがあるのでしょうか?」
「ああ、あるぜ。俺が遭遇したのはあれだな、筋肉が剥き出しになったような気持ち悪い奴だったが……何発弾撃ち込んだか覚えてねえな。つーか、数えてる暇なんざありゃしねえ」
「そうなのですか……」
 彩が神妙な表情でつぶやいた。まだ見ぬ敵、タクトニム。実際に対峙した時、果たして彩はどのような行動を取ることになるのだろうか……。

●ご挨拶
 その後、大男からセフィロトの現状などを聞いた彩は、ビジターズギルドを出て兄たちへの土産を物色した後に、整備工場と呼ばれる区画に足を踏み入れていた。
 ここは整備工や闇サイバー医師たちが集まっていることから、そんな呼び名がついていた。実際に工場がある訳ではないが、要するに概念みたいなものである。
 ここを彩が訪れたのは、以前世話になった闇サイバー医師がここに居るという話を耳にしていたからである。せっかく来たのだから、挨拶をしていこうという訳だ。
 幾人かに尋ねつつ、彩はその闇サイバー医師の居るというバラックの前までやってきた。だが、中に人が居るような気配は感じられなかった。
「失礼いたします。居られますか……?」
 声をかけてみるが、返事がない。扉に手をかけてみたが、下にそこそこの隙間はあるもののきっちりと閉まっている。
 一応近くに住む者たちにも尋ねてみたが、どうやら彩が来る少し前にビジターたちや助手と一緒に出かけていったそうである。
「……入れ違いになってしまったのですね」
 彩はふうと溜息を吐いた。仕方がないので、彩は持参していた銘菓の土産をメモ書きとともに、扉の隙間から差し入れて帰ることにした。
(お口に合うといいのですけれど)
 銘菓の感想は、次に会えた時にきっと聞けることだろう。

【END】


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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【整理番号(NPCID)】 PC名:クラス

【0284】 森杜・彩:一般人


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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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・『サイコマスターズ・アナザーレポート PCパーティノベル・セフィロトの塔』へのご参加ありがとうございます。本パーティノベルの担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・今回はビジターズギルドへの会員登録の模様でしたが、いかがでしたでしょうか。セフィロトであれこれ動くには、確かにビジターとして登録しておいた方が何かと便利でしょうね。挨拶の方は残念ながら今回会うことは出来ませんでしたが、いずれそのうち会えるかと思いますよ。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、またお会いできることを願って。