PSYCOMASTERS TOP
新しいページを見るクリエーター別で見る商品一覧を見る前のページへ


<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


都市マルクト【ビジターズギルド】初めての会員登録

ライター名:猫遊備

 ビジターズギルド。ゲートの前のでかい建物だと言えば、その辺の婆ちゃんだって教えてくれる。
 中に入っても迷う必要はないぞ。上のフロアにお偉方の仕事場があるんだろうが、用があるのは一階の受付ロビーだけだ。階段昇らずまっすぐそっちに行けばいい。
 軌道エレベーター『セフィロト』探索を行う者達は、まずここで自らを登録し、ビジターとなる。書類の記載事項は余さず書いたか? 書きたく無い事があったら、適当に書いて埋めておけ、どうせ誰も気にしちゃ居ない。
 役所そのまんまで、窓口ごとに担当が別れている。お前が行くのは1番の会員登録窓口だ。
 並んで待つ事になったり、待合い席に追いやられる事もあるが、気長に待つんだな。
 同じような新人を探して、話なんかしてるのもいいだろう。つまらない事で喧嘩をふっかけるのも、ふっかけられた喧嘩を買うのも悪かない。
 まあ何にせよ、書類を出せば今日からお前はビジターだ。よろしく頼むぜ。


 ビジターズギルドは外側同様に内側も古びていました。
 すり切れコンクリートの下地が見える床、ひび割れた壁。それから、弾痕。どうやら内側の老朽化に手を貸しているのは時間だけではなく、内側に出入りするビジター達にも要因があるようです。ですが、それも仕方ないことだと言えるでしょう。
 何故なら、ここはビジターズギルド。
 セフィロトに赴き、命を懸けて戦い競うビジター達が集まる場所です。歴戦であってもなくても、それ相応の装備と自身を持った彼らが集まれば主義や意見の違いから少々荒い喧嘩が始まることは珍しくない風景。そんな物騒であることが日常である場所に、異彩を放つ彼らが現れました。
「ここだな」
 先頭を歩く男、月影貫四郎が一人で現れたとしたら特に目を引くこともなかったでしょう。問題は彼の後ろを歩いている少女達です。
「どこにも喧嘩をなさっている方がいなくて残念ですわ。拳で語って、そして芽生える友情。拝見するだけでしたら、とても楽しそうですのに。そう思いませんか?」
 そう言って、背中にチャックがついた大きなクマのヌイグルミを振り回したのはティディ・ウォレス。ふわふわの腰まである長い金髪にブルーのリボンを結んでエプロンドレスを着た明るい少女です。
「……ボク、戦うのは……」
 問うたティディに寄り添っているのは、ショートカットの淡い栗色の髪を持つ少女のミワ・ムツキ。彼女は自分達に向けられる視線が気になるのか俯き加減に歩いています。
 外見から判断すると貫四郎の年齢は二十代後半、そして少女達の年齢が十に届くか否かです。ですから彼がビジターの会員登録窓口で、こう言われたことも仕方ないと言えるかもしれません。
「お前さん、本気でビジターになるつもりかい」
 問われた貫四郎は、安く値踏みをされたものだと当然ながら不機嫌を露にしました。
「どういう意味だ」
「分かってないようだな、ビジターは死と隣り合わせだ。そんな可愛い娘が二人もいて、どうして堅気の仕事が……」
 ですが受付窓口に座っていた男が諭すような口調で話し始めたので、貫四郎は慌てて窓口に手を叩きつけて男の言葉を制止しました。
「ちょ、ちょっと待て。俺様のどこが子持ちに見えるんだ!」
 腕を安く見られた以上に不本意な貫四郎が今後の為もあるので熱く否定しますが、彼の後ろにいた少女達は窓口の男の言葉に納得していました。
「確かに、貫四郎様はわたくしやムツキ様の父親であっても不自然ではない年齢ですわね。殿方は一度に複数の女性を妊娠させることが可能な訳ですし」
「……そ、その……前にも間違われたこと……」
 ティディとムツキの言葉に今後も付きまとうであろう誤解を覚悟し、貫四郎はがくりと肩を落として黙り込みます。そんな彼に代わって、ティディは満面の笑みを浮かべて窓口の男に話しかけました。
「よくご覧になって下さい、ここにある書類は三人分。つまり、わたしくしと彼女もビジター登録志願者ですのよ」
「……か、彼女の言う通りです……」
 少女達に言われて男が書類を確認します。確かに書類は三人分。不受理になるような記入ミスはありませんし、ビジター登録に年齢制限はありません。ですが彼は子供のビジター志願者の眺め、彼女達とそう歳の変わらないマルクトで育つ子供が遊ぶ姿を思い出して深いため息を漏らしました。
「あんた達は連れ立ってきたビジター志願者で、彼は父親ではないと……感心できないことにゃ変わらんが、独身男を父親呼ばわりして悪かったな。それと嬢ちゃん達、ビジターになる覚悟は本気なんだな」
 男の言葉にティディは笑顔で、ムツキは俯いていた顔をわずかに上げて肯定します。
「ええ、もちろんですわ」
「……は、はい」
 その返答を聞いてから男は書類を受理し、貫四郎の肩を軽く叩きました。
「兄ちゃん、嬢ちゃん達に怪我させないように無茶はするなよ」
「当然だ。それが契約内容だからな」
「ええ。貫四郎様とムツキ様は、わたくしがボディーガードに雇いましたの。ですけども、必要とあればわたくしだって十分に戦えますのよ」
 当然だと言わんばかりの貫四郎ですが、彼はティディに全てを話している訳ではありません。
 彼には現在、もう一人の雇い主がいます。それはムツキの父親で、依頼内容は彼女の保護と監視、戦闘データの収集。ムツキは優れたマシンテレパスの才を持って生まれました。それゆえに彼女は、審判の日以前の技術が随所に使われたMS『ティンダロス』を最強にする、MSの限界を超えた反応速度他を作り出す『部品』になるべく施設で育てられ、その成果を確認する実戦データを収集する為に貫四郎という監視者と共にマルクトへ送られました。
 貫四郎がティディに雇われた目的の一つは、歳の近い少女と過ごすことがムツキのメンタル面でのケアになり自分の負担が減ると判断したから。もちろん、ティディがムツキの父親同様に金を持っている人間であったことも大きな動機でしたが……
 一方、彼らを雇ったティディも全ての真実を話しているわけではありません。
 彼女の本当の名前はティディ・ウォレスではありません。彼女もムツキ同様に超能力を持って、ある裕福な家庭に生まれました。相応しい教養や生活習慣を叩き込まれはしていますが、家族は彼女を大切に守ってくれました。彼女が普通の人間とは違う力を持っていることを誰にも知られないように。
 ですが当の彼女は、そんな暮らしを嫌っていました。だから家を飛び出し、過去の名前を捨て、ティディ・ウォレスとして今ビジター街道に足を踏み入れました。

 そして、彼らは自分がマルクトへやってきた意味を再確認してビジターズギルドを後にしました。

「これで無事にビジター登録が完了したんですわね」
 楽しそうにスッキプをしていたティディが振り返って、二人に何度目かの確認をしました。
「ああ」
 貫四郎は言葉少なく答え、ムツキは小さく頷きました。
「そうですわ、ムツキ様。今日の夕ごはんは何が良いですか?」
「……え。あの」
 唐突に問われて口ごもったムツキに、ティディは笑顔のまま問い続けます。
「わたくし達がビジターになった記念日ですもの、何か美味しいものを食べたいとは思いません?」
「嬢ちゃんのオゴリなら喜んで」
 そこに真実がなくても人間関係を築くことは可能ですが、彼らが互いの真実を告白する日は来るのでしょうか。その時、真実は彼らの人間関係の輪をより深く繋ぐのでしょうか、それとも全てを破壊してしまうのでしょうか。
「では食事の後、ヘブンズドアで情報収集ですわね。何の知識も持たずにセフィロトに出発するのは無謀ですから」
 ともあれ、今日から彼らのビジター生活が始まります。
 彼らは幸運をつかんで幸せな結末を迎えるのでしょうか、それとも不本意な結末を迎えてしまうのでしょうか。その答えは彼らの知恵と勇気と、幸運をつかむのだという強い意志次第でしょう。


■━┳━┳━┳━┳━┳━┓
┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
┗━┻━┻━┻━┻━┻━□

【0495】ティディ・ウォレス
【0505】月影・貫四郎
【0511】ミワ・ムツキ

■━┳━┳━┳━┳━┳━┓
┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
┗━┻━┻━┻━┻━┻━□

 金ダライライターの猫遊備です。ご依頼ありがとう御座いました。
 ですのに納品が遅れまして、本当に申し訳ございませんでした。

「俺様は断じてロリコンでもない。俺様の好みは、もっとこう……」
「貫四郎様」
「何だ」
「この場に貫四郎様の性癖について詳細を御伺いしたい方はいらっしゃいませんし、お仕事の邪魔をされては他の方の迷惑になりま……ムツキ様、どうしました?」
「……あ、あの『ろりこん』って何ですか?」
「貫四郎様、御説明をお願いしますわ」

 こんな感じで進行する貫四郎にロリコン疑惑という案もあったのですが、あまりに御気の毒なので父親疑惑に止まりました……