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<東京怪談ノベル(シングル)>


ある休日のショッピング

 大学が休講である本日。門屋嬢とその友人数名は、中心街に出てきていた。
「あ、これ可愛いーっ。ね、嬢も見てみなよ」
 友人の一人が指差したのはいかにも女の子女の子した可愛らしい洋服だった。嬢はふと自分のナリを見なおし、ウィンドウの中の洋服を眺めて苦笑する。
 いつもと同じ、丈の短いタートルネックの黒いノースリーブシャツ、レザー製ショートパンツ。違うところと言ったら白衣を着ていないくらいだろうか。
 可愛いという単語とは掛け離れた服装だ。……と言っても、嬢だって、ショーウィンドウの中の綺麗な洋服に興味がないというワケではない。
「うん、あんたに似合うんじゃない?」
「やぁだ。私じゃなくて嬢よ、嬢」
 にこにこと笑って告げる友人に、嬢はうーんと悩む表情を見せる。
 こういう可愛い系の洋服は、どう考えても自分には似合わないんじゃないかと思うのだ。それに、ヒラヒラのスカートは動きにくい。
「着てみたら結構似合うと思うんだけどなあ」
 渋る嬢に残念そうに呟いてから、彼女は続けて別の洋服を指差した。
「ならこれは?」
「あ、似合いそう」
「ねえ、これ着てみなよ!」
「ちょっと。なんであたしばっかり!」
 口々に言う友人たちに、嬢は慌てて反論したが、それはまったく効果をなさなかった。
「だって嬢って普段からぜんぜん洒落っ気ないじゃない」
「たまにはこういうのも良いと思うわよ」
「試着するだけだし、着てみようよ」
 ……どうやら友人一同は、最初から嬢を標的にしていたらしい。もちろんそれは彼女らなりに嬢を思ってのことなんだろうけど。
「えー……」
「ほら!」
 言いつつ差し出された服に、嬢は一瞬、固まった。
 出されたのは深紅に金色ライン、昇り龍の刺繍がついた、ゴージャスすぎるものだったのだ。
 気分的には、最初に示されたヒラヒラフリルよりはましなのだが……。
 どちらも、こんなの着て街を歩けるかよ! と思ってしまう洋服であることには変わりない。
 ……まあ試着だけ、と考えれば。可愛い系の洋服よりはまだ良いか。
「じゃあ……試着だけな」
 すすめる友人たちの視線に結局負けて、試着だけだしと開き直ることにした嬢は、服を受け取り試着室へと向かった。


◆ ◆ ◆


 スリムな作りで、可愛いというよりはかっこいい系といった感じの洋服はまあ、似合わないというほどではない。
 自分で言うのもなんだが。
 しかし気恥ずかしいことには変わりなく、試着室でしばし無駄に悩んでいたその時だった。
「なんだ?」
 外で聞こえた悲鳴に、嬢は条件反射的に試着室を出た。
 店の入口近くに、どこからどう見ても店の客には見えない――覆面二人組が銃を片手に立っていた。
「静かにしてれば命は助けてやるよ」
「大人しくレジの金を出してもらおうか」
 言いながら、天井に向けて銃を一発。途端に、店のあちこちから悲鳴があがる。
 試着室は店の奥にあったおかげか、幸いにも嬢はまだ彼らに気付かれていないようだった。
「おいおい……」
 強盗は普通、銀行に入るもんだろう!
 心の中での叫びと一緒に、思わず小さな呟きが漏れるが、その声も悲鳴に紛れて男たちには届かなかったらしい。
 怯えたふうにレジに向かう店員の背後にぴたりとついて歩いてくる男たちは、周囲が女ばかりだからかまったく警戒していない様子。
 これなら、不意をつけば銃を撃たせずに倒せそうだ。
 並ぶ商品の影に隠れながら、そっと、彼らが歩く通路近くで待ち伏せる。
 そして――。
「たああああっ!!」
 男が目の前を横切った瞬間にまず一発。見事、男は一撃でKO。
 ビリッ! と。何かイヤな音がしたような気がしたが、そちらに気を回す余裕はなかった。向こうが引き金を引く前にケリをつけなければならない、スピード勝負なのだから。
 いきなりの攻撃に残る一人の男が驚いて動きを止めた、その隙を狙って続けて蹴りをもう一回。こちらも一発で男は昏倒し、床に倒れ伏した。
「嬢、すごーいっ!」
「やったああっ!」
 歓声をあげる友人一同に、笑顔で返しつつ。嬢はしかし、先ほどのイヤな音の正体を確かめるべく、音のした方へと視線を向ける。
「あ……」
 予想通りの惨状に、嬢はがくりと肩を落とした。
 試着していたチャイナ服はかなりスリットの深いものだったのだが、それでも、あの動きには耐えかねたらしい。
 スリットの裾が、少し破れてしまっていたのだ。
「どうしたの、嬢?」
 寄ってくる友人たちの前で、嬢はパンっと両手を打った。
「お願い、お金貸して……」
 破れた服を差して告げた言葉に友人たちは、楽しげな笑いとともに洋服代を貸してくれたのだった。