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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


都市マルクト【自警団詰め所】決定、御宿泊
白光の世界

徒野


 で‥‥何をした?
 自警団員に捕まって、自警団詰め所にしょっぴかれて、取調室でこうやって自警団員と御面談だ。何もやってませんってのが、通じるとは思わねぇよなぁ?
 どうせ、酒飲んで喧嘩でもしたって所だろう。
 ま、少し牢屋で反省するんだな。その後、罰金か労働奉仕か‥‥そんな所か。
 それとも‥‥
 いや‥‥俺はちょいと忘れっぽくてな。特に、臨時収入のあった日なんかは、色々と忘れてしまってなぁ‥‥
 お前さんを牢屋に蹴り込むのをすっかり忘れた、なんて事にもなりかねないと思うんだ。


 ++++++++++++++++++++


 ――本当に……全く以て……憑いて、無い。
 薄暗く、湿った空気の充満した牢屋の隅で膝を抱えて蹲り、宵待・クレタはそう思った。


     * * *


 事の発端は、つい数時間前の事だった。
 夜――繁華街が活気附き、一番賑やかに為る時刻。
 クレタはジャンクパーツを手に入れる為に或る店を目指して通りを歩いていた。喧噪の中、フードを目深に被り、少し俯き加減では有るが唯真っ直ぐと前に。
 暫く通りを進んだ処で、不図遠くで怒鳴り声を聞いた。
 喧嘩か……、そう断片的に情報を受け取り、直ぐに忘れ様とした。そんな光景は此処では日常茶飯だし、覚えて置く必要性は全く無い。
 然し、何時もより深く被ったフードの所為で、音量から測った距離に狂いが出ている事に気が附かなかった。
 若しかしたらもう、其の時点から運の尽きだったのかも知れない。
 酔っ払いが複数で怒鳴り合っている。実の処、其れは予想以上に自身に近い処であったのだ。
 一際大きな怒鳴り声、激しい衣擦れの音、誰かの短い悲鳴と同時に――。
「…………っわ……、」
 初めは何が起こったのか理解出来なかった。突然の衝撃に思考は完全に停止を決め込んだ。
 其れでも、倒れて仕舞った躯を無意識に起こそうとした事に気附いて“自分は倒れた”と云う事実は解った。
 然し起き上がろうとしても何かが邪魔をして思う様に動けない。何かにのし掛かられて居る様な……。
 そう思って視線を巡らすと、起きあがれない原因、そして倒れた原因が眼に入った。
 気絶した――先程喧嘩をしていた酔っ払いの片割れである――男が、クレタと共に倒れている。
 嗚呼そう云えば、女性の様な高めの短い悲鳴と共に聞こえたのは、血の通った肉を殴る音。
 其処でクレタは自分の身に何が起こったのかを瞬時に理解した。
 ――吹っ飛ばされた男に……巻き込まれた、のか……。
 溜息を吐き乍、男を押し退けて起き上がろうとした其の時、更なる不運が彼に訪れた。
「あぁ、動くなよ。全員なっ。喧嘩した莫迦っつぅのは手前ぇ等か。」



 其の後も散々だった。
 騒ぎを聞き附けたのか其れとも誰かが通報したのか。駆け附けた自警団員に囲まれ、クレタは無関係だと主張したのに全く以て聞く耳は持たれず其の侭連行されて仕舞った。
 取り調べでも「……関係無い。」と云った処で聞き入れて貰えない。
 抑も、其れ以外に話す事なんか何も無いのだ。
 話が通じないと思い、ずっと黙り込んでいたら自警団員は呆れた様に肩を竦め此の牢屋へと押し込んだ。
「まぁ、精々反省するんだな。明日は朝一から街の掃除だからな、起きとけよ。」
 鍵を閉め、団員は其れだけ云うとさっさと戻って行った。
 そして今に至る。
 コンクリートが剥き出しの固い床にずっと座っていたら腰が痛くなって来た。
 視線をずらすとベッドが有る。御世辞にも寝易そうとは云えない……寧ろ、人の重みに耐えられるのかも疑問な程の代物だが、固く冷たい床よりは幾分マシだろう。
「…………。」
 緩慢に立ち上がって、移動する。
 ベッドの上に寝転がると、其れは悲鳴を上げる様にギシギシと軋んだが崩壊する様子は無い。
 短く溜息を吐いて、一応寝ようと努力はしてみた。
 朝一から働かされるなら少しでも寝た方が良いと思ったからなのだが……其れは難しそうだった。
 こんな粗悪なベッドでは如何も寝附ける気がしない。第一夜型人間のクレタにとって未だ眠気を催す時刻では無かった。
 彼の男――団員が云った事には、賄賂でも払えばさっさと帰して呉れるらしいが。
 自分は悪くないのにそんなモノを払うのは腑に落ちない。
 ――ジャンクパーツ……買い揃えるのも、莫迦に……為らないのにな……。
 そう云えば結局買い物も出来なかった。
 クレタは今日何度目かの溜息を吐いて寝返りを打った。
 ベッドは大きく悲鳴を上げる。


     * * *


 結局睡眠らしい睡眠は取る事が出来ず、僅かに微睡む事が出来ただけだった。
 靄掛かった頭でふらつく躯を何とか真っ直ぐ立たせようとする。
 時刻は、漸く太陽が姿を現した頃。
 クレタは昨夜の繁華街――別区画ではあるが――に、連れて来られていた。
「御前の担当は此処な。昼になったら道具取りに来るからサボったり逃げんじゃねぇぞ。」
 ――成果次第では延長だしなぁ。まぁ、精々頑張れ。
 デッキブラシとバケツを渡し、共同水道の場処を教えると、苦笑気味にクレタの肩を叩いて背中越しに手を振り去って行く。
 昨夜の取調べに出ていた団員に比べれば随分マシな人の様だ。
 クレタは其れをぼんやりと見送ってから、任された場処を見廻して溜息を吐いた。
 喧噪が去った後。残るのは塵芥、酔っ払いの吐瀉物、当たり前だが見ていて気持ちの良いモノでは無い。
 取り敢えず一度水で流して仕舞おうとバケツを持った。
 軽くふらつきつつ、教えられたばかりの場処へと向かう。頭の回転は本調子では無いが、其れでも徐々に周囲の景色を眺める程度の余裕は出て来た。
 そして、改めて景色を見て、少しばかり驚いた。
 其れは一瞬、此処は本当に彼の繁華街なのかと疑問に思う位だった。
 普段見慣れた色取り取りの光で満たされた世界の面影は殆ど無く……否、寧ろ別の世界と云って良い程受ける印象が違う。
 外の世界に合わせてか、全体的に柔らかな白の光で照らされた世界は、思ったより綺麗だった。
 其の事に気附くと、何となく少しだけ愉しくなって、更に注意深く周囲の様子を観察する。
 音は閑かだ。囁く様な感じ。鳥の囀る声が聞こえる。……こんな処にも鳥が居るのか。
 匂いがする。香ばしい匂い。視線を巡らせるとパン屋が在る。……こんな時間に働いている人も居る。
 当たり前に知って居たが今迄触れる事の無かった世界が、直ぐ其処に在る。
 ――……何か、不思議な……感じ。
 ブラシで地面を擦り乍思う。
 夜賑わう繁華街は、昼の間は眠っているのだと。
 然し実際は、日が昇って眠る人と入れ替わりに起きる人達の為に、起き続けているのだと。
 昼の顔、別の顔――小さな商店街として。
「……其れに……気附いた、原因が……冤罪ってのも……微妙、だけど。」
 ――まぁ、良いか……。
 クレタは小さく呟くと、最後の水を流した。



 昼になって漸く解放されたクレタは寝不足と肉体労働で、矢張りふらつき乍帰路に就く。
 其れでも、フードの下に隠れた表情は、少しだけ笑っている様に見えた。

 ――偶に……本当、偶になら……朝も、良いかも知れない。





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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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[ 0692:宵待・クレタ / 男 / 16歳 / エスパー ]

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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 初めまして、ライターの徒野と申します。此の度は御指名頂き有難う御座いました。
 初受注作品でしたのでドキドキし乍執筆させて頂きました。御気に召すと良いのですが。
 其れでは、宵待・クレタ氏の益々の御活躍を御祈りしつつ失礼させて頂きます。