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<アナザーレポート・PCゲームノベル>


“明るい墓場”


 薄暗い廃墟を一体のマスタースレイブが駆ける。
 大胆に然し慎重に。
 場所柄、何か――此の場合は主にタクトニムだが――に出会って仕舞うのは仕方がないかも知れない。
 然し、事情が事情だ。出来る事なら会いたくない。
 其のMS、“X-AMS-39 ディスタン”を操縦するマイケル・フォードは心中で呟いた。
 何故こんな事に為っているか……。
 話は、数時間前に遡る。


  * * *


 近頃どうも対地LHミサイルの調子が悪い様だった。
 マイケルも、自身で整備出来る処は一旦分解して確認してみたが、ランチャーが問題だと解っただけで直接の原因は発見出来ず、結局御手上げ状態と為って仕舞った。
「斯う為ったら仕方ねぇな。」
 整備工場に持って行って本職に見せるのが一番だろう。ミサイルは重要な火力の一つだ。
 そう思った時、不図腕の良い整備士が居ると噂に聞いた事を思い出した。
 噂の真偽は如何だか知らないが、まぁ序でだから探してみるか、と、マイケルは整備工場へと出向いた。


 そして、マイケルは其のバラックへ、意外と容易に辿り着く。
 何故なら彼の様な曖昧な情報にも拘わらず、道行くビジターを適当に捕まえて訊けば、皆同じ答えを返したからだ。
 ――嗚呼、彼奴の事かな。まぁ、確かに腕は良いけどさ……気を附けろ、な。
 一体何に気を附ければ良いのか。
 頭の上に疑問符を浮かべ乍マイケルはバラックを改めて見上げた。
 バラックの表にはシンプルな――シンプル過ぎて看板の役割を果たして居るのか疑問なプレートが掲げられている。
 プレートには“Hell Friedhof”と直線的な字体が浮かんでおり。
「此処で良いんだよな……。――おい、誰か居るか、」
 工房ともAtelierとも書いてないので僅かな不安と共に作業場に入る。
「……ん、」
 すると、金髪碧眼の少年が吹き抜けになった二階から顔を出す。
「いらっしゃーいっ。」
 ツナギを着た少年は、そんな元気な声と共に二階の手摺を飛び越えて、其の侭一気にマイケルの前方迄飛び降りて来た。
 少年の其の動きに少し驚き、動きが止まっているマイケルを余処に少年は続けて捲し立てる。
「あんた此処来るの初めてだよね。何で知ったの、噂とか、ぁー其れは有難いなー。」
 少年の言葉を聞き流し乍、辺りを見廻す。然し少年の他には誰も居ない。
「……なぁ、坊主。其れで、噂の整備士ってのは何処に居るんだ、」
 其の一言で少年の動きが止まった。
「……。……今、あんたの目の前に居るだろ。」
「は、」
「失礼だな、嗚呼、俺だよ。俺が此の工房“Hell Friedhof”の主にして整備士、レオンハルト・リリエンクローンだッ。」
 レオンハルトと名乗った少年が、自身の胸を示し乍主張する。
 其れを訊いて、今度はマイケルが一瞬動きを止めた。
 そして、笑い出した。
「……、っは、ははは。……嗚呼、こりゃ失敬。そうだな、外見で判断しちゃ駄目だよな。」
「ま、良いけどさ。あんたみたいなの今迄も大勢居たし。」
 もう慣れた、とレオは肩を竦め。
「そうそ、レオンハルトは長いから呼ぶときゃレオで良いよ。坊主は止めれ。」
 レオは背を向け手を振り乍そう云うと、一階の作業台へと向かって歩く。
 手慣れた動作で台の上に工具を広げ、軽い動作で台の上に乗り、坐るとにこーっと天使の様な微笑みを見せた。
「で、今日の用事は何。MS弄るの久し振りだから張り切っちゃうけど。」
「……、否。本体じゃなくて、対地LHミサイルの調子が悪いんだが。」
 其の笑顔に何かを感じ取ったマイケルは、判然と云い切った。
「ぇー……。まぁ良いや、ミサイルだっけ、――貸して、一寸分解(バラ)すから。」
 前半の不満そうな声は何だ。
 そう思いつつ、手を出すレオの元にミサイルを持って行く。
 其れを受け取ったレオの……鼻歌交じりだが、手早く分解していく様を見ると噂は本当だったのだと思えた。
「お、有った有った。何だ、奥の方のちっさいパーツが折れてんじゃんか。」
 レオはピンセットで其れを拾い上げる。
 其れを聞いたマイケルは眉根を寄せた。
「其れって入手困難だったりするか、」
「いんや、此は結構普及してる。他のモンにも使われてたりするし。」
 そう云って、折れたパーツをルーペで覗き込む。
「そうか……なら、」
「けど。」
 頼む、と続けようとしたマイケルの言葉をレオが逆接で遮った。
「今ウチ、此のパーツ切れてるんだよね。」
「何、」
 マイケルは耳を疑った。
 パーツが切れているなら直せる筈も無い。なら、此処に来た意味は無いと云う事に為る。
「其処でさ、あんたに選択肢は三つ有る。」
 レオはぴ、と親指から中指までの三本指を立てた。
「壱番、此処を諦めて別のバラックに行く。弐番、即時入荷を待つ。参番、あんたがパーツを取りに行く……。――急いでんなら残念だけど壱番がお奨め。弐番はちぃと、御代が割高になるね。参番って云うなら、逆に割引だ。臨時の武器は此の工房に有るのを貸し出すぜ。」

 ――さぁ、如何する、


  * * *


 マイケルはミサイルをレオの処に預けてショッピングセンター迄遣って来た。
 彼の後直ぐに仕事が有るとかそう云った急ぎでは無かったし、唯でさえ高い整備代が更に上乗せされるのは頂けない。
 結局自分で取りに行く事を選んだのだが。
 ――目的の物が有るのはもう少し奥か。
 自身の大体の位置を把握し乍、先を見る。……然し、其処に蠢く巨大な影。
「……ちぃっ、矢張り嗅ぎ附けてきやがった。こんな時に限って間の悪い……ッ、」
 マイケルは影との間合いを取って、20oオートライフルを構える。
 蠢く影は一つ、二つと増えて行き、最終的に四体のタクトニムと為ってマイケルに立ちはだかる。
「こりゃ亦デカイモンスターだなッ。」
 マイケルは吐き捨てる様に云って、標的にロックオンするとライフルを乱射する。
「赤字出さないように戦いたいがなっ。」
 ――クソッ、ミサイルが有れば楽なんだが……。
 思う存分弾を撃ち込んで、一体、二体……と戦闘不能にする。
 そして次に照準を合わせようとした時、一番後ろに居た四体目が予想以上の早さで襲い掛かる。
「……ッ、」
 其れを間一髪で躱し、後ろに飛び退る。
 ――如何する、一旦引く、か……、
 一瞬、そう考えた時だった。
 突然、スターライトゴーグルの機能が落ちる。然し、其れに驚く暇は無かった。
 何故なら目の前のタクトニムが同時に炎上し始めたからだ。
「な……っ。」
 見る間に消し炭と為って行くタクトニムを、信じられないと云った表情で瞶める。
 すると、背後からのんびりした声が聞こえてきた。
「突然堪忍なぁ、オニーサン。ちぃと戦い難そうやったから勝手に手ぇ出してもうてんけど……。」
 其の声に振り返る。
「……誰だ、」
「嗚呼、警戒せんといて……っても無理か。唯のしがないビジターなんやけど。」
 其処には、橙掛かった茶髪を獅子の鬣の様に跳ねさせた青年が立っていた。肩に巨大な偃月刀を掛けている。
 青年はへらりと笑って手を振った。
「今のは、御前が、」
 既に鎮火した――タクトニムだった黒い物体を一瞥してマイケルは問うた。
「そです。……ぁ、ちゃんとゴーグル切れました、念動力系は余り使わんから心配やったんやけど。」
 其の言葉を聞いて、思い出した様にゴーグルを再起動する。
 確かに、あんな焔をまともに見たらブレーカが落ちる程度では済まなかったかも知れない。
「嗚呼、大丈夫だ。……エスパーか。」
「です。……さて、後続が嗅ぎ附ける前に先進も思うんやけどどないします、」
 青年は笑顔で頷いて、提案する。マイケルは其の笑顔を見て直感的に、此奴は喰えない奴だと思った。
「同感だ。」
 問答をしても得る物が無いなら、其れだけ無駄だ。マイケルは短く返答すると、歩き出した。


「んで、ミサイル直す為のパーツ取りに来てんですか。」
 自棄に軽装備の――少なくとも防具らしき物は見当たらない――青年が先を歩き乍云う。
「そうだ。然し……ゴーグルも無しに良く動けるな。」
「まあ、マルクト内はもう結構歩き廻っとりますから。」
 マイケルは感心した様に呟いた。其れを聞いた青年が笑ったのが声音で解る。
 そして、「そうだ、」と附け足した。
「忘れとった。俺の名前は帷・冬夜云います。呼ぶんはトーヤで良えですよ。」
 トーヤが振り返って一礼する。
「嗚呼、俺はマイケル・フォードだ。」
 マイケルもそう返して、辺りを確認する。
「此の辺りで良いんじゃないか、」
「そですねぇ……結構奥迄来ましたし。」
 トーヤも辺りを見廻して頷く。
「其れじゃぁ此の辺りを少し探索するか。」
 マイケルはMSを下りると、其の周りに手早く対人クレイモアを設置する。
 そして自身の装備を確認して辺りの探索を始めた。
「矢っ張其れ大変そうやわぁ。」
 マイケルの作業を見ていたトーヤが、探索を開始し乍呟いた。
 マイケルも苦笑する。
「まぁな。でも若し他の奴等に持って行かれちゃ敵わんからな。」
 そうやって二人は喋り乍も淡々と作業を続ける。
 マイケルは、レオに渡されたリストを見乍使えそうな物を拾って行く。
 他にも高周波ナイフの柄だけや、動作しない抗ESPヘルメットも何かに使えないかと思い拾っておいた。
 瓦礫を除け乍作業をしていると、少し遠くに居たトーヤが動きを止めた。
「如何かしたか、」
「……ちょぉ待って、」
 トーヤが口元に指を立てて“閑かに”の合図をする。
 其れを見てマイケルも動きを止め、耳を澄ませる。が、特に何も聞こえない。
 本当に如何したのか、ともう一度トーヤに視線を送る。
「そろそろ御暇した方が良えかも知れんなぁ……、ヤーな予感すんねん……。」
 其の言葉はマイケルに向けた物か、其れとも独り言か。
 トーヤの視線は、ショッピングセンターの深奥、漆黒の闇の中に向けられていた。
 そして、振り返る。
「マイケルはん、収穫は、」
「嗚呼、目的の物は手に入れたが。」
「なら良えですね、さっさと……、」
 トーヤの科白は其処で途切れた。
 代わりに聞こえてきたのは大量の足音。人間の其れと違う、忙しないぎちぎちと云う音。
 其の音の主が、徐々に現れる。
 其の姿は直立した黒色の蟻のような――。
「イーターバグか……っ、」
「ぁー、微妙に遅かったか……。」
 トーヤが偃月刀を構えて呟く。そして、同じく拳銃を構えていたマイケルに指示を出す。
「余計な戦闘はしたないんで逃げます。マイケルはんは応戦せんで良えから早うMSへ。」
 ――取り敢えずの足止めは俺がしますよって。
 トーヤの顔から表情が消える。
「……解った。」
 マイケルも其れが最善だと判断し同意すると、銃は持った侭MSへと走る。
 本能的に其れを追おうとしたイーターバグの頭部が飛んだ。
「自分等の相手は俺がする云うとんや。」
 ブーメランの要領で投擲し戻ってき来た偃月刀を掴まえつつトーヤが云う。
 其の後ろでクレイモアを回収し終えたマイケルがMSに乗り込む。
 トーヤは二投目で前列に居たイーターバグを掃討する。
「トーヤ、此方はOKだっ、」
 何時でも動ける状態に為ったマイケルが叫ぶ。
「了っ解、んじゃぁ、全力で退避ッ。」
 偃月刀を掴まえたトーヤが、一気に後ろへ飛び退き、走り出す。
 其処へ、トーヤが退いたのを確認してマイケルがスモークポッドを打ち込む。
「スモークポッドでオサラバだ、遊ぶのはまた今度なっ。」
 煙で覆われていく後方を尻目に二人は其処から離脱した。


  * * *


「そりゃぁ大変だったねぇ、御疲れー。」
 其の後は何事も無く都市マルクトに帰ってきた二人は、其の足で整備工場に向かった。
 先の科白は事のあらましをレオに語った処、帰ってきた科白である。
「大変だったねぇ、やあらへんわ。」
 トーヤが珈琲を啜り乍返す。
「ま、過ぎた事だし良いけどな。其れで、俺のミサイルは直るのか、」
 マイケルもカップを片手にレオを見遣る。
 其の視線に笑顔で手を上下に振って答えるレオ。
「嗚呼、だいじょぶだいじょぶ。ってかもう直しといたよ。」
 ぴ、と作業場の方を指差して。
 其の指に合わせてマイケルは視線を移す。
「……早いな、何時の間に。」
「あんた等が休憩室(ここ)で珈琲淹れてる間に。つってもパーツ入れて組み立てるだけだし。ぁ、動作確認もしといた、大丈夫。」
 レオはカップを机の上に置くと、作業場に出る。
 マイケルも確認する為に其れに続いた。
「取り敢えず此。まぁ、実践で使う前に何処かで試し撃ちはしといて。」
「嗚呼了解だ。有難よ。」
 其処で、作業台の上に覚えの無いナイフが置いてあるのを見附けた。
「……何だ此は。」
「嗚呼其れ。あんたが拾ってきた別のモンで適当に作ったの。オマケに上げる。」
 ふうん、とナイフを取り上げて見る。別段変わった様子の無い唯のサバイバルナイフだ。
「柄の部分に抗ESP装置を組み込んでるから、防御系の効果受けないの。けどまぁ、適当に作ったから何時壊れるか解らないけどねぇ。」
 レオが笑い乍説明する。
「そうか、まぁ、有難く貰っとくさ。」
「ん。……で、さぁ。あんた、MS改造する気無い、」
 レオが自棄に輝いた眼でマイケルを見上げる。
「此のMS未だ全然手ぇ附いて無いから弄り甲斐有りそうなんだよねぇ……。」
 マイケルのMSを見詰めて恍惚と語るレオ。
「止めて呉れ、手入れが面倒に為る。」
「えー……。」
 何かの危険を察知して、矢張り判然と断る。
 そんなマイケルの横で、何時の間に来たのかトーヤがぽつりと呟いた。
「気ぃ附けや。……彼奴、改造狂やさかい。」
「……。」
 気を附けるって、そう云う事か。
 訪れる時に聞いた、忠告の意味を今やっと理解した。
 溜息を吐いて、苦笑した。
「ま、良いぜ。有難よ、整備代は振り込んでおく。」
 そう云ってマイケルはミサイルとナイフを積み込んだ。
「ん、毎度。……亦の御越を御待ちしてまぁす。」
 にこにこと手を振るレオに、マイケルは笑い乍返した。

 ――今度はパーツの有る時に来るさ。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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[ 0706:マイケル・フォード / 男性 / 31歳 / エキスパート ]


[ NPC0225:レオ / 男性 / 16歳 / エキスパート ]
[ NPC0211:帷・冬夜 / 男性 / 23歳 / エスパー ]

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■         ライター通信          ■
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初めまして、徒野です。
此の度は“明るい墓場”御発注頂き誠に有難う御座いました。
御届けがギリギリに為って仕舞って、本当に、申し訳、無く……ッ。
こんな感じで仕上げさせて頂きました。
一欠片でも御気に召して頂ける事を祈りつつ。

――亦御眼に掛かれます様に。御機嫌よう。