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<アナザーレポート・PCゲームノベル>


迷走と疾走


ライター:有馬秋人





賑わう路地の暗がりから、赤銅の髪の少年が飛びしてきた。片手に握るのはぐしゃぐしゃの紙片だ。
剣呑な視線であたりをなぎ払い、身を翻すと彼は比較的整然としている一角へ走り出す。
そこは誰もが知っている場所であり、誰もが無駄な騒動を忌避する場所でもあった。
ジャンクケーブ一帯に影響を及ぼしているマフィアの出張所、だ。
人ごみの中を器用にすり抜ける少年の目には、焦りと怒りがない交ぜになっていた。





   ***





フラフラとしていたつもりはないが走りこんできた少年と衝突しかけたあたり、フラフラしていたのかもしれない。頬にかかった長い髪を手で払いながら、クレインは身をかがめた。
「大丈夫ですか?」
ぶつかると思っていたのに衝撃がなかったのは、相手の方が咄嗟にブレーキをかけて上手く回避したらしい。代わりに建物の角に背中をぶつけてしまい、しゃがんでいる相手に手を差し伸べる。
「お怪我は…」
「あ、平気」
手をとらずに立ち上がり、ぶつかりかけたことを口の中で謝罪する少年が焦っていることに気付いたクレインが何かを言うより先に、見知った声が耳朶に触れた。
「クレインさんっ」
「おや」
振り返ると目にも艶やかな赤色を纏った女性が駆け寄ってきた。
「そっちの子は?」
「いま少しぶつかりかけまして…この辺の治安を考えると急いで行動しても、良い事は無いと」
「だからっ、その忠告はありがたく受け取るけどねっ、今はそれどころじゃないんだってば!」
科白を遮られて視線を戻すと、立ち上がっても尚低い目線から相手がぎゃんぎゃん噛み付いてくる。その勢いをいなすように自分に注意を向けさせた。
「いいですか、急いで行動しても、良い事はありませんよ」
一つずつ丁寧に諭す面持ちで告げるが、相手は実に嫌そうな顔をしている。このままでは話もそこそこに走り出されそうだと手を伸ばした瞬間に、少年が走り出した。すんでのところで相手の腕を捕らえる事ができ、微妙な攻防が生じていた。
「いいですか、この辺りの治安は大変よろしくありません。冷静に見ないと自分自身が危うくなります」
「落ち着いてて何かあったらどうしてくれるわけ!?」
移動できない苛々からか、少年の眦が釣りあがった。その剣幕に目を丸くする。これは、ただ事ではないようだ、と。隣に居たシャロンも同様の見解に至ったのか、少し距離を置いている顔をしていたのががらりと切り替わる。クレインの横から相手を覗き込んだ。
「これも何かのご縁でしょ」
話してみなさいな、と窘める声に少年は唇を噛む。視線が地面に落ちた。
「大したことじゃないよ」
「あんたのその顔、大変だって言ってるんじゃないの?」
ん? と妙に迫力のある笑顔を向けたシャロンに少年は僅かに怯んだ。どうやら年上の女性に弱いらしい。もっともクレインもシャロンに凄まれたいとは思わない。往々にしてこの手の女性の凄みは怖い。
「夏野が…俺の同居人なんだけど、マフィアに攫われたらしくて…さ」
気の進まない様子で言われた言葉予想外で、知らず手が外れていた。けれど相手ももう逃げる気はないのかそのまま二人を見上げてくる。
「攫われるって、大事じゃない。何か手伝おうか?」
「それを聞いてそのまましておくのも気になりますので、此処は協力しましょう…ですが、マフィアに接触することはあまりないでしょうに……いえ、話したくなければ」
マフィアは同類やビジターとはよく抗争するが、一般人にしか見えないこの手の者に無体なことを仕掛けること少ない。その少ない何かに当たった場合というの大抵、のっぴきならない事情がどちらかに存在するものだ。その理由を問うの無礼にあたるだろうかと言葉を濁すクレインに、少年はあっさり否定を示した。
「ああ別に、たいした理由じゃないんだよ。そこで占い師してるんだけど、たまたま使う道具が壊れるときに来た客がそのマフィアの娘で、占えないったらなーんか怒り出しちゃってさ。「パパに言いつけてやる」なんて捨て台詞喰らった結果がコレ」
「……子供の喧嘩に親が出で来たようなもんか…バカ親だわ」
「権力にものを言わせるのは、褒められたことではありませんね」
確かに大したことではないかもしれないが、拉致にまで至るそのありようが大したことだ。もの凄く褒められない。
呆れた口調に二人に少年も同意してため息をつく。
「んで、何の策も無く馬鹿正直に乗り込むの? あたしも偶に、野菜泥棒相手に突っ込むからあんまり人のこと言えないけどね。きっちり報復して、こっちは損害どころか利益得るほうが良いんだろうけど」
「…問答無用で施設ぶっ壊して取り返すつもりだったんだけど……不味いかな」
シャロンの科白をうけて少年が発した言葉はぽつりとした口調だったが、笑えない。
「………不味くはないでしょうけれど、それでは後々困りませんか」
と言うか、この小柄な少年にそれが出来るとは思えなかった。女性の中でずば抜けて背が高いというわけでもないシャロンより、この相手はだいぶ低いのだ。
「それで、その夏野って子を攫ったのはどの程度のヤツなの?」
「下から二番目」
発端から想像していたよりは地位があるが、何とかならないこともない。そう思考をめぐらせたクレインは、ほぼ同じことを考えたのであろうシャロンと目を合わせて、微笑を浮かべる。
「それなら、他の二番目あたりに話をつけちゃいましょ。出来ないこともないと思うわよ」
「穏便に済ませられるに越したことはありません」
大人二人に提案されて、少年は悩みながらも頷いた。





   ***



交渉したあとに一度だけ触れることができた制御しているシステムから内部の図面を読み込んだクレインは、危なげない足取りで先をすすむ。すでに通達がでているのかクレインらを見ても発砲してくるものはなく。物珍しげに見られるばかりだ。それでも脱出するころには敵が出てくるだろう。
たどり着いた目的の横で壁に背をつけながらクレインはあたりを警戒する。
花鶏と名乗った少年はエスパーだったようで、鍵を開けるのも面倒だと、ドアを破壊した。した後はもう、誰の声もとどかない剣幕で怒鳴り込み、中にいた相手を叩いたと思しき音がしたが、クレインとシャロンはそろって目わ逸らしたものだった。
「狸相手に引き出した条件としてはかなりのものじゃないかしら」
「ええ、後々の影響もないようです」
確かに正面から乗り込んでいった挙句に「そっちの同僚が娘可愛さに独断で下っ端動かしたのをなかったことにしないか」と交渉始めたにしては、戦果は上々だろう。それでも、それは他は一切手を貸さないということだけだ。仲間を助けない代わりに、この敷地内で何があっても見なかったことにするという約束を中間クラスの三人に取り付けた。それだけで向かってくる戦力は四分の一。
おかけで入り込むの簡単だった。まだことの原因に情報が言っていなかったのか警備も微々たるもので。
気になるのは部屋に入ったとたん聞こえた罵声。
「……仲がよい証拠、かしら」
同じことを考えていたのか、横に立つシャロンが呟いた。それに同意しながらそろそろ時間だと時計を見やる。
「仲が良いのも結構ですけれど…そろそろ行かないと親ばかさんの部下が増えます、が」
「うん。行こう」
後ろから軽快な声が響き、少年が顔を出す。ずるずると後ろ手で掴んでいるのは背の高い黒髪の青年だ。思っていたよりも大きな人質だったのだと内心で零して、クレインは近づいてくる足音に注意を向け始める。
目礼で手間をかけさせたことを詫びた相手は、男にしては僅かに高い声音で「夏野」と名乗った。中々手を離さない少年に滲む程度の笑みを見せ、そっと指を外させると奥にあたる方向を指差した。それはクレインが気にしていた足音が来る方角で。訝しく思うが黙る。
「花鶏」
「ん、ああそうだね。ここまで穏便に来たんだから最後までそうしよっか」
銃を手に何かを叫びながらやってくる下っ端を少年は視線で鋭く薙いだ。それだけでことは足りたのだといわんばかりの態度で走り出す。夏野とシャロンがその後に続くが、クレインは示されていた方向を注視した。銃口から弾丸は吐き出されている。が、何かに阻まれたようにこちらに届いていない。気付いた相手は銃を捨てて突進してくるが、それも一定の地点でぴたりと止まっていた。まるで壁があるかように。
「……なるほど」
ぽつりと零してようようと後を追う。追いついた場所にもすでに新手が居り、その相対位置が不味いと悟ると手を伸ばした。先行していた少年の襟首を掴まえて半歩下がらせる。その先を銃弾が飛ぶように消えていく。半分の差で射線から逃れた少年は、感謝を示した。
あてるはずだった少年を下がらせたクレインにも銃口が当てられるが、止まっているほど間抜けではなく、簡単にポイントできないよう動き回った。その間に距離をつめたシャロンが銃の使えない接近戦で相手を伸していく。夏野は、と振りえると反対側にいた下っ端を蹴り飛ばしていた。無力ではない。
「キリがない、ですね」
そう呟いて視線を流せば花鶏はぽり、と頬を掻いて頷いた。別に隠していたわけじゃないんだよ、と付け足して、シャロンに警告を送る。
「下がって!!」
赤い髪の持ち主が、無言で後方に下がると、花鶏はその前方の空間を見た。それだけだ。けれど、確実に変わったことがあった。そこからは何も通らないのだ。どういう原理なのか聞いていないから分からないが、PKの一種だろう推測する。
「逃げるよっ」
「シャロンさん行きましょう」
前方の空間に異変に、興味深げな目わしている相手を促してクレインは走り出した。



2005/08/...





■参加人物一覧 (受注順)

0645 / シャロン・マリアーノ / 女性 / エキスパート
0474 / クレイン・ガーランド / 男性 / エスパーハーフサイバー


■登場NPC一覧

0204 / 花鶏
0207 / 佐々木夏野


■ライター雑記


ゲームノベルへのご参加ありがとうございます。
ええと、どうにも微妙にアクション色の薄い内容とってしまいましたが、楽しんでいただけたでしょうか。
まだまだ拙い文字書きですが、この文が娯楽となりえるよう願っています。