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<アナザーレポート・PCゲームノベル>


ボトムラインアナザーextract私に教えて下さい!

 ――フェニックス。
 アメリカ南西部ソノラン砂漠の中心にある町である。
 太陽の谷とも呼ばれたこの町を訪れる者は様々だが、皆どこかに焦燥感を持っている者ばかりだ。中でも、戦場の硝煙の匂いと緊張感が忘れられない者が多く訪れる。
 ――ボトムライン。
 かつて警察の賭博だったモノが何時の間にか広まったMS(マスタースレイブ)バトルだ。
 何ゆえ金色の大海に囲まれ、気温は40度を越える町で開催されているのか定かでないが、密かな話題になっていた。

 この物語は、硝煙の匂いと鋼鉄の弾け合う戦いを忘れられない者達が、トップ・ザ・バトラーを目指して戦い合う記録である――――

●自分の体を自由に動かすことから
「あの〜、これ何ですか?」
 キサトは預けられた物に視線を落し、躊躇いながら訊ねた。璃菜は慣れた手付きで準備を行いながら腰を捻って肩越しに赤毛の少女に赤い瞳を流す。
「何って‥‥見ての通りエプロンよ」
 おかしな事を言う娘ね〜。そんな風な口調だ。
「いえ、わたしにだってエプロンなのは分かりますよぉ」
「なぁに? 女の子が料理できないなんて言うんじゃないわよね?」
 腰を両手に当て、前屈みにキサトの顔を覗き込む。赤毛の少女は緑色の視線を逸らし、泣きそうな表情だ。璃菜は胸を張ると微笑んで見せる。
「大丈夫よ☆ これも訓練と思えば良いわ。さ、始めるわよ♪」
 先ほど鬼ごっこという名の特訓を終えたというのに、今度は調理という名の特訓? 璃菜は秀流が行っている『自分の体を自由に動かす』の方針に従い、家事を通して身体機能の訓練を行おうとしているのだ。炊事・洗濯・掃除・家庭の医学など、一通りの技術を持つ彼女ならではの協力である。尤も、キサトは嬉しそうな顔色を見せていないが‥‥。
「それじゃ、キサトちゃんは野菜切って頂戴ね」
「が、頑張ります」
 トン‥‥トン‥‥トン‥‥。まるで怪談の中で戸を叩くような、スローペースな音が響き始めた。赤い視線を流すと、獲物を狙うハンターのような表情で包丁を慎重に運んでいる。璃菜は微笑み、キサトの背後に回ると、自分の両手をキサトの手に添えた。刹那――――。
 トントントントントントントントントントンッ!
 小気味良いリズムを刻んで包丁が優麗な残像を描く。切れた野菜も勢い良く跳ね、まるで歓喜の舞いを踊っているかのようだ。
「ね☆」
「す、すごいですッ! まるで、魔法みたい‥‥」
 少女らしい感想に、璃菜は鈴を鳴らしたような声で笑う。
「それじゃ、沢山魔法使いがいるわね☆ いい? 私は思ったように動かしているだけよ。初めから出来た訳じゃないけど、繰り返して練習すれば出来るわ」
「わたしも、出来るようになるんだ‥‥はい、頑張ります!」
 キサトのチャレンジは続いた。何とかマナ板に載せるだけで切れる野菜を処理し、次に用意されたのは、ジャガイモだ。グラグラと揺れ動く食材に、少女は苦戦を強いられる。
「わっ!」
 包丁がゴキッと鈍い音を鳴らし、食材が派手に弾け飛ぶ。慌てて璃菜は駆け寄り、キサトの手を握った。確かに指に切り傷が浮かんでいたが、赤い血が滴る様子は見当たらない。
「キサトちゃんってハーフサイバーなの?」
「はい、手首から先がサイバーで‥‥あの、ごめんなさい」
 上目遣いで恐る恐る見せた包丁は、しっかりと刃毀れを描いていた。しかし、璃菜は怒った表情を見せず、安堵の息を洩らして微笑む。
「気にしないで☆ グラつく物を切る時はね、こういう感じでやれば楽だし、バランスを崩したりもしないよ」
「あ、本当だ☆ やっぱり璃菜さんスゴイです!」
 同じ物を同じように切っているのに、支える手や包丁の捌き方で、こうも違うものかとキサトは素直に感動した。璃菜は「大袈裟ね」と微笑み、実習を続けてゆく。何度か悲鳴があがったり、皿が割れる音が響いたりしたが、決して怒る事はなく、時間は掛かったものの、今晩の食事は何とか完成した。幸か不幸か、やたら食べ難い大きさの具が秀流の皿に載せられたが、味はいつもと同じなので、別段、気にした様子は無いようだ。
 夕食後、神代コーチの特訓は続く――――。

●ハプニングは悲鳴と共に
『璃菜さん?』
 ドア越しにキサトの声が流れ、緑色の長髪を纏め上げた少女は、湯船の中で赤い瞳を向けた。躊躇っているのか、なかなか入って来る気配がない。
「どうしたの? 早くいらっしゃい」
 ゆっくりとドアが開き、湯気の発ち込めるバスルームにキサトは一歩踏み込んだ。なかなかドアを閉めないものだから、一気に湯気が流れてゆき、少女の肢体を浮かび上がらせる。刹那、璃菜は湯船からあがり、少女の背後に回った。そっと肩に手を掛けられ、はにかみながらも動揺の色を浮かべる。
「あ、あのぉ」
「背中流してあげるわ。あ、日本ではね、昔からあったらしいのよ☆」
 腰を降ろさせると、スポンジにボディソープを染み込ませ、張りの有る若い柔肌を磨きながら話し掛けた。
「どうだった? 特訓になったかな?」
「は、はい☆ 運動も大事なんだって今更気づかされました。わたし、主に遠距離武器ばかり使ってましたから、接近戦の事は‥‥‥‥うん、あまり考えていなかったかも」
「そうなんだ。それじゃあ、秀流のメニューも無駄じゃなかったみたいね」
「‥‥璃菜さん、普段はあの人と一緒にバスタイムしてるんですか?」
 若干疑問を感じていたのか、それとも話題を変えたかったのか、キサトは肩越しに璃菜へと瞳を流し、悪戯っぽく訊ねた。予想通り、少女は顔を紅潮させ、動揺を浮かばせる。
「な、なによいきなり、そんなこと、あるわけないでしょ?」
「だって、日本では背中を流すんでしょ? 今も続けてるって事は〜」
 璃菜は懸命に話題を変えようと思案した。確かに、若い男女がパートナーといえ婚姻も結ばず、共に生活しているのは不思議であり、興味を抱いたのかもしれない。このままでは、あれこれと聞かれそうだ。ここは反撃するしかない。
「もぉッ! ☆ この胸ね? 私の服がキツイなんて言った原因は♪」
 するりとキサトの両脇を擦り抜け、あどけない風貌に不釣合いな二つの膨らみに両手を忍ばせる。
「ひゃんッ!!」
「ちょ‥‥ッ、きゃあぁッ!」
 バスルームに甲高い少女達の声が響き渡った刹那、勢い良くドアが開け放たれた。
「璃菜! キサト! どうした!?」
「「え?」」
 悲鳴に慌てて風呂場へと飛び込んで来た秀流の瞳に映ったのは、泡に塗れ、折り重なって倒れている二人のあられもない姿だ。璃菜の両手がキサトの胸を覆ったままになっており、青年は訝しげに眉を顰める。
「‥‥って璃菜、おまえ何やってんだ?」
「な、なにって‥‥」
 暫しの沈黙が流れた。
 次の瞬間、涙目の少女が思いっきり悲鳴を響き渡らせたのは言うまでもない――――。

●最終特訓を終えて
 秀流の駆る護竜がパイロットを失ったエリドゥーを運ぶ中、璃菜は疲れきったキサトを車に乗せ、運転席へと身を滑り込ませた。バックミラーに映る機体が作業を終えて戻るまでは暫らく時間が掛かりそうだ。少女は優しく赤毛を撫でながら微笑む。
「秀流のMSはね、お父さんやお母さんや私や‥‥沢山の人の想いが詰まってるの。だから、それを駆る秀流はもっと上手くなろう、もっと強くなろうって頑張ってるの。護竜のことが大好きだから。キサトちゃんはどう? サーキュラーのこと、好き?」
「‥‥よく、分からないです。わたしは乗って指示に合わせているだけだもん」
 薄っすらと瞳を開き、答えた少女の表情は哀しそうだ。
「それでも、操縦しているのはキサトちゃんなんだよ。それだけは忘れないでね」
「そうですね。わたしも、サーキュラーを好きになれないと‥‥」
 ゆっくりと瞳を閉じたキサトは、寝息をたて始めた――――。

●エピローグ
「ありがとうございました☆ わたし、もっと頑張ります!」
 キサトは元の場所まで送り届けられ、秀流と璃菜へと礼を述べた。1泊2日の特訓は幕を閉じたのだ。青年は赤毛の少女に告げる。
「次に会うのはボトムラインだな。戦友として出来る限りアドバイスはした。後は、キサト次第だ。頑張れよ」
「キサトちゃん、何かあったら‥‥ううん、いつでも友達として遊びに来て良いからね☆」
 腰を屈めて目線を合わせると、赤い瞳を和らげて微笑んで見せた。
「ともだち‥‥はい! またお風呂に入ろうね♪」
「うん♪ 頑張ってね、キサトちゃん」
「はいッ! わたし、もっともっと沢山の事を覚えて頑張ります!」
 ――さよなら☆
 赤毛の少女は元気に駆け出した。
 見送る若者は少女に何を思った事だろうか。
「さて、戻るか」
「そうだね。ねぇ秀流?」
「あん? どうかしたか?」
「あの時、ワザと当ってあげたりした?」
「‥‥さあな。忘れちまったよ」


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/クラス】
【0577/神代・秀流/男性/20歳/エキスパート 】
【0580/高桐・璃菜/女性/18歳/エスパー】

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■         ライター通信          ■
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 この度は御参加ありがとうございました☆
 お久し振りです♪ 切磋巧実です。
 需要があるか不安でしたが、外伝への参加とても嬉しく思っています。
 始めに『この物語はアメリカを舞台としたボトムラインです。セフィロトにボトムラインはありませんので、混同しないようお願い致します』。また、MSの演出面もオフィシャルでは描かれていない部分を描写したりしていますが、あくまでライターオリジナルの解釈と世界観ですので、誤解なきようお願い致します。
 さて、いかがでしたでしょうか? 家事を通して訓練ですか(笑)台詞と合わせて調理実習として演出させて頂きました。きっと、洗濯や掃除なんかも一緒に手伝った事でしょう。
 本日のサービスシーン。この伏線の為にレオタードだったりします。状況としては、キサトが驚いて跳ねた瞬間、後ろに倒れたって感じです。きっと、特訓が始まるまでは、暫く気まずい空気が流れていた事でしょうね。
 今回は共通部分スタイルではなく(終わらなくて焦りましたが)、時間軸を抜粋した感じで構成させて頂きました。
 楽しんで頂ければ幸いです。よかったら感想お聞かせ下さいね。
 それでは、また出会える事を祈って☆