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<アナザーレポート・PCゲームノベル>


明言と提言


ライター:有馬秋人





マーケットの端っこで少年が途方にくれていた。視線はあちこちを彷徨い、露店の一つを覗き込んでは首を傾げて出て行く。そんなことを何度も何度も繰り返していた。
徐々に本格的な武器が置かれている中央ゾーンに足を踏み入れていく少年は周りが見えていないようだ。
人ごみの中をふらふらと何かを探しながら歩き続けている。露店の一つに目が引かれたのか、ふいに立ち止まった少年は前方の人影に気付くのが遅れてぶつかってしまった。
反射のように謝罪の言葉を口にしているが、相手はそれでは納まらないようだ。
さて、どうなることやら。





   ***




マーケットを散歩するのは嫌いではない。時おり掘り出し物が見つかったり、ひかれる品を衝動買いしてしまったりと予想外のことがあるからだ。自分が想像していなかった時間というのは中々に楽しいもので、嬢は暇があればこの近辺を歩いていた。
たまに性質の悪いものに絡まれもするが大抵が最近ここに来た者たちばかりで話にならない。前からいる者たちは嬢の実力を知っているし、そこそこ出来るものは身のこなしで実力を推し量ってくれる。
今日も回りの露店を冷やかしながら人ごみを練り歩いていた嬢は前方に少しばかり空間が出来、なにやら言い争っている声がするのに気付いた。

「なんだよっ俺はちゃんと謝ったじゃないっ。この程度で怒るなんてよっぽどカルシウムが足りてないか自分の体も把握してるバカなんじゃないの!?」
「なんだとてめぇっ」
「はっ何それ定型文? 自分の意志も言葉に出来ないんならその口いらないんじゃない、とっちゃえばいいだろ。別にあんたがしゃべらないからって誰も困らないよ」
「―――っ」

相手がいきり立つ。最初は言葉で脅し、慰謝料めいたものを取ろうとしていたようだが、少年のしゃべりは男程度の語彙力で太刀打ちできるようなものではなかった。流れる水のようにとうとうと捲くし立てる。ある意味芸だ。
言葉を封じられた男が拳に訴えようと振りかぶる。嬢の位置からは男の姿と少年の声しかわからずに、咄嗟に間に割って入った。

「あんた、大の男が子供を苛めるとは大人気ないね」

いくら口で叶わなかったからといってさ。
最初は驚いたが割り込んできたのが長身とはいえ女の嬢だと理解した相手は、拳を納めようとしない。自分の後ろで捲くし立てていた子供の息を呑む音が聞こえるが、嬢は振り返らずに眼前の相手を挑発した。片方の掌を上向きにして、招く。

「お仕置きが必要だから、あたしがしてあげるよ」
「っのアマ!」
「本当に語彙が少ない男だね」

聞き慣れすぎた単語ばかりが口をついて出るようだとあざ笑い、勢いよく向かってくる拳をいなす。大振りのモーションで繰り出される打撃は見切りやすい。踵を軸にして一転し、相手の背後に回ると首筋を強打する。流石にがたいがよい為かそれだけで倒れることはなかったが、鈍いうめき声があがった。一歩下がって距離を取り、相手が振り返った直後に今度は踏み込む。真っ直ぐに伸ばされた腕が移動した分だけ確実に伸び、相手の腹部にめり込んだ。
みし、と嫌な感触がして、嬢は漸く拳の握りを解く。

「ふん、口ほどにも無い」

撃沈した男にそういい捨てて少年に目を向けた嬢は目を丸くした。相手も目を丸くして嬢を見ている。

「…って、あんた、前に会ったあの時の子じゃないか。ここに何しに来たんだい?」
「何って、買い物に決まってるじゃない」
「扱っているものの大半が武器のマーケットに、あんたみたいな子供が何のつもりで
来たかって聞いてるんだよ」

「ここで年齢なんか関係ないと思うけど?」
「護身用の武器の一つも持たずに無闇にマフィアんとこに突っ込もうとしていた子供、って言い換えてもいい」

そこでようやく相手は減らず口を止めた。男が倒れたことによって事態は終結したと見て取った者たちが再び人の流れを形成するのを邪魔しないように端によって嬢を見上げる。

「また助けてくれて感謝してる」
「ああそれはあたしの性分みたいなもんだ。気にしないどいてくれ」
「気にはするよ、やっぱり、さ」
「気になんならどうしてここに居るのか、あたしの好奇心を満たしてくれたってバチはあたらないよ?」

白状しな、とにっこり笑って言外に告げた嬢に、少年、花鶏は苦笑いを浮かべた。髪をかき上げて目を留めていた露店を示す。

「あそこだよ」
「装飾品、かい」
「うん」
「まさかあんたが…」
「なわけないって。俺じゃなくてっ、夏野っ、夏野の誕生日が近いんだよ! なんで俺が自分でアレを買おうなんて思わなきゃなんないわけ!?」

うがっと小さく拳を振り上げた花鶏に嬢はそりゃ悪かったと軽く詫びた。そのまま少年の襟首を掴んで露店の前に移動する。

「同居人の誕生プレゼント、ね。そういうことならあたしも協力するよ。どうせ選びあぐねてたんだろ」
「……なんでわかるんだよ」
「あんたの同居人女の人だったよね、それで年上。好みが解ってるならあんたが迷うはずもないし、わかってないならその年頃の子供が悩みやすい条件だ」
「だってあいつ、何上げても喜ぶんだよ」

何が好きなのか嫌いなのかもわからず、ただ自分があげると無条件で喜んでくれる。そんな相手なのだと愚痴る花鶏に嬢は破顔一笑する。

「あんたが選んだものなら何だって嬉しいってことじゃないか」
「よくわかんない」
「それでも、あんたが選ぶべきみたいだねこれは…贈るのはあたしじゃなくてあんただろう?」
「そうだけどっ」

縋るような面持ちで嬢を見上げる花鶏の額を小突いた。

「あたしはただプレゼント選びに付き合うだけだよ。それで不味そうなら助言するし、良いならそれをあげたらいい」
「………目星はついてるんだけどさ。なんか自信がないんだよ。見てくれる?」
「はいよ」

露店に並べられた数々の装飾品。その内の一つを花鶏は手に取った。シンプルな形状のピアスを一組。琥珀の石が嵌められたそれは、強く反射することなくつるりとした印象を与えるが黒髪の夏野には似合うだろう。そして小振りのサイズというのも高得点だ。下手にデザインに凝って重くするよりもいい。静かな印象ではあるが花鶏についていくあの行動力では邪魔にならない程度のものが喜ばれるだろう。
価格も確認してそれほど高価でないのもチェックした。

「いいんじゃないか。これなら普段もつけてもらえそうだし」
「そう? 嘘じゃないよね」
「嘘つく必要なんかないだろう?」
「うんっ」

嬢が認めたことによって一気に自信がついたのか、花鶏は嬉しそうに露店の主人と交渉に入った。どうやら値切るつもりらしい。価格どおりに買わないのは、見かけによらず余程この場所に慣れているのか単なる習い性なのか、プレゼントくらいそのまま買えばいいとも思うが楽しそうな相手を止める気にはならず、嬢は少し呆れながら小さな背中を見守った。

「同居人が喜んでくれるといいね」

値下げに成功して喜ぶ少年にそう言うと、振り返って満面の笑みで頷かれた。



2006/01/...



■参加人物一覧

0517 / 門屋・嬢 / 女性 / エキスパート


■登場NPC一覧

0204 / 花鶏
0207 / 佐々木夏野


■ライター雑記

ご利用有難う御座います。
夏野がピアスホールあける話とか作れそうだなぁ、と想像を膨らせたり楽しくかかせていただきました。
姉御肌というより江戸っ子の門屋嬢はさっぱりとした印象で気持ちいいです。この、私の持つイメージが少しでも沿うていることを願うとともに、この話が少しでも娯楽となりえるよう祈っています。