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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


都市マルクト【繁華街】マフィアの裁き
それは、現在に続きし昔話

ライター:高原恵

 おいおい、俺がマフィアだからってそう睨むなよ。敵じゃないってんだ。
 言うだろう? 「マフィアは信用出来るが、信用し過ぎるな」って。ありゃ、こう言う時に役に立つ格言だと思うぜ。
 何、他でもない。仕事を頼みたいのさ。
 うちの構成員が勝手をやらかしてな。
 組織は、構成員が勝手をするのを許さない。
 ここまで言えばわかるだろう? 他の組織との間も焦臭いってのに、馬鹿を始末するのに組織ごと動いてなんかいられないって訳だ。
 報酬は金か? それとも、上物のコカインか? 酒に女でも構わない。
 受けるか受けないか、今すぐ俺に言ってくれ。

●適する場所
 隠れ場所、というのは誰しもどこかしら持ち得るものであろう。例えば、身近な者にも知らせない自分だけの内緒の店だとか、そこへ行くにも手間がかかる場所であるだとか。
 それはともかく、ここに『事件』『犯罪』といった要素が絡んでくると、『隠れ場所』は途端に怪しい響きとなる。様々な追っ手から逃れるための……響きに。
 そのような場所として、セフィロト――都市マルクトが適していないはずはなかった。過去を根掘り葉掘り問うような者もまず居ないし、マフィアも入り込んでいるが決して1つの勢力下にある訳ではない。何かしら逃亡しなければならなかった者が潜むには、ああ何と便利な場所なことか!
 それゆえに、セフィロトを訪れる者が必ずしも内部に眠る今の技術では作れない高性能な部品や機械装置を求めている訳ではない。中には逃亡者を追って訪れた者だって少なくないのだ。
 さて、前置きはこのくらいにしてそろそろ本題へ入るとしよう。これから語られるのはある女性を追ってセフィロトへ現れた男性、ジョージ・ブラウンの……いや、ジョージとそれに関わる者たちにとっての、そう前ではないちょっとした昔話である。

●経緯
 ジョージへそれを依頼したのは、組織のボスだった。無論、ジョージの世話になっているマフィアのだ。
 もっともボスといっても、従来からのボスではない。その当時、代替わりしたばかりの前ナンバー2だった奴だ。ジョージや他の者たち曰く『屑野郎』である男。これだけで、新ボスのおおよその評判が分かりそうだから不思議なものだ。
 依頼の内容は単純明快。先代ボスを殺した張本人の処分である。これ以上簡単に言い様のないくらい単純な依頼……命令だ。
 これだけ聞いたら、どこぞの男が先代を殺したのかと思うことだろう。だが、そうではないことはジョージは嫌というほど分かっていた。何故なら……相手はジョージがハーフサイバーの身体となる原因を作った者だから。
 分かりやすく言おう。先代が殺されたその時、ボディーガードを務めていたジョージもまたマシンガンによる銃弾を満腹になるほど喰らわされていたのだ。自身が『非常によく知る』部下の女性……マリア・スミスの手によって。それはもう、血と硝煙の匂い激しいなかなか食い出のある手料理だった。
 これにより先代は絶命し、現ボスには組織トップの座が転がり込んできた。さすがに口にこそ出さないが、現ボスは内心マリア様様と思っているに違いない。何せ自らの手を汚すことなく、ボスの座を手に入れたのだから。
 だが現ボスがどう考えていようが、組織の人間が裏切って組織のトップを殺害した――これを放置しておく訳にはゆかない。掟と秩序で組織を統率するマフィアにとって、そんなことをしたらこの先の組織は維持出来ない。ゆえに、相応の制裁を加える必要があった。この場合はもちろん……マリア自らの生命によって償わせるべく。
 その追跡者としてジョージが選ばれた訳だが、考えてみれば当然の人選であろう。自らもまた事件の当事者であり、組織の裏切り者であるマリアはジョージの部下であった訳だから。……穿った見方をすれば、これもまたある種の制裁かもしれない。
 そしてジョージは、その依頼を断らなかった。断れなかったのではない、断らなかったのだとここで強調しておこう。
(組織にとってけじめは必要だ……)
 だってジョージは、そのように考えていたのだから。
 この考えの前に、憎しみという感情はない。マリアから撃たれたにも関わらず、だ。しかしジョージは、自身もまた撃たれた理由を把握していた。……マリアにはジョージを殺したい理由が山ほどあるということを。そう、ジョージは思っていた。
 かくしてジョージは逃亡したマリアを追った。それで行き着いた先が……ここセフィロトの、都市マルクトだった訳だ。
(右も左も分からん場所だ。……まずは協力を仰ごうか)
 初めて足を踏み入れた地において、1人の人間を探すことは非常に難しい。そのことをよく分かっていたジョージは地元の協力を仰ぐことにした。言うまでもなく、所属する組織と繋がりのある地元マフィアの1つに接触して……。

●協力者
(……遅い……)
 ジョージはマルクトの繁華街にあるバーのカウンターの端に座り、ちびりちびりと酒を傾けていた。
 ここはジョージが接触した地元マフィアの息がかかった店だ。ここに1人、協力者がやってくると聞いてジョージは待っていたのだが……すでに約束の時間を30分も過ぎている。
(他所者だからガセネタでも渡されたか?)
 訝しむジョージ。ただ30分待たされているだけでそう思ったのではない。先程から視線を感じていたからでもある。いや、ジョージがその視線に気付いたのが15分ほど前のことであって、実際はジョージが店に現れた時からすでに見られていたのかもしれない。
 視線は店の奥のテーブル席からであった。そこには金髪の若い男が1人で座って飲んでいた。男はただジョージの方へ視線を向けているだけで、特に何かしてこようという素振りは見られなかった。
(ここの監視役……か?)
 そんなことをジョージは思う。地元マフィアが、他所者である自分を男に見張らせているのかもしれない。考えてみればジョージが店にやってきた時にはもう居たし、グラスの中の酒もよくよく見てみればさほど減ってはいない。疑う理由はあるのだ。
 やがて――男が音もなくすっと立ち上がった。男はとても背が高い、2メートル近いだろうか。男はそのままジョージの方へやってきた。
「俺に……何か用かい」
 気配にジョージが振り返って男に声をかけた。
「……アメリカから流れ来たというのはあなたか」
 男がジョージに向かって静かに口を開いた。
「ああ。だとしたら何だ」
「しばらく様子を見させてもらった。妙な尾行もついていないようだな」
「……お前、何者だ?」
 ジョージは男をじろりと睨んだ。が、男は薄い笑みを浮かべ平然と言い放つ。
「すでに聞いているはずだ。協力者が来ると」
「何?」
「クラウス、クラウス・ローゼンドルフだ。サイバー医師をしている……無論闇でだが」
 男――クラウス・ローゼンドルフはそう言って自らを紹介した。クラウスは知り合いのマフィアの紹介で、ジョージに手を貸すこととなったのだった。何かしら、そこに借りがあるゆえに。
「話は聞いている。探している女が居るそうだな」
 クラウスはジョージの隣へ座り、さっそく本題へ入った。
「そうだ。組織として、けじめをつけないとならないんでね」
「探すだけか?」
 突っ込んで尋ねるクラウス。
「皆まで言わないと分からないか?」
 と答え、ジョージはグラスに残っていた酒を飲み干した。
「……私が手伝いをする報酬は高いぞ」
「いくらだ。何がほしい」
 回りくどい説明なく、さくさくと進むクラウスとジョージの会話。話が早いといえば話が早い。
「生きのいい女の死体、1つ」
「何っ?」
 一瞬、ジョージが眉をひそめた。
「簡単に言えば、研究材料の調達だな。……どうした、難しい話でもあるまい? そっちが必要なのは『殺した』という事実だけのはず。ならば、残る死体は必要ないだろうに」
 薄い笑みを浮かべるクラウス。
「なるほど……そういうことか」
 ジョージは小さく頷くと、バーテンダーに空になったグラスを差し出した。クラウスの言う通りだ。組織が欲しているのは、けじめをつけた事実。死体などどうだっていい。むしろ永遠に出てこない方が望ましい訳で。
「分かった。死体の処理は任せよう」
「契約成立だ。では、探す女の詳しい容姿など私に聞かせてもらおうか――」
 クラウスはそう言ってジョージに向き直った。

●男と女
 それから1週間ほどが経った。
 マルクトの繁華街には相変わらずネオンの看板が派手に輝いている。古びた汚れなどは、ネオンの輝きが見事に覆い隠していた。
 酒場やいかがわしげな店が立ち並ぶ中、繁華街の人通りは少なくない。おまけに辻ごとに何かしらの売人だったり、客引きだったりとたむろしている。また、露出度高めの衣服に身を包んだ女性たちが等間隔で立って、道行く男たちに色目を使っている通りもあるなど、何とも混沌とした環境である。
 この日も、そのような女性に声をかける男たちが絶えることはなかった。その中、くせ毛なベリーショートの黒髪の女性に男が声をかけて、近くの路地の方へと移動を始めていた。その先は行き止まりだから、色々と都合がよいのだ。
 女性は男と腕を組んで並んで歩く。非常に豊かな胸元が、男の胸に押し付けられていた。
 やがて2人の姿は人気のない路地へ。そのまま突き当たりまで進んでゆく。と、男の方が何やら言ってから女性に金を渡し、来た道を1人で戻っていった。落とし物でもしたのだろうか。
 女性は金を仕舞うと、男が帰ってくるのを壁にもたれかかりながら待っていた。少しして、人影が1つ現れる。だがそれは、先程の男ではない。現れたのは――ジョージであった。
「ジョージ……」
 はっとした顔で女性はぼそりつぶやいた。女性は、ジョージのことを知っているのだ。
「探したぞ。マリア」
 変わらぬペースで歩みを続けるジョージ。その手には、愛用の44オートマグナムが握られていた。
「……死ななかったのね」
「ああ」
 女性――マリアをまっすぐ見据え、ジョージは銃口を向けた。
「俺が現れた理由は……分かるな?」
 ジョージがそう問うと、マリアはこくんと頷いた。
「例の件でしょ。私が……組織を裏切って司法取引したことの……」
「何故先代を殺った」
「……あれは手違いよ。私はFBIにボスを引き渡そうとしただけ。本来殺そうだなんて思っていなかったわ。殺したかったのは……屑野郎よ」
 忌々しげにマリアが言った。
「……今のボスをか」
「あの屑野郎が今のボスなの? そう……じゃあ、組織も長くなさそうね。1人だけ安全な部屋へ逃げ込むようなチキン野郎だもの」
「…………」
 マリアの言葉に対し、ジョージは何も言わなかった。その話は事実だし、ジョージ自身が現ボスを擁護する義理もない。
「ね、知ってる? あの屑野郎……妹を組織のコマにしようとしたのよ。許せないわ……」
 話しながらもマリアは逃げようとする素振りを見せない。観念したのか、それとも……。
「全ては妹のため……か」
 そうつぶやいたジョージとマリアとの距離が非常に縮まっていた。ジョージの銃口は、ぴたりとマリアの心臓を捉えている。
「逃げないのか」
「逃げても追いかけるんでしょ。私を殺したいのなら……」
「その気になれば出来るだろ。何しろお前を育てた上司がいいんだ」
「……そうね。私を拾ったのはあなただから……」
 マリアの唇が何かを伝えるかのごとくさらに動いたが、それはあいにく声とはならなかった。だが、瞳はジョージをしかと捉えていた。
 沈黙がその場を支配する。ジョージも、マリアも、瞬き1つしやしない。どちらが先に動くか……無言の駆け引きをしているようだった。
 そして――マリアが先に動いた。ジョージの懐へ飛び込まんと。
 だがしかし、それは叶わなかった。次の瞬間には、ジョージのマグナムが火を吹いていたのだから。
「……あ……」
 短いつぶやきを漏らし、崩れ落ちるマリア。その姿をジョージは銃口を向けたまま黙って見つめていた。けれども、マリアの身体は動かなかった。
「そっちの用件は済んだらしいな」
 ジョージの背後から足音が近付いてくる。クラウスの声だ。
「ああ……終わったよ」
 振り返ることなく答えるジョージ。そこでようやく、マグナムを仕舞った。
「で、条件は?」
「……自分で確認してみればいい」
 ジョージのその言葉を聞いて、クラウスは死体となったマリアに近付き胸元を覗き込んだ。
「見事だ」
 クラウスが短くつぶやいた。マリアの心臓を、ジョージは違わず1発の弾丸で撃ち抜いていたのだ。
「最小限の損傷。これはいい死体だ……」
 クラウスのこの言葉を聞いたら、どのような条件があったかおおよそ想像がつくというものだ。
 まあそれくらいの条件を飲ませるのは、クラウスとしてみれば当然のことだったかもしれない。マリアの居場所を突き止めた上で、金で雇った男にマリアをこの路地まで連れてこさせるというお膳立てまで行ってやったのだから。
「…………」
 クラウスは改めてマリアの顔を覗き込んだ。マリアは何故か、微笑みを浮かべていた……。

●それからのこと
 そして現在。
 ジョージは未だセフィロトに暮らしていた。
 何故かクラウスと……それからマリアとともに3人で一緒に。
 あの後、クラウスは何故かマリアにサイバー手術を施したのだ。ジョージがクラウスに理由を問うとこのように答えが返ってきた。
「……あの女に興味を覚えた」
 それ以上いくらジョージが尋ねても、詳しい説明をクラウスはしなかった。かくしてマリアは手術によってハーフサイバーとして生命を拾い、ジョージは仕方なくマリアは殺したことにして組織に報告を済ませることとなった。クラウスという証言者も居ることから、今の所は組織から疑いの目は向けられてはいない。
 だが……この顛末に納得がゆかなかったジョージはこの地に残った。ゆえに、先述の通り3人で暮らすこととなった訳だ。
 今の3人は、奇妙かつ微妙な関係で成り立っていた。手術を施されたマリアは、クラウスに逆らえない。クラウスはどうもジョージのことを、飯炊き兼下男として見ている節がある。ジョージとマリアとの関係は今更あれこれ言うまでもなく。……これを題材にして、十分テレビドラマが撮れそうな感じだ。
 3人での暮らしが始まって少しして、ジョージは何気なく組織のことを口に出した。報告後、組織はどのようになっているのだろうかと。
「新しいボスか? 処理済みだ。『私』の息がかかった男が組織を納めている」
 その時、ジョージの疑問に淡々とクラウスが答え、くだらない話をさせるなと早々にこの話題を打ち切った。だから、ジョージもそれ以上何も言わなかった。
 マリアはこの、今の生活を何となく楽しんでいるようだ。ジョージのことだって、嫌いか好きかと問われれば好きであるのだから。だが、その生活の中心に居るのはクラウスである。マリアだけでなく、ジョージにとっても。
「なあ……何故、俺は奴らの世話係なんだ!?」
 その日マルクトには、バースデープレゼントにもらった元は野良だった犬に愚痴を言うジョージの姿があったという……。

【END】


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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【整理番号(NPCID)】 PC名:クラス

【0718】 ジョージ・ブラウン:ハーフサイバー
【0627】 クラウス・ローゼンドルフ:エキスパート
【0717】 マリア・スミス:ハーフサイバー


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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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・『サイコマスターズ・アナザーレポート PCパーティノベル・セフィロトの塔』へのご参加ありがとうございます。本パーティノベルの担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・大変お待たせいたしました、マフィアのけじめの様子をお届けいたします。まあ……少々妙な展開になっているようですが。ともあれ、このような内容となりました。
・所々で表現をぼかしたり、直接的な書き方を避けたりしていますが……さて、いかがだったでしょうか。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、またお会いできることを願って。