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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


第一階層【居住区】誰もいない街

ライター:有馬秋人





ここいら居住区は、タクトニム連中も少なくて、安全な漁り場だといえる。まあ、元が民家だからたいした物は無いけどな。
どれ、この辺で適当に漁って帰ろうぜ。
どうせ、誰も住んじゃ居ない。遠慮する事はないぞ。
しかし‥‥ここに住んでた連中は、何処にいっちまったのかねぇ。
そうそう、家の中に入る時は気を付けろよ。
中がタクトニムの巣だったら、本当に洒落にならないからな。





 * * *







その噂は少し前からアマネの耳にも届いていた。けれどあまりに嘘っぽいと弾いていたのだが、どうにも風向きが変わったらしい。
いつものテーブルで仕入れてきた情報を晒したところ、数名が色よい返事。それならば出向いてるみる価値もある。

「けどなぁ」

かりぽりと頬を掻いて、ギルドで無償配布していた資料を捲る。事前に打ち合わせは済んでおり、情報が確かならこのメンバーで遅れをとる可能性は低いはずだ。それもこれも、噂が真実であるという前提が必要なわけだが。

「実際に未帰還者もいるのだから、あからさまなフェイクというわけじゃないでしょう?」
「うーん…まぁ」

煮え切らない返事のアマネに親友はくすくす笑って。

「早く配置につかないとアルベルトさんも兵藤さんも困ってしまうんじゃないかしら」

軽く息を吐き出して、アマネは頷いた。嫌なわけではない。最初は面白い噂だと鷲づかみにしてきたくらいなのだから。

「りょーかい。こっちも行くからスノウもはよしてな」
「それは、もちろん」

にっこりと笑って自分のMSに乗り込む背中を見送って、アマネも機体に入り込んだ。動作音がしないように極力静かに滑らかに、スノウ・ファーノの機体が離れていく。ひらひらと生身の体の方で手を振って、アマネは記憶を掘り返した。
セフィロトではけして、珍しいタイプではないタクトニム。ケイブマンが集団でビジターを襲っているという噂を耳にしたのはどれくらい前だったろう。眉唾ものだと一笑に伏していたらあれよあれよと言うまに知った顔が見えなくなった。知り合いというほどではないが、顔見知りではあった者たちだ。最後に言っていたは「どうもでかいケイブマンが出たようだ」と苦笑まじりの、事実かどうか確認でもしてこよう、程度の言葉で。
顔を見なくなったと思ったら、ギルドからの伝達だ。どうやらリアルな話だったらしい。

「ケイブマンなぁ、……個々にあたる程度なら、別に平気やろうけど」

集団で出てきたら、どうなるのだろう。
ソレが問題だった。ボスがいたとしてもだ、それが小規模のものならば大抵のビジターは撃退できるだろう。未帰還ということは、半端な数ではない。頭が痛くなりそうだった。
手にしている情報と、周りの状態から予測できる実情に何かしら誤差が歩きがして、二の足を踏んでいる。仲間と、言える者たちがいるのを思い出して、なお更気鬱が募った。



「別にモンスター型が嫌いってわけじゃないからね、ボクはいいよ」
「そうだな。俺も行こうかな…おふくろがいたら喜ぶんだろうけどなぁ」

残念ながら不在。代わりにレオナとデート気分で。肩をすくめて笑ったアルベルトの科白を聞いていなかったレオナは熱心にアマネの資料を覗き込んでいる。

「へぇ、ケイブマンの群れかぁ」
「せや、数匹程度ならうちも倒したことあるけど…ちょーっとこれは規模大きいかもなぁ」
「大丈夫じゃない? アマネちんはMS持ってくんでしょ」

なら接近戦でひきつけて遠距離でどかーん。お気楽に笑うレオナだが、その場合彼女自身もどかーんに巻き込まれているという可能性を無視している。

「ケイブマン程度なら俺のPKでも倒せるし」
「ギルドからお金が出るならきっと強いよねっ」

それは楽しみだ。くふくふ笑う手には愛用の大きなブレードが。遠慮なく振り回せる戦いを欲しているのか立て掛けていた剣を撫でている。乗り気になっているレオナを止められるものはその相棒しかいない。自分で振った話しながらあまりにさくさくっと進むので、アマネも笑って出立予定を組んだ。
三人では心もとないと、親友のスノウ・ファーノに声をかけて、快諾を貰って。



その記憶で少しテンションが上がったが、相変わらず目の前の瓦礫にため息を吐き出しかけている。何が問題って、今自分の周りに散らかっている残骸だ。ケイブマンの残骸。しかも食べかけのない。
このあたり居住区だってというだけあって建物が多い、その分タクトニムが群れて生きるには餌のとりにくい区域だろう。それでも餓えて共食いするほどではないはずだ。それがされた形跡があるということは、餓えの危機が生じたほど、ケイブマンの群れがでかいということで。ちょっとイヤ。
ううと唸っていたアマネの耳に集音装置から入ってきた音が届いた。

「始まったようやな」

始まってしまったからには思考を切り替えよう。始まりの感情心の中にセットする。それは純粋な好奇心と、ケイブマンという知性の低いタクトニムにボス的存在が生まれるのかという疑問。
内部機関のスイッチに手をかけて、対生物用に搭載し動体センサーの類いを立ち上げ、自身と、操るMSに起動の意識を叩き込んだ。
親友がいる場所で下手な真似はできない、こうなったら隙なぞ一つも作らず制圧するに決まっていた。




 * * *




「ふふーん、歯ごたえのあるヤツおいでっ」

ふっと浅く息を吐いて突っ込む後ろでは後衛のアルベルトが「レオナ、ストップっ」と言っているが意気揚々と飛び込む彼女には聞こえていなかった。
同じように突っ込んでくるケイブマンの爪をブレートで弾き、相手の上体が浮くのを確信して反対の手を振り下ろす。やや大振りの一撃だが、体勢を崩していたケイブマン一匹が見事絶命した。地面に軽くめり込んだ刃先を回収するべく力を入れたタイミングで、肩を強打される。

「いっ――」

視界が眩んだ。他のケイブマンがいるのを忘れていたと舌打ちしてその場を離れようとするがすでに数匹がレオナを取り囲んでいた。アルベルトがPKで応戦している姿が視界に隅にある。生身で対峙するには怖い敵だと分かっている。オールサイバーでないアルベルトが数匹を同時に相手しても善戦しているのは、彼の能力がずば抜けているせいだ。ボディESPで体を持たせ、PKブレードで爪を弾き、ケイブマンの体を裂く。囲まれても生体感知能力が死角をカバーしている。それら全てを的確に使うことによって生き延びている状態だ。レオナのレーダー代わりだと笑って付いてきてくれた相手が接近戦までこなしているのは、明らかにレオナのミスだった。いつも敵だ敵だと喜び勇んで突っ込んでいけるのは、相棒がいるからなのに、それをすっかり忘れて不在の今も同じようにして。
思考に嵌ってかわし損ねた殴打をきっかけにケイブマンの拳がヒットしていく。爪の攻撃は辛うじて避けているがダメージは重なっていく。
倒壊した建物の瓦礫に躓いて、膝を地面で打つ。それでケイブマンの攻撃が外れた。その隙を逃さずレオナはその場を転がるように脱出すると、そのままアルベルトのいる場所へ駆け込んだ。

「こっんのぉぉぉ」

後ろから片手にだけ残っていたブレードを突き刺して、体の半分を斬りとばす。先のようにそれに満足しないで、すぐにサイドに体をずらし、間髪入れずに詰めてきたケイブマンを蹴り飛ばす。オールサイバーの力で、全力の一発。頭部の下に入った足は綺麗に振りぬけて巨体が倒れた。追加でもう一回、と踏み込むが、先に巨体が裂けた。

「レオナっ」
「ごめんっ」

大丈夫かっと慌てるアルベルトと、突っ走ってしまってごめーんと謝るレオナだが、すぐに違うケイブマンが出現し、背中合わせになった二人を囲いだす。

「うぇー、こんなに多いってきいてないよっ」
「未帰還者増えるわけだ」

歯ごたえっていうか、鬱陶しい。皮下を循環するオイルが切れた腕から滲んでいる。指で拭って気合を入れなおして。
同じように自分の怪我を手でこすっていたアルベルトも同意した。こちらは自己再生能力をフルに回転させてダメージの修復を行っているらしい。その間にもじりじり寄ってくるケイブマンを一匹ずつPKで倒していくがキリがない。
二人が両手の指より多い数に囲まれて、ごくりと喉を鳴らしたタイミングで着弾音が一つ。
風が巻き起こった。
最初の一弾を皮切りに、器用にもレオナとアルベルトを外してケイブマンだけを着実に屠っていく。
遠くに、作戦開始前に披露された特徴的なMSの機影が。汎用をカスタマイズしすぎたと微笑んだ顔を思い出す。

「スノウ、か?」
「たすかったー」

ズタボロに砕けていくケイブマンにレオナがブレートの回収に走る。先ほどまで自分がいた場所にまだ落ちていたとしっかりと握りなおして。

「レオナ、スノウから連絡」
「なになにっ」
「ここから2時の方向に一番大きい群れがあるらしい。このまま併走していこうってさ」
「りょーかい」
「あと、事前の作戦はちゃんと守ってね、と」
「…りょーかぁい」

そういえば確かに作戦タイムがあった。頬をかりかり掻いて反省したレナオの近くをまた弾が一つ走り抜けていく。空気を伝導する衝撃だけで、びりびりする。後方から迫っていた二体の内右側が頭を吹き飛ばされ、左側はアルベルトのPKで体を引き裂かれている。
後ろが響く音を気にもせず、レオナは示された方角をにらみつけた。

「アマネちんは?」
「先行してるらしい」
「じゃ、追いつこうっ」

からりと笑って宣言したレオナに同じように笑い返して、ボスがいる可能性のある群れを目指して移動を開始した。




 * * *




スノウと分担してあたりを探索し、はじき出した答えは唸るような解だった。規模がでかいとかそういう問題か悩む。

「ちゃぁ…」

ぺしっと額を叩いて、動きのある群れを観察する。どうやらレオナとアルベルトに接触している群れはこの大規模団体さまの分裂体らしい。戦いが終わらないのを訝しがっているのか随時補充員のように数匹ずつが移動していく。群れ全体で動かないのは中央に陣取っている一際大きな個体が動く様子を見せないからだろう。

「完全にボスザルやなぁ」

これが動けばこのあたりに群れているケイブマンが一斉に雪崩れるという寸法だろうか。それはちょっと勘弁願いたい。

《アマネさん、聞こえます?》
「明瞭に、聞こえるで」

通信機器から零れるスノウの声に、無意識に強張っていた口元が緩む。

《いまレオナさんとアルベルトさんが向かっているのだけれど……そちらは?》
「あかん、ちょぉ不味い」
《あら…どうしましょぅ》
「どうもこうも、あっちに移動した分は殲滅したん?」
《ええ、数が多いので無駄弾はなし。頭部を飛ばせば大丈夫なのは変わりませんね》
「おーけぃ、そりゃ行幸やな。頭潰せば残りが逃げるか、それとも群れたまんま、か…」
《ギルドの賞金がかかっているのはボスだけですよね》
「………うちむっちゃくちゃスノウのこと好きやわ〜」
《光栄ですわ》

にっこりと微笑むのが目に浮ぶ。
なんだか気分がよくなった。数に押されそうだとか考えているよりも、ここは一つ。一発ガツンとかましてしまおうか。
待機モードで情報収集していたアマネの機体がファンと起動音を上げた。
その様子を遠方から見ていたスノウは口元をほころばせる。乗り気だった癖に、なんだかんだといって予想よりも敵の勢力が巨大だとわかって落ち込んでいたのだろう、きっと。目的のためにわりと手段を選ばない性格ではあるが、こういう時に仲間を大切にしないタイプでもないのだから。なんで事前にもう少しまともな情報を手に入れられなかったのかなぁとため息をついていたのだろうと、推測して、それが的外れでないことを確信している。本当に、可愛い友だった。
すべるような手つきでガンアームの弾薬を補填する。そして、レオナがアルベルトの援護をうけて、今度こそきっちりとした連携で突っ込んでいくのを確認して、改めて狙点を定めた。
オールサイバーと肉体的にはノーマルなエスパーを囮に使うなんて無謀な作戦。実行に移したのはそれが最適だと選択したから。選択したアマネを後悔させるような目にあうつもりも、あわせる気もさらさらない。MS組みは遠距離からの射撃で確実に数を削り、生身組みが突き進む。
アマネから連絡が入ったのか、レナオとアルベルトの動きが変化した。あたるを幸いといわんばかりの態度でケイブマンを蹴散らかしていたのが、とある一点を目指して進む動きに変わる。分厚い層を貫く槍のように、突き進む。
進んだ後が閉ざされるようなことはない。その為に自分がいるのだ。
呼吸一つでケイブマン一体を屠る。少しずつ場所を変えて、移動して、こちらにも向かってき出したタクトニムを翻弄し、撃破。反対側で親友が自分のそれよりも勢いのある、操縦者の性格そのままの動きで暴れているのが見えた。

「この調子なら、平気、かな」

通信ラインに届かないようこそりと呟いて、スノウは微笑んだ。




 * * *



一点突破を提案されて実行に移してからの時間経過がよく分からない。ただ、突き進む。ブレードの切れ味が鈍るたびに振動のスイッチをいれ、ケイブマンを切り捨てながらその脂を落とす。省エネというわけではないが、そのままでいけるならそっちのがいい。節約指向だった。
一体を斬り飛ばしたとき足場を取り違える。すかさず振り下ろさせる生々しい肉色の腕に構えをとる。が、寸前で腕が消えた。肩口から綺麗に飛んでいくシーン。

「アールっありがとっ」
「はいよっ、気をつけろ」

自分も戦っているというのに、きちんと意識を振り分けてくれているのが嬉しい。小さく笑って地面に片手をつくと起き上がる勢いでスライディングしてタクトニムの足を払った。横転する体にブレードを刺す。動きを止めたら柄から手を離して、バックステップ。レオナを狙っていた一体の腕が仲間を潰した。一瞬動きが止まったところをもう片方のブレートで切り裂いて。
一撃では無理なサイズの腕だと目を丸くする。

「こいつかな」

明らかに周りのケイブマンより一回り大きい。レオナの目に爛と光がともるのを確認したアルベルトは笑って、アマネに確認をとった。

「レオナ、それを倒せばとんずらって」
「よーしっ、いっくぞぉ」

片手に残っている刃。それを構えて走り出す。むき出しの筋組織を撓ませて、巨体のケイブマンが腕を横に薙ぐ。避け損ねるけれど、サポートに回っていたアルベルトのPKが押し返すように力の向きを変えた。周囲のケイブマンはいつの間にかほとんどが地面に倒れていて、大半が頭部破壊による死亡だった。アマネとスノウの駆るMSが速度を上げて寄ってくる。そちらを脅威と捉えたのか残りのケイブマンが背を向けていた。サイズ的に簡単に殺せそうなレオナたちはボスに任せれば確実と踏んだのかは知らないが、そのお陰でアルベルトの手があいて。
かわして、切り込んで、防がれて弾かれて、地面を踏んでまた突っ込んで、きりがないようにも思えた攻防に終止符を打ったのは、一条のレーザー。

「っ、あああああああああああ」

振りかぶっていた刃をそのまま地面に差し込んでレオナが絶叫する。がっと振り向く先はアマネのMS。

「ボクの獲物っ」
《かんにん〜》

外部拡声器から聞こえる声に地団駄踏むが、頭部を破壊された巨大ケイブマンはぴくりとも動かない。アマネの勝利だった。

「こらぁっ、接近戦になったらボクに任せてくれるって言ったじゃないかっ」
「あー、レオナ。喧嘩はあとで。ほら、逃げるぞっ」

ボスが倒されたことによって何れ解散していくだろうが今群れているのは事実だ。スノウからボスの死体をデータに記録したと通信を受け取ったアルベルトはじたばたするレオナの襟首をひっぱった。首元の鈴がチリリと鳴ってレオナをせかす。

「もうっ、後できっちり話しをつけるからねっ」

まってろアマネちんっ。
レオナはアルベルトをおいていく勢いでダッシュを開始した。その背を見ながら、応戦せずにかわすだけなら楽だよなぁと、どこかまったりとした感想を抱くアルベルトが走る。
一体に一人を回収して離脱する予定だったアマネは、迷わず自分の方に向かってくるレオナにちらりと舌をだして、親友に合流を頼む。
レオナを運ぶのは相手にしてもらおう、そんな考えが浮き彫りで。気付いたスノウは笑いながらもレオナを拾いに移動を開始した。


2007/04..













【整理番号】【名前】【性別】【職業】

【0637】【アマネ・ヨシノ】【女性】【エスパー】
【0536】【兵藤・レオナ】【女性】【オールサイバー】
【0552】【アルベルト・ルール】【男性】【エスパー】
【0753】【スノウ・ファーノ】【女性】【エキスパート】



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