<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


カードの達人
●オープニング【0】
「HAHAHAー! まーた、ミーの勝ちデース!」
 妙な言葉に混じって、笑い声が白山羊亭に響き渡った。声の主はディナスという男だった。何故かカウボーイハットを被った金髪の優男、そんな外見だ。
 ディナスが白山羊亭にふらりと現れたのは1週間程前のこと。そして何を始めたかといえば……ポーカーだった。いや、別に金を賭けているのではない。単にポーカーを楽しんでいるのだ。
 ディナスに誘われポーカーに参加する客たちだったが、イカサマをされている訳でもないのに、不思議とディナスに勝つことができなかった。けれど、そこまでだったら何も問題はないのだ。そう、何も。
 しかしディナスは店中に聞こえる声で、こともあろうにこう言ったのだ。
「このバーではー、もうミーに勝てるような奴、居まセンねー。HAHAHAー! ここの客、たいしたレベルじゃ、ありまセーン!!」
 この言い草に、店に居合わせた数名の客がカチンときて立ち上がった。
 面白い、だったらお前を倒してやろうじゃないか――と。

●挑戦者たち【1】
「ほーっほっほっほ、面白いこと言いましたわね。その言葉、私が倒した後でそっくりそのまま返してあげますわ☆」
 高笑いと共に立ち上がったエルフ女性、メリッサ・ローズウッドが言い放った。たまたま同じテーブルで飲んでいたエルフ男性、イリアス・ファーレロンが何やら言いたげな視線でメリッサを見ていた。
「OH! ユーがミーの相手ねー。その言葉、本当かどうか試させていただきマース!」
 ディナスの言ってることはまあ真っ当なのだが、オーバーリアクション気味なのでどうも胡散臭く見えてしまう。黙ってればいい男なのにねえ……。
「そういえば、ポーカーのルールってどういう物なの?」
 メリッサが振り返ってイリアスに尋ねた。
「メリッサさん……」
 呆れたように頭を振るイリアス。
「しゃーないな、チップなしやといまひとつ燃えへんけど、わいも参加させてもらうわ」
 メリッサに付き合う形でイリアスも参戦を決めた。
「HAHAHAー! そんなんじゃ、ミーに勝てやしないデスねー! もっと強い相手カムヒアー!!」
「さて、じゃ、ボクがお相手して差し上げましょうか」
 そう言ってすっと立ち上がったのはアルフレート・ロイスだった。細身の美形で、ディナスとはまたタイプの違った優男であった。
「OH……ミーは『強い相手』と言ったんデスよー?」
 ディナスがニヤリと笑い、値踏みするような視線をアルフレートに向けた。
「1勝負終わればすぐに分かることだよ」
 ふっと薄い笑みを浮かべるアルフレート。2人の間で静かな火花が散っていた。
「この勝負、僕も加わらせていただきましょう」
 新たに1人の青年が立ち上がった。それは女性と見紛う程の綺麗な顔立ちで、優しい雰囲気を漂わせる青年、湖碧風だった。
「HAHAHAー、どんどん弱そうな相手が増えマスねー。もうミーの相手する者、居ないデスねー?」
 楽し気に言うディナス。そろそろ参加者を締め切ろうかという時、不意に男の声が飛んだ。
「うん? ロンじゃないか?」
 その声に振り向くイリアス。そこには小麦色の肌で背丈の高く、赤髪短髪の男が立っていた。一見、気性の荒そうな顔付きだった。
「セルジュさんやないか?」
「ああ、奇遇だな。妹のエセルが世話になってるらしいな」
 セルジュ・ゼニフィールはイリアスに近付くよ、左腕でパンパンとイリアスの背中を叩いた。
「AHー……ユーも参加するんデスかー?」
 ディナスがセルジュを指差し尋ねた。ちらりとイリアスを見るセルジュ。イリアスは苦笑いを浮かべて頷いた。
「ロンが参加しているなら……これは参加しないとな」
 こうして最後にセルジュが参加を表明した。

●ルール確認【2】
「ルールの確認するデスねー」
 ディナスがテーブルに着いた5人に今回のルールの説明を始めた。ちなみにディナスから見て右側から順に、碧風、イリアス、アルフレート、メリッサ、セルジュという席順である。
「カードはジョーカーを含めた1組53枚を使用デース。ビコーズ、ファイブカードが一番強い役デスねー。数字の強弱はA・K・Q・J・10……2の順、スーツの強弱はスペード・ハート・ダイヤ・クラブの順、オーケー? ジョーカーはオールマイティデスねー」
「同じ役の時はどうなるんです」
 碧風がディナスに質問した。
「OHー、より強いカードが入ってる方が勝ちデスねー。バァット、フルハウスの場合はスリーカードの強弱を見マース。同じ役ならー、ジョーカー入ってる方が問答無用で勝利デース」
 ディナスがあれこれ説明している最中、メリッサはイリアスやギャラリーから細かいルールを教えてもらっていた。
「カードチェンジは2回までねー。順番はこの席順、ミーは一番最後デース。捨て札は表にして出すことデスねー。エニィ、クエスチョン?」
「山札がなくなったらどないすんねや?」
 イリアスが素朴な疑問を投げかけた。
「なくなったら、捨て札をシャッフルねー。捨てたカード、リターンありマース」
 つまり捨て札のシャッフルが入ると、今捨てたはずのカードが再び手元に戻ってくる可能性もあるということだ。
「OH! 忘れてたデスねー。2度目のカードチェンジの後はー、カード伏せるデスねー」
「それはすなわち、ショーダウンまで自身にも結果が分からないということか」
 セルジュの言葉に、ディナスは歯を見せて笑った。
「ザッツライッ! その方がベリィ楽しいデスねー、HAHAHAー! ユーたちドキドキ、ミーはソウクールねー」
「能書きはいいから、早く始めよう」
 アルフレートが冷ややかな視線をディナスに向けていた。
「……ユアアイズ、気に食わないデスねー。バァット、ユアプライド、切り刻んでやりマース。ミーには勝利の女神ついてマース」
 やれやれといった表情で首を左右に振るディナス。
「ポーカーは運のゲームじゃあない。当然イカサマも実力の内だよ」
 アルフレートが笑みを浮かべ言った。その言葉にギャラリーがざわつく。今のアルフレートの言葉は『これからイカサマをするよ』と言っているような物だったのだから。

●ゲーム開始【3】
「ユー……ただ者じゃありまセンねー」
 ディナスから笑みが消え、目が厳しくなった。
「忘れていませんか、相手は1人じゃありませんよ。別にどなたを敵視しようが、一向に構いませんけれど」
 碧風の言葉が飛ぶ。そうなのだ、ディナスの相手はアルフレート1人ではなく、あくまで5人全員だ。
「……オーケー。ゲームスタートデース」
 ディナスが碧風から順番に1枚ずつカードを配ってゆく。
「おっと、すまんけど酒持ってきてもらおか。人数分頼むわ」
 イリアスが白山羊亭の看板娘のルディアに声をかけた。さっそく準備を始めるルディア。
 ディナスがカードを配り終えた頃、ルディアが人数分のワイングラスを抱えテーブルへやってきた。
「お待たせしました〜」
 手際よく皆の前へワイングラスを置いてゆくルディア。それとほぼ同時にセルジュ以外の全員が配られたカードを手に取った。
「ああ、ルディア」
 ワイングラスを配り終えたルディアに、セルジュが声をかけた。
「はい?」
「忙しい所悪いが、カードを持ってくれないか?」
 すまなさそうな笑みを浮かべるセルジュ。
「あ……」
 ルディアはちらりとセルジュの右腕に視線を向けた後、こくんと頷いた。そして椅子を1つ引っ張ってくると、セルジュの右隣へ座った。
「なるほど、同じ数字か、同じマークを揃えるんですね? 同じマークの方がたくさんあるから、揃いやすそうだわ」
 自分に配られたカードを眺めながら、メリッサがそうつぶやいた。すかさずギャラリーから否定の声が飛んできた。『それは無謀だ』と。そして一番簡単な役、ワンペアの説明をする。
「同じ数字なら2枚から? 先に言ってくださいよー」
 メリッサが口を尖らせながら、カードの位置を入れ替えた。
「ほんまに大丈夫かいな……」
 メリッサに心配そうな視線を向けるイリアス。だがもう、ゲームは始まったのだ――。

●カードチェンジ・碧風1回目【4A】
〈スペード  5〉
〈クラブ   A〉
〈ハート   2〉
〈スペード  2〉
〈スペード  7〉

(運も必要だけど、思惑を読まれないようにすることも大事だね)
 碧風はちらりとディナスの表情を見た。その視線はアルフレートの方へ釘付けとなっている。よほど先程の発言が気にかかっているらしい。
(さて……)
 ワインを口に含み、捨て札を考える碧風。勝負の最中だからといって決してムキにならず、いつも通りの碧風であった。
「とりあえず、こんな所かな」
 碧風は2のワンペアと〈クラブ   A〉を残し、ツーペアやスリーカード狙いのチェンジを行った。

捨て札:〈スペード  5〉
捨て札:〈スペード  7〉

●カードチェンジ・ディナス1回目【5】
「HAHAHAー……なかなかな手札デスねー」
 ディナスは手札から2枚選ぶと、それを捨て札の山へ置いた。その顔はイリアスが度々酒を勧めたために、すっかり紅くなっていた。
「酒に飲まれてやしませんか?」
 くすっと微笑み、碧風が言った。
「OH、NO!! ミーはまだまだ大丈夫デスねー! リメンバー、フジヤマー!!」
 あなた……結構酔ってますね?

捨て札:〈ダイヤ   6〉
捨て札:〈ダイヤ   8〉

●カードチェンジ・碧風2回目【6A】
〈クラブ   A〉
〈ダイヤ   A〉
〈スペード  2〉
〈ハート   2〉
〈クラブ   2〉

(おや……)
 ムキにならなかったのがよかったのか、風が流れるがごとく必要なカードが碧風の手元に舞い込んできていた。
 碧風は捨て札を確認した。乱雑に置かれた捨て札の山の中には〈ダイヤ   2〉があった。すなわちそれは、〈ジョーカー  〉が手元に舞い込まない限り、フォーカードが成立しないということである。
 ディナスの表情はイリアスに度々勧められた酒のために紅くなり、先程よりもやや厳しくなっているように見受けられた。手札があまりよくないのだろうか?
 結局、碧風は無謀なカードチェンジは見送り、パスを宣言してカードをテーブルへ伏せた。

●カードチェンジ・ディナス2回目【7】
「HAHAHAー! ゴッドはミーを見捨てまセンデシタねー!!」
 オーバーリアクション気味に両手を広げ笑うディナス。その顔は、1度目のカードチェンジ時よりもさらに紅く染まっていた。
「最後の最後にそっぽ向くかもしれないさ」
 ぼそっとアルフレートがつぶやいた。
「そうですね。舞い込むカードも、風の流れと同じく気紛れな部分がありますからね」
 同感とばかり碧風が頷く。
「OH、最後に笑うのはミーデース」
 ディナスがニヤニヤと笑みを浮かべた。
「何故ならミーは、ジャパンでニンジャのレクチャー受けたデスねー」
 自慢げに言うディナス。……忍者とポーカーは全く関係ないと思うのだが。それ以前に、何者だよあんた。
 ともあれ――ディナスは1枚チェンジすると、カードをテーブルへ伏せた。これで全員がカードチェンジを終えた訳である。

捨て札:〈クラブ   Q〉

●ショーダウン【8】
「それではショーダウンデスねー!」
 威勢よくディナスが言った。碧風から順番に伏せられたカードを開いてゆく。

〈クラブ   2〉
〈ハート   2〉
〈スペード  2〉
〈クラブ   A〉
〈ダイヤ   A〉

「フルハウスですね」
 静かに言い放つ碧風。初っ端から強めの役が出て、ギャラリーから歓声が上がった。
「次はわいやな……」
 イリアスがカードを開いた。

〈クラブ   5〉
〈スペード  6〉
〈ダイヤ   3〉
〈クラブ   3〉
〈スペード  3〉

「うん? スリーカードやな」
 意外そうな表情を浮かべ、イリアスが言った。この様子では土壇場でスリーカードが完成したようだ。
「今度はボクか」
 少し勿体ぶりながら、アルフレートがカードを開いてゆく。ディナスはその様子を目を皿のようにして見ていた。

〈スペード  4〉
〈ハート   4〉
〈ジョーカー  〉
〈スペード  K〉
〈ハート   K〉

「フルハウス」
 当然だといった表情のアルフレート。これにはギャラリーばかりか、ディナスもかなり驚いていた。
「OH……アンビリバボー!!」
 激しく頭を振るディナス。そんなディナスを放ったまま、メリッサがとっととカードを開いた。

〈スペード  J〉
〈クラブ   J〉
〈ダイヤ  10〉
〈スペード 10〉
〈ハート   6〉

「ツーペア……よね?」
 ギャラリーに確認するメリッサ。確認するまでもなく、それは確かにツーペアだった。
「OH……Jが……」
 ディナスが舌打ちした。
「最後だ」
 セルジュがルディアに促して、カードを開いてもらった。

〈ダイヤ   9〉
〈ハート   9〉
〈ダイヤ   4〉
〈ハート  10〉
〈ハート   5〉

「ワンペアだな」
 苦笑するセルジュ。だがディナスはそのセルジュの手札を見た途端に頭を抱えた。
「OH、マイガッ!!」
 皆の視線が一斉にディナスへ向かった。この慌て振りはひょっとして……?
 ディナスは頭を抱えたまま自らのカードを開いた。

〈ダイヤ   J〉
〈ハート   J〉
〈クラブ   9〉
〈スペード  9〉
〈スペード  8〉

 ディナスの手札はツーペアだった。しかも残りのJと9はメリッサとセルジュとで押さえ込まれてしまっていた。
「……ミーの負けデース……」
 ばたんとテーブルへ突っ伏すディナス。ギャラリーから歓声と拍手が巻き起こった――。

●勝利の美酒【9】
「勝ったわ! さあ、私の前に跪きなさい。ほーっほっほっほ☆」
 メリッサが高笑いと共にディナスへ言い放った。
「メリッサさん、あんさんってお人は……」
 イリアスが呆れた視線を向けていたが、そんなことは気にしない。
「イエース……マイミストレス……」
 ディナスが力なく答えた。碧風がディナスの変わり様を面白そうに見ていた。
「最後にそっぽ向かれたね」
 アルフレートはそう言って椅子から立ち上がると、ディナスの背後へ回って背中をぽんと叩いた。
「酒でも飲んで忘れることだね。ボクにその1杯をおごらせてくれよ」
 アルフレートが懐から財布を出そうとしたその時、セルジュが言った。
「いや、ここは俺におごらせてくれ。そうだなルディア、今この店に居る全員に酒を振る舞ってやってくれ」
 それを聞いたギャラリーが、5人が勝利した瞬間以上の歓声と拍手を巻き起こした。
「えっ、いいんですかっ?」
 驚くルディア。
「カードを持ってくれた礼もあるしな」
 セルジュは笑って答えた。
「義理堅い方ですね」
 碧風がセルジュにそう言った。黙って頷くセルジュ。大宴会が始まるまで、さほど時間はかからなかった――。

【カードの達人 おしまい】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名 / 性別 
             / 種族 / 年齢 / クラス 】
【 0129 / 湖 碧風 / 男
         / 白虎族 / 518 / 次代の族長 】◇
【 7411 / イリアス・ファーレロン / 男 
      / エルフ / 32 / ヴィジョンコーラー 】☆
【 0270 / アルフレート・ロイス / 男
              / 人間 / 24 / 怪盗 】◇
【 7204 / メリッサ・ローズウッド / 女 
            / エルフ / 23 / 風喚師 】☆
【 0205 / セルジュ・ゼニフィール / 男
    / ヒュムノス / 30 / グリフォンの調教師 】◇


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■         ライター通信          ■
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・『白山羊亭冒険記』へのご参加ありがとうございます。担当ライターの高原恵です。
・高原は原則としてPCを名でで表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・参加者一覧についているマークは、☆がMT12、○がMT13、◇がソーンの各PCであることを意味します。
・なお、この冒険の文章は(オープニングを除き)全17場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通されると、全体像がより見えてくるかもしれませんよ。
・参加者一覧は、カードチェンジの順番で固定しています。
・さて、ポーカーの模様をお届けします。実際にカードを配り、プレイングに書かれていた戦略を基にゲームを進めていったのがこの結果です。何と言いますか……見事な結果ですねえ。
・はてさて、楽しんでいただけたのでしょうか?
・湖碧風さん、2度目のご参加ありがとうございます。ムキにならなかったせいか、カードが舞い込んできましたね。手堅い役作りだと思いました。それからファンレターありがとうございました、多謝。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の冒険でお会いできることを願って。