<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>


森の奥にある村【完結編】
●オープニング【0】
 発端はいつものように黒山羊亭で飲んでいた時のことだった。物資の運搬を主な生業としているデント・ドルンと名乗る中年男が声をかけてきたのは。
 デントはエルザードから徒歩で3日かかる場所にある、フェリーヌ村へ物資を運びに行ったきり2週間も戻ってこない弟のルリト・ドルンを連れ帰ってきてほしいと頼んできた。使いの者を出したはみたが、何故か森の中で迷ってしまい村に辿り着けなかったのだという。
 エスメラルダによると、フェリーヌ村が音信不通だという話は彼女の耳に入ってきているらしい。森か村で何かが起こっているとでもいうのだろうか。
 依頼を引き受けた一行は、途中までは馬車で、そこから上空と森の中に分かれてフェリーヌ村を目指した。だが一行は、辿り着いた先で変わり果てた村を目にすることとなった。
 フェリーヌ村はヴァンパイアの住処となってしまっていたのである。
 上空へ逃げ、一時退却する一行。その途中、森の中をさまよう中年男2人を一行は発見する。それは村長のサウルと、探していたルリトだった。
 サウルの話によると、3週間ほど前に複数の村人が妙な熱病を発し、1週間ほどしてその村人たちが忽然と姿を消したのだという。そしてその3日後の真夜中、赤い目の奴らが村を襲ってきたそうだ。
 さらに混乱の中、サウルはこんな声を聞いていた。『この村を制圧したら、次は街だ』と。不穏な言葉を知らされ、思案する一行。
 いっそ夜明け頃を見計らって、ヴァンパイアたちを一掃してしまうべきではないだろうか――事がこれ以上大きくなってしまう前に。

●思い当たること【1A】
 レティフィーナ・メルストリープ、イリアス・ファーレロン、ディアナ・ケヒト、そして紅飛炎の4人は、保護したルリトやフェリーヌ村村長のサウスを連れ、より安全と思われる場所まで退いてキャンプを張っていた。
 火を囲み、夕食を食べる一行。森の中を迷っている間はろくな物を口にしていなかったのだろう、ルリトとサウスは差し出された食料をむさぼるようにして食べていた。
 やがて夕食を終えた一行は、これからどうすべきかを話し合うこととなった。
「以前、似たような事件に遭遇したことがありまして」
 静かにそう語り出したのは、レティフィーナだった。それを聞いた飛炎の眉が、ぴくっと動く。
「『強王の迷宮』だな」
 飛炎がぼそりとつぶやくと、レティフィーナがこくりと頷いた。そしてその時の出来事を話し出す。
 レティフィーナと飛炎は、他の者たちと共に『強王の迷宮』と呼ばれる迷宮の探索に出かけたことがあった。そこで待ち受けていたのは、迷宮を作り上げたドワーフ。そのドワーフは、レイドなるヴァンパイアによってしもべと化していたのである。
「そのレイドちゅう奴は、どこ行ったんや?」
 イリアスが素朴な疑問を口にした。だが首を横に振るレティフィーナ。彼女が説明するには、『世界を救うために』迷宮を出ていったようだということであった。
「……もしかすると、村を襲ったのがそのヴァンパイアかもしれません」
「可能性はある」
 レティフィーナの推測に、同意する飛炎。そうそうヴァンパイアは闊歩していないのだから。
「それって、みんな病気なんだよね〜?」
 首を傾げ、皆の顔を見回すように言うディアナ。
「悪いことをしている人が居て、みんなを病気にしたんだよね?」
 意味としては間違ってないだろう。悪いヴァンパイアが、村人をもヴァンパイアにしようと動いているのだから。けれど――。
「みんなを助けることって出来ないかな〜」
 このディアナの言葉に、即答出来る者は居なかった。何故ならば、すでにヴァンパイアと化してしまった者を救う手段は存在していないのだから……。
 ディアナも皆の態度でそれとなく察したのだろう。うつむき、しゅんとなってしまった。
「……ともあれ、聞いておきたいことは色々とある」
 無言の状態がしばし続いた後、飛炎が口を開いた。そしてサウルから、村の建造物の配置や森の詳細、それと最初に熱病を発した者たちが出入りしていた場所を聞き出していた。
「出入りと言われても……狩りをするために、森の中へ入っていたくらいかと」
 サウルは飛炎の質問に、そう答えていた。

●風が運んできたメッセージ【2A】
 話し合いはなおも続いていた。
「悪い人を探して、『悪いことをやめてね』ってお願いすればいいとディアは思うよ〜」
「それで素直に止める奴やったらな」
 ディアナの言葉に、イリアスが間髪入れず答えた。普通に考えて、村人をヴァンパイアと化した奴が、素直に止めるとは到底思えない。
「黒幕の正体と、その目的を確かめる必要がありますね」
 神妙な表情で、レティフィーナが言った。黒幕がレイドであるなしに関わらず、これ以上ヴァンパイアを増やさせる訳にはいかなかった。
「未だ奴が村に居るかは分からんが、居るとなれば陽光の届かない場所だろう。例えば地下などか」
 思案顔で飛炎が言う。それを受けて、イリアスがサウルに尋ねた。
「村に地下室はあるんかいな?」
「はあ……私の家にありますが」
 素直に答えるサウル。先程の話によると、サウルの家は村の一番奥。辿り着くまでに、ヴァンパイアと化した村人たちの抵抗が予想される。
「夜明けと共に探索する必要があるな」
 ぼそりつぶやく飛炎。ヴァンパイアは日光の下では行動に制限を受けるはず。今はともかく夜が明けるのを待つ必要があった。
 と、その時だ。どこからともなく風が舞い込んできて、火が揺れたのは。そしてイリアスの顔色が変わった。
「メ……メリッサさん!?」
 イリアスが驚いたのも無理はない。何故なら、エルフの風喚師であるメリッサ・ローズウッドの言葉が耳に聞こえてきたのだから。『風の便り』の魔法であった。
「何でメリッサさんが……」
 不思議に思いながらも、メリッサの言葉に耳を傾けるイリアス。話が全て終わってから、イリアスはその内容を皆に伝えた。
 まず、黒山羊亭にフェリーヌ村の者と思われる青年と少女が現れ、村の惨状を伝えたとのこと。そのため、軍や魔法ギルドがフェリーヌ村に向かうべく動き出したそうである。
「我々の他にも、無事だった者が居たんですかっ!」
 サウルはこの話を聞いて、喜びの涙を流していた。村長として、心の底から嬉しいのだろう。
 話はまだ続き、今度はヴァンパイアに関する知識だった。残念ながらヴァンパイア化した者を元に戻す術はないのだが、そこまで至っていない者であれば助かる見込みがあるとのことだった。曰く、ヴァンパイア化するまでには1週間ほどの潜伏期間があり、その間に適切な処置を施せば助かると。
「そうすれば、病気が治るんだね〜?」
 笑顔を見せるディアナ。助けられる者については、何とか助けたい。そんな気持ちが笑顔に表れていた。
 そして最後。スペルカード――魔法を封じられた魔法カードや、聖水などを封じたアイテムカードを持って、メリッサはフェリーヌ村に向かっているとのこと。これは心強い話だった。少なくとも、攻撃力が増強されるのだから。
 一行はメリッサの到着を待ちながら、周囲に警戒しつつ交代で仮眠を取ることにした。

●合流【3】
 真夜中――最初にその影に気付いたのは、ディアナだった。
「あ〜、空に誰か飛んでるよ〜?」
 見張り交代の際、眠い目を擦りながら何気なく空を見上げたら目に入ってしまったのだ。
 すわヴァンパイアかと警戒する一同。が、イリアスの言葉がそれを打ち消した。
「ちゃう……あれはメリッサさんや」
 目を細め、つぶやくイリアス。ディアナが羽根をパタパタと羽ばたかせ、メリッサを誘導すべく飛んでゆく。やがて一同の前に降り立ったメリッサは、若干疲れた表情を見せていた。いや、表情だけではない。
「つ……疲れました……」
 合流したメリッサの第一声がこれだった。それもそうだろう、『飛翔』の魔法を絶え間なく行使して急ぎやってきたのだから。『飛翔』が封じられていた魔法カードが運良く数枚なければ、もっと時間がかかっていたかもしれなかった。
 けれど、休むのは後だ。メリッサは、魔法ギルドから託されてきた魔法カードとアイテムカードを一同に手渡した。
「これがそうか」
 飛炎が魔法カードを手に取り、しげしげと見つめる。
「魔法の心得がある者が手に持って念じれば、たちまち効果を発揮するはずです」
 レティフィーナが魔法カードの使い方を説明する。と、ディアナが驚いたように言った。
「じゃあ、ディアも使えるんだ〜? ど・れ・に・し・よ・う・か・な〜♪」
 さすがはシフールと言うべきか、目の前の魔法カードが面白い物に見えたのだろう。嬉々として魔法カードを選んでいた。
「エルザードの街はどうやったんや?」
 木にもたれ休んでいたメリッサに、イリアスが問いかけた。メリッサは大きく息を吸ってから、その質問に答えた。
「私が出てしばらくして『風の便り』で連絡が入って、軍もギルドも援軍を出したそうです。朝方にはこちらに着くんじゃないか、と」
「だとしたら、援軍の到着を待ってからの方がよくはないですか?」
 援軍の話を聞いたレティフィーナが、皆に提案した。確かにその方が安全ともいえるだろう。しかし、レティフィーナの考えていたことはそれだけではなかった。
「その方が、迷うことなく黒幕だけに集中出来ますし……わたくしはそのつもりです」
 皆の顔をじっと見つめ言うレティフィーナ。再びこんな悲劇を起こさせる訳にはいかない、その決意が表情に見えていた。
「……何にせよ、夜明けを待たないとな」
 飛炎がぼそっとつぶやいた。メリッサも疲労を回復させないとならない。何をするにも、夜が明けてからの話だった。

●援軍到着【4】
 夜明け前、眠っていたメリッサに、魔法ギルドから『風の便り』で知らせが入った。それによると、援軍が森の近くまでやってきたとのことだった。援軍から直接メリッサに知らせることが出来ないから、わざわざ魔法ギルドを経由させたのだろう。
「いよいよやな」
 イリアスはそう言うと、ちらりとサウルとルリトの方を見た。フェリーヌ村へ向かう前に、この2人を援軍に預ける必要があったからだ。一緒に居ると、戦闘に巻き込まれかねないのだから。
 一行は各々の手段で空を飛んで、イリアスの馬車が置いてある所へ向かった。向かう途中、急ぎやって来る援軍の馬車が目に入る。何といいタイミングか。
 そして無事に援軍と合流を果たした一行は、サウルとルリトを預けてから相談を開始した。フェリーヌ村にどう入るか、ということだ。
 その結果、援軍は正面から入って囮となり、空から急襲した一行が黒幕を探すということとなった。つまり、一気に目指すのは地下室のある村長の家だ。
 作戦の決行は夜が明けてすぐ。時間はあまりない。一行も援軍も、ただちに移動を開始した。
 と……1人だけ、別のことをしている者が居た。ディアナである。
「見て見て〜。ディアが2人だよ〜☆」
 そこには2人のディアナの姿があった。いや、よく見れば左右が違っている。
 実は――皆が相談している最中、ディアナは近くの泉に向かって、魔法カードに封じられていた『水鏡の虚像』の魔法を使用したのである。結果、泉の中から左右対称な虚像が現れたのだった。

●舞い降りる者たち【5】
 フェリーヌ村では、ヴァンパイアと化した村人たちが警戒に立っていた。けれど間もなく夜が明けてしまう。ヴァンパイアたちは、各々家の中に戻ろうとする。それが作戦決行の合図となった。
「行けーっ!」
 援軍の者たちが、正面から一斉に雪崩れ込んでいった。辿り着くまでに迷いかけた者も居たが、他の者に導かれ何とか事なきを得ていた。
 ヴァンパイアたちは突然の襲撃者に対し、家に戻るのを止めて応戦に向かってゆく。この様子を一行は空から眺めていた。
「行きましょう!」
 パピヨンのヴィジョン、『黒髪の舞姫フェステリス』の背中に乗っていたレティフィーナが皆に声をかけた。こちらも動く番だった。
 一番最初に村長の家の前に降り立った飛炎に、背中の翼を仕舞う間もなくヴァンパイアたちが襲いかかってくる。
「邪魔だ!」
 『炎の剣』で炎に包まれた剣を振るい、飛炎はヴァンパイアたちに攻撃する暇も与えず切り捨てる。そこに、村長の家から新たなヴァンパイアたちが飛び出してきた。
「『シフール砲』発射〜☆」
 空から元気よくディアナの声が聞こえてきた。その声と共に、空からクリスタルの剣――『クリスタルソード』の魔法で大地から生み出したのだ――を手にした2人のディアナがヴァンパイア目掛けて飛んでくる。
「ディアいっきま〜す☆」
 メリッサにぽいっと投げられ勢いのついたディアナは、そのままヴァンパイアの1人に突撃していった。ディアナの虚像が居たこともあり、避けることが出来なかったのだ。
「ドレーク!」
 イリアスが叫ぶと、ドラゴンのヴィジョン『守護者ドレーク』から炎の息が別のヴァンパイア目掛けて吐き出された。
「ぐえぇっ!!」
 炎の息に焼かれ、倒れるヴァンパイア。そこに飛炎が止めを刺した。
「早く中へ!」
 レティフィーナも降り立ったのを見て、メリッサが叫んだ。村長の家に入ってゆく飛炎とレティフィーナ、それと『フェステリス』。
 続いてイリアスとメリッサも降り立ち、ディアナと共に村長の家の前に陣取った。ヴァンパイアたちに、2人の邪魔をさせないために。

●黒幕、登場【6A】
 村長の家に入ってすぐ、地下室に続くと思われる階段が2人の視界に入った。
「あれか」
 飛炎はすぐに階段には向かわずに、腰の短刀を抜いて階段に放り投げた。すると、だ。突如地下から、魔法の重力波が一直線に飛んできたのである。『グラビティーキャノン』の魔法だった。
「!」
 目を見開き驚くレティフィーナ。もしすぐに階段へ向かっていたら、2人ともに重力波の餌食になっていたに違いなかった。
「……出てこい」
 静かに言い放つ飛炎。一瞬の間があってから、階段より笑い声が聞こえてきた。
「ふふふ……人間にも利口な奴が居るようだな。よかろう、姿を見せてやろう」
 カツコツと足音が響き渡り、地下から立派な身なりをした細身の男が姿を見せた。けれども男が人間でないのは見て分かる。男もまた、赤い目と鋭い牙を持っていたのだから。
「あなたがレイド……?」
 レティフィーナは男に問いかけると、ぎゅっと口を結んだ。しかし、男はニヤリと笑みを浮かべてこう言った。
「ほう、レイド様の名を知っているのか。あいにくだが、レイド様はここには居ない。あの方は別の土地へ旅立たれた。その代わり……我々に後のことを託したのだ」
「目的は何です」
「知れたこと。我らヴァンパイアの世界を打ち立て、世界を救うためだ。この村は、その手始めという訳だな……くくく」
 癇に障る笑い方。レティフィーナは男の話を聞き、ぎゅっと拳を握り締めた。
「……そう上手くはゆくまい」
 飛炎が炎に包まれたままの剣を、男に向けた。ここで男を逃がす訳にはいかなかった。
「ふふふ……お前たちもすぐに、我がしもべにしてやろう!!」
 男はそう叫ぶと、新たな魔法の詠唱を始めようとした――。

●一気呵成【7】
 窓の閉め切られた村長の家の中――フェリーヌ村に災いを及ぼした黒幕であるヴァンパイアの男は、目の前の飛炎やレティフィーナに魔法をかけようと詠唱をしていた。が、どうしたことかその詠唱が途中でぴたっと止まってしまったのである。
「うっ……」
 額を押さえ、顔をしかめる男。『フェステリス』が『錯乱』を用い、男の集中力を乱したのである。
「これで魔法は使えません!」
 レティフィーナは『フェステリス』を聖獣カードの中に戻すと、背中から銀の矢を取り出して弓につがえた。もちろん、狙うは男の胸だ。
「く……おのれ、小賢しい真似をっ!! その身体、八つ裂きにしてくれるっ!!」
 怒りに顔を歪ませ、飛炎に飛びかかってゆく男。しかし、飛炎の動きの方が一瞬早かった。
 飛炎は素早く身を屈めると、一気に男の脇を擦り抜けて背後に回ったのである。
「終わりだ」
 男の背後に回った飛炎は、炎に包まれた剣を一息に突き刺した。
「ぐあっ!?」
 そこへレティフィーナから、銀の矢が放たれる。銀の矢は、狙い違わず男の胸に深々と突き刺さった。
「ぐおぉぉっ!! う……ぐ……まだまだ……まだまだだぁっ!!」
 2人から深いダメージを受けつつも、吠える男。だが――男の運命もここまでだった。突如閉め切られていた窓が破られ、外から日光が入ってきたのである。
「日が昇ったで!!」
 外からイリアスの声が聞こえてくる。そこには『ドレーク』の姿もあった。そう、『ドレーク』に命じて窓を破らせたのだった。作戦前に、打ち合わせていた通りに。
 日光はレティフィーナを、飛炎を、それと――男を等しく照らしてゆく。けれども男には、自らの死を知らせる物であった。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
 日光を浴びた男の身体は、一瞬にして灰と化し……跡形もなく消え失せた。男が居た痕跡など、残ってはいなかった。
「……外のヴァンパイアも、全て消え失せましたよ」
 破られた窓からメリッサが顔を出した。その肩には、しゅんとした様子のディアナが座っていた。襲撃に応戦していたヴァンパイアたちは、日が昇るとすぐに灰と化して消え失せていったのである。
 かくして――フェリーヌ村からヴァンパイアは一掃されたのだった。

●サウルの決断【8】
 その後の捜索の結果、高熱を発しているがまだヴァンパイア化していない村人が数人見付かった。彼らにはすぐに適切な処置が施され、何とかヴァンパイア化することは避けられた。
 また、男の死によって森にかけられていた何らかの魔力が解けたのだろう。難を逃れて森に逃げ込んでいた村人が数人発見された。いずれも弱ってはいたが命に別状はなく、与えられた食料を口にするとすぐに元気を取り戻していた。
 結局、生き残った村人は20人足らず。忌わしい出来事だということもあり、サウルは村を放棄することを決断した。あまりにも、悲しみが大きすぎるので……。
 必要な荷物をあらかた回収し終え、多くの者が見守る中、サウルが家々に火をつけていく。村長として、それが最後の責任であり義務であったのだ。
 家々が紅い炎に包まれ、ゆっくりと崩れ去ってゆく。イリアスが、レティフィーナが、メリッサが、飛炎が黙ってそれを見つめていた。
「村が……なくなっちゃったんだね」
 ディアナがぽつり、寂し気につぶやいた。
 今回の騒動により、フェリーヌ村の名前は一気に知れ渡った。曰く、ヴァンパイアに襲われてしまった不運な村として。
 森の奥にあったフェリーヌ村。知らぬ者の居なくなったフェリーヌ村。けれどももう――フェリーヌ村は森の奥には存在しない。

【森の奥にある村【完結編】 おしまい】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名 / 性別 
             / 種族 / 年齢 / クラス 】
【 6314 / レティフィーナ・メルストリープ / 女
      / エルフ / 19 / ヴィジョンコーラー 】☆
【 7204 / メリッサ・ローズウッド / 女 
            / エルフ / 23 / 風喚師 】☆
【 7411 / イリアス・ファーレロン / 男 
      / エルフ / 32 / ヴィジョンコーラー 】☆
【 1891 / ディアナ・ケヒト / 女
     / シフール / 18 / ジュエルマジシャン 】○
【 0128 / 紅 飛炎 / 男
            / 朱雀族 / 772 / 族長 】◇


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■         ライター通信          ■
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・『黒山羊亭冒険記』へのご参加ありがとうございます。担当ライターの高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・参加者一覧についているマークは、☆がMT12、○がMT13、◇がソーンの各PCであることを意味します。
・なお、この冒険の文章は(オープニングを除き)全11場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通されると、全体像がより見えてくるかもしれませんよ。
・大変お待たせいたしました、フェリーヌ村での悲しき出来事の物語をお届けいたします。正直言って、後味がいいお話ではなかったかと思います。が、高原が想定していた段階では、これ以上に後味はよくない結末でしたから……皆さんのプレイングによって、今回のように転がったんだと思います。高原の想定による段階では、サウルは燃え上がる村と運命を共にすることになっていましたからね、実は。
・本文中で触れることが出来なかったので、ここでネタばらしを少し。森にかけられていたのはMT13における精霊魔法『フォレストラビリンス』でした。これによって、森が迷宮化されて迷う者が続出していたんですね。ですから空を飛ぶというのは、有効な対処法だった訳です。そういえば、黒幕のヴァンパイアの名前が出てませんけど、あれは出すまでもないだろうと思ったからです。
・最後にもう1つ。今後また、ヴァンパイア絡みのお話はどこかで出てくるかと思います。それがいつとは申しませんけれど……。
・紅飛炎さん、8度目のご参加ありがとうございます。残念ながらレイドではありませんでしたが、黒幕を倒すには申し分ない行動だと思いました。最後、窓を破ることになったのは、飛炎さんのプレイング内にそのことが書かれていたからです。ですからあれは、飛炎さんからの提案だったりします。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の冒険でお会いできることを願って。