<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


<Minstre-L/D>舞踏会〜Rondo-Artist〜

☆オープニング

 いつもと変わらぬ白山羊亭。
 毎日数回行われる演奏が、白山羊亭のアットホームな雰囲気を作り上げている。
 そんなアットホームな雰囲気を好き好んで、王宮よりお忍びで来る者達もちらほらと。

「聞いてくれて、どうもありがとうございましたぁ♪ 次の演奏のときも聞いてくださると嬉しいですぅ」
 ぺこりと深く頭を下げるファリア。彼女の労を労うような盛大な拍手でファリアの演奏は締めくくられる。
 そこに、少々くたびれているが、身なりがよさそうでどことなく高貴な風雅が漂う青年が、二人の下へと近づき話しかける。
「ファリア・ウェヌスという方は貴方で間違いありませんか?」
「え、は、はいですぅ……? 貴方は誰ですかぁ?」
「私は、王立演奏団の一人、グルディア・ファルスと申します。貴方に一つ頼みがありまして、今回このような姿で参った訳でございます」
「頼み……ですかぁ?」
「ええ……ファリア様に、今度王宮で開かれる舞踏会の演奏家として参加していただきたければ、と思いまして。悲しい事に、私達の演奏家の中で、ハープの使い手の者が手に負傷を負ってしまいまして、代わりに演奏できる方を探していたのです」
「王宮……舞踏会、ですかぁ?」
 どうやらファリアは事の次第を分かっていないようだが、周りのルディア達は驚いている。
「えっと……その、ちょっと意味が分からないんですけどぉ……だから……」
 断ろうと、ファリアが口に出そうとしたとき、ルディア達が。
「凄いじゃない、ファリアちゃん。王宮に呼ばれるなんて、めったにないことよ? ぜひ参加すべきよ♪」
 手を握り、ぶんぶん振るルディアに、ファリアは言葉をなくす。
「返事はすぐでなくても構いません。舞踏会は来週末に開かれます。是非、ファリア様の演奏家の仲間の方達を連れていらしてください。演奏家自体が元々少ないもので……良いお返事、お待ちしております」
 王式の挨拶をして、去っていくグルディア。
 そんなグルディアの影を見る一つの影。
「ファリアばっかりちやほやされるなんて……許せない、許せないわ!」
 拳をぐっと握るのは、黒山羊亭のルナだった。
 彼女は、街のごろつき達を集め、舞踏会をめちゃくちゃにしよう、と考えた。

★暴走思考、止まらず〜(2)〜

「ファリアだけが……ファリアだけがちやほやされて……」
 白山羊亭の見える、日の当たらない裏通り。
 黒山羊亭にいつもいるルナが、グルディアの出て行く後に仲良く白山羊亭を出て行く二人を恨めしそうに睨んでいた。
 王立演奏団のグルディアは、今までにルナもお目に掛かった事がある。とってもカッコいい、王立演奏団の二枚壁といわれるいい男の一人なのだ。
 別にファリアとレアルが出て行くのはルナには構わないが、白山羊亭の中の会話を勝手に想像するルナが、『ファリア達がグルディアに声を掛けられた』と、加熱する想像で更にヒートアップしているのだ。
「きぃーーっ! 悔しぃーーっ!! ちやほやされるだけでなく、グルディア様と一緒に演奏会に出るなんてっ!!」
 どこか既に論点が違っているような気はするが、最後にはヒステリーを起こしてしまっている。
 そんなルナの姿を見て引く街の人々。
 「危ない人」「近づいちゃいけません」などという言葉がひそひそと囁かれる。
 ……全く気にしていない。というより全く聞いちゃいなかった。
 そんな彼女は自分考案の良い作戦を発動させようとしる。名づけて、【舞踏会騒乱作戦】。
「……ふ、うふふふ……そうよ、そうよ、舞踏会、めちゃくちゃにしてやればいいんだわ! そうすれば、ファリア達に責任が及んで、ファリアは今後お呼びが掛からなくなる。 そう、ファリアは街から追い出されるしかなくなるの。そして自分がその代りに、今後王立演奏団として誘われる。そして同じ王立演奏団になった私と次第にグルディア様は心惹かれあって……いい、こんなにいい作戦があるじゃないのぉ♪」
 自分の都合の良い事しか弾き出していないかのように思えるが、既にそれしか考えられなくなっているルナ。誰も止める者がいないし、もう止まらならなかった。
 でも確かに実際舞踏会を騒乱させれば、ファリア達に一泡吹かせられるのは確かである。
「そうよ、よ〜し、そうと決まれば街のごろつき達でも集めるわよぉ♪ 街のごろつき達がやれば、私に責任があるなんて誰も気付かないわねぇ♪」
 という訳で、ルナは意気揚々と黒山羊亭へと戻っていく。
 今まで以上に精力的に、黒山羊亭に来るごろつき達へと誘いの手を強めるルナ。負い目を感じたごろつき達は、彼女に協力をしないわけにはいかなかった。
 着実に協力者を集めていくルナ。そこに、ルナを止める女性が現れる。
 その女性の名前は、クナン・ランゲレ。
 魔女と罵られ、元の裕福な世界を追われソーンに辿り着いた、踊り子の女性。
 彼女の境遇は、どこかルナと似ているのかもしれない。

★舞踏会への誘い〜(4)〜

 黒山羊亭、数日経過後の朝。
 ルナの部屋のドアをノックする音。少し時間が経ってそのドアが開く。
「うぅ〜、誰ぇ? 私、朝弱いのよぉ……」
 眠い目を擦りながら、ルナが出てくる。
 ドアの前には、ルナを頬って置けずにやってきたクナンの姿。彼女の横には少し大きめの鞄が一緒にあるが、中身を窺い知る事は出来ない。
「ルナさんすみません。 ……ちょっと、あなたに言いたい事があって来たの。ちょっといいかしら?」
「言いたい事ぉ? ……分かったわ、部屋入っていいわよぉ」
 ルナはそう言ってクナンを部屋に招きいれる。ベッドの横の椅子にクナンは座ると。
「……ルナさん。ごろつきを使って舞踏会をめちゃくちゃにしようと考えているようですね?」
 クナンがそういうと、ルナにちっとも悪びれた様子は無く言う。
「ええそうよ。 だって、ファリアだけがちやほやされて……悔しいじゃないのぉ。私だってちやほやされたいわよぉ」
「……いい、ルナさん。 舞踏会に乗り込んで舞踏会をめちゃくちゃにしようとも、それはファリアへの同情が高まるだけですよ? 更にファリアがかわいそうに見えるだけで、あなたにとって何の徳にもならないわ」
 ルナが本当の悪人のように思えないクナンは、ルナを更生させようとここに来たのである。しかしルナに悪い事をしている自覚は無い。
「それじゃぁ、他に何か手段があるっていうのぉ?」
 ルナが訝しげに言うと、クナンは一枚の封筒を見せる。
 高級な縁取りのしてある封筒。間違いなく貴族達の使う物だ。
「舞踏会にちゃんと出席して見事な舞踏を披露するのです。 あなたの見事な舞踏を披露すれば、皆の注目はあなたに集まるわ」
 クナンの見せた封筒は、舞踏会への招待状である。
 クナンがどこで仕入れてきたのかは分からないが、ルナの為になるならと必死に仕入れてきたのだ。
 ルナがその招待状を見る。そこに追い討ちをかけるようにクナンは囁く。
「よき舞踏の前では演奏など単なる飾り。 あなたの舞踏が素晴らしければ素晴らしい程、ファリア以上にあなたは舞踏会で輝けるのです」
 上手くルナの自尊心を煽るクナンに乗せられて、すっかりルナはその気になっていた。
「うふふ……そうね、そうよね? グルディア様以外にも、そこには貴族達が大勢集まる。 そうすれば、私は玉の輿にのれるチャンスも……いっぱいね♪」
 利益優先主義なルナだからこそ、この手は特に有効だったようだ。
 しかし、ルナが封筒を読んでいくとそこにはこう書かれていた。
【参加条件:男女ペア】
 と。
「あら? 男女ペア、って書かれてるわよぉ?」
「ええ。 その為に、これをもってきました」
 と言うと、クナンは鞄の中身を見せる。
 そこには、男性用の衣装が入っていた。
「……私に、男装をさせよう、っていう事なのかしらぁ?」
「ええ。 その方が、あなたの違った魅力が輝くのです」
 と言うと、クナンはルナにその服を着させる。
 男装の麗人、とてもかっこよく美しい姿。
 いつもの色っぽい雰囲気が、男装の雰囲気と合わさってどことなく扇情的な雰囲気をかもし出している。
 クナンは鏡を持って来て、ルナにその姿を見せる。
「あら……カッコイイわねぇ」
 自分の姿に見とれるルナであった。

 そして1週間が経過する。
 ルナは、一応の用心としてごろつき達を数名会場の外に待たせ、クナンと共に舞踏会会場へと入っていった。

☆★舞踏会〜(5)〜

 舞踏会会場。
 会場には既に、多数の来客で一杯になっていた。
「……こんなにたくさん人がいますぅ……不安ですぅ……」
 舞台袖から来客者の数を確認して、不安になるファリア。
 それもそうだろう、今まで演奏してきていた白山羊亭と比べれば、数倍の人数がそこには集まっているのだから。
 そしてその場所に居るのは、誰もが自分たちよりはるかに上の立場に居る者達なのだ。
「大丈夫です。きっとファリアさんなら、上手くいきますよ」
 ファリアの手をぎゅっと握るレアル。
 一応万が一という事を考えて、彼の腰には儀典用の剣が帯刀されている。
 周りの王立演奏団の者達も、一様に同じ刀を帯刀していた。
「……わかりましたぁ……レアルさんも、一緒にがんばるですぅ……」
 ファリアはレアルの手を、ぎゅっと握り返す。

 ファリア達が出てくるのを待ちながら、見事な舞を待っているクナンとルナ。
 クナンは自分の体に刻まれた傷を、化粧と長いドレスで隠している。その傷はここにくるような者達にはない、拷問の跡であるから。
「……なかなか上手いじゃないの。クナン」
 身長の高い女性と男装した女性。
 その姿はその場にいた貴族達の目を奪っていた。
 クナンの言ったとおり、ルナには自然と注目が集まっている。
「ルナさん程ではありません。 貴方が上手だからですわ」
 と、二人はファリアの出番を待ちながら、舞を舞い続ける。

 時は満ちてレアルとファリアの演奏が開始される。
 場所はグルディアの後ろ。自然と注目が集まる立ち位置である。
 照明が落されて、演奏が一端止んだ。
 ファリアの奏でるハープのパートから始まる。そして、ファリアのハープを主旋律に、その曲は奏でられる。
 ファリアは深く1呼吸して、弦に手を掛け……始めの音を奏でる。
(ファリアさん、がんばって……きっと、上手くいきます)
 レアルも、自分の腕に不安を感じながらも、ファリアに続いて演奏を開始する。
 一方、それを舞台下から踊りながら見ているルナとクナン。
「…・・・何よ、ファリアばっかり……ファリアばっかり注目されてるじゃないのよ」
 ファリアの演奏から王立演奏団の演奏が始まったことが、どうやらルナの気に障ったらしい。
 ダンスを踊り続けながらも、その手には自然と力が入る。
 その時。ルナの爪がクナンの背中に刺さった。
「く……ぅっ!!」
 古傷にルナの爪が突き刺さり、激しい痛みがクナンを襲う。
 そしてクナンは音に合わせられず、そのままリズムを崩してしまう。
「何やってるのよ……っ!」
 ルナは、爪を立てたことは全く気付いていない。
 クナンは痛みに耐え切れずに、その場に倒れてしまう。
 もちろん、それを心配して近づいてくる貴族達。
 その目は【こんなダンスも踊れないのか】という哀れみの視線。
「……仕方ないわ」
 クナンを連れて、ルナ達は舞踏会会場を後にした。

 ルナ達が退場すると、ファリア達の演奏は終わる。
 あくまでも舞踏会の一曲の為に拍手などは無い。しかし演奏し終えた達成感と、間違わずに無事に終えられたという達成感がファリアとレアルを喜ばせた。

★体に刻まれし大きな傷跡〜(6)〜

 舞踏会会場の外、続き廊下になっているフロア。周りには誰も居ない静かな場所。
「全く、何をしてるのよぉっ! せっかく、せっかく玉の輿に乗れそうだったのにぃ!」
 クナンがリズムを崩して倒れた事を、激しく罵倒するルナ。その言葉に容赦はない。
 原因は、ルナ自身が立てた爪なのだが、クナンはその事を決して口にしなかった。
「す、すみま……せん。全て、私のせいです……」
 全てを背負うクナン、しかし痛む背中。生暖かい物が背中を伝うのがクナンには良く分かった。
 うずくまると、次第に背中は真っ赤な物がドレスを伝って広がっていく。
 その真っ赤な物が血であるというのに、ルナが気付かない訳が無かった。
 次第に広がる血を見た途端にルナは慌てる。
「……ちょ、ちょっと! クナン、どうしたのよぉ!!」
 クナンのドレスが、さらに鮮血で染まっていく。
「ルナさんには……話してなかったから、知らないのも当然.……ですね」
 苦しいながらも、クナンはドレスの背中を開き、ルナに見せる。
 そこには、彼女が「魔女」として拷問を受けた傷跡が無残にも残っていた。
 そして、その古傷から湧き出す血も……。
「……私、昔……魔女狩りに逢ったんです……。この傷は、その時に受けた拷問の傷……本当は、商人の妻として、不自由ない生活でしたが……財産を狙う者の手で……」
 彼女は自分が昔、魔女狩りにあった事を淡々と話し続ける。
 ルナはその話を途中で切り上げる。
 彼女の出血が更に酷くなってきたのが分かるから、もう耐えられなかった。
「そ、そんな事はいいからっ! 黙ってて。 私が直してあげるから」
 と言うと、ルナは命の水を使う。
 背中からの出血は止まるが、しかし、失った血の多さにクナンはいまだに苦しそうだ。
 はぁはぁと息をするクナンに、ルナが取った行動は。
「……仕方ないわ、クナン……私の部屋まで我慢してよ?」
 そう言うと、ルナは自分の背中にクナンをおぶった。
「すみません……ルナさん、迷惑を掛けてばかり……」
「……構わないわよ。 傷を負うもの同士、お互いに傷を舐めあって生きていかなきゃならないのは……分かってるから」
 ルナは、自分にいい聞かせるかのように呟いた。

 クナンを連れて自分の部屋に戻ったルナは、その後クナンが全快になるまで寝ずの看病を続けていた。
 ルナは看病している中、何度もクナンに言った言葉。それは……。
「……ごめんね。私の事心配してくれていたんでしょ? ……気付かなかった私……馬鹿よね」
 クナンは、その言葉を聞いて……はかなげにも微笑んだ。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】

〜MT13:竜創騎兵ドラグーン「現代編」〜
 【1119 / レアル・メイフォード / 男 / 19歳 / グライダーパイロット】

〜SN01:聖獣界ソーン〜
 【0690 / クナン・ランゲレ / 女 / 25歳 / 魔女】

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■         ライター通信          ■
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どうも、お待たせいたしました、燕です。
白山羊亭・舞踏会の話を、お届けします。

本当は、舞踏会にルナが魔法をぶっぱなす予定でしたが、クナンさんの働きかけによってそれは無くなりました。
いたって平和な舞踏会になりましたが、それはそれで良いかな、と思ったりしています。
又、今回サブタイトルの後についている(*)の数字は、物語の進行上のタイムテーブルを表しています。
1番〜6番まで、依頼者の二人で交互に動いてますので、是非もう一人の参加者の方も読んで見て下さいね。
では、又次回ソーンの地で逢える事を……。

>クナン様
 ルナに対してアクションを掛けてきた方が今まで居なかったので、ルナの本性は今回初出です。
 単純で、一直線で一本気な女性ですが、仲間に対しては優しい性格です。
 ただ、暴走すると止まらないところがありますが……そこはご愛嬌で許してあげてくださいね。