<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>


† 愛しの貸し出し神父様v †


■ 〜序〜

 麗らかな春の日。
 ヨハネはこの街にやってきた。それから間もなく、煌びやかな馬車に乗った男娼館の男たちに攫われたのだ。
 その後、助け出されたことも、随分と昔のような気さえしてくる。

「いい天気だなぁ〜……」

 ぽつり…ヨハネは呟く。

 じーわ、じーわ。太陽光線がハートに沁みる。

 滴ってくる汗。

「…あ〜……夏」


 自由奔放に伸びた草を摘み、引っこ抜いては背負った竹篭に入れる。夏用の僧衣服を着、麦わら帽子を被って、ヨハネはのんびりと草むしりをしていたのだった。
 ソーンの気温も上昇の一途を辿っていた。
 樹々の色も、木陰の色も増し、夕刻を過ぎても陽は落ちない。教会の白亜の壁は茜色の光に包まれ、夕闇迫る瞬間までその色に染まる。
 ヨハネはそんな静かな時間が好きだ。
 今は昼過ぎのため、最も好む穏やかな時間は随分と先だが、勿論、昼も好きだった。
 陽射しも照り返しの光も強く、日に当たり過ぎないように気を使わなければいけないのは僧衣服の色の所為だがそんなことは気にならない。
 これからバカンスの時期に向かってゆく街に、きっといいことは起きてくる筈。
 ニコニコしながらヨハネは作業を続けた。
「明日も天気が良いといいなぁ〜♪…ね、リナフィールさんvv」
 楽しげな表情で後輩に向かって云い、またヨハネは草を摘む。
「は…はぁ……」
 不意に声を掛けられ、背をビクッと反応させて、リナフィールは振り返った。
「そ……そ〜です…よね、ヨハネさん。…あ…はは……」
 リナフィールは上機嫌なヨハネを横目で見ると、引き攣った笑いを浮かべる。
「……う〜ん。…そうだ!」
「へ?」
「明日のお昼は外で食べませんか?」
 ポンと手を打ち、ヨハネは人差し指を立てて、リナフィールに云った。
「はぁ……」
「雲行きのほうは大丈夫そうだし、多分明日も天気だと思うんですよ」
「まぁ…そうだとは……思いますけどぉ」
 入道雲を見上げて、リナフィールは云う。
 ヨハネの晴れ晴れとした表情に呼応するかのように空は高く、何処までも青かった。
「だから、明日は外でピクニックみたいにして食べましょう。……ね?」
「…は……はぁ、わかりましたぁ〜」
 ソーンの天気より、自分の周囲の雲行きの方が怪しいんじゃないかしら?…と思ったが、リナフィールはあえて何も云わず、作業に没頭しようとした。

 本日、ヨハネ・ミケーレ神父は師匠であるユリウス・アレッサンドロ枢機卿がどこにいるのかも知らされていなかった。居ないということがどういう事かにも疑問を持たなかったのだが。
 それがこれから起きる不幸の始まりだとも気がつかずに、呑気にも明日のお昼ご飯という楽しい想像に思いを馳せていた。 


■ 受難と多難は天からのGIFT

 〜一方、午後の黒山羊亭では……

「あなた……本気?」
「はい。自分の不始末は、自分でやらないと」
 にっこりと彼は笑った。
 眩しい笑顔を見つめ、エスメラルダはなんともやりきれない気持ちになる。
「仮にも貴方は上司でしょう? ユリウスさん……」
 ケーキを突付きながら、優雅に微笑むその人の名はユリウス・アレッサンドロ。大好物を前にして、目尻の下がりまくった様相からは、この人が重要な要職に就く神父であるとは想像できない。
 ともあれ、ユリウスは午後のお茶を嗜みつつ、エスメラルダによからぬ相談を持ちかけていた。
「何……一日、あの親父にヨハネ神父を貸すだけですよ」
「それが危険なんでしょう!」
 握った拳をダンッ!とテーブルに振り下ろした。
「嫌ですねぇ……。だから、貴方のところに来たんですけど……」
 うふふ…と笑って、ユリウスは人差し指を立て、チッチと振る。
「ヨハネ君は自分の身を護りきれないで借金を作ったんですよ。それを一日『遊んであげる』だけで、あの親父はお金を払ってくれるって云うんですから……」
 それが神父の云うことかと云ってやりたくもなったが、エスメラルダは何も云わずに黙り込む。きっと、何を云っても無駄だろう。
 グッと拳をテーブルの下で握った。
 実際、教会なんてトコロに彼の作り上げた借金を返せるだけのものは無かったからだ。
 お金の無いヨハネ神父は、時間と我が身の危険をかけて、男娼館の館主の遊び相手になってやり、お金を貰う。
 何事も無ければ、こんな美味しい話は無い。

 但し、何も無ければの話だが……

「わかったわ……」
「ご理解いただけました?」
「えぇ、ビンボーだってことが」
「はっきり云わないで下さいよ〜♪」
「……」
 ユリウスは手をひらひらと振り、恥ずかしそうに云った。

―― ぶっ飛ばぁーす!

 …と云いたい所だが、5つほど浮かんだ怒りマークを隠してエスメラルダはニッコリと笑う。勿論、心の中は人間サンドバック状態。

―― あ〜して、こーして。こんなことやあんなことをッ!!!

 ユリウスにジャブを連打し、倒れたところにニードロップをかます自分を想像しつつ、ちょっと往復ビンタもしたい衝動を堪えて、エスメラルダはにこやかに笑ってみせた。

「運び屋兼ボディーガードを用意すればいいのね……」
 そう云うと、エスメラルダは振り返って店の客……冒険者たちを見遣り、深呼吸をしてから声をかける。
「誰か、頼まれてくれるかしら?」
「あたしが行くよ。それが筋ってもんだろ」
 そう云って、挙手したのはロミナだった。
 ゆっさゆっさと揺れる巨乳に逞しいながらも曲線のラインが艶めかしい肢体は相変わらずの健康的な肌色。
 周囲の男どもの溜飲の音が聞こえるようだ。
 ウェーブのかかった長い髪からはニ本の角が突き出している。それだけで彼女が魔族の出身である事がわかる。
「そうね……前回も貴女が行ってくれたものね……今回もお願いしようかしら」
「ヨハネ神父のことは任せて……」
 そう云ったところで、ロミナの前にマントを羽織った人物が飛び出してきた。
 というよりは、誰かに突き飛ばされたようだ。カウンターから転げ、三人の前で起き上がり、服をはたく。
「える、人使い荒いよ……」
 カウンターに座る人物に向かってブツブツと呟くと、こちらへと視線を投げた。
「おや、デュナン……だったっけねぇ」
「どーも、でゅーちゃんでっす。よく覚えてましたね、ロミナさん」
 大正解♪と云うと、あははvv…と笑う。
 長い銀髪が印象的な姿に、可愛らしい顔ときたら忘れる筈も無い。
「忘れるもんか。あんたも来るのかい?」
「勿論ですよ」
「こっちはOKだよ。親父を虐待…じゃなかった、撃退するなら人数が多いほうがいい」
「あは…あはは……」
 ロミナの言葉に笑いを浮かべてみたが、喉の奥は乾いてデュナンの声が何処か引き攣れたような響きを帯びる。
「明日迎えに来るそうですので、朝になったら教会のほうに来て下さいね。依頼内容はわかりましたか?」
「あぁ、大体ね。さっきから聞いてたからな」
 ロミナはそう返した。
「それはよかった。ですけど、取り合えず依頼内容を復唱しますね〜。まず、無傷でヨハネ君を護送し、無事お勤めを果たさせて連れ帰ること」
「無傷?」
「えぇ、そうです。いかなる傷も許しません」
「ふ〜ん」
「そりゃ、そ〜だよね」
 のほほんとデュナンは云った。
「そのニ、男娼館自体を破壊するのは不可です。あんな所、直せっていってもお金ありませんからね。後は、娼館の人員への被害は計算に入れる必要御座いませんよ」
「え!?」
「当然です」
 驚きを隠せないデュナンに対して、至極冷静にユリウスは云った。ティーカップを置き、こちらを見た瞳には冷徹な色が踊っている。
 悪魔に引導を言い渡す大天使のように、優雅に一切の甘さなど無い声で依頼した。
「なにかあったら叩きのめして、ぶちのめして構いませんからね」
「ユリウスさん……鬼」
「何を言いますか。あのエロ親父は放っといたら何するかわかりませんからね。大抵のことではへこたれませんし、好きにしていいですよ」
「そっか……実験台とか、いいですか?」
 そら恐ろしいことをデュナンは提案した。
「良いんじゃないですか? あの親父がどーなろうと知ったこっちゃありませんよ」
「へ〜……」
 年齢不詳の可愛らしい顔にニマッというイジワルな笑みを浮かべ、デュナンは頷いた。一体、何を考えているのやら。エスメラルダは肩を竦める。
「時間は次の日のお昼まで貸し出しです。優先順位は話した順番通りですからね」
「わかったよ」
 やれやれと肩を竦めて、ロミナは云う。
 明日の集合場所と時間を再度確認して皆は別れた。


■ ウェルカム・トゥー・マイ・ハウス

「えぇぇぇぇええええッ!!」
 ヨハネの絶叫ともつかぬ声が礼拝堂に鳴り響く。
「……と云うわけですので、あの親父の所に行って下さいね」
 そんな愛弟子の様子を完璧に無視し、ニッコリと笑ってユリウスは今回のミッションを伝えた。
「行きたく……ないですぅ〜」
 今にも泣き出しそうな目でヨハネは師匠を見る。
 そんな弟子に笑みを崩さず、ユリウスは語りかけた。
「今回の仕事は、ヨハネ君が捕まったから、しなくちゃならなくなったんですよ? でも大丈夫です、護衛もついて来てくれるし。明日の昼まで遊んでくれば良いだけですから」
「そんなぁ〜…」
 豊かな胸の前で腕を組み、笑っているロミナをヨハネは見遣る。
 その護衛が一番恐いんですよう…と云いたかったが、既に『何も聞かないモード』に入った師匠に届く言葉など無いに等しい。
 見ればロミナは可愛らしい顔なのだが、ヨハネにとって前回の刺激は理解の域を越えていたようで、思い出すたびに震えてしまうのだった。
 仕方なく、すごすごと引き下がると怪しいほどに煌びやかな馬車に乗る。市場で売られる牛のような気分になってゆくのは何故だろうか。
 鬱々としがちな気分を盛り上げようにも、悲しすぎてそんな考えがかえって虚しく感じた。
 当然、ロミナはヨハネの隣に陣取り、デュナンは向かい側に座る。
 これから待ち受ける試練を考えれば体は震えてくるのだろう、ヨハネは自分の二の腕を掴んで堪えた。
 そんなヨハネの仕草を待っていたかのように、ロミナが声をかける。
 おやおや?…とデュナンは肩を竦めた。
「怖いのかい?ならば側にきな」
「いえ……大丈夫ですから」
 云ったものの、ヨハネの顔は青ざめている。見ていてとても気の毒なのだが、今のところ実害は無いし、止める理由が無い。
「あんたねぇ……あたいに守ってもらう身分なんだから……機嫌を損なわないほうが良いよ」
 などと云いながら、にこぉ〜♪っと笑うロミナ。

―― あははぁ〜…行く前から狙われてるよ☆

 半ば、冷や汗をかきながら、デュナンは傍観を決め込んだ。
 俯いたものの、怯えたような表情は隠せず、引き攣ったように笑顔が張り付くヨハネの表情はさながらピアノ線バンジージャンプに挑むレポーターのようである。
「うぅ……ッ…」
「ほら…無理するな。震えてるよ……な?」
 ロミナはじっと見つめるとやんわりと言った。そして、膝の上に座らせ、ゆるりと髪を優しく梳いてやっている。
 その光景を向かい側で見ていたデュナンは深い溜め息をついた。
「大丈夫……あたしがいるんだから」
「は……はい」
「あんたはあたしが護るんだから、心配なんか無用さ……」
 髪を梳いていた手を下ろし、頬を撫でてから、ぎゅっと抱き締めた。 
 ほけっとした顔でヨハネが見返す。
 『意外に怖い人ではないのかも知れないな〜』などと、ヨハネが甘い考えを起こしているその時、ロミナの心の中では真っ黒な欲望が渦を巻いていたのであるが、気のいい新米神父にはそれがわからないでいた。

―― 「あたしがまだいただいていないのに、あっちな趣味に目覚められたら困るじゃないかぁ!」…って、きっと考えてるんだろうなぁ〜…

 アーメン…ヨハネ神父。君に幸あれ…

 心の中でデュナンは呟いた。

         ☆   ☆   ☆   ☆

公道を歩く人々を蹴散らす勢いで馬車は隣町へと向かう。程なくして、磨き上げられた石で作られた塀が見えた。
 賑やかな楽団の音が聞こえてくれば不審に思い、ロミナは馬車の窓から覗く。
 遠くで手を振る人々が見え、その後ろには『熱烈歓迎!ヨハネ・ミケーレ神父御一行様☆』と書かれた垂れ幕が風にはためいていた。
 迎える娼館の男たちの「いらっしゃいまし、ヨハネ様ぁ〜〜〜♪」の野太い声が木霊する。
 蒼い空の下、華やかな催し物を門の前で繰り広げる男衆にヨハネは眩暈を覚えた。
「う〜〜〜わ…」
 一緒に覗いていたデュナンは仰け反る。
「主よ……これが僕の運命ですか?」
 ヨハネの呟きをかき消すように、御者の到着を告げる声が聞こえた。

「ヨハネ君、待ってたんじゃぞ〜〜〜ぅ♪」
 ズルズルと長いローブを引きずりながら、小走りに近づいてきたのはエロ館主だった。
 細っこい目をキラキラと輝かせ、ハートマークを飛ばしながら、うふふ…と気味の悪い笑みを浮かべている。
「わしの申し出を受けてくれて……わしは嬉しいゾ☆」
「僕は受けてません〜〜〜(泣)」
 近づいてきた館主は、ぎゅむッ☆と手を握り、にやけきった顔を近づけてくる。思わず吐き気をもようしたヨハネが顔を背けた瞬間、ロミナの右フックが館主の顔にヒットした。
 小柄な館主はもんどりうって床に這いつくばる。
「げう〜〜〜〜〜〜ッ!!」
「むさい顔、近づけんじゃないよ! 腐るじゃないかッ!!」
「確かに……むさいですよねぇ〜」
 心の中で館主に同情しつつ、デュナンはぽつりと呟く。
「ひ…酷いのぅ…手加減してくれたって……」
「あぁん? 手加減だぁ??」
 ギロリと睨み据えるとロミナは館主を見下ろす。
「あたしはね、警護に来てんだよ…手加減なんてしないね。それとも、何だ? あんた、文句でもあるっていうのかい?」
「あ…や…。…な、無い……」
「ふんッ! だったら、部屋へ通すのが筋ってもんじゃないのかねぇ? あんたんとこは、客人を玄関にほったらかしにするのが流儀かい?」
 小馬鹿にされ、罵倒され、半泣きになりながら館主はヨハネたち客間へと案内した。

         ☆   ☆   ☆   ☆

「さぁさ、今日は宴じゃ! ゆっくりとしていってくだされ!」
 館主が云って指を鳴らすと、人魚のカッコをした男どもがずらりと並んで踊り始める。
 見目の良い男はまだいいが、筋肉マッチョな男のそれは、絶筆に尽くし難い。
「うぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜(泣)」
 うねる漢(おとこ)のボディーを目の当たりにし、デュナンは床にうつ伏して吐き気を堪える。ヨハネなんぞはあからさまに顔を背け、見ないようにしていた。
 ロミナは美少年だけを凝視している。
 まじまじと歓待の踊りを見ていたロミナの肩をちょいちょいと突付く者がある。何事かを話すと二人で去っていった。
 横目でそれを見ていたが、今はそれどころではない。
 目の前に居る親父に対する対処法をヨハネに教える必要があった。
「ヨハネさん……」
「はい?」
「エロ親父を実験台に柔道の寝技のかけ方をお教えしましょうか?」
「え?」
 云われた意味が分からずにヨハネはデュナンを見つめた。
「結構、決まると痛いもんですし…護身術代わりにお教えいたしますよ」
 借金の原因は自分かなぁ……と思い、ちょっと申し訳なくて護衛に参加した自分としてはこれぐらいの事はしておきたかった。
 手をちょいちょいと招いて、エロ親父に合図を送ると、餌に飛びつく犬のようにやってきた。
「おぉう! 護衛のお兄さんもワシと遊ぶかのぅ?」
 嬉しそうにやって来た親父に軽ぅ〜く足払いを喰らわせる。
「うんぎゃぁああああああ!!」
 もんどりうって親父は壁に激突した。
「あー、五月蝿い」
 げんなりしてデュナンは親父の足を引きずり上げ、ベタンッ!と床に投げ捨てる。
「えぇ…ちょっと痛いですけどね……」
 デュナンは無邪気な笑みを浮かべると、腕ひしぎ逆十字を決め始めた。
「なにするんじゃッ!」
 半ばなげやりに『はいはい…』と返事をすると、親父の抗議は無視を決め込んで講義を始めた。
「このやり方とかは、けっこう面白いですよ」
「へぇー…」
 まじまじとヨハネは見つめる。
「ただこれ、途中過程が『相手の首の後ろに腕回して上半身抑え、足で下半身固定する』という体勢になるので……」
「ふんふん……」
「あ〜〜……親父、微妙に喜びそうな気が……」
 いった途端、親父の口から「あぁンッ!!」と云う、世にも不気味な喘ぎ声が漏れた。  見た目が二十代に見える美青年のデュナンに腕ひしぎ逆十字なんぞをかけられた日には、親父のオツムはドリーミングGOGO!な世界へと旅立ってしまう。
「いッ…痛気持ち良い☆」
「………この、微妙に嬉しそうな表情が不気味……」
「も…もっとぉ♪」
 きゅいっと力を込めると、デュナンの技が見事に決まって、エロ館主が叫びとも喜びとも取れる声でうめく。
「あうン♪…生・き・て・る☆って感じぃvv」
 その周囲では、実に羨ましそうな表情の男たちがたむろしていた。
 
 デュナンの余興ならぬ、寝技入門実技講座が終わると、喘ぎ声を上げまくってへとへとになった館主と、それを聞かされまくったデュナンたちが床にへたり込んでいた。
「き…きもい……」
 うげぇ〜っと声を上げてデュナンは這いつくばる。
 ヨハネもギブアップ状態だった。
 給仕が飲み物を運び、デュナンはそれを手に取る。ヨハネもそれに倣って杯を手にした。
「あ〜…うンまい!」
「運動後の飲み物は美味しいですよね…あ、あれぇ??」
「ん〜…ヨハネさんどうしましたぁ?」
 云ってデュナンは振り返った。
「…お?」
 手からゴフレットが落ち、床の上でカンッ!という渇いた音が辺りに響いた。
「…は…はにゃッ?…」
 揺れる視界の端に倒れ付すヨハネと、ニタリと嗤うエロ館主の顔があった。
 混濁する意識を必死で掴もうとするかのように手を伸ばしたが、ヨハネの方には届かなかった。
 

■ 空と海と君を抱き締めながら

「あんた、ここで何やってんだッ!!」
「…は〜いぃ??……」
「馬鹿ッ! ヨハネはどうしたんだい!?」
「あ〜…そこに居ませ〜ん〜??……」
 というなりへたり込み、デュナンは寝はじめようとする。
「ったく…あんたも薬にやられたか…」
 仕方なくロミナはデュナンを放っぽり出す。部屋という部屋を探し始めるロミナの後姿をデュナンは見遣ったが、何せ体がいうことをきかない。暫くすると、ズガガンッ!ともズキューンッ!ともつかぬけたたましい物音が木霊した。
「あ〜う〜…えるがきたぁ・・・・・・」
 姉の来訪を認めるとデュナンは意識をまた手放した。
 そして、さほど時間を置かずに二人の影がやってくる。
 白銀の髪は双子姉のラエル。
 もう一人はロミナだ。
「でゅー! 起きろ!!」
「うにゃぁ…」
「何が『うにゃぁ〜』だ!!」
 ラエルは睡眠薬で眠らされたデュナンを蹴り起こすと、ヨハネの居る部屋に連れて行き、ベットの中にぶち込んだ。
「ぶッ!! 何す…」
「喧しい。放って置けば、またあの爺がちょっかい出しに来るからな」
 弟の抗議を一蹴し、ラエルは布団に入り込む。
 無論、銃を持ったまま。
 ロミナも布団に入り込み、川の字ならぬ【‖‖の字】ではあったが、この際文句は云わなかった。
 ヨハネの隣に寝かせろと云う訴えが通ったからではあるが、今日のところはヨハネを抱き締めつつ寝ることで我慢することにしたらしい。
 とにかく、ちょっとした楽しい時間を満喫するために、ロミナはまどろみながら夜を過ごすことに決め、まだ幼い表情の青年の額にキスを一つ落として眠りについた。
 睡眠薬が切れないデュナンは呆気なく撃沈した。

■ありがとう…借金

「「「「どぇええええええええッ!!」」」」

 無事、お勤めを終えた一人と護衛三人衆はあまりな現実に思わず叫んでしまった。
「何、驚いてるんですか?」
 優雅にお茶を飲みながら応えたのは、かの可笑しき…。いや、麗しき枢機卿、ユリウス・アレッサンドロである。 
 今は冷徹さを帯びた眼差しを四人に向けていた。
「私…建物は壊すなって……云いませんでした?」
 虫も殺さぬ笑顔で目の前の人間たちのハートを串刺しにしながら、片手ではフォークを持ち、チーズケーキのチェリージャム添えを突付いている。
「い…云いました…」
 ビクリと背を強張らせ、じわりと冷や汗が垂れる。
 自分は軍人なのに…と心でデュナンは思ったが、喉奥がへばりついたように意見する事が出来ない。
「増えた借金……どうしてくれましょうかねぇ?」
 にっこ〜り♪笑ってユリウスは云った。

 生贄。

 そんな言葉が四人の頭に響いて離れなかった。

■ END ■

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】

SN_0142 /デュナン・グラーシーザ/男/36歳/天界人
      (Dunand・Glahrsiza)

MT13_4089/ラエル・グラーシーザ・山桜 /女/36歳/天界人
      (Lael・Glahrsiza・Ymazakura)

SN_0781 / ロミナ  /  女  / 22歳 / 傭兵戦士(魔族)
      (Romina)

(五十音順)

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■         ライター通信          ■
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 お久しぶりで御座います。朧月です。


 ☆第二回の脳内変換講座☆

耽美イラストをお描きになられる方の絵でハーレムを想像なされると雰囲気出るかと思われます。 
 エンドルフィンをばしゅばしゅ噴出しながらお読みくださいませ。


  今回、ロミナさんはハーレム状態。でゅーちゃんは絡み地獄でしたが、ご満足いただけましたでしょうか?
 【ロミナさん取り巻く美少年図】については、同名作品を検索していただけますと何があったかご理解いただけるかと思います。

 ラエルお姉さんお強いんですねぇ。ふ〜ふふッ♪
 しかし、弟の扱いが…鬼。 
 今回も、とても楽しく書かせて頂きました。

 では、またお会いいたしましょう! 

        朧月幻尉 拝