<PCクエストノベル(1人)>


 封魔っぽい剣

------------------------------------------------------------
 今回の冒険者
【整理番号 / 名前 / クラス】
【 0401/ フェイルーン・フラスカティ/魔法戦士】

 その他登場人物
【ルーザ/エルザードの盗賊】
【コボルトA&B/名も無いコボルト】
------------------------------------------------------------

 (本編)

 1.エルザードの盗賊娘

 エルザードに、フェイルーン・フラスカティという魔法戦士が居る。
 ある時、封魔剣ヴァングラムの噂を聞きつけた彼女は考えた。

 フェイ:「やっぱり、すんごい剣の一本も欲しいよね。私、戦士だし。うんうん、たまには一人でがんばって、封魔剣ヴァングラムを探しに行こう!」

 さっそく彼女は白山羊亭でおやつを購入した後、財宝に詳しそうな盗賊を尋ねて盗賊協会に行った。

 フェイ:「ルーザちゃん!封魔剣ヴァングラムって、どっかに落ちて無い?」
 ルーザ:「は?そりゃ、どっかにあるんじゃないの…結構、有名な剣だし」
 フェイ:「うー、意地悪な事言わないで、教えてよ!」
 ルーザ:「いきなり飛び込んで、何なのよ、あんたは…」

 フェイは、一人でがんばって、魔剣を探しに行こうと思ったことをルーザに説明する。

 ルーザ:「へー、良い心がけね。…でもね、悪いけど、あたしも詳しい場所は知らないの。あんなお宝、場所を知ってたら、あたしがほっとかないわよ」
 フェイ:「そっか…それもそうだよね」
 
 アテが外れて落胆するフェイに、しかし、ルーザは言った。

 ルーザ:「噂話程度なら、場所の情報もあるわよ。とりあえず、聞いとく?」
 フェイ:「うん!いつもありがとね、ルーザちゃん!」
 ルーザ:「はいはい…それより、本当に、一人で平気なの?」
 フェイ:「大丈夫じゃ無いかも知れないけどね、今回は一人でがんばるって決めたの!」
 ルーザ:「その、心がけは良いんだけどねぇ…」

 と、ルーザは手元にある資料をフェイに示した。

 ルーザ:「 相当ヤバイ魔物が封印されてるらしいから気をつけなよ、本当に。」
 フェイ:「うん、それじゃ、行って来るね!」

 ルーザの話を聞いたフェイは、ランタンやマントなどの装備品を盗賊協会で調達した後、心配そうなルーザに見送られ、エルザードを後にした。

 2.荒野の魔法剣士

 エルザードを離れたフェイは、ルーザの話を元に、封魔剣ヴァングラムの洞窟がありそうな荒野にやってきた。とりあえず、現場の近所に住んでる人に聞いてみようと彼女は思っていたのだが…

 フェイ:「ねーねー、誰か居ませんか!」

 荒野の真っ只中、フェイの叫びに答える者は誰も居なかった。

 フェイ:「い、いいよ!私、がんばるからね!」

 フェイは泣きそうになるのを我慢して、しばらく荒野を彷徨った後、おやつでも食べようかなー。と、木陰に腰を下ろす。こういうマイペースな一人旅も悪くないよね。と、いつもマイペースなのを棚に上げ、フェイは白山羊亭名物『麦せんべい』をかじる。
 どっかに『封魔剣ヴァングラムはこちら』って、看板でも出て無いかな?と、フェイはどこまでも広がる荒野を眺めながら、おやつを食べる。
 …と、かなり遠くで、地面の下から何かが姿を現わすのが映った。それは、人影に見えなくも無かった。あれ、何だろう!?フェイは『麦せんべい』を放り出して、駆け出す。もしかしたら、秘密の入り口でもあるのかな?と、フェイは人影が見えた周辺の地面を剣で叩いて調べる。
 カツン。何か、硬いものに剣が当たる手ごたえがあった。

 フェイ:「おお、隠し扉発見?私って天才かも?」

 さらに調べてみると、金属製の扉が地面に隠れているのをフェイは発見した。先程の人影は、この扉から出てきたのだろう。
 うん、隠し扉だよ。これって怪しいよね!
 と、フェイは地面の扉に手をかける。鍵は掛かっていないようだ。さすがのフェイも緊張した面持ちで扉を開き、中に現れた階段を降りてみる。

 3.封魔剣の洞窟(?)の住人

 フェイ:「あ、あのー、誰か居ませんかー?…居るわけないよね」

 ランタンに火を着けながら、彼女は小声で囁いた。

 ???:「う、うわ!キ、キミは誰デスカ!?」

 意外にも、甲高い、少年のような声が階段の下の方から聞こえてきた。

 フェイ:「だ、誰か居るの?」
 
 言ってみるもんである。フェイは反射的に剣を抜いて、階段を駆け下りる。

 ???:「う、うわー、変な女の子の強盗ダー!こ、ここには、魔法の剣も財宝も無いから、許して下さいデス!」
 ???:「みんな逃ゲロー!」

 階段の下には、金属製の柱や壁で補強された洞窟が広がり、何やら犬人間のような生き物達が、くつろいでいた。
 身長130センチ程の体に犬の頭が付いた、その生き物達は、コボルトという名前で親しまれている。
 彼らは手先が器用な生き物で、人間同様、真面目な奴も居れば悪い奴も居る。人間に比べれば、真面目な奴の比率が高いと専らの噂だが…

 フェイ:「あ、え、えーとね、私、強盗じゃないよ。私、封魔剣ヴァングラムって剣を探しててね、どっかに落ちてないかなーって思って、この辺を歩いてたらね、地面に扉があったから入ってみたの」

 明らかに脅えているコボルト達に、フェイは事情を説明した。

 コボルトA:「コボリーの奴が、扉の鍵をかけ忘れて外にたデスネ?しょうがない奴デス!」
 コボルトB:「コボリーは、だめな奴デス!」

 コボルト達は、ワンワン。と怒り出した。あんまり悪い奴らでは無さそうなので、フェイは話を聞いてみる事にした。

 コボルトA:「ボク達は明るい所が苦手だし、街に住むと人間にいじめられるんで、昼間はここに住んでるデス。夜になったら、近所の街に出稼ぎに行って働いてマス」
 フェイ:「ふーん、偉いんダネ!じゃあ、この洞窟って、キミ達が造ったデスカ?」

 この洞窟、もしかして、ただのコボルトくん達の家なのかな?

 コボルトA「違うデス。ここは大昔からあった洞窟デス。ボク達は入り口を改造して住んでるだけデス。奥の方には変な剣が落ちてて、近づくと変な奴が襲ってくる場所があったりして、怖くて近づけ無いデス…」
 フェイ:「それデス!私、その変な奴を倒して、変な剣を持ってくデス!うぅ、なんか、話し方が移っちゃった…」
 コボルトA:「倒してくれると嬉しいデス!お願いしますデス!」

 さっそく、フェイはコボルト達の案内で奥に向かった。洞窟は手先の器用なコボルト達の隠れ家らしく、壁には明かりが掛けられ、床もしっかりしていた。
 入り口の扉もコボルト達の技術で巧妙に隠してあったので、この洞窟は誰も気づかなかったのかも知れない。

 コボルトA:「この扉の向こうの、真正面の部屋デス。近づくと変な奴が居て危ないから気をつけるデス…」
 フェイ:「うん、みんな、ありがとうね!」

 フェイはコボルト達にお礼を言うと、扉を潜る。
 すぐに空気が違う事を、彼女は感じる。
 壁や床も、コボルト達の住処のようにのどかな雰囲気はなく、無骨な石が折り重なっているだけだった。
 さらには、何ともいえない嫌な空気を感じる。
 
 フェイ:「よ、よし。ケ、ケルロンくーん、一緒に行こっかー…」
 
 フェイは、自分の守護聖獣を呼び出そうとする。
 が、返事は無い。

 フェイ:「うぅ…いいもん、元々、一人で頑張ろうと思ってたんだもんね!」

 フェイはランタンと剣、空元気を手に、洞窟を進む

 4.魔剣の番人

 通路の左右には幾つかの扉があった。好奇心に釣られたフェイは扉を開けてみるが、鍛冶場や研究室のような空間が広がっているだけで、彼女が求める物は無かった。

 コボルトA:「この扉の向こうの、真正面の部屋デス。近づくと変な奴が居て危ないから気をつけるデス…」

 コボルトの言葉を、フェイは思い出す。

 仕方なく、彼女がまっすぐ歩くと、やがて、正面に扉が見えてきた。

 ???:「…止まれ。この先は行ってはならん」

 機械的な声が、背中から聞こえてきた。
 フェイは問答無用で、振り返りざまに剣を振る。
 …何も居ない。

 番人:「帰らなければ、死ぬぞ。」

 もう一度、声が聞こえた。嫌な予感がしたフェイは後ろに飛んで逃げた。
 …ザン
 先程までフェイが立っていた場所で、小さく、空気が震えた。何かの衝撃波が、襲ってきたようだ。
 
 フェイ:「痛っ!」

 衝撃波の余波は、避けたはずのフェイを襲い、彼女の顔が苦痛に歪む。

 フェイ:「こ、こら、隠れてないで出てきなよ!」

 フェイの声に、しかし見えない敵は答えず、衝撃波の攻撃が続く。
 やがて避けきれなくなり、フェイは剣で防ごうとするが、衝撃波はそれを貫通してフェイの体を貫いた。
 …あーあ、ダメなのかなー。
 衝撃で呼吸が出来ず、床に倒れて立ち上がれないフェイ。とどめの一撃を覚悟するが…

 ???:「(寝てんじゃねーよ、バーカ)」

 頭の中で、声が聞こえた。

 フェイ:「(?)」

 顔を上げたフェイは、薄い光りを放つケルベロスの姿を見た。

 フェイ:「(ケ、ケルロン君!?オーラなんか出して、どーしたの?)」
 ケルロン:「(うっせぇ、芸風変えただけだぜ。見てらんねーから、ちょっとだけ手伝ってやるよ)」
 
 フェイの守護聖獣は、倒れる彼女の前に立って、彼女を庇っている。
 その隙に、フェイは命の水の魔法で力を回復した。

 ケルロン:「(いーか、お前は馬鹿なんだ。こんな時だけ悩むな。見えねーもんは見えねーんだ。あきらめろ、バーカ)」
 フェイ:「(うっさいな!馬鹿って言う方が、馬鹿なんだよ!ケルロン君なんか、帰っちゃえ!)」
 ケルロン:「(おぅ、またな!)」

 ケルロンはフェイが回復したのを確認するかのように、姿を消した。
 ありがとね、ケルロン君。と、フェイは立ち上がった。

 フェイ:「そーだよね、見えないんだから、見なきゃいーじゃんね!」
 
 と、フェイは微笑んで目を閉じた。
 物事を認識する手段は、何も目だけでは無いのだ。
 …大事なのは、感性と本能だよね!
 うんうん。
 ほら、そこだ!
 フェイの剣は、見えない何かを切り裂く。
 …もう、何も聞こえなかった。何も彼女の行く手を阻むものは無い。フェイは迷う事無く、正面の部屋の扉を開けた…

 5.魔法の剣

 長細い箱が、部屋の真ん中に置いてある。
 『封魔っぽい剣パングラム』
 箱には、そう書いてある。
 …あれ?私が探してるの、こんな剣だったかな?
 微妙な違和感を感じながら、フェイは箱の中の剣を手に取る。
 きれいな刀身を持った長剣は、それなりに優れた魔法の剣には違いないが…
 な、なんか、思ってた剣とちょっと違うような?
 フェイは首を傾げる。
 
 コボルトA「ありがとうデス!これで、奥にも住めマス!人間は苦手だけど、フェイは好きデス!」
 フェイ「う、うん、どういたしましてー」

 何か釈然としないフェイだったが、コボルト達は喜んでいる。
 まあ、魔法の剣も手に入れたんだから良いよね。と、フェイはエルザードに帰るのだった…
 フェイは知らなかったが、封魔剣ヴァングラムには、作る過程で封魔に失敗した幾多の出来損ないが存在する。そして、それらの剣も、そこそこの魔法剣(&ダミー)として、近隣のダンジョンに隠されているという…

 (完)