<PCクエストノベル(2人)>


ソーン全国サイコロの旅 〜第1夜〜

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【 冒険者一覧 】
【 整理番号 / PC名 / 性別 
             / 種族 / 年齢 / クラス 】
【 1184 / バンジョー 玉三郎 / 男
            / 魔皇 / 40 / 映画監督 】
【 1185 / バンジョー 英二 / 男
              / 魔皇 / 30 / 俳優 】

【その他登場人物】
【 NPC / トリニウム・ガーナル / 男
             / 人間 / 27 / 元騎士 】

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●兄弟見参【0】
 聖獣界ソーン――ユニコーン地域中央部に位置する聖都エルザード。ソーンの中心でもあるこの街には、毎日のように様々な世界から様々な旅人たちが訪れる。
 今日もまたエルザードに、新たな旅人たちが足を踏み入れた――とある楽器を手にした兄弟が。

●おいでませ白山羊亭【1】
 真っ昼間の白山羊亭、客は多くもないが少なくもない。が、注文が一段落して暇なのか、マスターは洗った皿の雫を拭き取っている最中であった。何にせよ、店内にはまったりとした空気が流れていた。
 そんな白山羊亭の前に、2人の見かけぬ顔の男たちが立っていた。
英二:「兄さん、ここがよさそうだね」
玉三郎:「ああ。ここでなら色々と話が聞けるだろう」
 会話の内容からすると、2人は兄弟のようだ。兄が40歳前後、弟の方が30歳前後といった所か。
 2人は地球で言う所の、ラテン系なファッションに身を固めていた。お揃いのスパンコールのベストと、白のカンカン帽がまたいい味を出している訳で。
 2人は手にしていた楽器をボロンと弾きながら、店内に足を踏み入れた。
白山羊亭のマスター:「流しは間に合ってるよ」
英二:「違うよ。聞きたいことがあって入ってきただけだ。兄さんも何か言ってやってくれよ」
玉三郎:「…………」
 マスターの言葉に少し慌てる英二を尻目に、弦を弾きながら無言で深く頷く玉三郎。
英二:「話せよ、兄さん」
白山羊亭のマスター:「そうかい? どっからどうみても流しだろう? 2人してバンジョーなんか手にして」
 マスターが言うように、『ギターを持った渡り鳥』ではないが2人はバンジョーを手にしていた。
英二:「いや。それは俺たちがバンジョー兄弟だから。そうだろ、兄さん」
玉三郎:「…………」
英二:「だから話せよ、兄さん」
 無言で頷くだけの玉三郎に、すかさず英二が突っ込みを入れた。

●行き先は無限大〜第1の選択【2】
 マスターの誤解を解き、席に着いた玉三郎・英二のバンジョー兄弟。各々ワインを注文すると、どうしてここへやってきたかという話を始めた。
白山羊亭のマスター:「はあ、サイコロを振って出た目の所へ行くという行き当たりばったりな旅を」
英二:「まさかこんな所にまで来るとは思わなかったよ」
玉三郎:「仕方ないよ、俺たちにとってはサイコロの目が全てなんだ」
英二:「だからって異世界来ることはないだろ、兄さん!」
 さて、2人はいったい何の目を出して連れてこられたのやら。
英二:「説明も全くなく連れてきて……こりゃあ拉致だよ、拉致!」
 それはそれとして、2人は来たばかりでまだよくこの世界のことを知らない。そこで何があるのか、マスターに聞こうとした。
白山羊亭のマスター:「それだったら、他の客にも聞こうか。おーい、どこか面白い所ないか教えてやってくれ」
 マスターの一声で、他の客たちがわらわらと集まってきた。
客A:「んー、強王の迷宮なんてどうだ?」
客B:「ハルフ村の温泉もいいですにゃー☆」
客C:「じゃじゃじゃあ、戦乙女の旅団というキャラバンはどうだい?」
客D:「オーソドックスに遺跡や洞窟のあるチルカカなんてのも……」
 客たちの口から、色々な場所の名前が飛び出してくる。英二が聞き耳を立てていると、だいたい12個ほど候補が出てきただろうか。
英二:「兄さん、12個ほど候補が挙がってるけどどうするんだい?」
玉三郎:「12? まぁ、自由にやろうや」
 いつの間にか、玉三郎はワインを何杯もおかわりして酔っ払っていた。
英二:「……兄さん」
 呆れ顔で溜息を吐く英二。結局マスターに候補の中から絞り込んでもらうことにした。
白山羊亭のマスター:「これでいいかい?」
 6つの選択肢が書かれた羊皮紙を、マスターが玉三郎に渡した。
玉三郎:「それでは聖獣界ソーン、エルザードでの第1の選択です」
 玉三郎の台詞の後、英二がバンジョーをボロンとかき鳴らした。
玉三郎:「1! 海が呼んでいる、豪商の沈没船! 2! 冒険の定番スポット、チルカカ! 3! 宝探しだ、強王の迷宮! 4! いっそ遠くへ、戦乙女の旅団! 5! 封印を破るのか、封印の塔! 6! 温泉で1泊、ハルフ村!」
 玉三郎が選択肢を読み上げる間に、英二が紙製のちゃちなサイコロを取り出した。サイコロを振るのは玉三郎の方だ。
玉三郎:「たぁっ!」
 勢いよく放り投げたサイコロは天井に当たって落ち、床をくるくると転がって……止まった。
 出た目は――2。
英二:「チ……チルカカ?」
 サイコロと羊皮紙を交互に見比べる英二。玉三郎は椅子から降りると、脇に置いてあったバンジョーを抱え上げた。
玉三郎:「さあ、行こうか!」
英二:「行こうかって……兄さん、チルカカまでどのくらいなんだい?」
 英二は困惑しているが、サイコロの目が出た以上はそこへ向かわねばならない。それがこの旅の絶対的なルールなのだから。
 かくして、2人は白山羊亭を後にしてチルカカへと向かった。

●夜は魔物が蠢く〜第2の選択【3】
 エルザードより東北東方面――大きな湖に浮かぶ島がある。そこがチルカカである。もっとも遺跡の名前から便宜的にそう呼ばれているのだけれども。
 一目散にこちらへ向かったバンジョー兄弟は、湖岸と島とを結ぶ連絡船から降りてきた。小雨が降り、少し冷える夜のことだ。
玉三郎:「いやあ……着いたねえ、チルカカ」
英二:「…………」
 比較的元気そうな玉三郎に対し、うんざり顔の英二。無言で湖岸の方に振り返った。ちなみにここに来るまで船だけではなく、馬車なら何やらをいくつも乗り継いでいた。
英二:「もう帰ろふよ……寒いんだよ……何処へ行かふと……」
 遠い目の英二。確かに途中の山越えも寒かったから、気持ちは分からないでもない。道中なんて、ぼやきっ放しであった。
 そんな英二を他所に、玉三郎は羊皮紙を取り出して何やら書いている。それに気付き、英二がはっと我に返った。
英二:「まだ振るのかい?」
玉三郎:「もちろん」
英二:「……当然1泊の目もあるんだろうね、兄さん」
玉三郎:「もちろん。そうしないと死んじゃうから」
 サイコロの旅は、1泊の目が出ない限りノンストップで移動を続けなければならない。それゆえ、夜に振るサイコロの選択肢は非常に重要なのである。
玉三郎:「それでは聖獣界ソーン、チルカカでの第2の選択です」
 選択肢を書き終えた玉三郎の台詞の後、英二がバンジョーをボロンとかき鳴らした。
玉三郎:「1・2! 何が待ってる、チルカカ遺跡! 3・4! 魔物が居るぞ、チルカカ洞窟! 5・6! 出てくれ、チルカカ1泊!!」
英二:「究極の3択だね、兄さん」
 2人の想いは1泊。しかしサイコロの神様は気紛れである。ここで振るのは英二の方だった。
英二:「何が出るかな……」
 一通り踊ってみせ、空高くサイコロを放り投げる英二。落ちてきたサイコロは、ほとんど転がることもなく止まった。
 出た目は――6。
玉三郎:「英二……!」
英二:「兄さん……!」
 嬉しさのあまり、ひしっと抱き合うバンジョー兄弟。見事、チルカカ1泊である。
玉三郎:「よしっ、宿を探そう!」
英二:「でも兄さん。ここに宿があるのかい?」
 それは探してみないと分からない。2人は宿を探して動き始めた。
 だが、少しして宿を1軒見付けたけれども、あえなく満室だと断られてしまった。途方に暮れるバンジョー兄弟。
英二:「兄さん、どうしよう」
玉三郎:「いやっ、他にも宿はあるはずさ」
英二:「けど兄さん。道端で野宿は嫌だよ。『ここをキャンプ地とする』だなんて言い出さないだろうね?」
玉三郎:「…………」
 無言で歩き出す玉三郎。後を追いながら、英二が愚痴った。
英二:「……言うつもりだったな」
 さて、少し歩いた所で前からプレートメイルを身につけた騎士風の青年がやってきた。青年は近くにあった家へ入ろうとしていた。
玉三郎:「すいません!」
 ピンとくるものがあったのか、玉三郎は青年の方へ駆け寄ってゆき、しばらく何やら交渉をしていた。そして話がついたのか、英二を手招きした。
英二:「何だい兄さん」
玉三郎:「英二、こちらの人が今晩泊めてくれることになったぞ。ええっと……」
ガーナル:「ガーナルです」
 玉三郎に紹介され、トリニウム・ガーナルが軽く頭を下げた。

●名所案内【4】
 バンジョー兄弟が通されたガーナルの家は、必要最低限の物のみ置かれていて質素なものだった。ガーナル曰く、遺跡探索のための仮の家なのだそうだ。
玉三郎:「助かりました」
英二:「屋根のある所で眠れます」
 椅子に座り、深々と頭を下げるバンジョー兄弟。
ガーナル:「……困った時はお互い様だから」
 鎧を脱ぎ、2人の向かいに座ったガーナルが静かに言った。
ガーナル:「今晩1晩、どうぞごゆっくり」
玉三郎:「ありがとうございます。あの、ついでというか、せっかくなんで……」
ガーナル:「何でしょう」
玉三郎:「この世界の名所なんか、教えてもらえませんかね?」
ガーナル:「……ここに来るまでに、何かしら見てないんですか? エルザードにもいくつか見所はあったはずじゃ」
 ガーナルの言葉に、玉三郎は明後日の方を向き、英二は椅子から立ち上がって窓の方へ歩いていった。
ガーナル:「いったいここまでどういう旅を……」
 呆れ顔のガーナル。きっとバンジョー兄弟のこれまでの旅を話して聞かせると、もっと呆れ顔になることだろう。
 仕方なくガーナルは、名所のことを色々と話して聞かせた。白山羊亭で聞いた内容も多少含まれていたが、こちらの方がより詳しい内容であった。
ガーナル:「ああ、そうだ」
 ガーナルは玉三郎の抱えていたバンジョーをちらっと見てから、思い出したように言った。
ガーナル:「楽器といえば……」
 ガーナルが玉三郎に何か話している時、英二は窓を開けて夜空を見上げながらぼそっとつぶやいた。
英二:「……母さん、僕は今異世界に居ます」
 愚痴る英二を他所に、会話を続ける玉三郎とガーナル。
 果たしてバンジョー兄弟の旅は、この先どうなってゆくのか。それを知るのは、サイコロの神様のみである――。

【ソーン全国サイコロの旅 〜第1夜〜 おしまい】