<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


甘いものに誘われて……

☆散歩♪

 聖獣界ソーン・聖都エルザードのアルマ通り。
 街路の左右には色々とおしゃれなお店などがあったりして、ただ歩くだけでも楽しい通りである。
 そんな大きな通りを、蝶のような羽を生やしたウサギと、散歩がてらに共に歩いているのはリース・エルーシア。
 そしてその蝶のような羽を生やしたウサギの名前はみるく。可愛い可愛いリースのお友達なのである。
「みるく、今日はどこに行こうか〜?」
「みゅぅ〜? みゅうみゅうみゅう〜♪」
 リースだけに分かるみるくのうさぎ語で。リースは頷いた。
「何々? 何か美味しいものが食べたいの? うん、いいよっ! それじゃ最近出来たって言うカフェに行ってみようか〜?」
「みゅぅっ!」
 嬉しそうに頷くそぶりを見せるみるく。
「よっし、それじゃ行こうか♪ みるく、いくよっ!」
「みゅぅぅっ♪」
 と言って、みるくを肩に乗せたリースは走っていった。

 そして、カフェへと到着するみるくとリース。
 甘い匂いが、自然とリースのお腹を刺激してしまい、『ぐぅっ』と音を出してしまう。
「あう……えっと、一杯あるなぁ……みるくは何がいい?」
 ディスプレイされた色々なお菓子を眺める一人と一匹。
 チョコでコーティングされたドーナッツやら、たくさんの砂糖にまぶされたスティック状のお菓子など。出来たばかりのカフェには、見た事も無い異国のお菓子など、色々なお菓子が並んでいた。
「みゅぅぅ〜〜」
 色々なお菓子を見て、みるくの目がきらきらしている。
 そして並んでいるお菓子の中から、一つのお菓子の前で立ち止まって、ぴょこんぴょこんと跳ねる。
「みるく、これがいいの?」
「みゅうっ!」
「うん、分かった♪ えっと店員さん、このお菓子と飲み物を二つずつお願いします♪」
 と、リースが注文する。
 お菓子と飲み物を持って、座す場所を探していると。
 オープンテラスの所に、見覚えのある姿を見つける。
「あれ? フィーリだ。 フィーリ〜、こんな所で会うなんて偶然〜♪」
 ぶんぶんと手を振るリースに気づいたフィーリ。
 もちろんフィーリの横にはフィーリの可愛い子竜のジークも居て、フィーリはジークへとお菓子を食べさせていた所だった。
「……? リース、どうしたの?」
「フィーリこそどうしたの、って、ジークもおはよ〜♪」
 ジークをぎゅーっと抱きしめるリース。
「き、きぃぃ〜」
 もちろんジークはちょっと苦しそうにじたばたする。
 リースの抱きしめから解放されると、ジークはリースの所へ飛んでいって囁く。
「もう〜、リースちゃん苦しいよ〜。 ボク死んじゃうかって思ったよぉ」
「あはは、ごめんごめん。 何だか普通逢えない場所で会えたから嬉しくって♪」
「確かに、ね……俺はジークが甘いものが食べたいって言うから、連れてきただけだよ。 最近ジーク、お菓子とかクッキーとかが大好きになったらしくてね」
 こくりと頷くジーク。その口元にはお菓子の食べかすがちょっとだけくっついていたり。
「あら。 ほらほら、ジーク、もうちょっと行儀良く食べようね?」
 ジークの口元を拭いてあげるリース。ジークはちょっとだけ嬉しそうだった。

☆迷子!?

 という訳で、フィーリの隣へと座ったリースは、みるくと一緒にお菓子を食べていた。
 ほのかに恋心を抱く相手・フィーリの興味を引こうと、リースも色々としてみるものの、それでもフィーリは興味がないようである。
 フィーリにお菓子を食べさせてあげたり、フィーリの好きそうな飲み物を買おうとフィーリを連れ出す。
 そんなリースが、フィーリの興味を引こうと努力している時。
 お菓子を食べ終えたジークが、その鼻に何か美味しそうな匂いを感じていた。
(……なんだか、美味しそうな甘い匂い……なんだろう? ……あっちの方から匂ってくるなぁ……)
 するとジークは、お菓子の甘い匂いに誘われて、フィーリにもリースにも何も告げずに匂いのする方向へと飛んでいってしまった。
 フィーリ達が戻ってくると、そこにはみるくだけが残っている。
 そしてジークがいない事に、一番最初に気づいたのはリースだったりする。
「あれ? ねぇ、フィーリ。 ジークどこにいったの?」
「え? ……確かにいないね。 ま、ジークなら大丈夫だよ。 そのうち家に帰ってくるから」
 フィーリは大してジークの事に対して気に留めてない一方、リースは不安を爆発させてしまう。
「ねぇ、もしかして。ジーク誰かに誘拐されたんじゃないの? いえ、きっと誘拐されたのよ。 だってジークって、子供の竜だもん。密売組織とかに売ろうとする輩がいるに違いないわ。いえ、きっとそうよ!」
 次第にリースの妄想が暴走する。でもフィーリは全く気に留めていない。
 周りのお客さん達も、フィーリの騒ぎように騒然とし始めた。
「ねぇフィーリ。 早くジークを探さなきゃ! 絶対にジーク、密売組織に売らせたりなんてしないからっ!」
 と、言うよりも早くフィーリの手を取ったリースは、オープンテラスを出て行く。
「みゅぅ、みゅぅぅぅ〜〜」
 その後ろをぴょこんぴょこんと跳ねて追いかけるみるく。
「みるくも早く早くっ!!」
 戻ってきたリースがみるくをその肩に乗せると、フィーリをまた引っ張っていった。

 リースは街中を探す。屋根の上やら、坪の中やら。
 ともかく、手当たり次第に目に付く物を全て探していったが、勿論お菓子の甘い匂いに誘われたジークが出てくることも無く日が暮れてしまった。
 へとへとになったリースが、その場に座り込む。
「もう……ジークどこに行ったのよぉ……どこにもいないじゃない。 もしかして、本当に密売組織に売られちゃったんじゃないかな……」
 すでに泣きそうな表情のリース。さすがにフィーリも、そのような顔を見るのは初めてだったりする。
「リース、泣かないで。 大丈夫、ジークは絶対に戻ってくるよ。 小さくたって竜なんだから、いざとなれば空飛んで逃げてくるさ」
「でも、でもぉ……」
 フィーリの胸にぎゅっと抱きついて、涙を流すリース。
 仕方なくリースの頭を撫でてやるフィーリ。
 そんな二人を、じーっと見つめるみるく。
 夜のアルマ通り。そろそろ通り沿いの店は店じまいの時間である。
「リース。そろそろ帰ろう? ボクが家まで送ってあげるから、さ。 明日もジークを探そうよ」
「うぅ……わかったぁ……」
 涙を拭いたリースが、フィーリに肩を担がれながら家路に着く。
 その時。
 ぱたぱたと近付く、何かの音。
「ん……?」
 闇の中から、自分達に近付く何かの気配。
 フィーリは勿論、何が近付いてくるのかは良く分かっている。
 でも、リースはその音に更に怖がってしまう。
「な、何か近付いてくるよぉ……フィーリ助けてっ!!」
 フィーリの後ろに隠れるリース。
 そして……その音の主が闇の中から現れる。
「フィーリっ! 怖かったよぉ−っ」
「じ、じ、ジークっ!」
 暗闇の中から現れたのはジークであった。
 フィーリの腕の中にジークは収まると。
「全く……またお菓子の匂いに釣られて飛んで行っちゃったんだね? ジークは本当に甘いお菓子が好きなんだから……」
「だってだって……美味しそうだったんだもん」
 ジークの口には、また食べかすがちょっとくっついていたりする。
「まぁいいけどね……それより、ジークの事、リースが心配してたんだよ?」
「ぇ、本当? リースちゃん?」
 フィーリの後ろでへたっと座り込むリース。
 リースの目を見つめるジーク。
 一気に、自分の心配が取り越し苦労だった事を知ると、リースは顔を赤くして。
「もう……心配だったんだからねっ! ジーク!」
 烈火のごとく怒り出すリース。
「ぇ、ぇえ? ぼ、ボク何をしたっていうの〜?」
「問答無用よっ! か弱い女の子をこんなに心配させて! ジーク、もうちょっと女の子の事考えなさいっ!」
 と、延々とジークへの説教が開始される事になったのは、言うまでも無い。

 説教後、少しショックを受けているジークに対して、みるくがぴょこぴょこ近付いて。
「うぅー……ボク、よく分からないよぉ〜」
 何故怒られたのか分からないジークが、しゅんとしていると。
「みゅぅみゅぅ……みゅぅみゅぅみゅうみゅう(まぁまぁ……リースは本気で心配してたんだよ?)」
 と、みるくがジークの頭をその小さい手で撫でてくれた。