<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


衝撃……

☆見た!

 夕刻。次第に陽の光が落ち始めた頃。
「ふぅ……久しぶりだな、この街に来るのも……この宿に来るのも」
 オズ・セオアド・コールは、恋人のエンテル・カンタータと共に育った街へと戻って来た。
 街の馴染みの、宿の主人も、見知った二人の姿を見て微笑む。
「ぉぉ、久しぶりだな。元気だったか?」
 と声を掛けてきてくれる。
 その声に、オズは『故郷に帰ってきた』という気持ちが込み上げて来る。
 やっぱり故郷というのは良いものだなと感じながら、オズは主人の方へ手を挙げて応えた。
「ああ……主人、久しぶりだな。 部屋、空いてるか?」
「ああ、勿論空いているよ。 ちょっと待っててくれ、今部屋を掃除してくるからよ。えっと……二名一室だな?」
 入り口に居る、エンテルの姿を見つけて主人がそう言う。
「ああ……宜しく頼む」
「分かった分かった。 二人でハネムーンがてらの冒険、っちゅーことだな。飛び切りの部屋を用意してやるからよ!」
 そう言って、宿の主人は不敵な笑みを浮かべながら二階へと登っていく。
 何が飛びっきりの部屋だ……そうオズは思っていると。
「……ん、どうした? エンテル」
 ふと気付くと、エンテルが入り口で立ち止まっていた。
 エンテルの視線は、じっとある外の一点から動かなかった。いや、動けなかった、という方が正しいかもしれない。
 オズはエンテルの所へとやって来て、再び声を掛けようとすると。
「しっ! ……静かにして……」
 口を塞がれるオズ。エンテルが指差した先には……。
 熱烈的に接吻をし合う、オズの旧友の姿。
「……あいつは……あいつも、大人になったんだな」
 少々論点が外れているようなオズの言葉ではあるが、これが彼なりの褒め方である。
 熱烈的な接吻を終えたオズの旧友二人は、何事も無かったかのように手を繋ぎ、二人の視界から消えていく。
「……えっと……凄いね。キスって……あんなに熱烈的にするものなんだ……」
 顔を赤らめるエンテル。その反応は、まるで今まで一度も接吻をしたことが無いような反応が、オズに取ってエンテルが更にかわいく感じた。
 エンテルの肩を抱いてやると、そこに、部屋の準備を整えた宿の主人が戻って来る。
「おーい。 部屋の準備は終わったぜ。 ほら、こいつが鍵さ。 ま、一夜の休息思いっきり満喫してくれよ」
 小指を立てる宿の主人の言葉に、顔を赤くして恥ずかしがるエンテル。
「……主人。 お前は昔と変わらないな……」
「へへ……まぁ、行った行った! 夜までまだまだ時間はあるぜ?」
 その宿の主人の微笑みには、何か隠されたところがある。
 そう思わずには居られないオズであった。

 部屋に入ったオズとエンテル。
 宿の主人が張り切って掃除をしてくれたようで、塵一つ落ちていない。
 そればかりかベッドのシーツも、窓の飾りも他の部屋に比べればそれなりに豪華な物を使っているのが良く分かった。
 いわば『新婚夫婦の家』をモチーフにしたかのような豪華さである。
「……やはり、な……」
「本当に、こんな部屋に泊まっていいのかな……?」
「あいつのいつも通りの事だ。 別に気にしなくて良いと思うぞ」
 オズは僅かに苦笑いを浮かべる。
 ある程度予測していた事であるし、宿の主人は『そういう』性格なのだから諦めるしかない。
 ベッドに腰掛けるオズ。隣にエンテルを座らせ、オズは先ほどの友人の熱烈な接吻を思い出しながら話しかける。
「エンテル。さっき『キスって……あんなに熱烈的にするものなんだ……』なんて言っていたが、お前……俺とキスした時の事、覚えてないのか?」
 恋人になってから、エンテルとは何度か口付けを交わしている。あそこまで熱烈的な口付けは交わしてないが。
 しかし、エンテルはきょとんとした顔で。
「オズと口付け? ……ごめん、覚えてない」
 苦笑を浮かべるしかないエンテル。覚えてないのだから、それしか言える事も無かった。
 オズは微かにショックを受けながらも、隣に座ったエンテルの顎に手を掛けると。
「それじゃぁ……今からその事を、思い出させてやるよ……」
 オズの言葉に、目を閉じるエンテル。
 それを承諾の印と受け取ると、オズは唇を近付けていく。
 残り、あと少し……その時。
<コンコン>
「え〜、食事はどうしますか〜? 聞くの忘れちゃってたよ。はははは……」
 宿の主人の声。エンテルは慌て、オズを突き飛ばして。
「そ、そ、その! だ、大丈夫、ですからっ!! 前に置いておいて下さいっ!!」
「そうか〜。分かったよ。 それじゃ、邪魔して悪かったな?」
 ドアの外から主人の苦笑の声が聞こえ、階段を降りていく足音。
「ふぅ……び、びっくりしたぁ……って、お、オズ! 大丈夫っ!?」
 自分が突き飛ばしたのではあるが、その事はあんまり覚えていなかったりするエンテル。
「……大丈夫だ」
 壁に叩きつけられたオズが、その場に崩れ落ちた。

「…………」
 もう少しの良い所で止められたオズは、料理を食べている間もむすっとして、不機嫌になっていた。
「オズ……まるで、子供みたいね」
 とエンテルが微笑むも、オズは。
「……子供で悪かったな」
 と更に不機嫌になる限りだった。
 エンテルは苦笑いを浮かべながら、食事を終えた後、夜空に星が瞬き始めた頃。
 むすっとしたまま、ベッドに横になるオズを見て。
「仕方ないなぁ……もう一度だけ、だよ?」
 と言って、エンテルは目を閉じてオズに顔を近付けていく。
「……エンテル」
 オズは僅かに躊躇するも、エンテルの意志を無碍にする訳にはならないという事で、エンテルの顎を手に取る。
 半分だけ体を起き上がらせて、あと少しで唇が触れ合うその時。
<ガチャッ!>
 ドアが開く音。
 入って来たのは、宿屋の侍女。
「あらあら……お暑い事ですわねぇ。洗濯物を取りに北のですけれど、邪魔者は退散するとしますわ♪」
 と言って、開けたドアをすぐに閉める。
「……い、いやぁーーーっ!!」
 見られた恥ずかしさに顔を赤く染め、エンテルは再びエンテルに突き飛ばされる。
「……また、か……」
 何度も何度もエンテルに突き飛ばされたオズは、さすがにぐったりとしてしまう。
 慌てるエンテルに、オズは一言だけ告げる。
「……外の空気を吸ってくる。 先に寝ててもいいぞ」
「あ、お、オズ……えっと……」
 さすがにエンテルも、オズに申し訳なさを感じているようだ。
 しかしオズは、エンテルの髪を軽く撫でると。
「……気にしないでいい」
 とだけ告げて、部屋を出て行った。

☆妨害

 外に出てきたオズ。
 星空を見上げながら、昔の思い出に耽っていた。
「……そういえば、あいつら……俺がこの町を出て行った時だったな、付き合い始めたのは」
 あいつらというのは、エンテルが見た熱烈な接吻をしていた二人の事。
 最初は手を繋ぐ事でさえどぎまぎしていた二人だというのに……そう思うと、長い時が経ったと実感せざるを得ない。
「……でも、俺の事を忘れていないでくれて良かったな……もう、俺のことは忘れられているかと思っていたのに……」
 そうオズが物思いに耽っている所で。
 遠くから、ひそひそと話す声が聞こえてくる。
「……どうだ? あの二人」
「ええ……さっきも私が行った時、キスしようとしていましたわ。 でもまぁ、オズさんはウブなんですわねぇ。 人目を避けてキスするだなんて……うふふ」
 その声は、この宿屋の主人とさっき入ってきた侍女の声であるというのがすぐに分かった。
 そう、彼ら二人はオズの邪魔をしようとしていたのだ。
 しかし、オズが外に空気を吸いに出てきている等とは思いもしない二人。そして、その会話が聞かれているとは露も思っていないのである。
 オズは中断された怒りを燃えさせて、足音を潜め二人の所へと近付いてくる。
「まぁ、これでオズも少しは大胆になればいいんじゃねえか? まぁ、いつまでたってもあのようじゃいつまで経っても変わらないだろうしな。へへへへ」
「……ほう。 ……俺を大胆にさせようっていう、お前ら二人の画策だったわけか」
 オズの声に、慌てて振り返る主人と侍女。
「あ……えへへへ。 き、聞いていたのですか?」
 ぺろっと舌を出しておどけてみせる侍女、しかしオズの顔は全く笑ってなく、そして殺気がぷんぷんとしている。
「……俺の邪魔をするという事は……覚悟は出来ているんだろうな?」
 不敵に笑うオズ。
 主人と侍女はその微笑に、血の気が引くような思いがした。
「……いいか、もう俺達の邪魔をするんじゃない。 ……今度邪魔したら……ただじゃおかないぞ」
「は……はいっ!」
 主人は悲鳴のような声を上げ、侍女は僅かに泣き出してしまった。
 そんな二人を放っておいて、オズは部屋へと戻る。

 部屋の灯りは既に消されていて、エンテルはベッドに既に入っていた。
「……エンテル、起きてるか?」
 しかし、答える声は無い。寝息のような音が部屋に静かに響く。
「……寝てしまったか。 仕方ない……俺も休むとするか」
 オズはそう言うと、着ていたマントを掛け、エンテルの隣のベッドへと身を潜らせる。
 その時。
「……オズ……?」
 寝ぼけ眼で、エンテルがそう呟く。
「……エンテル。 起こしてしまったか? すまない……何でもないから、ゆっくり休むといい」
「……うん……」
 再び目を閉じるエンテル。すぅすぅという寝息の音が耳に心地よい。
 そんなエンテルの寝顔を見て、オズは微笑む。
「……好きというのは、口付けだけで示されるものじゃないよな……エンテル」
 と言って、エンテルの髪を撫でるオズ。
 もぞもぞと動くエンテル。
「……お休み、エンテル。 俺の大切な……人」
 と呟き、静かにオズはエンテルに唇を重ねた。