<PCクエストノベル(1人)>
波に寄せて 〜揺らぎの風〜
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■冒険者一覧■
□1125 / リース・エルーシア / 女 / 17 / 言霊師
■助力探検者■
□なし
■その他の登場人物■
□みるく / 羽ウサギ(ちいさな友人)
□レグ・サイモン / 鍵言葉の伝承者
□ネフシカ / アイテム屋「魔と謎」の店主
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通行人1:「えーっ、そんな魔法があるわけ?」
通行人2:「あるらしいよ。しかも、海に」
市場で買い物をしていたリースの耳に、こんな会話が飛びこんできた。手に取った野菜をそのままに、つい聞き耳を立ててしまう。クロアゲハのような羽を持つウサギが、その周囲をふわふわと飛んでいる。
小さな声で友人の名を呼び、野菜を置いて抱き寄せた。
リース:「みるく、ちょっと待って……」
みるく:「みゅう〜?」
リース:「あたし、こういう話好きなんだよね〜♪」
冒険好きな少女は、またしてもどこかへ出かけるキッカケを手に入れようとしていた。
+
――ここは36の聖獣に守られたユニコーンの地。
不思議と現実。伝説と街のにぎわい。様々な要素を含み、そして自然の摂理と人間の知恵で営まれている世界。ひとつとして嘘はなく、ひとつとして真実はない。
人々の中にそれぞれ住まう、記憶と記録。ただ、それのみ。
今、リース・エルーシアが得た情報もまた、この世界に従属する謎と記憶のひとつであった。
俗に隠し魔法とも呼ばれているそれは「揺らぎの風」という名の移動魔法。
――日中の海面に時折現われる文様。あるアイテムを持ったものがその上で祈ると、「揺らぎの風」という魔法を授かるらしいのだ。これを発動すると、自ら陽炎なって立ち昇り海を渡る風のように、僅かな隙間さえあればどんな場所へも行けるという。ただし、太陽がかげると効果が失われる――どころか元の体に戻れなくなる。
リース:「文様が現われる時期・時間帯・条件、どんなアイテムでこの魔法を得ることができるのかは不明――か」
みるく:「みゅう…」
リース:「ふふ、そんなに心配しなくても何事も挑戦よ。探してみなきゃわかんないもん」
金の瞳を午後の穏やかな光に輝かせて、リースはこれから始まる冒険に胸が踊っていた。肩にとまっているみるくをそっと手のひらに乗せ、クルクルと一緒に回った。
一頻りふたりでダンスした後、リースは問屋街へと足を向けたのだった。
リース:「どんな場所へも行ける魔法かぁ〜。使えるようになったら素敵だよねっ!」
+
職人が多く往来する問屋街「タワンブラ」。
たまたまだが、海面に文様が現われるという場所に一番近い海辺の街でもあった。
特に目指すものがあるわけではない。ただ、タワンブラは不思議な物品や貴秘なるアイテムの集まる街として非常に有名な場所なのだ。
朝が一番賑わう問屋街。リースが大通りに着いた時には、すでにそのピークを過ぎているらしく通行する人もまばらな様子。
リース:「さて、どこから聞こうかな? ……ん、あそこにしよう!!」
目に入ったのは古びた外観の店。張り出した軒は少し傾いている。開いているのか、閉まっているのかも区別がつかない古店だった。でも、それがかえって「何かある」と思わせる雰囲気を持っていた。よくみると、埃だらけの看板には「アイテム屋」と印されている。
リース:「叩けよさらば、開かれん。さぁ、みるく。行くよ」
室内は窓が閉め切られていて暗い。ドアの開閉で深く積もった埃が舞っている。リースは少しむせながら、目を慣らそうと瞼を閉じた。
? :「客か。ま、そういうこともある」
リース:「きゃっ!? だ、誰?」
? :「――誰って、あんた客じゃないのか?」
目を開けると、一段高い場所に立派な椅子が置いてあった。口ブリからすると、リースを驚かせた声の主はここの店主に違いない。しかし、開いた瞳には誰も映っていなかった。
リース :「ご、ごめんなさい……。あ、あのここの店の人…だよね? 『揺らぎの風』って知ってる?」
ネフシカ:「久しぶりの客にしては、お目が高いことだな。くくく…」
リース :「わぁ! ど、どこにぶら下がってるのよ!!」
ネフシカ:「蝙蝠族を知らんとは、冒険者として愚の骨頂だぞ」
リースが驚くのも仕方のないこと。「魔と謎」という名のアイテム屋の主人は、天井の梁に逆さまに張りついていたのだから。
毛深く黒い顔。それに似合わない白い歯をみせて苦笑している。笑い終わると、クルリと回転して椅子の上に舞い降りた。
ネフシカ:「あんたが探しているものはここにはない。ま、俺も何が本当に必要な物なのか、知りゃしないがね」
リース :「……? ど、どういうこと!?」
ネフシカ:「つまりだ。魔法を手にするためにはアイテムがいる、だがそれが何かは知らん。ここにある品は俺が熟知しているものばかりだしな」
リース :「そう…、なんだ。じゃあ、違うところを探すね。お邪魔しましたぁ〜!!」
リースはみるくを連れて、ドアへと向かった。ここにないとすれば、どこを探せばいいんだろう?
思案に耽ろうとした時、背後から大きな声が掛かった。
ネフシカ:「おいおい、話は最後まで聞けって、母親に言われなかったか? まったく……」
リース :「え…何かあるの?」
ネフシカ:「そろそろ来る頃だ。ヤツはいつも時間ぴったりだからな。――ほら、噂をすればだ」
顎で示され、リースは手にしたドアノブを思わず離した。
その瞬間、ゆっくりとノブが回って男が入ってきた。
ネフシカ:「ほれ、こいつはレグ・サイモン。鍵言葉の伝承者だ。聞けば何か記憶しているかもしれん」
レグ :「ネフシカ! また、人を商売道具にする……僕は便利屋じゃないのに」
+
リースとレグは砂浜に立っていた。
波がゆったりと寄せては引いていく。海風は潮気を含んで絡み、金の髪を軋ませた。青く透き通った水面に白く繰り返す波。
このどこかに「揺らぎの風」は眠っている。そう思うと、リースは胸が熱くなるのを感じた。
リース:「ねぇ、レグ。色んな言葉を覚えてるのに、どうして利用しないの?」
レグ :「それはキミが空を飛べる羽を持ってるけど、ちゃんと歩いて使わないのと同じだよ」
リース:「ウソ! 幻翼人って分かったの!? 羽を出さなきゃ、わかんないのに――」
レグ :「ま、長いこと生きてたらね。イヤでも分かるようになってしまうのさ。リースには、僕がいくつに見える?」
リース:「私と同じくらい…かな?」
レグ :「ブーッ、違うよ。もう105年も生きているのさ」
あまり長寿を喜んでいないようだった。短命である幻翼人のリースからすれば、羨ましい気さえするのに。
レグは苦笑して、魔法探しを手伝ってくれることを約束してくれた。
レグ :「風渡る時、水面金に輝き銀に沈む。憂いなき紋章の描かれし、青く赤く実りの果実」
リース:「それがヒントなんだね」
レグがうなづくのを、リースは見つめた。彼の白く古ぼけたマントと緑の髪が風に舞っている。
寄せては引いていく波を見つめて、リースは心に誓った。
きっと見つけてみせる――「揺らぎの風」を。
覚えて記憶しているだけで使わないだなんて、そんなの生きている意味がないってレグに教えてあげなきゃ。
リースは両手を強く握りしめた。
□END□
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発注ありがとうございます♪ ライターの杜野天音です。
つい続きモノっぽく書いてしまいましたが、いかがだったでしょうか?
リースの前向きなところがすごく主人公にするにはぴったりでしたvv
もっと内面や雰囲気を描写したかったんですが、いかんせんリプレイ風なので難しかったです。
みるくが可愛くて、常にリースの傍を飛んでいるのかと思うと胸がどきどきします。
また、リースに逢えることをお祈りしています。
それでは今回はありがとうございましたvv
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