<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>


ハローウィンパーティ

●オープニング

「白山羊亭&黒山羊亭合同パーティ」
黒山羊亭に来たお客は少し驚いた。変わったはりがみがしてある。
「ああ、それ?今朝、ルディアが貼ってくれって持ってきたのよ。私もちょっとかんでるの。」
「?珍しいな。こういうのって。」
「そう、最近ちょっと不景気だから、面白い事があってもいいかな?って思ってね。」
「へえ、仮装パーティなんだ。」
「そう、それにね、ルディアは知らないらしいけど、そのハローウィンっていうのはお化けに仮装して悪戯を楽しむのが主らしいわ。
だから、こっちからは、ちょっと『遊んで』盛り上げてくれる人を募集するつもり。」
「いいのか?」
カウンターに膝を付いてエスメラルダは軽く手を振る。
「こっちに誘いをかけてきたんだもの、向こうだって承知してるわよ。まあ、店を壊したり悪いことをしなければ、ネタってことでいいんじゃない?」
「なるほど…」
紙をもう一度良く読んでみる…。
「10月31日 夜9時から 会場は白山羊亭。
パーティの準備を手伝ってくれた方、仮装をして来てくれた方は…食べ放題?飲み放題?太っ腹〜〜。」
「面白そうだから、私も行こうかなって、あなたもどう?二次会や、着替えや、準備、打ち合わせにはここを提供するわよ。」
エスメラルダは微笑んだ。それは、いつもと少し違う、子供のような悪戯っぽい笑みで。

仮装パーティ。
『参加者はお早めに…♪』

●黒山羊亭から、白山羊亭へ…

「あら、一人?意外ね。」
エスメラルダは募集した「遊んでくれる」メンバーが以外に少ないことに驚いたようだ。
「純粋に遊びに行った連中はけっこういうるみたいだがな、俺一人じゃご不満かな?」
そう言って軽く頬を膨らませた真似をする青年に、エスメラルダはニッコリと笑いかけた。
「まさか。そんなことはないわ。ルカさん。一緒に楽しんできましょう。」
彼女の用意はもう万全。完璧な踊り子スタイルは見るものの息を飲ませずにはいられない魅力がある。
エスメラルダは青年、ルカの前にスッと手を差し出した。
意味を察し、ルカは恭しくその手をとる。優雅にエスコートする仕草はなかなかのものだ。
幼い頃からの教育の賜物だろうか。

「あなたは、どうして参加してくれる気になったの?」
歩きながらエスメラルダはるかに問い掛けた。その言葉には言外の意味も込められているのをルカは感じた。
でも、とりあえずは、素直に答える。
「ハローウィンなんて異国のイベント。こんな時でもないと体験することは出来ないからな。俺は自分の見聞を深めることこそ本懐。さらに、タダメシが食える。これ以上の暇つぶしは無い。」
とりあえずは表向きの真っ当な答え。エスメラルダはくすっ、っと小さく笑って前を向いた。
「そういうあんたはどうなんだ?悪戯好きを集めていったい何をする気かな?」
「それは、後でのお楽しみ♪あなたは、あなたが楽しいようにやればいいわ。」
自分の考えを見透かされたような気がして、ルカの足が一瞬止まる。
「どうしたの?早く行きましょうよ。」
「ああ、今行く。」
(ひょっとしたら、自分よりそうとう上手なのかも…。)
エスメラルダの底知れなさを感じながら、彼はそれでも、自分の目的を果たすべく、白山羊亭へと向かって行った。

●ハローウィンパーティ

白山羊亭についた彼らを巨大なカボチャが出迎える。
「げっ?なんだこりゃ。」
中身をくり抜かれ、顔が描かれた巨大カボチャをルカは軽く蹴り飛ばした。
「いでっ。」
思ったより硬く、足は跳ね返される。
小さな声を上げた彼の声が聞こえたのか、厨房からルディアが駆け出してきた。
「あ、エスメラルダさん、お客さんもいらっしゃい。」
「こんばんは、ルディア。あら、モンスターの仮装は止めたの?」
「ええ、お客さん達がいろいろ仮装してきてくれたから、私はお手伝いと準備に専念します。
お客さん、そちらへどうぞ。もう始まりますよ。」
ルディアに促され、ルカは会場に入った。屋上を利用した会場は、まだ、うっすらと日の光を残している。
吊るされたたくさんのカンテラが、柔らかい光を放ち、いまや遅しと始まりを待っている感じだ。
「Trick or Treat〜〜!」
「ん?」
足元に小さな子供がやってきていた。シーツをかぶりお化けのような仕草をする。
(確か、お菓子をくれなきゃいたずらするぞ。だったか?)
テーブルの上の焼き菓子を一つ取って、無造作に渡す。
「どうも〜〜。」
明るい声で去っていく『お化け』を見送りつつ、ルカは周りを見回した。
改めて見てみると、いろいろな仮装をしているものが多い。特に怪物、妖精、魔物関係が多い。
色違いの魔女の装束を身につけている少女がいるかと思えば、人獣の耳や尻尾を付けているものもいる。
それぞれが、怪物に化け、祭りを楽しむのがハローウィンである。そいうえば、玄関のカボチャも一応ジャック・オ・ランターンというお化けなのだ。
(ふっ。そんなにお化けに会いたいのなら、合わせてやるとするか。)
そんなことを考えながらルカは本格的に始まり始めたパーティを、自分なりに「楽しく」してやろうと心に決めたのだった。

●百鬼夜行?

会場の端にしつけられた簡易ステージでは、芸人達の余興が始まったようだ。
吟遊詩人が竪琴を奏でるかと思えば、子供の芸人がジャグリングや手品を始める。
空に舞ったキャンディが、ゆっくりと落ちてくるのはなかなかの腕前だと、ルカは思った。
一個キャッチしてポケットに入れる。
さて、どうするか。自分も舞台に出て本業の見世物をやってみせてもかまわない。
だが、これからやることを考えれば、あまり表に出ないほうがいいだろう。
ルカはとりあえず、舞台をスルーすると、こっそり準備に入った。
幻術と召喚術のコンボでいいだろう。人々が舞台に夢中になっている隙に、ルカは、そっと人々の化けた怪物の影を幻へと映した。
影から、影へ、生まれた幻たちを、そっと人々の間に放つ。
そして、とっておきは…玄関のアレだ。
「よくもさっきは、痛い目に合わせてくれたな。」
カボチャが聞いたら濡れ衣だ、と主張するかもしれない。
でも、彼は主張する事ができなかった。結果、ルカのなされるままに変身することとなったのだ。
「準備はOK、さあ、ショータイムの始まりだ!」
パチン!
小さく鳴った音が、始まりを合図する。それから、彼はおもむろに食事を始めた。
あくまで自分は無関係と、言うように。
その頃、観客の間には悲鳴が響き渡り始めていた。
「えっ?私が二人?」「ちょ、ちょっとくすぐったい。止めて!!」「な、なに?消えた。どうして?」
魑魅魍魎、阿鼻叫喚、というにはちょっとほのぼのだが、突然現れた幻影たちに、人々は確かに浮き足立っている。
召喚した小妖精たちも、いい仕事をしているようだ。
(ふふっ面白いな人々の驚く顔は、いつ見ても。さて、そろそろメインイベント…)
皿を置き立ち上がると、ルカは一際大きく指を鳴らした。
バチン!
音と同時に件のカボチャが、動き始める。カボチャに、手が這え、足が生えまるで、命があるかのように…。
(さあ、行け!精霊の命を借りて動け!作られた妖怪よ!)
カボチャはテーブルから飛び降りる。ドスン!!机がゆれ、グラスが割れた。
(?しまった。店を壊すのはヤバイか!)
魔法を解除しようかと思っているうちにみし、みし、みしっ!!音と共にカボチャはどんどんと巨大化していく。
「キャアア!!」
人々の悲鳴がさらに巨大になる。
「まずいっ!」
カボチャを止めようと、誰かが、フリーズ魔法を放とうとしたその時!

シャラ〜ン!!

澄んだ鈴の音が響き渡る。
全員の視線がそちらに向いた隙にルカはすべての幻を解除する。すべては一瞬で消えうせた。
カボチャも、動いたのが夢のように玄関に鎮座した。
(ふうっ〜〜。)
息をついたとき、鈴の音の方に、皆の顔が移った。ルカには解っていた。そこには踊りの衣装を身に纏ったエスメラルダがいた。
「さすが、ハローウィン。幻や、妖精たちもパーティにやってきたのね。」
彼女の眼が、誰かを見て微笑んだが、それが誰だったのかは彼らには解らない。
「今宵はひと時、夢の時。今度は私の舞で夢を見て頂戴。」
ワアッ!!悲鳴は歓声に変わった。当代一といわれる舞姫エスメラルダの舞だ。
吟遊詩人が、進んで軽快な曲を奏で始めた。その音に合わせてエスメラルダが踊る。
その踊りはまるで、人々の心から不安を注ぎ、未来を夢見させる。そんな不思議な力を持っていたようだ。
いつしか、誰からとも無く手拍子が生まれ、歌が歌われ、果てることなく続いていた。

●エスメラルダの策略

時がハローウィンの終わりを告げ、白山羊亭の人々はそれぞれに帰っていく。
ルカは帰り道もしっかりとエスメラルダをエスコートする。
白山羊亭はもう終いでも、黒山羊亭はこれからが本番、飲みなおしでもしようかと彼女は言った。
断る筋も無く、ルカは黒山羊亭へと足を運んだ。
帰り道、ルカはエスメラルダに、そっと問い掛ける。
「エスメラルダ、ひょっとして、今回のことは…。」
「ふふっ、そうかもしれないわね。」
彼女の何かを湛えた笑みに、ルカはおそらく自分の想像が正しいであろうことを想像しため息をついた。
(女は怖い。怪物よりも、お化けよりもな。)
だが、ルカはそれなりに満足していた。
人々と関わり、タダメシを食べ、異国の文化を体験し、そして、思う存分力を使って、そしてエスメラルダの舞を見た。
ホントは、ちょと反省くらいすべきなのだろうが…。
「まあ、結局のところ、自分が満足すればそれで良しだ。」
時間を潰したかいは、あったというものだ。
(いつか、あの祭りの本物を見てみたいものだ。)
彼は、そう思いながらまた彼の居場所。
黒山羊亭の扉を開けたのだっだ。エスメラルダの後に続いて…

●蛇足

その後白山羊亭も、黒山羊亭も大幅に顧客を増やしていた。
白山羊亭は、料理もさることながら「巨大カボチャとお化けに出会える場所」ということで。
黒山羊亭には、今まで敬遠していた女子供の客が、エスメラルダの舞を見に。
あのパーティの赤字を埋めてなお、余りあるほどに。

不況を吹き飛ばすハローウィンパーティは彼女達にとっては大成功だったようである。

だが、その理由を知る者は、彼女達のほかには、もう一人しかいなかった。

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■   登場人物                  ■
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【 1490/ ルカ/ 男 /24歳  /万屋 兼 見世物屋) 】


 公式NPC ルディア・カナーズ
       エスメラルダ

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■         ライター通信          ■
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夢村まどかです。
今回はハローウィンパーティにご参加くださりありがとうございます。

黒山羊亭からのご参加は今回はお一人ですが、的確な能力で、的確に遊んでくださり感謝しています。
口調や遊び方などを上手く表現できましたでしょうか?
読み取りきれないところがありましたらお許しください。

所々、白山羊亭からのご参加者のプレイングを交えさせて頂きました。
(向うは今回三人でした^^;)
こちらからの動きも向うに少し入れさせていただく予定です。
ご了承ください。

31日には少し早いですが、諸所の事情により。
では、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
またお会いできますことを楽しみに。
ありがとうございました。