<PCクエストノベル(1人)>


書物を求めて

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【 冒険者一覧 】
【 整理番号 / PC名 / 性別 
             / 種族 / 年齢 / クラス 】
【 1514 / シェアラウィーセ・オーキッド / 女
        / 亜人(亜神) / 184 / 織物師 】

【その他登場人物】
【 NPC / カラヤン・ファルディナス / 男 】
【 NPC / ルシアン・ファルディナス / 男 】

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●きっかけは1冊の書物【0】
 書物が所狭しと並んだ本棚で四方を囲まれた部屋――書斎。この部屋の静寂な空気は、1人の女性が入ってきたことによって破られた。
 この書斎の主である女性――シェアラウィーセ・オーキッドの足音がコツコツと響く。そしてシェアラウィーセは、本棚から1冊の書物を取り出そうとした。
 背表紙に記された書名から察するに、魔道の入門書のようである。何度となく読まれているのだろう、表紙裏表紙ともにそれなりにくたびれていた。しかし……。
シェアラウィーセ:「あ」
 シェアラウィーセがその書物をすっと引き抜いた瞬間、装丁がバラバラになり、中のページが辺りにバサリと散らばった。ふう、と溜息を吐くシェアラウィーセ。
シェアラウィーセ:「……何度も読んだからな」
 そうつぶやき、シェアラウィーセは床に散らばったページを拾い集めた。バラバラになったとはいえ、内容が読めなくなった訳ではないのだから。
シェアラウィーセ:「この本はお役目ご免だな」
 拾い集めたページ、そして本棚へ残っていたページを一まとめにし、シェアラウィーセは書物としての体裁を失ったその書物を目を細めて見つめた。
シェアラウィーセ:「しかし……」
 それからぐるりと四方の本棚を見回すシェアラウィーセ。本棚には魔道に関する書物のみならず、機織の技術や染色に関する書物、その他雑多な書物が分類されて並んでいる。
シェアラウィーセ:「読み尽くしてしまったな」
 シェアラウィーセはどうしたものかという表情を浮かべた。今の出来事を契機に改めて思ったのだが、この書斎にある書物はほぼ全部複数回読んでしまっているのである。
 多い物になると、それこそ100を越えるか越えないか。恐らくはバラバラになった書物など、そのくらいいっているはずだ。
シェアラウィーセ:「書物がある所……といっても、めぼしい場所は行き尽くしたし」
 シェアラウィーセの脳裏に、様々な場所が浮かんでは消えていく。ギルドや学校などにある閲覧許可の得られし書物も、ここにあるのと同様にほぼ目を通してしまっていたからだ。書斎より頻繁ではないものの、やはり複数回。
 いや、すでに得て自分の物とした知識などを復習することも嫌いではないし、それはそれで十分に暇を潰すことが出来る。
 だが新たな刺激を求めるのは、ある意味生きし者の性である。時折そのような気分になっても、何ら不思議な話ではない。
 この場合、シェアラウィーセにとって新たな刺激とは、未見の書物に触れることである。しかしそのような書物のある場所が、そう簡単に見付かるはずがない。
シェアラウィーセ:「そうだ、あそこなら……」
 何かを思い出した様子のシェアラウィーセ。どうやらそう簡単に見付かったようだ。
シェアラウィーセ:「……遠見の塔に行くか」
 遠見の塔――それは賢者と噂されるファルディナス兄弟の住む、白亜の塔である。場所は聖都エルザードより南西方向、それなりの距離があった。
 確かにそこであるならば、未見の書物が数多く存在しているかもしれない。シェアラウィーセは、遠見の塔に思いを馳せた。

●いざ、遠見の塔へ【1】
シェアラウィーセ:「あれが遠見の塔か」
 数日後、旅装束に身を包んだシェアラウィーセは、件の遠見の塔の手前までやってきていた。
 その装いはアオザイに外套、背には旅の必需品だと言える入った口を絞る形のリュック、そして手には先が三つ爪で手のひら大のアメジストの球体を付けた細い黒のロッド。いかにもらしい装いであった。
 ちなみにロッドの長さはおおよそ150センチほど。シェアラウィーセの方がだいたい頭1つ分に少し足らないくらい高かった。
 ここへ来るまで、トラブルは皆無であった。途中までは成り行き上、ハルフ村へ向かうキャラバンの一隊と同行することになって、街道が分岐する所まで馬車に乗せてもらえることが出来た。キャラバンと別れた後も、野盗や怪物などの襲撃もなく、旅は平穏そのものであった。
 シェアラウィーセはしっかりとした足取りで、遠見の塔へ近付いていった。周囲に何か仕掛けられているといった様子はない。結局何事もなく、シェアラウィーセは塔の門の前に到着した。
 門は一見変哲のないようにも見えるが、複雑な紋様が細かく刻まれていた。何らかの魔力が秘められていることを、シェアラウィーセは見て感じ取った。
シェアラウィーセ:「シェアラという。邪魔するぞ」
 すぅ、と軽く息を吸ってからきっぱりはっきりと告げるシェアラウィーセ。するとどうだ、目の前の門が自動的に開かれたではないか。
 シェアラウィーセが塔の中へすたすたと入ると、開かれた時と同様に自動的に門が閉じられた。
シェアラウィーセ:「来訪者を認識する魔法がかかっているんだろう」
 冷静に分析するシェアラウィーセ。このような魔法の存在はあいにく知らない。もしかすると、未見の書物の中にその類の魔法が記されているのかもしれない。だとすれば、書物の内容には期待が持てる。
 さて塔の中だが、いわゆるエントランス部分は非常に狭かった。それもそのはず、上へと続く螺旋階段の入口しかそこにはなかったのだから。
シェアラウィーセ:「……昇るしかないか」
 螺旋階段へ足を踏み入れるシェアラウィーセ。ともあれ、ファルディナス兄弟に会わないことには話にならない。選択の余地はなかった。
 ぐるぐるぐる……と、シェアラウィーセは黙々と螺旋階段を昇っていった。けれども、一向に次の階が見える気配がない。目の前に続くのは階段、階段、また階段、これでもかというほどに階段であった。
シェアラウィーセ:「退屈だ」
 ふと足を止め、シェアラウィーセがぽつりつぶやいた。そしておもむろに、背のリュックから1冊の書物を取り出す。それは補修が施された、あのバラバラになった魔道の入門書だった。
シェアラウィーセ:「暇な時はこれに限る」
 そう言い静かに書物を開くと、シェアラウィーセは読みながらまた螺旋階段を昇り始めた。
 螺旋階段がどこまで続くのか分からないのだ。ならば、初歩の魔道から復習するのが有意義というものである。
 それからどのくらい昇り続けただろう。魔道の入門書を間もなく読み終えようかという頃になり――ようやく螺旋階段は終わりを告げた。鉄の扉が待っていたのだ。
 そしてその前に立っていたのは、黒髪に眼鏡の穏やかな笑顔を称えた秀麗な青年と、明るい金髪に青い瞳の活発そうな少年だった。

●出迎えられし者、出迎えし者たち【2】
カラヤン:「ようこそ、遠見の塔へ」
 黒髪の青年が笑顔でシェアラウィーセを出迎える。書物から顔を上げ、シェアラウィーセは青年に問いかけた。
シェアラウィーセ:「……ファルディナス兄弟か? 私は……」
 門の前で名乗ったように、シェアラウィーセは再び名乗ろうとした。が、それより早く青年が口を開いた。
カラヤン:「知っています、シェアラさんでしたね。私はカラヤン・ファルディナス。そしてこちらが弟の……」
ルシアン:「ルシアン・ファルディナスだよ!」
 少年が元気よく答えた。しかしそれだけでは終わらない。
ルシアン:「はい、さっそくだけど質問! 何でこの塔へやってきたの? その目的を達成するためには、他の場所ではいけなかったの? 目的を達成してからは、どうするつもりなの? それから……」
 ルシアンが矢継早に質問を浴びせてくる。シェアラウィーセはそれら質問に、1つ1つきちんと答えていった。
カラヤン:「なるほど。どうやらあなたを招き入れたことは、間違っていなかったようです」
 全ての質問の答えを聞き終え、カラヤンが静かに言った。そして鉄の扉を開け、奥へと歩き出す。
ルシアン:「ようこそ、遠見の塔へ! 改めて歓迎するよ、シェアラさん!」
 そう言い、ルシアンが奥へとシェアラウィーセを招き入れる。そこはファルディナス兄弟の居住空間であった。
ルシアン:「こっちだよ!」
 すたすた歩いてゆくカラヤンを追いかけ、ルシアンが続く。シェアラウィーセも導かれるようにその後を歩いてゆく。
 やがてファルディナス兄弟は、とある部屋の前で足を止めた。
カラヤン:「あなたの求める物は、ここにあります」
 くるっと振り返り、シェアラウィーセに告げるカラヤン。
ルシアン:「入ってみたら?」
 促すルシアン。言われるまま、シェアラウィーセは扉を開けて中へ入ってみた。
シェアラウィーセ:「これは……」
 言葉を失うシェアラウィーセ。中には想像通り、いや想像以上の広大な書斎があったからである。
 中央には天球が置かれていた。無論、書物の数も尋常ではない。読み切るには膨大な時間が必要とされるのは明白だ。
カラヤン:「どうぞ心行くまで読んでください。語り合うのは、それからということにしましょう」
ルシアン:「分類はされているから、必要な書物は探しやすいと思うよ」
 ファルディナス兄弟はそう言い残し、書斎の扉を静かに閉めた。残されたのはシェアラウィーセただ1人。
シェアラウィーセ:「……よし」
 シェアラウィーセは何か納得したように頷くと、荷物を置いて書物の並んだ本棚の1つへさっそく向かっていった。
 まずは魔法に関する書物を、次に機織の技術や染色に関しての書物を本棚から引っ張り出し、次から次へと読みあさってゆくシェアラウィーセ。
シェアラウィーセ:「そうか、さっきの門の魔法はこれなのか。興味深いな……」
 それこそ寝食を忘れて読み耽りそうな勢いで――。

●書物ゆえ、文字通りに【3】
 3日後、ルシアンが書斎の扉を開いた。
ルシアン:「シェアラさん、どうで……に、兄さん!? カラヤン兄さん! シェアラさんが!!」
 慌ててカラヤンを呼ぶルシアン。というのも、書斎の中でシェアラウィーセが倒れていたからである。開かれた書物をしっかと握り、うつ伏せの体勢で。傍らには、大量の書物が積まれていた。
 はて、どうしてそんなことになったのか。
 実はシェアラウィーセ、本当に『文字通り』寝食を忘れて読み耽っていたのだ。3日間も飲まず食わず眠らずだと、限界が来るのも当然な話だ。
 けれども書物を手放していない辺り、実にシェアラウィーセらしい。ただし無茶は程々に……。

【書物を求めて おしまい】