<PCクエストノベル(1人)>


書物に触れて

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【 冒険者一覧 】
【 整理番号 / PC名 / 性別 
             / 種族 / 年齢 / クラス 】
【 1514 / シェアラウィーセ・オーキッド / 女
        / 亜人(亜神) / 184 / 織物師 】

【その他登場人物】
【 NPC / カラヤン・ファルディナス / 男 】
【 NPC / ルシアン・ファルディナス / 男 】

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●ここまでの経緯【0】
 シェアラウィーセ・オーキッドは未見の書物に触れるべく、聖都エルザードより南西方向へ遠く離れた遠見の塔と呼ばれる所へ来ていた。賢者と噂されるファルディナス兄弟の住む、白亜の塔である。
 カラヤンとルシアン、兄弟両名との面会を終えたシェアラウィーセは、自らの望み通りに膨大な未見の書物と触れ合うことが出来た。それこそ、寝食を忘れるがごとくの勢いで。
 しかし、シェアラウィーセは本当に『文字通り』寝食を忘れて書物に読み耽っていたのである。その結果、3日後に書斎で倒れている所をファルディナス兄弟に発見されたのだった。
 倒れても書物を手放していない辺り、実にシェアラウィーセらしいと言えるのだが……。

●無理は禁物、無茶厳禁【1】
シェアラウィーセ:「心配掛けた、すまない」
 意識を取り戻したシェアラウィーセの第一声は、心配顔で自分を見つめているファルディナス兄弟への謝罪の言葉だった。
 兄弟が運んでくれたのか、今のシェアラウィーセは書斎とは別の部屋に寝かされていた。が、その手には決して放そうとしなかった書物が握られていた。
ルシアン:「びっくりしたよ、本当に」
 溜息を吐くルシアン。そりゃあ、びっくりもするだろう。書斎を覗けば、シェアラウィーセがぴくりとも動かず倒れていたのだから。ルシアンが書斎を覗かなければ、発見はさらに遅くなっていたことだろう。
カラヤン:「知識に触れること、それ自体はよいことなんですが」
 カラヤンはそう前置きしてから苦笑いを浮かべ、言葉を続けた。
カラヤン:「度が過ぎると毒です、何事も。無茶はいけませんよ」
 口調は強くない。むしろ優し気だ。だが釘を刺されていることには違いがない。シェアラウィーセは自然と肩を竦めていた。
シェアラウィーセ:「……すまない」
 再度謝るシェアラウィーセ。カラヤンの言う通り、無茶したシェアラウィーセとしては反論の余地もない。
シェアラウィーセ:「反省しなければな。でも……」
カラヤン:「でも?」
シェアラウィーセ:「また懲りずにやるだろうな」
 そう言い、シェアラウィーセは苦笑した。己のことは、己がよく分かっているのだ。
カラヤン:「くれぐれも、無理のないペースで」
シェアラウィーセ:「分かっている」
 カラヤンの言葉に、シェアラウィーセはこくっと頷いた。
ルシアン:「お待たせ! いきなり固形物はあれだから……温かいスープを持ってきたよ!」
 いつの間にか、ルシアンが木の器に温かいスープを注いで持ってきてくれていた。
シェアラウィーセ:「ありがとう」
 礼を言い、木の器と木のスプーンを受け取るシェアラウィーセ。そして、温かいスープを口の中へ運んだ。
 スープは野菜などがどろどろに溶けていて、無理なくシェアラウィーセの体内へと滑り込んでいった。
シェアラウィーセ:「……身体に染み入るな……」
 ほう……っと息を吐き出しながら、シェアラウィーセがつぶやいた。染み入ったのがスープであるのか、それともファルディナス兄弟の心遣いであるのか、言葉からは判断出来ない。が、恐らくはその両方であるのだろう。
 ファルディナス兄弟は、そんなシェアラウィーセの様子をにこにこと見守っていた。

●ご利用は計画的に【2】
 さて――その日1日を休養に当てたシェアラウィーセだったが、翌日にはまた書斎へ戻っていた。
 さすがに昨日の今日なので、無茶はしない。予め無理ない予定を立ててから、膨大な書物に取りかかっていた。
 何しろ、興味を惹かれる書物が有り過ぎるのだ。だから片っ端から読んでゆくと、同じことになるのは目に見えている。なので、今日はこの分野、明日はあの分野というように、分野を絞って読み進めることにしたのである。
シェアラウィーセ:「今日は魔法の分野にしよう……」
 と言って、魔法に関する書物が並んでいる本棚へ向かうシェアラウィーセ。分野を絞ったとはいえ、それでも書物の数が多いことには違いがない。
 結局、朝昼晩とさらに細かく絞って読み進めることを、シェアラウィーセは余儀無くされたのであった。しかし不思議なことに、書物を読み進める速度自体は倒れる前よりも速くなっていた。
シェアラウィーセ:(不思議だ。さくさくと頭に入ってくるな)
 恐らく、時間帯によってより細かく分野を絞り込んだことによって、集中力が増したのであろう。1ページでも多く読もうとすべく。
 もちろん各時間帯の間には休息と食事を挟み、寝るべき頃合には素直に眠ることを心掛けた。倒れることのないように。
 そしてファルディナス兄弟も何かにつけ、シェアラウィーセの様子を気にかけてくれていた。
カラヤン:「どうですかシェアラさん。無理はしていませんか?」
シェアラウィーセ:「大丈夫。無理はしていない」
ルシアン:「シェアラさん、この野菜食べてごらんよ! 疲れた時にはいいんだよ」
シェアラウィーセ:「そうなのか。では、後でいただくとしよう」
 というように、シェアラウィーセはファルディナス兄弟と1日に何度となく顔を合わせていた。
 こうしてシェアラウィーセは、初めに知りたかった各分野――魔法分野・素材特性を含む機織技術分野・染色を含む色彩分野など――の書物に、3日間かけて触れていったのである。

●約束【3】
 シェアラウィーセが遠見の塔へ来て、1週間ほどが過ぎた。初めの目的はひとまず達成していた。他に興味を惹かれる書物も多数あるが、それらに手を出していてはそれこそきりがない。
 それにエルザードを発ってから、すでに10日以上経っている。もしかすると、誰かがシェアラウィーセの帰りを待ちわびているかもしれない。
 こういったこともあり、シェアラウィーセはエルザードへと戻ることを決意した。シェアラウィーセは荷物をまとめると、ファルディナス兄弟に別れの挨拶をしに向かった。
シェアラウィーセ:「話があるのだが……」
カラヤン:「言わなくとも分かります。戻られるのですね」
 穏やかな微笑みを浮かべたカラヤンが、表情を変えぬシェアラウィーセに言った。
シェアラウィーセ:「…………」
ルシアン:「そうか、帰っちゃうんだ……。そうだよね、帰らなくちゃならない場所があるんだから」
 シェアラウィーセは無言で頷くと、ルシアンが少し寂し気な笑みを浮かべた。
シェアラウィーセ:「本当に世話になった。深く感謝している。それで……これは少々勝手な願いなのかもしれないが」
カラヤン:「何でしょう?」
シェアラウィーセ:「……この塔が在り続ける限り、また来ても良いか?」
カラヤン:「当たり前じゃないですか」
 にっこり笑顔で、カラヤンがきっぱりと答えた。
ルシアン:「そうだよ! いつ来ても歓迎するよ!」
 ルシアンも兄同様、笑顔でシェアラウィーセに言った。
シェアラウィーセ:「ありがとう……」
 ファルディナス兄弟に礼を言うシェアラウィーセの顔に、僅かに笑みが浮かんだ。
 そしてシェアラウィーセは、カラヤンとルシアン両者と固く手を握り合って再会の約束を交わしたのだった――。

【書物に触れて おしまい】