<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>


PARTY!PARTY!!

「るるる〜♪ラ〜ラルルリ〜」
賑わう夜のベルファ通りのすぐ側にある建物の地下。
地下室の天井近くにある小さな窓から差し込む店々の明りとテーブルの上に置かれたランプの明りの中、1人の男が実に楽しそうに鼻歌を歌い、何か作っていた。
「ふふ〜ん♪でっきたっと。我ながら、中々の出来ですね」
男は作り上げたカードを掲げ、満足気に眺めた。
「ふふふ……愉しんでくれるといいですねぇ」
薄く笑んだ男の手の中のカードは綺麗に装飾され、招待状と書かれていた。
その招待状が届いた先はエルザード城、騎士団。
カードにはカラフルなインクを使い、こう書かれていた。

『PARTYへのご招待』
まずは、HAPPY NEW YEAR!
今年はどんな年になるか、楽しみですね。

私は仕事初めとして、町のニューイヤーパーティーが行われる日
 金の羽ペン
 満月のネックレス
 ユニコーンの金貨
を頂きに上がります。
ですから、楽しいパーティーの準備お願いしますね。
楽しみに待っています・・・

          ギニー・フルト


「おのれぇ・・・ヌケヌケとこんなものをよこしおって〜」
騎士団の団長はカードを握り締めると、額に青筋を立てながら怒鳴った。
「このようなふざけた輩に我らの力を思い知らせるのだ!良いな!!」
怒声に呼応し、騎士団員は鬨の声を上げた。
その様子を見ていたエルファリアは少し考えると、その場を後にした。
この事を冒険者たちに伝え、協力者をあおぐ為に・・・


■頼もしき戦士
「騎士団長が怒るのも、もっともだな。しかし、どうせ子供の悪戯。騎士団が本気で対応する必要はないと思うぜ」
多腕族の戦士・シグルマはエルファリアにそう言った。
「そうでしょうか?」
「そうそう。だから、ここは俺に任せてくれないか。俺の腕は知ってるだろ?」
不安気な表情をしているエルファリアに腕のひとつを曲げて、力瘤を見せ不敵に笑う。
「いたずらの過ぎる悪い子は剣と斧で三枚におろして、鉄球と鉄槌でタタキにして酒のつまみにしておくから」
「いえ、そこまでする事はありませんから」
今度は困ったように笑むエルファリアはしばらく思案した後に、頷いた。
「では、ここはシグルマさんに頼もうかしら」
「おう、任しときなって。それに、新年早々町中に騎士団がウヨウヨいちゃせまっ苦しいからな」
「それもそうかもしれませんわね」
微笑んだ彼女にシグルマは立ち上がった。
「んじゃま、さっさと行って来るか」
「お願いしますわ」
同じく立ち上がり、言ったエルファリアにシグルマは笑顔で後ろ手に手を振り、街へと出た。

■ニュー・イヤー・パーティー
街は今、賑わっていた。
広場は野外のダンス会場に変わり、様々な出店からは威勢の良い掛け声。
道行く人々は思い思いに仮装をして楽しんでいる。
そんな人込みの中、シグルマは大きな体を器用に人並みを進む。
大通りからひとつ小道に入ると、極端に人の数は減り、シグルマは息を吐いた。
「ふぅ……さってと、まずはここだな」
エルファリアに教えてもらった被害者になるであろう家その一の前に立ち、見上げた。
立派な建物だった。
さすが、エルザードでも一、二を争う大富豪の家だ。
シグルマは無造作に門を開け、敷地内へ入っていく。
「何者だ」
玄関の大きな豪勢なつくりの扉へと向かっていたシグルマに声が聞え、立ち止まった。
「別に怪しいもんじゃねぇよ」
「ふん、わかるものか。自分で怪しいなんぞ言う奴がいるか?」
「そう言われれば、言わねぇな」
振り返りながら言ったシグルマは、手にハサミを持ち立つまるで針金のような印象を与える老人を見た。
彼がこの家の主だ。
「あんた、ギニー・フルトって知っているか?」
「ギニー? ……いや、知らないが。それがどうした」
「あんたの満月のネックレス、狙われてるぜ」
シグルマは騎士団に宛てて送られてきたカードの事を話し、実際にそのカードを見せた。
そして、騎士団の代わりに冒険者である自分が犯人を捕まえる為に来たという事を告げると、老人は鋭い眼つきでカードとシグルマとを交互に見ていたが、カードをシグルマに返した。
「お前さん一人でか?」
「そうだ。ま、任せときなって。ちょっと他とは違う安全な隠し場所もあるしな」
そう言い、白虎模様の鎧の上から腹の辺りをぽん、と軽く叩く。
「俺が信じられないかい?俺の身元はエルファリア王女がしてくれる。それじゃダメか?」
エルファリア、という名前に警戒していた老人は鼻息一つ鳴らすと玄関に向かい、歩き出した。
「一応はあんたを信用するがな、満月のネックレスが戻ってこなかった時はあんたに弁償してもらうぞ」
「了解、了解」
招き入れられたシグルマは老人の後に続き、一階一番奥の小さな、だが頑丈そうな扉をくぐった。
「ほぅ……」
部屋の中は片側に大きな備え付けの本棚には高価そうな本がずらりと並び、机の上には花瓶に鷹の置物。そして、本棚の反対側にはセンス良く絵画や宝石箱が並べられていた。
がさつと言われる冒険者で、良い物の価値などちゃんとは分からないシグルマでも、この部屋の雰囲気は気に入っていた。
無駄に豪華でなく、それでいてさり気ない贅沢さが良かった。
老人は宝石箱のひとつを取り出し、机の上に置く。
「……やれやれ。これが狙われるとはな」
蓋を開けると、中には大粒のダイヤがはめ込まれたプラチナのネックレスが静かに輝いている。
まるで、小さな満月をそこにはめ込んだようだ。
「はぁ〜こりゃまたすごいな」
「……変な気を起すんじゃないぞ」
じろり、と睨んだ老人に苦笑しシグルマはネックレスを手に取った。
「んじゃ、ま、預からせてもらうぜ」
そう言うなり、シグルマは大きく口を開け、そのままネックレスを飲み込んだ。
「お、おい、貴様! 何をする!?」
慌てふためく老人の前で、ひとつげっぷをすると不敵に笑った。
「何、終わったらちゃんと吐き出してやるよ」
「……そう言う事じゃあ無いだろうが」
何とも言えぬ嫌そうな顔をし、だが諦めたのか力なく大きな溜息をついた。
「まったく……まぁ、いい。頼んだぞ」
「おうよ。心配すんなって。洗って返すから」
「当たり前だ!」
怒鳴った老人に苦笑しつつ、シグルマは富豪邸を後にした。

■PARTY♪
二件目は良い噂を聞かない、随分とあくどい商売をしている男だった。
彼が持っていたのはユニコーンの金貨。
その量は数十枚程度で、シグルマが軽々と飲み込めるのだが、相手がなかなかうんとは言わなかった。
説得というのは性に合わないシグルマだが、宥めたり半分脅したりとしながら、なんとかようやく金貨を預かる事を承諾させたのだ。
流石に彼が金貨を飲み込んだ時は唖然とし、次には怒りに怒っていたが……
残るは金の羽ペン。
羽ペンの持ち主はエルザードの文芸評論家とも言うべき有名な美術家で、古美術の商売もしている人物だ。
すっかり辺りは暗くなり、ニュー・イヤー・パーティーも最高潮に盛り上がっている。
美術家の家は大通り沿いの賑やかな場所に建っていた。
シグルマが訪れた時、相手はとても迷惑そうな顔をしていたが、しぶしぶシグルマを中へ通した。
「……せっかくのニュー・イヤー・パーティーだというのに」
「そりゃこっちだって同じだぜ」
赤い足の長い絨毯が敷かれた長い廊下を歩きながら、シグルマは窓をみた。
カラフルな風船がいくつも窓を下から上へと横切っている。
「確かに、犯人から守ってくれるんだろうな?」
美術家は、先を歩きながらシグルマを振り返ろうともせずに訊いた。
「あぁ、任せとけよ」
シグルマも窓の方を向いたまま答える。
男は無言で一枚の扉の前に立ち止まると、鍵を取り出し開けた。
「随分と用心してるみたいだな」
「勿論だ。これでも、芸術的に価値があるものが多くてね」
そう言いながら、扉を開く。
薄暗い、ランプの燈っていない部屋には外からの祭りの光がぼんやりと差し込んでいる。
その中に立つ、一つの人影。
「誰だてめぇ!」
シグルマはとっさに声を出し、部屋に飛び込んで人影を掴まえようとした。
だが、そいつはひらりと一足飛びに後ろへ飛ぶと、器用に窓枠の上に立った。
「まったく、非常識な人もいたものだ。宝を飲み込むだなんて。コレを飲み込んだら、どうなるのか分かっているんですか?」
声は男だった。
男は手の中の細長い箱をシグルマに見せて、笑った、気がした。
「それは、金の羽ペン!」
美術家の叫びに、再びシグルマが動いた。
だが、シグルマの手がギニー・フルトの体を掴む前に彼の体は窓から外に出ていた。
「ちっ!」
視界から消えた男の姿に舌打ちし、シグルマは窓の下を見た。
窓の下には祭りで置いていたのか、それとも準備されていたのか分からないが、大きな分厚いクッションのような中に空気と水を半分づつ入れたものがあった。
突然降って来た人に、それで遊んでいた人が呆然と見ている中、ギニー・フルトは地面に降り雑踏の中を走り出した。
シグルマも窓枠を越えた。
ばすん、と鈍い音と衝撃が来たがシグルマにとってはどうという事は無く、不安定なクッションの上を降りてすぐさまギニーの後を追った。
だが、祭りの人の多さは半端じゃない。
なんとか見失わないではいるものの、体格の差でだんだん距離を離されている。
「ちっ。誰か、そいつを捕まえろ! 黒い燕尾服もどきにシルクハットを被った男だ」
冒険者の大きな声は雑踏の中でも良く通った。
途端に人々がなんだ、なんだと騒ぎ出す。
「あ、アイツだ。掴まえろ!」
叫んだのは酒を飲んでいた中年の男。白山羊亭でも良く見かける男だった。
シグルマは男に軽く手を上げ、ギニーを見た。
事態に気づいた人間の捕縛の手は、だが寸前でギニーには届かない。
それでも、状況はシグルマに有利だった。
ギニー・フルトは天使の広場のダンス会場に追い込まれた。
人込みを抜けたギニーとシグルマは立ち止まった。
二人を囲むように、野次馬が見ている。
「やれやれ……随分と貴方は顔が広いようですね」
「まぁな。酒場の連中はダチみたいなもんだからな」
ギニー・フルトはゆっくりシグルマを振り返った。
明るい光の中で、シグルマはやっと相手の顔を見た。
白い肌に朱色の髪。同じ、朱色の深い瞳は今は黒い色付き眼鏡に隠されている。
端整な顔立ちだと、シグルマは思った。
「さぁ、そいつを返しな。今だったら騎士団に突き出すのは止めてやる」
だが、男は聞いていないように顔を少し夜空へと向けると微笑んだ。
「まったく……折角、騎士団の皆さんと楽しもうと思ったのに。残念ですねぇ」
「おい、聞いているのか?」
「そちらこそ、飲み込んだものを吐き出して貰えませんか?」
ギニーは顔をシグルマに向けて言った。
「生憎だが、俺を倒さないと手には入らないぜ」
にやり、と不敵に笑んで、シグルマは四本の腕にそれぞれもった武器を構えた。
無言で見ていたが、やがてギニーは笑い出す。
「何がおかしい?」
「ふふっ……いえ、楽しいですよ。実に。やっぱりゲームはこうでなくちゃいけませんよね」
ギニーは後ろ手に手を回し、サイと呼ばれる武器を取り出した。
「俺に勝てると思ってるのかっ!」
気合一閃。シグルマは一気に間合いを詰めると、金槌をギニーの体を狙い横に振るった。
ギニーは後ろへ逃げず、シグルマに向かって走った。
身を屈め、懐に入り込むように自分の体を沈めたギニーは下から両手のサイを突き上げる。
だが、それはシグルマの剣によって塞がれ、二人は睨みあう。
「やるじゃないか」
「貴方こそ。……では、これはどうですか!」
言うや、シグルマとギニーの間の空間で光と大きな音がはじけた。
突然の閃光爆竹に目を瞑ったシグルマはギニーのいた場所へ斧を振りおろす。
だが、手ごたえはない。
「コワイコワイ。貴方の力だと、私なんか豚のミンチのように潰れてしまいますよ」
笑いながら言ったギニーは噴水の上に立っていた。
素早い相手に、それでもシグルマは余裕の笑みを浮かべた。
「安心しろ、殺しはしないさ。後は騎士団にお前を連れて行くだけだからな」
その手の一つには金の羽ペンが入った細長い箱。
「……!」
「へへっ。泥棒からスルなんてな、俺もそっちの才能があるのかもな」
シグルマの言葉に、大きくだが短くギニーは息を吐き出した。
「まったく……本当に非常識な方だ。でも、面白い方だ」
「お前の負けだ。諦めろ」
一歩、シグルマは足を進めた。
「そうですね。今回は私の負けです。でも、次は……」
言いかけ、ギニーは一つの玉を地面に叩きつけた。
舞い上がるピンク色の煙と閃光。
「また、お会いしましょう」
ギニー・フルトの声が聞えた。
そして、破裂音が空からポン、ポンと響く。
夜空に上がった花火を見上げ、シグルマは苦笑した。
「次……か」
PARTYの夜はこうして更けていった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】

【0812/シグルマ/男/35歳/戦士】

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■         ライター通信          ■
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明けましておめでとう御座います。
旧年中は依頼ご参加、ありがとうございました。
今年もどうぞ宜しくお願いいたします。

そして、新年早々お届けが遅くなり申し訳ありません!
今年は皆様に期日より早くお届けする。を目標にしていきますので、
どうぞ見捨てないでください(汗)

では、本年がシグルマさんにとって笑顔と幸多き一年になりますように。