<PCクエストノベル(4人)>


☆雲のない晴れた海で〜 ☆
------------------------------------------------------------
【 冒険者一覧 】

【整理番号 / 名前 / クラス】
【 1076/ スパイク・ブルースカイズ / 便利屋】
【 0093/ スイ・マーナオ / 学者】
【 1170/ アンジェリカ/ 便利屋お手伝い】
【 1353/ 葉子・S・ミルノルソルン / 悪魔業+紅茶屋バイト】

------------------------------------------------------------

 ☆スカイブルー☆

 澄み切った青空を悠々と進む船。
 そこそこの大きさを誇る船体、揺れは酷かったが、速度ではなかなかと船長の自慢であった。
 いや、本当に揺れは酷いのである…。
 が、そんなことなど何のそので、船縁に佇む見た目なかなかのナイスガイがいる。

?:「うお〜っ、やっぱり海だろ、海っ!? 潮風に何処までも続く水平線、そして穏やかな青い空と白い雲。ん〜〜っ、これこそ男のロマンって奴だ」

 よく通る声も外見を裏切らず覇気があった。
 両手を広げて伸びをし、ぐるぐると肩を廻すこの男、名をスパイク・ブルースカイズという。通称――
 ――って、特に渾名らしきものは無かったか。
 職業は一応便利屋。
 そんな彼の背中越しに、

 ?:「随分と元気じゃねぇか…くっ、しかも妙に気分よさそうだし」

 口元を押さえながらの悪態。
 その聴き慣れた声にスパイクは振り返って応じた。

 スパイク:「いや〜、だって海は男の浪漫だろ?――しかも見渡す限りのブルースカイ!気持ち良いじゃねぇか、見ろよこの澄み切った青空と輝くばかりの太陽をっ! 早くこの青い海へと爽快なダイブを決めてみたいもんだ」

 普段は結構寡黙で通っているはずなのだが、大海原の開放感ゆえか…目の上に手をやり、眩しげに空を見上げるスパイクだった。

 ?:「くっ――、天候が良いわりには過剰なほど船が揺れてるぞ?」
 
 忌々しそうに唇を歪める相手、名はスイ・マーナオ。
 ――その容貌は極上の美少女。黙っていれば可憐な花、言い寄る男も数知れず、っぽいのだが、声が証明するように「彼女」ではなく「彼」であり。
 
 スパイク:「そりゃあ、仕方ないだろ?こいつは客船でも大型貨物船でもないんだし。そもそも、何であんたはノリが悪い?」
 スイ:「俺はお前よりもデリケートなんだよ、特にこういう揺れの酷い…うっ」
 
 またしても船の揺れに言葉を切ることとなるスイ。
 
 スパイク:「あ〜、船酔いかっ」
 スィ:「――っ、あのな、この顔色を見りゃ一目瞭然だろう?もっと早く気づけっ!…うっ」
 
 顔を顰めつつも悪態をつく彼に、スパイクが肩を竦めて苦笑する。
 船の揺れは――まあ、慣れないものには相当きついかもしれない。

 スパイク:「まあ、もう少しの辛抱だから…」
 スイ:「………」

 返事をするのも億劫に為ってきたのか、片手だけを上げて背を向ける彼。

 スパイク:「船室に戻るのか?」
 スイ:「………」
 
 無言で頷いてみせたスイであった。
 遠退く背中を見送って暫くすると、代わってスイと入れ替わるように船室から姿を現した人間が一人いる。その人物は甲板できょろきょろと辺りを見廻し、ふとスパイクを見つければタタタッと小走りに駆け寄ってきた。こちらは正真正銘の少女。スパイクの相方を務める(?)アンジェリカである。

 アンジェリカ:「あ〜、スパイク、やっぱりここに居たわね〜」
 
 微かに弾みを見せる少女の声は、船酔い中のスイとは対照的に明るかった。

 スパイク:「まあなっ、潮の香ってのが気に入ったのさ。お前は船酔いとか大丈夫なのか?」
 アンジェリカ:「全然平気〜」
 スパイク:「変なところで逞しい奴だ…」

 率直な感想は小声だったが、しっかりと少女の耳に届いたらしい。音も無くスパイクの脛にアンジェリカの蹴りがヒットした。

 スパイク:「――痛っ!? 何しやがる?」
 アンジェリカ:「女の子に向かって逞しいはないでしょう!」
 スパイク:「じゃあ、地獄耳で…」
 アンジェリカ:「〜〜っ、すぱいく〜アンジェリカに喧嘩売ってるでしょ?」

 さっきまでご機嫌な様子だったアンジェリカだったが、たった数秒で頬を膨らませたすね顔に変貌。スパイクはヒリヒリと傷む足に目をやりながら溜息をついた。

 スパイク:「あのなぁ? 何で逞しいって言っただけでそんなに怒るんだよ…おい?」
アンジェリカ:「変なって入ってたし、ニュアンスが違うもん」

 そんな二人の様子も傍目から見れば立派な痴話喧嘩に見えるのか、他の船員たちが遠巻きに眺めては笑っていた。が、気づかずに白熱するスパイクVSアンジェリカの舌戦。しまいにはちょっとした格闘戦(一方的にスパイクの受けだが)も始まる始末に。
 やがてギャラリーの中から一人、優男風の人物が近づき。

?:「はいはいお二人さん、その辺で終わりにしよう〜ご馳走様〜♪ まったく海の上に来てまでも、夫婦喧嘩とはネェ」

 俺妬ける〜とか何とか茶々を入れてくる。

 スパイク:「な、ふっ、夫婦だと?」
 アンジェリカ:「葉子ちゃん!? あっ、あぅ…」

 珍しく慌てたスパイクと、それに輪を掛けて慌てるアンジェリカ。息が乱れているのは激しい動きも手伝ったせい。

 葉子ちゃん?:「真っ赤になっちゃって、可愛いね〜アンジェリカは」

 呼ばれ方だけ取れば、こちらも立派な女性である。
 しかし彼もまた「彼女」ではなく「彼」であった…。
 その容貌はスイには及ばないまでも、割と美形、そこがまた変に怪しさを誘う、ノリの軽そうなお兄さんである。フルネームは葉子・S・ミルノルソルン――と長く、アンジェリカは葉子ちゃんと抵抗無く呼んでいる。

 スパイク:「って、おい…人の相棒をさりげなく口説こうとすんなって」
 アンジェリカ:「ええっと? アンジェリカは葉子ちゃんに口説かれてるの?」
 葉子:「ええ〜? そりゃあ、ちょっと人聴き悪いよぅスパイク。俺はただ事実を言っただけだしぃ〜」

 パラパラパラと懐からトランプらしきカードを摘み、両手で器用に弄びながら微笑する葉子。
 ちなみに彼もまた言わずと知れたパーティーメンバーの一人だった。

 葉子:「いや〜、だって二人してあんまり魅せ付けてくれるからさぁ」
 スパイク:「何を、だ?」
 アンジェリカ:「何を、よ?」

 顔を見合わせて同時に葉子を見るスパイクとアンジェリカ。
 息がぴったりな二人の様子に。またまた謎笑いな葉子。

 葉子:「はぁ〜、まっ好いんだけどね♪ 仲良しも行き過ぎると…、とりあえず他の人にはちょっと気を使った方が、いいってことで?」
 スパイク:「喧嘩は慎めと?」
 アンジェリカ:「えと、もしかして皆の迷惑に為ってた?」

 少女の方は今更ながら、結構大声で言い争っていたのに気づき、ちょっと動揺気味。

 葉子:「あ〜、そういう事じゃなくて、いや、まあそういう事かな?――と、そうそう…アンジェリカ。ここって風の強い場所だからあんまり激しく動き回ると、スカートの下が見えちゃうかもヨ?」
 スパイク:「……………」
 アンジェリカ:「………へ?」
 葉子:「じゃ、まあそういうことで、忠告は終わり〜♪バイバイ」

 言葉の意味を考えて固まってしまった二人(特にアンジェリカ)を尻目に、くるりときびすを返して歩き出す葉子である。
 飄々とした動作、彼も船酔いの影響を受けてはいないらしい。

 アンジェリカ:「ちょちょちょ、待ちなさい〜!」
 葉子:「待てない」
 アンジェリカ:「あ、あの…見たの、見えたの? ねぇ…スパイク?」
 スパイク:「…………」

 顔を振って隣を仰ぐアンジェリカに、ノーコメントを貫くスパイク。そして遠ざかる葉子の背中。
 彼の姿が甲板から消えてから数秒後。

 アンジェリカ:「うわ〜ん、葉子の馬鹿ぁーーー!」
 
 晴れ渡った空に絶叫するアンジェリカだった。

 スパイク:(もしかして、前途多難かもしれねぇ…)

 泪目の少女を風から守るように立ち並び、そっと金色の髪を見下ろすスパイク。彼は心の中で仄かに苦笑を零したのだった。


☆筋書き通りのブルースカイ☆


 一行がその船を見つけたのは探索に出て二日目の朝だった。
 丁度沈没船が眠るポイント付近で、ポツリと海を漂う一隻の船を発見したのである。
 正確にはスパイクたちを乗せた船の船長が発見したのだが…ともあれ、発見は発見。当初の目的は豪商の沈没船なのだったが、元がバカンス気分の探索だったので、その船を先に調べることにした。

 葉子:「まさか豪商の沈没船が、俺たちのために浮上してくれたとか〜てネ?」
 スイ:「んな、都合のいい話があってたまるかよ。俺的には幽霊船の類だと思うぜ?」
 スパイク:「このまま無視するのも目覚めが悪い気がするが…」
 アンジェリカ:「えと、船の探索なんだし寄り道してもいいと思う。それでね、あの〜アンジェリカ水着忘れたの、だから〜こっちなら潜らなくて良さそうだな〜って」
 一同:「……………」

 結局潜る手間が省けたという理由もあって、海に浮かぶ船、そちらに探索の的を絞ることにした。

 そしてスイの予想した通り、件の船には人の気配は皆無だった。
 甲板から板を渡した一行は、そのまま少数のサポート人を残し、船内へ探索に入る。
 前衛は一応リーダーを務める逞しい肉体を誇るスパイクと、美貌を裏切る乱暴な言葉遣いが聴く者にダメージを与えるスイ。後衛に兄ちゃん葉子と、お嬢風なアンジェリカ。ようするに前衛が敵を食い止め、後衛から援護魔法や真空波等の遠距離攻撃を加えるといった基本陣形であった。
 狭い通路ではスパイクが先頭になり、スイがしんがりを務めた。後衛をサンドイッチにしてバックアタックに備えるところなど中々息が合っていてよろしく。

 スイ:「しっかし、これってホントに豪商の船なのか?」

 探索初めて30分足らず、とうとうスイが一種の禁句じみた台詞を口にしてしまった。

 スパイク:「………」
 葉子:「………」
 アンジェリカ:「………」

 三者が固まったように立ち止まる。
 それぞれ異なった色の瞳をスイへと送り。

 スイ:「いや、だってよ…規模も最初に聴いていた船の様子とは大分違うし、内装とかどっちかっていうと荒っぽく見えるだろう?」
 
 苔の生えた狭い通路。最後尾にいるスイは皆の視線に周りを促して見せる。ちょっと開き直った感じだった。

 アンジェリカ:「う〜ん、実はアンジェリカも同感だったりするの…」
 
 横目でチラリとスパイクの顔を覗き見つつ、こちらは控えめな相槌。
 
 スパイク:「――ぐっ」
 
 冒険提案者にしてチームリーダーのスパイクはやや押され気味だった。
 というか、乗り込む前から目的の船でないことぐらい、皆察しが付いていたのだ。ようはさっきから船内の何処を探しても財宝は愚か、目ぼしいものなど何一つ見付かっていないからであろう。ちょっとだけ肩身が狭かったに違いない。

 葉子:「まあまあ、どっちでもいいんじゃないの?――船の探索をしているには間違いないんだし。つーか、財宝なんてそう簡単に見つからないって。まっ、俺としては水に潜らずに探索できて嬉しいし」
 アンジェリカ:(それについてはアンジェリカも同感…)
 
 と、水着を忘れ、決して泳ぎを得意としているわけではない少女が、小声での相槌。

 スパイク:「そ、そうだろっ!?――まあ何だ、水の中に潜っての探索と、浮上した船の探索とじゃ難易度に差があるしなぁ」
 スイ:「その言葉は昨夜まで青い海への爽快なダイブってのを、熱く語っていた男のものとは思えねぇ…」
 
 かくして各々は、賑やかに騒ぎつつ進むのである。

☆☆☆

 それにしても、複雑な意味で予想を大きく裏切る無人船だった。
 何より船内に入ってみると豪商の船からは内装自体かけ離れてはいたが、大きさは多分それに劣らない立派なものだったのだ。
 大方大型の輸送船か何かだったのだろうか?
 相変わらず何も見つけられずにいる一行だったが、いよいよ飽きと疲労が近づいた頃合を見計り「それ」が現れた。

 ―船倉へと向かう途中―
 
 一向の前に待ってましたとばかりに立ちはだかる存在。
 全身を真っ赤に彩るその不気味な軟体生物…体長はゆうに4mを超えており、通路のど真ん中で八本の触手をぞわぞわと動かしている。

 スパイク:「うおっ!?――蛸か?」
 葉子:「まあ、蛸だな…」
 アンジェリカ:「真っ赤な蛸ですわ、茹でる必要が無いくらいです」
 スイ:「いや、海老じゃあるまいし、にしても何で船の中に蛸がいる?」

 各自、遭遇した敵に立ち止まって驚きつつも、恐怖の様子は無く、それぞれ思い思いの言葉を口にしては通せんぼする怪物蛸を眺めていた。

 スパイク:「つーか、デカイよな?」
 アンジェリカ:「う、うん…大きいね」
 葉子:「うねってるよ〜。あ〜不気味な触手がちょっと気持ち悪ぃ」
 スイ:「同感だが…こいつが噂に聞く大王蛸って奴か?」

 そんな暢気な会話に焦れたのか、うねうねと触手をくねらせ、ゆっくりと一向に近づいてくる蛸である。いや、急いでいるのかもしれないが、何せ水中じゃなくて床の上なので移動速度はかな〜りとろかった。

 スパイク:「おいおい、大王蛸ってのはガセだろ? それに大王ってほど偉そうに見えねぇぞ。大きさだって中途半端にデカイだけだし…」
 葉子:「ミズダコのバージョンアップってとこなんじゃないの。 つーか、スパイク〜そんなこと言ったら蛸に悪いよ、怒っちゃうよきっと?」

 果たしてこの蛸が人語を理解するかは謎だったが、ともかく巨大蛸の振るった触手の一本が船床を叩けば、ズシンと大きく船体が揺れ傾いたのだった。

 アンジェリカ:「にゃ〜っ、葉子ちゃん〜、蛸ってば多分もう怒ってるよ〜。スパイクの馬鹿〜」
 スパイク:「なっ、何故俺が」
 
 ――怒られるっ!?
 と口に出して言いたかったが、いまは緊急事態なので心の叫びに留め置く。
 再度、触手が船床を打ち付けると、ぐらりと傾く船体。

 スイ:「ちっ、力は侮れねぇな――と…」

 不意に、揺れと床に生えていた苔に足を滑らせてバランスを崩した葉子、スイが片手で支えるように抱きとめ。

 葉子:「お〜ナイスっ♪」

 感嘆の声は葉子から。

 スイ:「男を支えても嬉しくない、さっさと退け」
 葉子:「あはは、照れちゃてまあ…」
 スイ:「お前、このまま担ぎ上げて蛸に投げるぞ?」
 葉子:「わ、わ、わ、冗談じゃんっ! 大人気ないな〜、分かったって」
 スイ:「ふん、分かったらさっさと離れてろ。どうせ前衛はお前には無理だ――スパイクっ!」

 離れた優男を庇うようにして素手のまま前に出ると、同じようにバランスを崩したアンジェリカを支えていたスパイクへと声を掛ける。
 此方も少女を庇うように前に出ると、まだ鞘に収めたままの剣を握りスイの横に並んだ。

 スパイク:「さてと、ぼちぼち料理してやるか」

 左手で鞘を掴み、右手を剣の柄に触れさせ、身体から力みを抜き去るよう半身に構えたスパイク。その顔には不敵な微笑を浮かべている。

 スイ:「へっ、流石に生じゃ食う気にならねぇからな。しょうがねぇ、程よく解体してやるぜ」

 両手を組み合わせてボキボキと指を鳴らすスイ。美貌を少々邪悪に歪ませれば、かえってそれが妖艶な魔性へと彩りを変える。

 アンジェリカ:「援護は任せてね〜♪」
 葉子:「援護は期待すんな〜♪」

 と、背後から心強い声とそうでない声が融合し、それが先頭の幕開けとなったのだった。
 
 イニシィアチブは蛸がとる。
 とろかった移動速度からは目を疑うようなスピードで触手がしなり、それぞれ二本づつスパイクとスイに襲い掛かった。
 先ずはスパイク――、

 スパイク:「―――」

 彼は研ぎ澄まされた集中力と、類稀な動体視力で、鞭のように襲い来る触手の攻撃を正確に捉えていた。剣を抜くことなく頭を振っただけで一撃目を避け、二撃目もスウェーバックで回避した。間合いを取るように数歩下がる。
 そしてもう一方は――、

 スイ:「喰らうかよっ!」

 此方は天性の直感と数知れぬ場数で培った経験で、触手の攻撃を軽快なダッキングでやり過ごす。無理にカウンターを打つでもなく、隣のスパイクに習うように数歩飛びずさって身構えた。

 アンジェリカ:「〜〜〜っ」

 切って落とされた火蓋、鮮やかな前哨戦の攻防。それに刺激されてかアンジェリカの瞳にも炎が点る。
 最も確実で、使い慣れた攻撃魔法の詠唱に入ると、両手を交差させて指先に精神を集中する。風を紡ぎ、高まる魔力の昂ぶり――。

 葉子:「ん〜、アンジェリカの唱えるのってアレな訳? じゃ、ここは俺も併せるべき?」

 言葉通り最後尾に下がって、独り傍観を決め込む気だった彼だが、となりの少女の様子にちょっと考えを変えた感じで自問。

 葉子:「んで、回答なんだけどさ、つーか、援護いらない気もするんだよね〜、スイって見かけによらず強いしさ、スパイクは見かけ通り強いし♪」
 アンジェリカ:「〜〜〜っ。だからって黙ってみてちゃ、駄目でしょう! いいから葉子ちゃんも援護するのっ!」

 徐々に魔法を完成させつつあるアンジェリカは、構えたままで隣に命令口調。

 葉子:「あ〜、まっ、可愛い女の子に頼まれたら断りにくいしネェ〜、んじゃ、そうしますか。そうしよう、決定〜ね?」
 アンジェリカ:「決まったんなら、ほらっ、早く早く〜っ!?」

 前衛では緊迫感とスリル溢れる接近戦が展開されていたが、後衛は何となく漫才のノリだった。
 
 ―――!!
 三度目の触手攻撃を皮一枚で避けるスパイク。

 スパイク:「――、そろそろ反撃するぞ?」
 スイ:「おうっ、次の攻撃のカウンターを取る!」

 かすり傷一つ負わず、息も切らしていないスパイクとは違い、スイの方は少々息を乱していた。もっとも彼にしても未だ直撃喰らわずであり。

 ―――ヒュウン!
 蛸の方は疲れを知らないのか、休み無く四度目の攻撃。
 今度はスパイクのほうから前に出た。まるでスイの盾になるかのような動きに、
 
 スイ:「って、おいおいっ!?」
 
 慌てる美貌の男。
 が、そんなスイの叫びを他所に、容赦なく鞭を想わせる変幻自在の三本の足は、スパイクへと襲い掛かる。其々が彼の身体に巻きつくつもりなのか不気味な動き。
 未だ鞘から剣を抜こうともせずまったく動じないスパイク。あわや両手と首を巻き取られるかと思った矢先、

 スパイク:「――ふっ!」

 鋭い気合一つ、鞘走る銀色の刃。
 瞬間という言葉の内に、疾った剣閃は三つ。
 そして同数であった蛸の触手がバラバラに切り飛ばされて宙に舞えば、それが船床に落下する前に、彼の刃はもう鞘に戻っていた。

 スパイク:「まっ、触手の攻撃速度はもう覚えたんでな?」

 手痛い反撃に遭い激しくのたうつ蛸。眺めるスパイクは不適に唇を吊り上げて笑い。

 スイ:「す、凄ぇ…な?――そいつが噂の居合いって奴か?」
 スパイク:「ああ、そういや見せるのは初めてだったか?――と、それよりも蛸は…」

 スイ:「見事なカウンターで手負いだな、んじゃ、俺が止めを…」

 拳を硬く握り突進しかけたスイだが、そこに予想外の反撃。残った触手全てという盛大な攻撃で迎え撃たれ。

 スイ:「やばっ、――コイツ、思ったよりタフじゃねぇか!」

 咄嗟の判断で身体を横に逸らし、なんとか回避する。
 しかし攻撃は其処で終らず、バランスを崩したスイの身体を巻き取ろうとする触手数本。

 スパイク:「ちっ――!」

 スイを助けるべく踏み出そうとするスパイク。丁度その背中に、

 アンジェリカ:「よ〜し、魔法完成〜。スパイク〜〜援護いくわよっ!?」
 葉子:「ふふふふ、華麗に俺も、とっ♪」
 スパイク:「!?」

 後方からの二人の声に、振り返っている余裕は無いと判断しつつも、スイとは反対方向に飛んで道を開ける。その一瞬開いた狭い空間めがけて後衛の二人が同時に、

 アンジェリカ&葉子:「「ウィンドスラッシュ!!」」

 絶妙にタイミングと息が合った魔法の発動。
 放たれた二つの真空波が、一直線に通路を駆け抜けていく。風の刃は同じ速度で並ぶように飛び、秒速でスパイクの隣を通り過ぎると、たちまちスイの身体に巻付こうとしていた数本の触手を切り飛ばして、そのまま本体へと炸裂した。
 衝撃により裂けた胴体、そこから黒っぽい体液(墨?)を撒き散らして、悶える巨大蛸。

 スパイク:「おおっ、やったか!?」
 アンジェリカ:「わぁ、見事命中ぅ〜♪」
 葉子:「まっ、当然だね〜♪――さあ、もがいている軟体生物に止めを刺したまえ、スイ君」
 スイ:「おうよっ、任せな!」

 既に体勢を立て直したスイが、微妙に偉そうな葉子の言葉に力強く頷いた。
 一気呵成とばかりに瀕死の怪物蛸に飛び込んでいき。

 スイ:「喰らえっ、この蛸野郎っ!」

 叫ぶと同時に、素早い身のこなしで跳躍。
 ―――ブォン!
 唸りをあげて蛸の額(?)目掛け、強力な飛び蹴りが叩き込まれる。直後、爪先から感じた『ぐにゃり』と柔らかい手応え、感触に嫌そうに唇を歪めつつも。

 スイ:「続けてっ宙空二段蹴りっ!〜〜おらっ!!!」

 蹴り足をバネにしてもう一度跳躍、宙で身体を捻るような形から、もう一方の足で回し蹴りの追い討ちを掛ける。これがクリティカルに巨大蛸の目を捉え。

 ―――グシャ!!
 スイの圧倒的な破壊力が眼球を粉砕すると、またしても飛沫ように周囲へ派手に飛び散った体液。

 スイ:「ふっ、思い知ったかよ、タコ」

 鮮やかに宙で身を翻し、華麗に着地を決めてスイが決め台詞を吐く。
 ――が、

 葉子:「相手がまんまタコだから、決め台詞にまったく捻りがないと思うのは気のせいかい? 何気に何度も、たこたこって言ってる気もするし」
 アンジェリカ:「えと、アンジェリカもそう思うよ?」
 スパイク:「俺も、右に同じ…」

 と、台無しにしてくれる背後の声。
 やっと一仕事、一応は命がけの戦闘を終えたというのに変に緊張感の無い三人だった。
 
 スイ:「………っ」

 美少女もかくやというスイの額に、一瞬だけだが物騒な血管が浮き出る。
 のた打ち回る蛸、足元で蠢く触手の一本を容赦なく踏みつけるスイ。
 無言ほど怖い警告は無い。

 葉子:「ま、まあ好いんじゃない」
 アンジェリカ:「そ、そうだね…」
 スパイク:「事実タコだしな…」

 各々がスイから剣呑な殺気を感じ取って引きつった顔で取り繕う。

 スイ:「ふん…先を急ぐぞ」

 しんがりであったはずのスイが怒ったように、いや事実不機嫌そうに先を歩き始めた。
 三人は顔を見合わせると肩を竦め後に続く。
 スイを先頭に、葉子、アンジェリカ、最後に自動的にしんがり交代となるスパイク。彼は巨大蛸の残骸に一瞥をくれると、もう動かないのを確かめて、心持ゆっくりと仲間の後を追ったのだった。


☆夢みたあとで☆


 アンジェリカ:「それで、結局のところあの船って何だったの?」
 スパイク:「さあなぁ〜、しかし豪商の沈没船じゃなかったってのは確かだろう」

 結局あの後大した収穫もなく、一応は無事に探索を終えたスパイクたち。
 
 アンジェリカ:「はぅ〜、何も見つからなかったね〜」
 スパイク:「ああっ、まっ…そう簡単に財宝ってのは見つかるもんじゃないし」

 事実、その言葉にも負け惜しみの響きはない。
 船縁に腕を掛けて丸い夕焼けを眺めるスパイクとアンジェリカ。どちらも言葉ほどには落胆の様子がないのは、今回の探索にちょっとした満足感があったせいか。
 
 アンジェリカ:「あ〜でも、葉子ちゃんは一人だけ喜んでたよ?」
 スパイク:「そうだな、俺としてはあんなガラクタ拾ったところで嬉しくもなんとも無いんだが…」

 と、そこに噂をすれば影。鼻歌を歌いそうな軽快なノリで葉子が現れた。

 葉子:「ふっふふふ、相変わらず仲が良いネェ、お二人さん♪」
 スパイク:「ホント、嬉しそうだな?」
 アンジェリカ:「えーと、あのティーカップ一式ってもしかして凄く高価なものだったとか?」
 葉子:「ノンノン、とてもお金には換えられないネ」

 ちっちっち、と指をたてて小悪魔的微笑を湛える葉子。

 スパイク:「なっ、何だと。それじゃ!?」
 アンジェリカ:「え〜〜、やっぱり物凄く高価な値がつくものなの!?」

 価値が無いのと、他に誰も欲しがらなかったから葉子に渡った品なのだが…、夕焼けに染まる甲板に二人の驚きの声が上がりかけ。

 葉子:「違う違う、言葉通りの意味だって。どうやってもお金に換えられないのヨ」

 上がりかけたスパイクとアンジェリカのテンション、一気に冷却する彼の言葉だった。

 スパイク:「何だ、やっぱりガラクタかよ…」
 アンジェリカ:「あぅ〜。でもぉ、それならば葉子ちゃんはどうしてそんな嬉しそうなの?」
 葉子:「ん〜そんなに強い理由とかないねぇ。何となくかな、でもデザインが好みだったし、出会いも運命的な気がしたってわけで、ふふふ帰ったらさっそく手入れし直して、お店で使うかもよ」
 スパイク:「俺は遠慮するぞ、実は呪いの品でしたってオチかもしれないだろ」
 アンジェリカ:「アンジェリカはちょっと興味ある。確かに磨きなおせば面白いティーカップのセットだったし」

 その唯一の戦利品は、大事に扱われながら葉子の船室へ保管されている。
 ちなみにスパイクが危惧したように呪いや魔法が掛かっている特殊アイテムでは無くて、正真正銘の変(?)なティーカップセットというオチ。

 スパイク:「おっと、そういえばスイは?」
 
 船が帰途へと動き出した頃から姿を見ていない、もう一人仲間のことを尋ねた。

 葉子:「船室の奥で青くなってたっけ。そうだねぇ、からかい…違った、元気付けに行ってくるか♪」
 アンジェリカ:「あ、あはは、心配だからアンジェリカも一緒に行く」

 そういって歩き出した葉子の背中を追っていく。
 途中でスパイクを振り返ると、ちょうど瞳を射すような鮮やかな夕焼けにすぅと目を細める。唇を開き何か言いかけた少女に、

 スパイク:「あ〜俺の分まで見舞ってきてくれっ、まっ少ししたら俺も顔見にいくけどな?」
 
 遮る様な、穏やかに微笑みで紡ぐスパイクだった。
 アンジェリカは一瞬何かを言い淀んだが、直ぐに潮風にはためくスカートを抑えると、可愛らしい笑顔で頷き返してみせた。そして葉子の後を追い駆け出す。

 「機会があれば、また来たいね?」
 去り際、そんな言葉を残して――
 
 緩やかな波の音に耳を傾けながら赤く染まる空を見上げる。

 スパイク:「こういうのも――偶には好いかもな?」

 まっ、偶にはだけど…。
 
 小さな呟きは、遠くで唄う鴎の群れにかき消されたが…。
 思いは、其々の心に、多分残ったのだろうなと。

 ―こうして、ささやかな冒険は幕を閉じたのだった―



☆ライター便り(みたいな)☆

どうも、今回の担当ライターで御座います皐月です。
何よりも随分と時間が掛かってしまい申し訳ありません。

実はこの後書きも、少し特殊な感じにしようと考えていたのですが(リプレイ風味?)流石にそれは拙いなぁと反省し、普通に書いてます。

戦利品のティーカップセットですが詳細は書かなかったので、葉子PC様がご自由に解釈して下さい。記念品って感じです。

☆皆様☆
お疲れ様でした。