<PCクエストノベル(1人)>




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 今回の冒険者
【整理番号 / 名前 / クラス】
【1754/ニコラス・ジー二アン/男/220才/剣士】

 その他登場人物
【 名前 / クラス】
【農夫A/農夫】
【コボルトA/コボルト】
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 1.鍛冶を探して

 魂とはどこに在るものだろう?
 その答えは、人それぞれである。魂など無い。と言い切る者も少なくない。
 だが、剣士…中でも日本刀を扱う剣士…の多くは、こう言うだろう。
 『魂は刀に在り』と。
 ニコラスも、そうした剣士の一人だった。そして、魂である刀に命を吹き込む鍛冶といういものを尊敬できる存在として考えていた。
 一度、名工と呼ばれる高位の鍛冶に会ってみたいと思っていたニコラスは、ダリル・ゴートの所を訪れる事にした。修行というよりは、勉強の為に…

 ニコラス:「ダリル・ゴートの庵がこの近くにあると聞いたのだが、君、すまないが、何か知らないか?」

 ダリル・ゴートが住んでいると言われる場所の近所の村まで来たニコラスは、通りすがりの農夫に道を尋ねた。

 農夫A:「ああ、ダリルさんは、この辺に住んでるみたいだよ。
      …ただ、ダリルさんは隠れ家というわけじゃ無いんだけど、地下に住んでるみたいだし、親しい人以外には入り口を教えないからね。会うのは難しいと思うよ」
 ニコラス:「ふむ…どうにか会いたいんだが…彼が人前に自分から姿を表す機会は無いものかな?
       例えば、刀の受注や納品などで…」
 農夫A:「そうだね。週に一回、村に生活品を仕入れたり、刀の受注をしたりする為に来るよ。
     次に来るのは、明日だって言ってたな。
     会った事無い人がダリルさんに会うなら、その時しか無いんじゃないかなぁ」
 ニコラス:「了解した。ありがとう」

 ニコラスは一礼して農夫と別れた。翌日まで、ニコラスは静かに村で過ごす。翌日、彼はダリルが品物の受注を行なうという酒場で、彼を待つことにした。

 ニコラス:「主人。軽い酒を一杯」

 礼儀として酒を一杯頼みながら、ニコラスはダリル・ゴートの人となりについて酒場の主人に尋ねた。

 酒場の主人:「ああ、ちょっと偏屈だけど、良い人ですよ。
        ただ、鍛冶屋としての腕は良いみたいなんですけど、自分の髭をそる剃刀は作れないみたいですね」
 ニコラス:「余程、髭を伸ばしているらしいな…」

 酒場の主人は苦笑している。ダリルが髭を蓄えているのは有名だが、果たしてどれくらい髭を伸ばしているんだろうか…
 ニコラスは酒場で話しながら、ダリルの到着を待つ。酒場には、ニコラスのようにダリルに会おうと待っている者も多かった。

 ニコラス:「やはり、俺のようにダリルさんの噂を聞いて訪れる剣士は多いか…」

 酒場の主人の話に、まあ、それもそうだろう。とニコラスは頷く。ダリル・ゴートは名工だ。

 酒場の主人:「ダリルさんは礼儀知らずや、うわべだけの礼儀を取り繕うとする人には厳しいからね。気をつけた方が良いよ。
        …まあ、あんたなら大丈夫そうだな」
 
 そうして主人と話していると、やがて、一人のコボルト族が酒場にやってきた。

 コボルトA:「いつもお世話になってるデス。
        武器と防具の受注に来まシタ」

 コボルトAはペコリと頭を下げた。
 武器と防具の受注ということは、彼がダリル・ゴートなのだろうか?
 手先の器用さと犬のような真面目さが売りのコボルト達は各地で技術者として活動しているし、確かにダリル・ゴートが人間だと聞いたわけでは無かったが…
 人なつっこいコボルトの様子を見ながら、ニコラスは、どうやって声をかけるべきか悩んだ。
 
 酒場の主人:「なんだ、今日はダリルさんは来ないのか。仕事忙しいのかい?」
 
 と、酒場の主人が言った。
 どうやらコボルトは、ダリル・ゴートのアシスタントをやっているらしい。今日はダリルが忙しいので、代わりにやってきたそうだ。

 ニコラス:「そうか…今日は、ダリルさんは来ないのか」
 コボルトA:「ハイ、ごめんなさいデス」

 ニコラスは少し残念そうに言った。だが、来週はダリル本人が酒を飲むのも兼ねて酒場に来るらしい。

 ニコラス:「一週間…長いな。
       土産を用意するのにも十分な時間だ。
       そうだな…何か、珍しい金属の一つでも採りに行くかな。
       今、ダリルさんが必要としている金属は、どんなものがあるかな?」

 ニコラスはコボルトに尋ねた。

 コボルトA:「あ、それなら丁度良かったデス。
        金属の事で、ちょっと困った事がありまして…」

 と、コボルトは、金属に関するダリルの悩みをニコラスに伝えた。
 その後、コボルトの話を聞き終えたニコラスは早速村を出た。
 
 2.宿敵

 ニコラスは、ダリルの馴染みの鉱山に来た。
 ダリル達、鍛冶に携わる者達が必要とする鉱物を算出するが、魔物が多い事でも有名な、ありがちな鉱山だった。
 だが、そこに現れてはいけない魔物が現れてしまった。他の魔物がどんなに多く現れても、それだけは現れてはいけない魔物である。
 『錆びの魔獣』だ。
 鋼以上に硬い鱗を持つ魔物だったが、積極的に人を襲う魔物ではなかった。『錆びの魔獣』は人を食物としないからだ。
 だが、それこそが『錆びの魔獣』が鉱山に現れてはいけない魔物である理由だった。
 『錆びの魔獣』は有機物の代わりに、金属が腐食した錆を食べる魔物だった。そして、金属を錆びさせる手段も『錆の魔獣』は持っていた。
 『錆の魔獣』は金属を錆びさせる毒ガスを吐く。人体には無害だが戦士の剣も、鉱山にある貴重な金属も例外では無い。その為、『錆の魔獣』が出現した鉱山は、通常パニックになるのだった。
 
 コボルトA:「『錆の魔獣』が出てきて困ってマス。金属が全部錆びちゃいマス」

 酒場でコボルトAは言っていた。なので、ニコラスは『錆の魔獣』退治に向かった。
 
 ニコラス:「これもまた、修行か…」
 
 鉱山の入り口で、大きな包みを背負ったニコラスは呟く。手には竹光…竹製の刀…が握られている。金属製の刀を持って『錆の魔獣』に挑むのは無謀以外の何ものでも無いからだ。かと言って、並の金属以上の高度を持つ『錆の魔獣』の皮膚を竹光でどうにかしようと言うのも常識レベルではかなり無謀なのだが。
 ニコラスは鉱山に入り、歩く。
 『錆の魔獣』の生態は、よくわかっていないが、群れを成して現れる事は少ないとされていた。幸いダリルの鉱山に現れた『錆の魔獣』も一匹だった。さすがに、竹光で何匹も相手するのは修行どころの話では無かった。
 ニコラスは背中に背負った包みを下ろした。中身は鉄の塊だ。さらにニコラスは金属の採掘を始めた。こうすれば、いずれ、金属の匂いを嗅ぎつけた『錆の魔獣』が襲ってくるはずだった。ニコラスは黙々と金属の原石を切り出す。『錆の魔獣』のせいで人気の無い静かな鉱山で、原石を切り出す音だけが響いた。
 やがて、ニコラスは不振な足音に気づいた。
 足音が重なって聞こえる。二本足の生き物の足音では無かった。
 『錆の魔獣』に間違い無い。
 ニコラスは竹光を抜き、『錆の魔獣』を待った。
 足音はあっという間に近づき、すぐに『錆の魔獣』は姿を現す。
 体長は2メートル程だろうか。魔獣としては、決して大きくない。ただ、金属のように光を放つ皮膚は異彩を放っていた。
 『錆の魔獣』は、やはりニコラスには興味が無いようだ。真っ直ぐにニコラスの周囲の金属に近づく。
 …勝負は一瞬だ。
 ニコラスは竹光を構える。
 竹光の斬撃では、そもそも『錆の魔獣』の皮膚を傷つける事は不可能である。
 その上で『錆の魔獣』を倒す方法は、衝撃のみを皮膚の内側まで伝えるしかなかった。だが、それは簡単な事では無い。
 一瞬。
 全てを賭けた初太刀。
 それを叩き込む以外の手をニコラスは思いつかなかった。
 彼は迷わず踏み込み、魂を込めた竹光の一撃を放つ。
 文字通り竹を割るような音と共に、『錆の魔獣』に叩きつけられた竹光は砕け散った。だが、同時に『錆の魔獣』も一声泣いて倒れこんだ。
 …いい修行には、なったな…
 魂を削るような一撃だった。
 身体を冷たい汗が流れる。
 ニコラスは、膝をついてしばらく動けなかった…

 3.ダリル・ゴート

 ダリル:「修行…か。俺は、冒険者として修行しきれなかったかったなぁ…」

 ダリル・ゴートは、しみじみと呟いた。
 噂通りの男である。
 冒険者になりきれずに、やめた男だ。
 髭を生やした、偏屈な男だった。
 ニコラスとダリルは、言葉こそ少なかったが酒を酌み交わした。
 もしもニコラスが、鍛冶屋と剣士の宿敵である『錆の魔獣』を手土産に倒して来なかったら、ダリルは彼に心を開かなかったかもしれない。

 ニコラス:「いや、あなたは鍛冶に携わる者として、誰に恥じる必要も無い修行をしていると思います」

 俺はお世辞は苦手な男だ。と、ニコラスは首を振った。ダリル・ゴートの庵に招かれ、彼の作品を目にした彼は素直にそう思った。
 『錆の魔獣』退治から一週間後、ニコラスはダリル・ゴートの庵に招かれていた。

 ダリル:「『錆の魔獣』の奴は俺らの天敵だが…奴らの鱗は良い材料になる。
      …ま、刃のある刀は作れないがな」

 作るさ。
 と、ダリルは言った。
 動物の皮をなめす技術を応用して、ダリルは一晩かけて『錆の魔獣』の皮膚を武器に加工していった。
 ニコラスも、その様子を最後まで眺める。
 そして、翌朝。

 ダリル:「ま、木刀みたいなもんだ。材料が材料だから錆びる事は無いな。記念に持っていきな」

 ダリルは『錆の魔獣』の皮膚で作った刀をニコラスに差し出した。
 さすがのダリルも魔獣の皮膚を刃に加工する事は出来なかったが、それでも『錆の魔獣』の刀は、それ以外の面では文句無しの名刀だとニコラスには思えた。

 ニコラス:「友情の印と考えて良いのか?」

 ダリル:「ああ…」

 匠は匠を知る。
 刀に魂を感じる者同士は理解しあい、そして、別れた…
 
 (完)