<PCクエストノベル(1人)>


 残影

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 今回の冒険者
【整理番号 / 名前 / クラス】
【1754/ニコラス・ジー二アン/男/220才/剣士】

 その他登場人物
【 名前 / クラス】
【ダリル・ゴート/鍛冶屋】
【コボルトA/コボルト】
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 1.鍛冶屋の冒険先

 元々、手先は器用な男だった。戦士として冒険者をしていた頃も、武具を自作するとまではいかなかったが、整備は自らの手で行なっていた。
 そんなダリル・ゴートが、早々と冒険者の世界から足を洗い、鍛冶屋としての人生を歩む事になったのは必然かも知れない。ダリルは鍛冶屋としての今の暮らしに満足しているし、鍛冶屋になった事を後悔してなかった。
 だが、一方で冒険者をやめた事自体には、後悔の念もあった。新しい道でどんなに成功しようとも、かつての道でやり残した事への思いが消える事は無かった…

 ニコラス:「ニコラスだ。ダリルさんは居るか?」

 最近、そんなダリルと知り合った剣士のニコラス・ジーニアンは、彼の元を訪れていた。

 コボルトA:「あ、ニコラスさんデス。ダリルさんは居マス。入って下さいデス」

 ダリルのアシスタントのコボルトが、ニコラスをダリルの庵に通した。ダリルは彼を出迎えて、酒を用意する。2人はしばらく語り合った。

 ダリル:「ところで、今日はどうした?武具の注文か?」
 ニコラス:「いや、そういう訳では無い。
       もし、暇があれば、どこかに冒険へ行かないかと、ダリルさんを誘おうと思ったんだ」
 ダリル:「なるほどなぁ…」
 ニコラス:「別に、鍛冶屋をやめて冒険者に戻れというわけじゃない。
       けど、冒険者として思い残す事があるなら、今一度冒険に出てみるのも良いんじゃ無いかと思うんだ」
 ダリル:「ふむぅ」
 ダリルは髭を撫でながら考える。どちらかと言えば、冒険に出る事には乗り気のようだ。

 ニコラス:「…ただ、髭を少し剃った方が良いかもしれないな」

 ニコラスは苦笑した。それはそれは見事なダリルの髭だが、さすがに冒険に出かけるのには邪魔そうだ。もっとも女性の冒険者には、ダリルの髭どころではなく髪を伸ばした者も多いが…
 
 ダリル:「髭かぁ、確かに冒険者だった頃は全く伸ばしてなかったっけなぁ。
      そうだな、たまには気分を変えて短くしてみるか」

 それもまた一興だ。とダリルは言った。

 ダリル:「じゃあ、鉱山の見回りに付き合ってもらえるか?
      冒険と言うほど、大したものじゃ無いがな。この前の錆の魔獣みたいなのがまた出てくるかもしれんし、たまには鉱山の金属を目利きしときたいんだ。最近、新しい鉱脈が見つかったと聞いたから、どんなものか見てみたいしな」
 ニコラス:「なるほど。そういうのも良いんじゃないか?」
 
 行き先がどこであれ、行きたい所に行くのが冒険だとニコラスは思う。翌日、髭を短く揃えたダリルとニコラスの2人は出発する事にした。

 ニコラス:「ダリルさん、さすがに武具は最高級のようだな」
 ダリル:「まあ、剣も鎧もダリル・ゴート製だ」

 2人の今回の目的地は、ダリルの庵から半日程歩いた所にある鉱山だった。

 2.新鉱脈と魔物

 金属を扱う事を仕事とする鍛冶屋が、金属を産出する鉱山の近くに庵を構えるのは当然とも言えた。ダリルも冒険者をやめた20年程前から、ドーラ鉱山の近くに住んでいた。命知らずの鉱夫達が採掘の為に鉱山の各地に入り口を開き、無秩序に掘り進んだ結果、現在ではドーラ鉱山の内部は迷路化していた。

 ニコラス:「なかなか栄えている鉱山じゃないか」
 ダリル:「ああ、俺が冒険者をやめて住み始めた頃は、まだまだ静かだったけどなぁ。
      まさか、こんなに栄えるとは思わなかった…」
 ニコラス:「まあ、鉱山なんて、掘ってみるまで何が出るかわからんからな。
       …で、鉱山のどこへ行くんだ?
       新しく見つかった鉱脈の周辺で良いのか?」
 ダリル:「そうだな、そこがいい。どんな金属が産出されるか見てみたい」
 ニコラス:「うむ、珍しい金属なら、俺も見てみたい」

 ニコラスとダリルは、新鉱脈が発見されたという区画に向かって歩いた。ダリルが持つランタンの灯で、鉱山内は薄暗く照らされる。人気の無い新鉱脈を2人は歩く。

 ダリル:「新鉱脈かー。しかし楽しみだなぁ。
      冒険者だった頃は、こうやって色んな物を追いかけたもんだがな…」
 ニコラス:「色んなもの…か。
       ところで、ダリルさんは何故、早々と冒険者をやめたんだ?」
 ダリル:「さあな。
      だが、あの頃の仲間はもう誰も居ないし、あの頃には帰れんな…」
 
 ダリルは、ふーっとため息をついた。

 ニコラス:「20年…
       かつての仲間達も、それぞれの人生を歩んでいるか」
 ダリル:「…いや、皆、死んだんだ。20年前にな」
 ニコラス:「…そうか。」

 ダリルは昔、色々あったらしい。ニコラスは深く聞かない事にした。新鉱脈までもう少しだ。

 ダリル:「…ん、何か居るぞ!」

 不意にダリルは言って、ランタンの灯りを地面の一角に向けた。ニコラスは剣を抜く。
 
 ニコラス:「錆の魔獣…では、無いな」
 
 それは大きなトカゲのようにも見えるが、銀色に光る肌は普通の生き物の皮膚では無かった。

 ダリル:「ほー、見た事無いな。こんな奴も居るのか」
 ニコラス:「剣が効く相手だと良いんだがな」

 謎のトカゲ風の生き物は、2人の方を見つめている。敵意があるのかは微妙だったが、用心するに越した事は無い。
 と、急にトカゲ風の生き物の首の周り、襟の部分が開いた。エリマキトカゲという小型のトカゲが居るが、それの巨大版のようだった。そして、エリマキトカゲは危険を感じた時に、威嚇の意味でエリマキを広げるのだが…
 トカゲ風の生き物の様子を敵対的だと感じたニコラスは、斬りかかった。それを見たのか、トカゲ風の生き物が動いた。
 エリマキの部分が少し震えて、何かが飛んだ。針のようだ。ニコラスは避けながら、トカゲに肉薄した…

 ニコラス:「ふむ…魔獣というよりは、トカゲの突然変異か」

 ひとまずトカゲを退治したニコラスは、呟いた。特に、魔力を持っているという雰囲気では無かった。

 ダリル:「いや、俺は錆の魔獣の仲間じゃないかと思うぞ…」

 先ほど、トカゲの針を避け損ねたダリルは呟く。針を受けた彼の鎧は、無残にも錆で腐食してボロボロになっていた。

 ニコラス:「あの針は、そういうものだったのか…」

 剣で切り払わなくて良かったと、ニコラスは思った。先日、ダリルに貰った錆の魔獣の剣でも無い限り、切り払ったら剣が錆び付いてしまう。
 その後は何事も無く、2人は新鉱脈の採掘場所に着いた。採掘場所は、鉱夫達でそこそこ賑やかだったが、

 ダリル:「なんだ…つまらん」

 ダリルは採掘場所を見るなり、言った。

 ニコラス:「さすがだな、原石の岩を見ただけでわかるのか?」
 ダリル:「ああ、これは典型的な金鉱の岩だ。
      金を打って作った武具など、役に立たん」

 新鉱脈は、どうやら金鉱のようだ。ダリルは金鉱には用が無いと言った。

 ニコラス:「なるほど…な。あくまでも武具の材料を求めるか」
 
 ダリルらしいな。と、ニコラスは思った。

 ダリル:「ああ。金など掘っても仕方無い」

 苦笑するが、新鉱脈を自分の目で確かめたダリルは満足そうだった。

 ニコラス:「酒場にでも寄っていくか?」
 ダリル:「冒険の最後が酒場ってのは、20年前と変わらんな…」
 ニコラス:「うむ。多分、今後も変わらんだろう」

 少し遠い目をするダリルに、ニコラスは言った。少なくともダリルにとって、小さな冒険とはいえ、再び冒険に出てみたのは有意義な事だった…
 
 (完)