<PCクエストノベル(1人)>


花と草と蝶、それから… 〜森の番人 ラグラーチェ〜

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【冒険者一覧】

【 1695 / アンフィサ・フロスト / 花守 】

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☆序章

 雑多な文化、人種、種族、あらゆるものが混沌の中で混ざり合い、融合と断絶を繰り返していつしか、一つ一つの粒子は明らかに個別の形を保ちながらも、数え切れない程のそれらが集まって新しい一個体を形成している、それが聖獣界ソーン。それらの粒子の下となったのは、各地に残る古の遺跡からの出土品、冒険談、或いはインスピレーションなのだと言う。
 だがしかし、それでも尚、ソーン創世の謎が解けた断言するには真実は程遠く、誰もが納得する真実を手に入れる事が出来たのなら、富と名声を一気に手に入れる事ができると言われている。
 それ故、今日も冒険者達・研究者達が名誉と財産を夢見て、仲間と、或いは一人でソーン各地の遺跡へと、果てなき冒険の旅に出る。ある時は危険な、そしてある時は不可思議な冒険に…。
 それがこの世界での言う冒険者たちの『ゴールデン・ドリーム』である。


☆本章
〜ちょっと長い散歩〜

 アンフィサが歩いているのは、整備された街道の一本。平らな石を敷き詰めて整えてある街道は、まだ中央に近い事を示唆してはいるが、それでも既に聖都の姿は遠くに霞んでしまっている。時々、ざあっと吹く風が連れてくるのは、下生えの草や木々を揺らす音ばかり。たまに動物達や旅人の声が混ざっている時もあるが、だが、繁華街の賑やかな騒ぎ声や、市場での威勢のいい声などは聞こえる事はなかった。
 だから、そんな街道をアンフィサのような、たおやかな若い女性が一人で歩いているのはちょっと不思議な光景であった。例えば彼女が、完全防備の旅支度でもしていればまだしも、彼女の服装は至って軽装の、見るからに普段着なのである。確かにエルザード周辺は気候も良く、今の季節なら野宿しても凍死する事はまずないが、それでも少々不自然ではある。
男:「お嬢さん、もしかして道にでも迷ったかね?それとも、何かのトラブルに巻き込まれたとか?」
 通り掛った一人の行商人が、アンフィサの姿を見てそう声を掛ける。道に迷ったはないだろうと思ったが、もしかしてどこかの令嬢が旅の途中で盗賊にでも襲われ、輿も破壊されて命からがら逃げてきたのでは…?と想像したのだ。尤も、もしもそれが事実なら、こんな風に如何にも楽しげに軽やかな歩調でのんびり歩いてなどいないだろうが。
アンフィサ:「え〜? いいえ、なーんにもないですよ〜? 道に迷うっても、こんな一本道ではさすがのアンフィでも迷いようがないです〜」
 行商人がそんな想像をしている等とは露知らず、アンフィサは至って平和そうな声でそう言って笑う。風が彼女の銀糸を舞い上げるのを片手で押さえながら、ぽかぽかと暖かな光を投げ掛けてくる太陽を眩しげに見上げた。
行商人:「何にもないのならいいんだがね。だが、この先はもう何にもないよ?このまんま歩いて行っても、次の村に辿り着く前に夜になっちまうかも」
アンフィサ:「いいんですよ〜、だってアンフィの目的は、あの森なんですもの」
 そう言って彼女が指差すのは、街道を脇に逸れた先にある、黒いまでに緑深き一つの森である。ここからはまだ少々遠方にあるのだが、それでもその存在感は圧倒されるほどであり、それだけその森が大きく深い事を物語っていた。
行商人:「…あの森は…だが、あそこは……」
アンフィサ:「知っていますよ、森の番人さんが、何かとイタズラするかも、って言う森ですよね〜? でもアンフィは、そのナントカって言う鉱物が目的な訳じゃないし〜」
 それに、とアンフィサは微笑んで片手を自分の肩先辺りまでの高さに掲げる。その、立てた人差し指の先に、どこからともなく舞い降りた白い蝶々が止まり、ゆっくりと翅を開いたり閉じたりした。
アンフィサ:「みんなが守ってくれるから、大丈夫ですよ〜。…多分」

 あの森には、一体何年生きているのかも分からない、賢しく聡明な純白の梟・ラグラーチェがいて、森に侵入してきた者たちを惑わし、罠に掛けると言う。それは、この森のどこかにあると謳われる、『世界でもっとも気高い伝説の鉱物』が湧き出る泉を守っているからだとも、或いはただ単に森に迷い込んだ者達をからかって遊んでいるだけなのだとも、いろいろと言われている。尤も、遊んでいるだけの割りには、仕掛けられた罠は巧妙で大掛かり、一歩間違えば命の危険に晒されるようなものが多く、恐らくは、その泉とやらを守護しているのだろうとされていた。
 だがアンフィサには、その噂は今ひとつ信じ切れないのだ。同じ森に住まう者として、例えどんな理由があろうとも、人を傷付けるような真似を、ましてや命を奪いかねないような真似をする事などあり得ないと思うからだ。今回の目的は、その森に行って木々や草花、動物達と遊ぶ事、そして森の番人・ラグラーチェと仲良くなって、その人となりと言うか梟となりを知る事、なのである。
 やがてアンフィサは、街道が二股に分かれている場所まで辿り着く。そのどちらに行けば目的の森へと辿り着けるのかは、丁度股の部分にひっそりと咲いていた、小さなオレンジ色の野花が教えてくれた。ありがとう、と礼を告げてアンフィサは歩き出す。もう既に結構な距離を歩き続けている筈なのだが、それでも彼女の歩みは衰える事はなく、寧ろ森が近付くにつれて、その深い緑から力を得ているかのよう、歩みも速くなっていくのであった。


〜ヒトリ追いかけごっこ〜

 アンフィサが森の端まで辿り着き、下生えも徐々に深くなっていくにつれて、頭上の木々も大きく高くなっていく。当然、太陽光もそれに遮られて、ひんやりとした森の清涼な空気が濃くなっていく。緑が清めたばかりの新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込み、アンフィサはうーんと一つ背伸びをした。
アンフィサ:「ん〜…、きーもちイイ……こんな素敵な森が、人を惑わしたり罠に嵌めたりするなんて、信じられないけど…」
 だが、この森にはどこか暗い部分もあるような気がする。そう思ったアンフィサは、間近にあった大きな一本の木に歩み寄ると、その幹に手の平を沿わせて立派な枝を見上げた。
アンフィサ:「こんにちは〜。唐突ですが、本当にキミ達は、ここにやってきた人達を惑わしたりしてるんですか〜?」
 そんなアンフィサの問い掛けに、木は何もこたえない。他の人間ならいざ知らず、アンフィサが話し掛けているのに無言のままとは解せない感じだ。よくよく観察してみると、木は話が出来ないと言うよりは、答えて良いものかどうか、悩んで戸惑っている感じがした。
アンフィサ:「…あ、そっか〜。ここの番人さんに気を遣っているのね…分かったわ、じゃあ先に番人さんを捜してきますね〜?」
 またね、軽く手の平で木の幹を叩く。そしてアンフィサはスカートの裾を翻し、更に森の奥を目指して歩き始めるのであった。

 森の中自体は、他の森と何ら変わりがない。咲く花も繁る木々も、群れ集う虫や動物達も変わらない。ただ違う所があるとすれば、その全てが、アンフィサを見掛けると遊びたがるような、傍に寄りたがるような素振りを見せはするものの、結局は遠巻きに見るだけで近付いてこようとはしないのだ。アンフィサの方から歩み寄ろうとすれば、慌てたように逃げていく。そしてまた一定の距離を保って、彼女の方を見守っているのである。
アンフィサ:「…やっぱり、とにかくラグラーチェに会わない事には話は始まりませんね〜……あら?」
 ふと、アンフィサは歩みを止めて森の向こうを見遣る。視線を向けた先は、相変わらず樹木が軒を連ねていたのだが、その隙間に、一瞬だけだが人影が掠めたような気がしたのだ。
 アンフィサは、足音を忍ばせてそちらの方へと歩いていく。すると、一本の木の向こう側で、銀色の長い髪がふわりと揺れた。
アンフィサ:「……誰かいますの〜…?」
 そっと彼女が声を掛けると、銀糸がまた揺れる。そしてかすかな足音と共に、逃げるようにその場を走り去っていったのだ。
アンフィサ:「あ、待ってください〜!」
 慌ててアンフィサも走り出す。二つの足音はまるで歩調を合わせているかのようにぴったりと重なり合う。互いの長い髪が木の幹を打つ音さえも同じだ。アンフィサが走るのを止めると、相手も止める。そんな事を繰り返し、アンフィサはまるで、意地悪な鬼ごっこに参加しているような気分になってきた。
 軽く息を切らしてアンフィサが歩みを止める。すると勿論、相手も走るのを止めた。暫くアンフィサがそのままでいると、まだ?と催促するかのよう、木の向こう側から相手がひょこりと顔を覗かせる。その顔を見て、アンフィサが驚いて目を丸くした。
アンフィサ:「……アンフィが、二人…」
 そう、木の向こうから顔を覗かせた相手、それはアンフィサと同じ顔をした女性だったのである。髪の長さも着ている服も、全て同じだ。違う所はと言えば、青と銀の目の色が、アンフィサとは左右逆な事と、アンフィサ本人が白のイメージだとすると、向こうの彼女は黒のイメージがあった。
 暫し二人のアンフィサはそのまま見詰め合っていたが、やがて向こうのアンフィサが、くすくすと笑いを漏らしながら走り出す。が、アンフィサはそれを追おうとしない。その代わり、森の奥へと向かって声を張り上げた。
アンフィサ:「遊んでくれるのは嬉しいですけどー!でも、ヒトリで追いかけごっこしてても、楽しくないです〜!」
 そう言った途端、走っていくアンフィサの後ろ姿が、シャボン玉が割れて消えてしまうかのよう、パンと軽い音と共に一瞬にして消えてしまった。ついでアンフィサの頭上で、何かが羽ばたく音がした。彼女が上を仰ぐと、そこには大きな梟が、真っ白な羽とルビーのように赤い目を持つ梟が一羽、木の幹に止まってアンフィサの方を見下ろしていたのだ。アンフィサはにっこりと笑い、ひょこんと頭を下げた。
アンフィサ:「はじめまして、こんにちは〜、よろしくしてくださいね、ラグラーチェさん〜」


〜森の切れ端〜

 ラグラーチェは、アンフィサを先導するようにゆっくりと羽根をはためかせて飛んでいく。その後を楽しげな歩調で追う彼女の周りには、先程までは遠巻きに見ていただけの動物達、昆虫達が集っていた。森の番人が姿を現した事で、森の住人達も安心して彼女の傍に来られるようになったと言う訳だ。
アンフィサ:「どうして、こんな風に罠を張ったり幻覚を見せたりしてるんですか〜?」
ラグラーチェ:「ホゥ?」
アンフィサ:「だって、ここに来る人の全てが悪い人って訳じゃないでしょう?イイヒトだっているんじゃないですか〜?」
ラグラーチェ:「ホホゥ、ホゥ…ホッホゥ」
アンフィサ:「…。お話できないみたいな振りまでしてますし……」
 ぼそりと呟くアンフィサの声に、ラグラーチェが飛んだまま振り返る。その表情は、まるでニヤリと含んだような笑みを浮かべているかに見えた。
アンフィサ:「まぁ、いいですけどね〜。なんとなくだけど、キミの考えている事は分かるような気がしますし〜。アンフィも、この森の事、すごい好きですよ〜?」
 そう彼女が言うと、ラグラーチェは飛ぶのを止めて近くの枝に止まる。アンフィスの方を向いて、数回羽ばたいて翼を落ち着かせた後、赤い眼を半分閉じて彼女を見詰めた。
ラグラーチェ:「先程、我が幻覚の技をあっさり見破ったな。何故だ」
アンフィサ:「そんなの簡単です〜。だってアンフィはアンフィだけだもの。あの時のアンフィは、鏡に映ったアンフィ、でしょ?だったら、自分ヒトリで追いかけごっこしてるのと同じじゃないですか〜」
ラグラーチェ:「成る程」
 本当は、アンフィサの精霊たる、際立って細やかな感覚や鋭い感覚によって感じたからなのだが。それを知ってか知らずしてか、ラグラーチェは身体を揺らしてホッホッと笑った。
アンフィサ:「それはともかく、罪のない人の命を奪うような事だけはしないでくださいね〜? 勿論、悪いヒトは懲らしめちゃってもいいですけど〜」
ラグラーチェ:「分かっている。今宵はここに泊まっていくのであろう?」
 ここですぐに帰してしまっては、我慢させた彼らに恨まれるからな。そう梟が言って笑う視線の先には、アンフィサと遊びたくてうずうずしているような様子の、動物達や昆虫達、木々や花々が待ち兼ねていたのだ。
 アンフィサもそれを見て、楽しげに笑う。ラグラーチェに一つ頷き掛けると、動物達の方へと歩いていった。


☆終章

 枝と葉の隙間から、綺麗な星空が覗いていた。しっとりと柔らかな草の上に寝転がって、アンフィサは一人夜空を眺めている。周りにはさっきまで一緒になって遊んでいた動物達がいるのだが、遊び疲れたか、みんなぐっすりと眠りこけていて、起きているのはアンフィサだけなのだ。
 枝と葉に寄って細々に切り抜かれた柔らかな月の光、それを全身に浴びてアンフィサは細く息を吐く。
アンフィサ:「…この世の全ての人が、いがみ合う事も奪い合う事もなく、森の財産を上手に活用できるようになれば、あんな意地悪しなくっても済みますのにね……」
 そんな日がいつか来ればいいですけど〜、と小さく呟き、アンフィサもゆっくりと瞼を閉じた。


おわり。