＜聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記＞
【止められた刻】
------＜オープニング＞--------------------------------------
「誰かあそこの塔の刻を知らないかな」
そう言って褐色の肌の少女が黒山羊亭の扉をくぐる。
長い黒髪は二つに結い上げられ、ツインテールが揺れている。
しかし少女の言葉に反応する者は居ない。
少女の悪戯っぽい赤い瞳が店内をぐるりと見渡し、エスメラルダに首を傾げながら尋ねた。目の付け所は間違っていない。
「此処って色々手助けしてくれるって聞いたんだけど…？」
「まぁ、手助けしてくれる人がいるには居るけど……『あそこ』って何処の塔の事？」
「捻れの塔。あの空まで伸びる塔の刻が消えちゃってさ。あれ、戻しておかないとアタシ怒られるんだよね」
「刻が消えた？」
訝しげにエスメラルダが問うと、少女はポリポリと鼻の頭をかきながら告げる。
「消えたっていうか止まったっていうか。アタシ、冥夜って言うんだけど塔の管理をしてるんだ。でもずっとそこに居るわけじゃなくってあちこち色々飛び回ってて。で、久々に戻ってみたら塔の時間が止まっちゃっててさ。今まで止まった事なんて無かったからどうしていいか分かんなくて。あそこの管理任されてるのは良いんだけど、あそこって行く度に迷うんだよねぇ。入る度に捻れてる回数とか変わってるし。まぁ、死ぬような仕掛けは無いからそこは安心なんだけど」
「止まったってどうしてそれが分かるんだい？」
時間って見えないものだろう？、とエスメラルダが言うと、美しい銀細工が施された懐中時計をポケットから取り出した冥夜が答えた。
「だって塔に入った瞬間、時計がぴたりと動かなくなるんだ。そしてまた塔から出ると刻を刻み出す。あの中だけが刻が止まってるんだよ」
「それはまた……」
「別に止まってたって関係なさそうだろ？でもこれがまた大変でさー。アタシもイヤになってくんだけど、あの塔の捻れって時間の流れを受けてそうなってるんだって。で、時間が止まるとそこからだんだんと風化して崩れるっていう話なんだよね。もうアタシもお手上げ」
「で、あんたは留守にしてたからその間のことが分からないと」
「そ。でもねー、鍵も掛け忘れてたみたいだから誰でも中に入ることは出来たと思うんだ。だから刻を止めたかった誰かが入り込んで潜んでいる可能性はあると思う。途中いっぱい仕掛けあるけどさっきも言ったように死ぬようなのはないし。まぁ、迷ったら出られない可能性はあるけど」
はぁぁぁ、と大きな溜息を吐いて冥夜はカウンターに突っ伏す。
全く困った依頼者だね、とエスメラルダは苦笑する。
「で、その止まった刻を取り戻せばいいんだね？」
「そそ。お願いー。御礼はちゃんとするからさ。欲しいものをあげるよ」
アタシこれでも何でも屋なんだ、と冥夜は、ぱちり、とウインクをしてみせた。
------＜弟子入りしたら背が伸びる？＞--------------------------------------
「おぅおぅ、そりゃ大変だなぁ。ここはやっぱり勇猛かつ果敢なる精神を持つ俺様の出番って訳だな」
かかかっ、と笑いながら冥夜の背後から突然現れるオーマ・シュヴァルツ。
突然湧いて出たオーマにエスメラルダは頬の肉をぴくぴくとさせながら尋ねた。
「あんた、一体どこから現れたんだい。毎回毎回神出鬼没だねぇ」
「そんな細けぇことはどうだっていいじゃねぇか。今必要なのは手助けだろう？俺の運ってやつはかなりイイ線行ってると思うがね。どうだい、イロモノ親父でよけりゃ一緒にその捻れの塔ってとこまで行って謎解きしてやろうじゃないか」
その止まった刻ってヤツも気になるしな、とオーマは何か思い当たることがあるのか一瞬真剣な表情をする。
しかしすぐにいつものニヤリとした笑みを浮かべると冥夜の肩をポンと叩いた。
「どうだい、お嬢ちゃん」
うーん、と冥夜は不躾な瞳をオーマに向けるがニコリと笑みを浮かべ頷いた。
「イロモノってなんだか良く分かんないけど、アンタ信用できそうだしお願いするよ」
しっかし背高いねぇ、と冥夜はぴょんとオーマの隣に降り自分の頭の高さに手を置いてみる。
冥夜の背はオーマの腰よりも下だ。冥夜はオーマの顔を見上げ、いいなぁ、と呟く。
「おぅ、お前さんも俺くらい自由奔放なおかつ腹黒に生きてりゃこれぐらい軽い軽い」
「ホントにー？アタシ背が小さいからさ、背の高い人ってちょっと羨ましかったりするんだよね」
「そうかそうか。俺がバッチリ指南してやっからよ。ここは大船に乗ったつもりで……」
「ちょっと待ちなよ。女の子があんたぐらい身長伸ばして何か良いことあるのかい」
しかも腹黒なんて身長に全く関係ないだろう、とエスメラルダの突っ込みが入る。
「でもよ、高けりゃ高い方がいいだろう。高い所にあるものが簡単に届くし」
「台に乗ればいいだろう、台に！」
「背が高いとそうだなぁ…目立つぜ？」
「………！」
言葉を失ったエスメラルダの横で冥夜が嬉しそうに飛び上がる。
「それいいねぇ！気分良いっ！んじゃ、アタシ今からアンタに弟子入りするよ！ホントは師匠居るんだけど二人目の師匠！」
よろしくっ、とケラケラと笑った冥夜はオーマの腕にするりと腕を絡めた。
人なつっこい冥夜はオーマをすっかり気に入ってしまったようだ。
その姿を見て、はぁ、とエスメラルダは溜息を吐く。
「きっとまた『親父たるものはこうして慕われるってのが生き甲斐』とか言い出すんだろう？」
「最近よーっく俺のこと分かってきたみてぇじゃねぇか。ん？エスメラルダ。その眉間の皺が無くなりゃもーっといい女になれるぜ？」
「この眉間の皺は今はあんたのせいでしょ、あんたの！でもまぁ、背が云々はおいておいてあんたが良い奴だってのは知ってるしね、ちゃんとその子の手助けしてやっとくれ」
「言われなくてもそうするってのが、師匠であり親父たる俺の務めってヤツだな」
うんうん、と頷いたオーマは笑みを浮かべてグラスを空にした。
------＜捻れた塔＞--------------------------------------
外に出た冥夜はオーマに、アレで行こう、と指を指す。
そこには此処ではそこそこ珍しい車があった。
「へぇ、随分といいモン持ってるんだな」
「何でも屋だからね。ありとあらゆるものは入手済み」
そう言った冥夜は運転席に乗り込み、オーマに隣に座るよう促した。
「師匠には狭いカモ」
「乗れりゃいいってもんよ。あの遠くに見える塔まで歩いていけって言われた方が酷だしな」
「そうかも。んじゃ、飛ばすから」
ちゃんと捕まっててね、と言うが否や冥夜は思い切りアクセルを踏み込んだ。
突然の加速にタイヤが鳴る。振り落とされそうな感覚にオーマは車にしがみついた。
「オイオイ、俺は信じてるがちゃんとアソコまで行けるんだろうなぁ」
「アタシの腕を知らないな。冥夜ちゃん、運転させりゃスピード狂ってね」
そりゃ誰も全然誉めてないだろう、とオーマが呟くがその声は風にかき消されてしまう。
「やーん、楽しいー！」
ケラケラと笑う冥夜の声だけが夜空に響いていた。
「ちゃんと鍵は閉めたんだ」
得意気にそう言う冥夜だったが、普通鍵とは閉めるためにあるのではないだろうか。
ふとそんな疑問も過ぎったが、オーマは一瞬だけ塔の中から感じた気配に眉を顰める。
「ほら、開いた。中は迷路みたいになっててトラップとかもたくさんあるけど、死ぬようなのは無いから大丈夫。捻れも止まってるからとりあえず上までは行けると思うんだ。普段は捻れが酷くて上まで辿り着けないんだけどね」
冥夜はそう言いながら中へと入る。
冥夜にとっては見慣れた塔の内部なのだろう。異変には気づいていないようだ。
オーマは初めて入った塔の内部にやはり先ほど微かに感じた気配を捕らえて辺りを見渡した。
「師匠どうかした？」
冥夜は辺りを見渡すオーマに首を傾げて尋ねる。
「いやな、なーんか嫌な気配があるなぁって思ってな。何も感じねぇか？」
「んー……いつもこんな感じだった気がする。とりあえず刻は止まってるね」
動かなくなった懐中時計をオーマに見せ、冥夜は前へと進む。
「あんまりあちこち触るとトラップに引っかかっちゃうからそこら辺は気をつけてね」
「俺が引っかかりたくなくても、下手すりゃあっちからちょっかい出してきそうだぜ」
そう呟いた声は冥夜まで届かなかったようだ。
この塔のどこかに隠れている。
オーマがこの世界でも追い続けている存在、ウォズが。
思念や魂それらで構成されるウォズはあらゆるものに形態を変化させることが可能だ。それはこの塔自体に変化することも可能だということだ。
しかしこの塔の中から敵意は感じられない。
それともオーマに敵意がないから攻撃してこないだけなのか。
「でもまさかこんな捻れた塔そのものに変わったところでなぁ……それに刻を止めて奴になんの徳が……」
ブツブツと呟き続けるオーマを冥夜が振り返る。
「師匠置いていくよー。結構入り組んだ迷路になってるからアタシ見失うと帰れないかも」
なんてね、と言った冥夜めがけて飛んでくる複数の矢。
「伏せろっ！」
オーマは咄嗟に銃を具現させ矢を全て撃ち落とす。複数の矢を全て中心から二つに折ってしまうと冥夜を抱き寄せた。
「危ねぇ仕掛けはないんじゃなかったのか？どう見てもありゃ冥夜、お前さんを狙ってたぜ？」
床に落ちた矢を見て冥夜は首を振る。
「こんなの知らない。今までは吸盤ついた矢とかだった……これ刺さったら死んじゃうよね？」
あははは、と冥夜は渇いた笑みを浮かべる。
冥夜はよく分からないといった様子で、オーマとその矢を見比べている。
今でもまだその矢が飛んできたことが信じられないようだ。
「冥夜みたいに華奢な奴は一発で終わりだろうな」
とりあえず俺から離れんなよ、とオーマは先に立って歩き始める。
敵意はなかったはずだった。
それなのに矢は冥夜を狙った。
それはどういうことだろう。
螺旋階段のようにも見える場所からオーマは下を覗き見る。
今まで登ってきた場所がその間にも動いて変化していくのが見えた。
「この塔は生きてやがるのか……」
「そ。自分の意思で動いてる。でも刻だけ止める理由は見つからない。アタシにこの塔の管理を任せた人はほぼ永久に動き続ける捻れの塔だからって言ってた。アタシが生きてる塔なら話せる？って聞いたら笑って答えてくれなかったけど」
暫く入り浸ってたんだけど話できたこと無かったなぁ、と冥夜は言う。
自らの意思で動く塔。
刻が止まれば風化して崩れてしまう。
それは塔の死を意味するのではないか。
刻が止まったということは死へのカウントダウンが開始されたということだ。
この塔は刻を止めたウォズによって殺される。
面白くねえなぁ、とオーマは呟く。
それは怒りにも似た感情だった。
「勝手に刻を止めてテメェの良いようにして、この生きてる塔を崩そうってのが気にいらねぇ」
「師匠？誰に怒ってんの？」
冥夜はオーマの袖を引っ張って尋ねる。
しかし冥夜の言葉を無視し、オーマは塔の中にいる何者かに向かって告げた。
「待ってろ。今すぐにテメェのとこまで行ってやっからよ。話はそれからだ」
オーマは冥夜を脇に抱えると階段を一気に上り始めたのだった。
------＜ウォズ＞--------------------------------------
オーマの宣戦布告ともとれる宣言をしてからは、一気にトラップの数が増えた。
「ちょっと、これマジで死にそうなんだけど」
冥夜も自称何でも屋の意地なのか自分の命を守るため、数々の品物を駆使しトラップを避ける。
「おぉ、いきなり大歓迎ときたか。様子を窺うような奴よりかはこっちの方が数倍良いな」
「良くないよ！危険度いきなりＳランクじゃん！」
アタシまだ死にたくないー、と冥夜は嘘泣きをしてみせる。
先ほどまで命を狙われて呆然としていたのが嘘のような余裕をみせている。
塔の天辺に登り詰めるまであちこちから矢や弾が飛んできて二人の命は狙われ続けた。
しかし致命傷を負うこともなく二人は迷路を抜け、塔の一番上までやってきた。
「ほぉ。此処まで来るとはな」
二人を出迎えたのは色白で切れ長の目を持つ女と、部屋の中央に浮かぶ煌めく球体だった。
「……誰？」
冥夜が訝しげに女を見る。
前に一度来た時に冥夜はそのような人物に会ったことがない。
「アイツはウォズだ。またの名を凶獣とも言う」
「ほほほほっ。そのようにも言ったな。久しく忘れていた。お主の事もな」
ヴァンサーか、と女は蔑むような瞳でオーマを見て球体に触れた。
するとその球体から光る糸が溢れオーマを絡め取った。
「師匠っ！」
その糸に絡まる寸前、オーマは冥夜を突き飛ばし一緒に取り込まれそうになるのを避ける。
「そのような余裕与えてやらぬ」
オーマを締め付ける糸が強くなった。
「なめてんじゃねぇぞ、クソッ」
かろうじて手首から下が動くのを確認し、オーマは具現化した銃を構える。
無理な体勢からの射撃はかなり体に負担がかかるが、つべこべ言っている暇はない。
女からは影になりオーマの手に銃が握られていることは気づかれていなかった。
「せいぜい楽しませておくれ。この塔と一緒に朽ちてくれれば尚良い」
「生憎俺は不殺生主義でね。誰かを目の前で殺されるのも自分が殺されるのも許せないんだよなぁ。そこんとこよく覚えとけよ？」
ニヤリ、とオーマは笑みを浮かべる。
それを、きっ、と睨み付ける女。
「口から塞いでくれるわ！」
一瞬オーマから視線が外れた。それをオーマは逃さない。
球体の下から見えている女の足下を狙った。
この苦しい体勢からだから当たるという保証はない。
しかしこの一発を当てなければ先は見えない。
オーマは迷いなくその引き金を引いた。
「ぎゃぁぁぁぁっ」
女の足に命中しそのまま女は蹲り転げ回る。
球体からの糸が途切れた。
しかし絡まったままの糸はほどけない。
「仕方ねぇなぁ」
力を解放し瞬時に銀髪の赤い目の青年へと姿を変えるオーマに、冥夜は感嘆の溜息を漏らす。
その本来の血を解放したことにより、オーマの体を絡めていた糸が切れる。
無理な体勢で撃って少し痛めた手を振りながら、オーマは未だ床に倒れたままの女の元へと歩いていった。
「さてと。こん位じゃ全然効いてないだろ。話を聞かせて貰うかね」
オーマは鞄から包帯やら薬を取りだし、女の傷つけた足を引き傷口を眺めた。
「何をするっ！妾はお前の敵で……」
「あん？怪我人だろ？俺は医者だ。それに戦う気もない奴に手を挙げるほど極悪人でもないしな」
腹黒だけどよ、と笑うオーマに毒気を抜かれたように女はオーマを見つめた。
「何故戦う気がないと……」
「そりゃ初めから戦う気があるんだったら冥夜じゃなく俺を狙ってくるだろう？俺だけがお前らウォズを狩れる者なんだから」
それなのに狙ってこなかったって事は俺と戦う意思がねぇってことだ、とオーマは止血をしながら言った。
「この塔の事は放っておいてくれればよい」
「そういう訳にもいかねぇから俺たちは此処にいるんだけどな」
なぁ、と冥夜にオーマが声をかける。
「そうだよ。この塔が崩れちゃったらアタシが困るんだって」
遠巻きにオーマと女の様子を眺めていた冥夜だったが近くまで走ってくる。
「俺もこの塔を見殺しには出来ねぇなぁ。このままだと崩れンだろ？」
「この塔には崩れて貰わねばならんのだ。あの球体。あれがあれば妾は大人しくしておる。この塔が崩れぬ限りアレは妾のものにはならない」
女が言っているのはあの輝く球体のことなのだろう。
オーマは冥夜に球体を指さしながら尋ねる。
「あれはいったい何なんだ？」
冥夜は、んー、と言葉を濁す。
しかしオーマが真剣な表情で見ているのに観念して口を開いた。
「あれはね、イメージ増幅器」
「あぁん？イメージ増幅器だぁ？そんなもんどうして此処に………」
そしてすぐにオーマは一つの答えに辿り着く。
「そうか。分かったぞ。これはこの塔の命みてぇなもんなんだな。この球体…イメージ増幅器を使ってこの塔は動いている。微かな意識の波動を感知してそれを増幅させて……って、誰が動かしてるんだ？」
冥夜は困ったように笑う。笑ってごまかそうとしているんだろう。
「言いたくねぇなら無理に言わなくても良いけどな。……そんで、お前の方はどうしてコレが欲しいんだ？」
今度は女に向かってオーマは問いかける。女は口籠もったまま口を開こうとはしない。
「人型になれるってことはかなりの高位体だろ。なのにわざわざイメージ増幅器なんざ必要ねぇんじゃないのか」
至極尤もな意見だった。
それはこれがここにあるからだ、と女は呟いて人型を解く。
目の前に現れたのは小さな小さな小鳥だった。
「本来妾はこの様な力しかない。だからその力が欲しかった。別に力を得たからと言って人を傷つけるつもりもない。ただ人間の姿となり静かに生きていたかっただけ」
望むものはそれだけ、と小鳥の姿になった女は言う。
「だったら俺が封じるまでもねぇな」
オーマの言葉に女は顔をあげた。
小鳥の目線で見上げるオーマはどれだけ大きく見えるのだろう。
「しかし……お主はヴァンサーで……」
「だから俺は医者。お前は怪我人。俺の患者っつーことだ」
戦う気がないならそういう関係もいいだろ、とオーマが言うと女は小さく頷く。
その時、先ほどからがさがさと鞄を探っていた冥夜が声を上げた。
「あったー！師匠、これでこの人悩み解決。冥夜ちゃんにお任せ！」
緊迫感のない声にオーマが、あぁん、と首だけ冥夜に向ける。
「ほらこれ。そのイメージ増幅器のちっちゃいの」
それは目の前の球体に比べたら小さすぎるイメージ増幅器。５０分の１くらいの大きさだった。
「これもね、かなりの効力発揮するハズ。ね、使ってみて」
小鳥は目の前に置かれた球体にくちばしを軽く付けた。
そして次の瞬間、小鳥の姿は消え５歳くらいの少女の姿が現れた。
「さっきのミニサイズか」
楽しげな声をあげてオーマが笑うと冥夜もその変化に嬉しそうに微笑む。
「ほらね、効力は落ちるけど」
それじゃこれをー、と小さく開いた穴にチェーンを通し冥夜は女の首にかけてやる。
「コレあげる。使って貰えた方が嬉しいし」
「しかし……」
「しかししかしってばっかり言ってると段々頭も固くなってくるぞ。そう言う時は素直に喜べ。そして、ありがとう、って言ってやるもんだ」
ぽん、とオーマが女の頭をくしゃくしゃと掻き回す。
くすぐったそうに目を細めた女は大事そうにその球体を両手で包み込み、冥夜にぺこりと頭を下げた。
「ありがとう」
「うん。大切にして。……えぇっと、なんか忘れてる気が……そだ、お願いがあるんだけど。刻を戻して欲しいんだ」
色々あって一番初めの目的を忘れていた冥夜だったが、やっとそれに気づき女に告げる。
「分かった」
そう言ってとてとてと目の前の球体に近づいていった女だったが、ミニサイズになってしまっている今はその球体まで手が届かない。やはり触れていないと力は発揮できないようだった。
オーマはひょいと女を抱き上げ球体に近づけてやる。
「ほらよ。さっさと刻を戻してスッキリすればいい」
こくん、と頷いた女は刻が刻まれていく姿をイメージする。
ゆっくりと。
カチ、コチ、カチ、コチと時計の刻まれる音を感じて。
球体から、ぶわっ、と風が舞い上がったかと思うと今まで静けさを保っていた塔の内部が急激に活性化した。
あちこちで何かがひしめき合っているような音。
冥夜がオーマに嬉しそうに懐中時計を取りだし見せる。
「見てみて！時計が動いたよ！刻が戻ったんだ」
心からの笑顔を浮かべる冥夜にオーマは満足そうな笑みを浮かべる。
「そりゃぁ良かった。ほらな、俺様の言ったとおりだったろ。俺は運が良いって」
ニカッ、と笑ったオーマに冥夜は告げる。
「約束のプレゼント。何が良い？」
何でも屋の名にかけて必ず用意してみせるから！、と冥夜は胸を張る。
「もう貰ったぜ？」
「え？何が？」
オーマの言葉に冥夜は首を傾げる。
「だからプレゼント。親にとってのな一番の宝は子供の笑顔ってやつだ」
ほらほらもっと笑って見せろ、と冥夜の頬を軽く引っ張る。
「いひゃいー」
ぱっと話してやると冥夜は頬をさすりながら笑う。
「うん、すっごい嬉しかった。アリガトウ。助けてくれたし、塔も元通りだし」
「その笑顔があれば礼としては十分だ」
俺も一晩頑張ったかいがあった、とオーマはポンポンと冥夜の頭を撫でた。
そうして冥夜とオーマとウォズの変化した姿である少女は共に捻れの塔から脱出する。
「んー！良い天気」
既に夜が明け、空には青空が広がっていた。
「あぁ、良い朝だなぁ。こういう日は元気よく健康的にだなぁ…」
オーマが冥夜に師匠たるところを見せようと語り始める。
その様子を嬉しそうに胸元のネックレスを弄りながらウォズの少女が眺めていた。
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■登場人物（この物語に登場した人物の一覧）■
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【整理番号／ＰＣ名／性別／年齢／職業】
●1953／オーマ・シュヴァルツ／男性／39歳／医者兼ガンナー（ヴァンサー）副業有り
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■□■ライター通信■□■
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こんにちは。夕凪沙久夜です。
ギリギリの納品で大変申し訳ありません。
今回は「止められた刻」へのご参加まことにありがとうございます。
ウォズ関係のお話となりましたが、如何でしたでしょうか。
冥夜の本来の笑顔を取り戻して下さりアリガトウございました！
お父さん大好きッコになってます。勝手に弟子入り志願してます。（笑）
どうぞ腹黒同盟総帥としてうちの冥夜を腹黒に染めてあげて下さい。
オーマさんには本当に色々お申し込み頂いてるので頑張らせて頂きます！
親父道驀進中なオーマさんに惚れ惚れしております。
今回は本当にありがとうございました。
それではまたお会い致しましょう。
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