<PCクエストノベル(1人)>


豪商の沈没船〜サルベージ大作戦!

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【冒険者一覧】 整理番号 / 名前 / クラス
 2141 / ミーシャ=ミルフェルト  / ミルフェルトグループ会長

【探求者】
 サクラ・アルオレ
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 それはユニコーン地域随一と言われた仲買人であり資産家の商船。
 出航した日は穏やかな波であり、航海にはなんの問題もない天候であったにも関わらず、沈没してしまった船。
 今も無惨な姿を残す船の中には金銀財宝と、そして――なにか魔物が住みついているらしいという噂があった……。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

ミーシャ「さあ、出発ニャっ!」

 とある港に停泊した船上にて。
 ソーンの大半の商業を支えるミルフェルトグループの会長、ミーシャ=ミルフェルトは元気よく片手を上げて宣言した。

船員たち「おおおおおーっ!」

 会長に応えて、六十名ほどのアルバイト船員たちも威勢の良い声をあげる。
 噂の豪商の沈没船が、今度新規開拓しようとしている海路の貿易ルート上にあるため、周囲の安全確認と噂の沈没船に何があったかを確認するのが今回の航海の目的だ。
 船ごとサルベージして船の航海日誌と船体の損傷を調べることが出来れば一番良いのだが……。
 あそこには魔物が棲みついているという噂。そう簡単にもいかないだろう。
 船員たちがバラバラと各自の仕事についていく。慌しい甲板の人の合間を縫って、一人の少女がミーシャの元へとやってきた。

サクラ「こんにちわ。今日はよろしくお願いします」

 にっこりと微笑んだ彼女の名はサクラ・アルオレ。炎の精霊サラマンダーと契約を結んだ精霊戦士だ。対モンスターに供えて雇った探求者である。

ミーシャ「こっちこそ、よろしくニャ。モンスターが出てきた時は襲撃お願いなのニャ」
サクラ「はい」

 空は青く、海は太陽光を反射してキラキラと光を映す。
 航海は順調だった。
 そうして海を進むこと数時間、船は目的地である豪商の沈没船付近にまでやってきた。

船員「錨を下ろせーっ!」

 ガラガラと鎖のこすれる音とともに、錨が海中へと落とされて行く。
 俄かに甲板が騒がしくなった。
 縄の準備をする者、潜る準備をする者。船員たちがバタバタと甲板を駆ける。
 その指示をするのはもちろん会長のミーシャである。
 天気は良好。魔物の気配もなく、順調にコトが運ぶかと思われたその時。

船員「会長〜っ!」
ミーシャ「どうしたニャッ!」

 ロープを下ろすために海中に潜っていた船員が慌てた様子で海面に顔を出した。
 船員は海の底――沈没船の方を指差して叫ぶ。

船員「船に、魔物が取りついてますっ!」
船員「あれじゃあ船に近づけませんっ!!」
ミーシャ「わかったニャ。一旦上がってくるのニャ!」

 船員たちの様子に気付いたサクラがぱたぱたと小走りにミーシャのところに駆けてくる。

サクラ「魔物が出たんですか?」
ミーシャ「そうなのニャ。沈没船の中を棲家にしてるみたいなのニャ」

 その話を聞いて、サクラは少々考えこむ。
 なにせ相手は海底。そしてサクラの特技は炎精剣の召喚。向こうは海中の魔物、ただでさえ向こうの方が有利であるのに、水中では炎の威力は半減以下だ。

ミーシャ「どうにかして魔物をこっちに誘き出せれば良いんだけどニャ……」

 船を引き上げればもれなく魔物もついてくるだろうが、そもそも沈没船に近づくと魔物はすぐに襲ってくる。自分の縄張りを守ろうとしているのだろう。

サクラ「やっぱり私が潜りましょうか。ちょっとした攻撃でも気を逸らすには充分でしょう」
ミーシャ「うーん……それじゃあ、お願いするニャ」

 できないことは言わないだろうと考え、ミーシャはサクラの案に乗ることにした。
 サクラが海中に入って行ってしばらくのち。沈没船より少し離れた海中からサクラが顔を出して合図をする。

ミーシャ「よし、今のうちニャ。みんな、行くニャっ!」

 魔物が戻ってくるまでに縄をかけねばならない。雇ったアルバイトの半数以上が一斉に海中へと潜って行く。
 十数分ののち、海面に顔を出してきたアルバイト船員たちを確認して、ミーシャは次なる号令を出した。

ミーシャ「準備完了ニャ。引っ張るのニャーっ!!」
船員たち「おおっ!」

 甲板に残った船員たちは縄を引く役だ。海中から戻ってきた船員たちも、次々と縄を引く方に回って行く。
 少しずつ、船が海上へと近づいて行く。
 と、その時。
 巣穴を持って行かれていることに気付いた魔物が、沈没船へと足を伸ばす――見るに巨大たこっぽい感じだった。
 しかし、一足早く、サクラの炎精剣が炸裂し、魔物の足を一本落とす。

ミーシャ「みんな、急ぐのニャーっ!」
船員たち「おおおおっ!!」

 ミーシャの号令に船員たちが威勢よく応え、とうとう沈没船の甲板が海面に現れはじめた。
 魔物はよほどこの沈没船に愛着があるらしい。サクラの足止めも長くは続かないだろう。
 かと言って、この沈没船を引っ張りつつでは船のスピードが出ない。

ミーシャ「……仕方がないのニャ」

 本当は船ごともち帰ってきちんと調べたかったが……。
 まずは命あってのモノダネだ。チラとサクラのほうを見れば、あと十数分程度ならなんとか保ちそうな様子。
 ここはひとっ走り船に入り、日誌だけでも確保すべきだろう。
 号令を一人に任せ、ミーシャは沈没船の内部へと飛び移る。
 長い間海中に置き去りにされていたおかげで、内部はあちこちにフジツボがこびりつき、床のところどころには船と一緒に引き上げられた魚がビチビチと撥ねていた。
 船の構造なんてどこもそうは変わらない――そう考えて走った先で、ミーシャはすぐに船長室を見つけることが出来た。

ミーシャ「机の上には……ないニャ」

 そんなところにあったらあっという間に復元も不能なほどに壊れていただろうから、あっても困るが。
 ガッと辺りの引出しを開け、中を確認する。隠すほどのものでもないためか、日誌は案外簡単に見つかった。
 持っていた布でそっと日誌を包み、元来た道をダッシュで駆ける。

ミーシャ「サクラ、もう良いニャ。戻るニャ!!」

 船員たちに沈没船を下ろすよう告げてすぐに、サクラにも声をかける。
 ミーシャの声に気付いたサクラは、すぐさま攻撃の手を止めて逃げにかかった。
 逃げてくる先は、沈没船の方。魔物が沈没船の方に意識を向けてくれればと思ったのだろう。
 あり難いことに、魔物は逃げる獲物を追い掛けることよりも、棲み慣れた棲家を確保することを優先してくれた。

ミーシャ「サクラ、ご苦労様ニャ」
サクラ「結局、船は持ち帰れませんでしたね」

 少々申し訳なさそうに言うサクラに、ミーシャはにっこりと笑って見せる。

ミーシャ「仕方がないニャ。また機会はあるニャ。それに収獲ゼロって言うわけじゃなかったニャ」

 持ち出した日誌を見せると、サクラはほっとしたように笑みを浮かべた。