<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>


星夜の七夕祭り


------<オープニング>--------------------------------------

「たのもー!」

 どかどかっ、と物凄い音がして黒山羊亭の扉はぶち破られた。
 そこには、よっこらせ、と太く長い竹をもった冥夜が、にゃはっ、と笑顔を浮かべながら立っている。
「ちょっと!何が『たのもー』よ!今度は何処の国に感化されてるの。しかもいきなり店壊さないでくれる?おまけになんだい、それは!」
 エスメラルダが竹を指さしながら冥夜にまくし立てると、それをずるずると引きずったまま冥夜は黒山羊亭へと入ってきた。
「外に置けばいいだろう、外に!」
「えー、だって説明しなきゃ駄目じゃないの?最近七夕っていうものがあるって知ってさ、それをここでやっちゃおうって思ったわけ。んで、一生懸命竹を探してきたんだ」
「七夕って……あれかい?一年に一度恋人が会えるとかいうお伽話みたいな……」
「うん。でもそんな会えるとか会えないとかはどうでも良くって、七夕をダシに騒ごうって思っただけなんだけど。でもせっかくだから雰囲気だけでも味わいたいじゃん。だから竹。これにほら短冊だっけ?願い事とか考えて括り付けて皆のさらし者にしちゃえーとか」
 楽しみ楽しみ、となんだか笑顔で恐ろしいことを言っている冥夜。
 はぁ、と冥夜の言葉にエスメラルダは頭を抱える。
「あんたと話してるとだんだん具合が悪くなってくるのは気のせいかしらね」
 ぽんぽん、と今まで黙っていたジークフリートがエスメラルダの肩を叩く。
「仕方ないんですよ、冥夜は台風みたいな子ですから」
「ん?あ、ジークも居たんだ。もっちろんジークも参加だよね」
 にたり、とジークに気づいた冥夜は笑みを浮かべると、竹をほったらかしにしジークの腕に絡みつく。
「えっ……ボクも…参加……なんですか?」
「当たり前じゃん。もち、エスメラルダもだから。だって主催だもん」
「え?ちょっと……黒山羊亭主催?」
「そだよ。だってここが夜一番人が集まるんだもん。それと……話にちなんで7/7に開催ね。さぁって何人集まるかなぁ……」
 早速張り紙張り紙ー、と冥夜は他の人物の意見を聞くこともなく、鞄の中から紙を取りだし勝手に参加者募集のチラシを書き始めたのだった。


------<七夕?>--------------------------------------

 賑やかな店内に入ってくる一人の影。
 熱気溢れるそこで聞こえてくる歌声とそして華麗な舞いに天護疾風は目を奪われた。
 疾風の心にすっと入り込んでくるような歌。
 そして静けさの中にある激しい想い。
 そのようなものを感じ取り疾風はそのまま二人の姿を見つめていた。

 やがて歌が終わり、疾風も我に返り歩き出す。
 空いているのは先ほど歌と踊りを披露していた二人の居るカウンターだけだった。
 どこも空かないのを見て疾風はカウンターへと歩を進める。
「おや、見かけない顔だねぇ」
 エスメラルダは気さくに疾風に声をかけてくる。
「こんばんは」
 にこり、と微笑みを浮かべたジークフリートは自分の隣を指し疾風に座るよう促した。
 それを断る理由もない。
 疾風は示された席へと腰を下ろし、二人に挨拶をした。
「こんばんは。天護疾風と申します。先ほどは素晴らしい歌と踊りに魅了されてしまいました。いつもお二人はここで?」
 その問いにジークフリートは首を左右に振る。
「いいえ、ボクは此処だけではなく他の場所でも歌ってます。エスメラルダはここの店主みたいなものですね」
「まぁ、そんなとこかね」
 そうだ、と思い出したようにエスメラルダはチラシを取りだし疾風に渡す。
「もし、ここに来たばかりだっていうなら交流深めた方がいいだろう?今度おあつらえ向きに七夕祭りをうちで開催するんだけど……参加する気はある?」
「七夕祭りですか……この世界で七夕をすることになろうとは‥思いもしませんでした。折角のお話ですし、私も参加させて頂こうかと思います」
 穏やかな笑みを浮かべ、疾風はその話に乗る。
 この世界の七夕とはいったいどのようなものなのか興味もあった。
「よし、それじゃ決定だね。当日待ってるから来ておくれよ」
「ボクも参加なので……楽しみにしてますね」
 これからもよろしくお願いします、とジークフリートが人の良さそうな笑みを浮かべてそう言った。


------<ソーン風七夕祭り>--------------------------------------

 少し早めにやってきた疾風はジークフリートの姿を見つけ近づく。
 するとジークフリートの方でも疾風の姿に気がついたのか、ぺこり、と小さく会釈をした。
「こんばんは。早いですね、疾風さん」
「いえ、こちらで七夕飾りの方を作らせて頂こうと思いまして。お邪魔にならないでしょうか」
「えぇ、大丈夫ですよ。ボクも今見よう見まねで創っていたところですし。一緒に作りましょう」
 ジークフリートが店の隅の方へと疾風を誘う。
 そこにはエスメラルダと、褐色の肌に黒く長い髪をツインテールにしている少女が座って必死に折り鶴を折っていた。
「こんばんは。すごいたくさん作ってますね……」
「あ!綺麗なお兄さんコンバンハ!アタシ、冥夜っていうんだ。よろしくね〜。今日は七夕祭りへようこそー!」
 にゃはー、と笑った少女は疾風を自分の隣へ座るように、ぽんぽん、と座席を叩く。
「こちらこそよろしくお願いします。私は天護疾風と申します」
「うん、疾風ね。覚えたからオッケーオッケー。で、お兄さんは何を作るの?」
「私はこれを……」
 おもむろに疾風が懐から取り出したのは白いてるてる坊主だった。
「コレって、てるてる坊主っていうんだっけ?」
 首を傾げて冥夜がそう尋ねる。
「はい。折角の年に一度の逢瀬ですし、織姫と彦星の為にも『てるてる坊主』などはどうかと思いまして。‥他の方も考えてるかも知れませんが、私にはこれが精一杯です」
 実は今まで居た世界では狼型だったので、人間としての姿でこういったものを作るのは初めてなのです、と疾風が苦笑しながら告げる。
 すると冥夜が、格好いい!、と疾風ににこりと微笑んだ。
「すごいね、狼の姿をしてたんだ。こっちも綺麗で格好良いけど、そっちの姿もきっと格好良いよね。いいなぁ、見てみたいなぁv」
 うっとりとした表情で疾風を見る冥夜。
 それをエスメラルダとジークフリートはクスクスと笑いながら見ている。
「ほらほら、冥夜早く作らないと皆が来てしまいますよ」
 ジークフリートはそう言って冥夜の目の前に紙を置く。
 すると冥夜はそれをジークフリートの目の前に返した。
「ジーク、折り紙はまかせたから!アタシはこれから疾風のお手伝いする!」
 作り方教えてー、と冥夜は疾風の腕を掴んで引き寄せる。
「えっと……エ・エスメラルダ?」
「あたしもこっちの方がいいな。ま、そういうことで頑張って頂戴、ジーク」
 エスメラルダの分の折り紙もジークフリートの目の前に重ねられる。
 がっくりと肩を落としたジークフリートは一人で折り鶴を折り始めたのだった。

「いいんですか……?」
 申し訳なさそうに疾風がジークフリートを見ながら告げるが、冥夜もエスメラルダも、いいの、という言葉を発しもくもくとてるてる坊主を作り続ける。
 もうそれは止まらないようだ。
 ちらほら七夕祭りへの参加者も集まってきたのをみて、やっと冥夜は腰をあげ走っていく。
 それを楽しそうに眺めながら、疾風はせっせとてるてる坊主を作り続けた。

 入れかわり立ち替わりで人々が黒山羊亭を慌ただしく往復している。
 葉子の提案で外で七夕祭りをすることになり、先にリース達は外に向かう。
 そんな中、疾風とエスメラルダと冥夜はまだてるてる坊主を作っていた。
 一山出来ただろうか。
「もうそろそろ良いと思いますけど……」
 疾風の言葉にエスメラルダと冥夜が顔をあげる。
「そう?それじゃこれくらいにしてアタシたちも上に行こう」
 作ったてるてる坊主を袋に詰め、三人は外へと向かっていった。

 外に出ると目の前に現れた踊り子の衣装を着た魅惑的なレピアが三人を見つけ近づいてきた。
 エスメラルダとは踊り子仲間として仲が良いのか、楽しそうに会話をしている。
 そしてその二人は楽しそうに会話をしていたが、やがて人々の中心で踊り始める。
 その姿に疾風は目を奪われる。

 まるで競い合うかのように激しく、そして情熱的にリズムを刻む。
 外に出てきたリース達はその二人の踊りを見つめ、うっとりとする。
 言葉にはならないその思いが二人の踊りから溢れてくるようだった。

 先ほど先に竹を持って外に出て行ったオーマが近くにやってきて簡単の溜息を吐く。
「たいしたもんだ」
 その言葉に疾風も同感だった。
 まだずっと続くような感覚があったが、すぐにその踊りは終わりを告げる。
 どこか勿体ないような、それでいて満足感のある素晴らしい舞いだったと疾風は思った。
 するとオーマが皆に声をかける。
「なんだかようこの奴が呼んでるみてぇだぞ。食い物もあったみてぇだから行くのが吉かね」
「そうですね、いってみましょう」
 疾風の言葉に頷いて、全員葉子の待つテーブルへと歩き出した。

 やってきた参加者達に葉子はお茶を振る舞うと楽しげに鼻歌を歌い出す。
「美味しい……」
 それぞれがそのお茶とお茶菓子に舌鼓をうつ。
「それはドウモ。ところで、冥夜ちゃん。短冊と飾りは?」
「あーっ!忘れてた!早速飾ろう、飾ろう!メインイベントだし」
 冥夜の言葉でそれぞれが持ってきたものをテーブルの上に並べ始める。
 そして冥夜はまだなにも書かれていない短冊を乗せる。
「それじゃ短冊書きたい人は書いて、飾り付ける人は飾り付けてね〜」
 アタシは短冊ー、と冥夜は紙を手にする。
 オーマとリースとレピアと葉子が短冊組で、サモンとルーセルミィと疾風とジークフリートとエスメラルダが飾り組だった。

 ルーセルミィは手にクリスマスツリーに飾るキラキラとしたモールを手にし、見つめる疾風とジークフリートに尋ねる。
「飾り物はー…木に飾るならコレ?」
 素晴らしいくらいのルーセルミィの笑顔に二人は頷く事しかできない。
 そしてジークフリートは折り鶴、疾風の手にしているものはてるてる坊主だった。
「あなたは短冊を書かないのですか?」
 疾風に聞かれてルーセルミィはニッコリと笑顔を浮かべながら言う。
「短冊?書かないよ。願い事は自力で叶える主義だからね♪」
 それに、とルーセルミィは続ける。
「ジークやよーこちゃん、色んな人と仲良くなれて今が幸せだもん。これ以上願ったら贅沢だよね、うんv」
「ボクも同じ気持ちです」
 ジークフリートが言うと疾風が、そうですか、と呟く。
「疾風さんは?」
「叶えたいような、そうでないような願いはありますが‥書く事は出来ません‥。今のままいつまでも静かに暮していたいけれど、それがあの人にとって本当に良い事なのか分かりませんから」
 せっかくのお祭りなのにいけませんね、と疾風が言うとルーセルミィは首を振る。
「良いと思うよ?だって他人の幸せとかってその人にしか解らないものだと思うから」
 そしてくるりと表情を一変させると、疾風にモールを手渡し、上の方に付けて、とお願いモード全開で頼む。
「えぇ。構いませんよ。笹の取り付けや、つけ難い場所に飾りをつけたりするのはお任せ下さいね」
 柔らかい笑顔で疾風はそう言うとルーセルミィのモールを上の方に取り付けてやった。
「ありがとう」
 ニッコリと笑みを浮かべたルーセルミィは疾風に礼を述べるとやってきた葉子に近づいていく。
 その後ろ姿を見つめながら疾風はにっこりと笑顔を浮かべた。
 そして自分のてるてる坊主を飾り付けながら、ふと竹の反対側を見ると、サモンが一人で一生懸命竹に飾りを付けようとしているのが目に入った。
 疾風は、おや、と呟いてそちらに回り込む。
 そしてサモンがそのクリスタル細工を仕舞おうとした時、疾風はそっと声をかけた。
「私でよろしければお手伝い致しましょうか?」
 しかしサモンは首を左右に振ってそれを拒絶する。
「………いい………」
「せっかく持ってきたものですから付けた方が良いと思いますよ。その飾りを付けたらこの竹も喜ぶでしょう」
 竹を見上げるサモンに疾風はなおも続ける。
「こういうものは自分で付けた方が良いかもしれませんね」
 お手伝いしますよ?、ともう一度尋ねられサモンは暫く考え込んでいたが頷いた。
「それでは……失礼します」
 持ち上げるのはどうかとも思ったが、それでも必死に取り付けようとしていたサモンが可愛らしく思え、疾風は自分自身でその飾りを付けた方が良いだろうと判断し手をかける。
 ひょいっ、とサモンの身体を軽々と抱え上げた疾風は近くの枝へと近づけた。
 驚いた様子のサモンは身を固くするが、なおも柔らかな笑みを崩さない疾風を見ておずおずと手を伸ばし、クリスタル細工を枝に飾り付ける。
「できましたね」
 失礼しました、と疾風はゆっくりとサモンをおろしてやる。
「……ありが……とう……」
「いいえ、どういたしまして」
 くすり、と疾風は満足そうに微笑んだ。

 短冊を書き終えた人々が竹の方へと集まってきた。
 しかし何時の間にやら、ジークフリートがルーセルミィと同じ織姫姿になっていて、結んでいた髪の毛も下ろされていた。
「どうしたのー?ジーク、女装趣味?」
「あの……これは……」
 困惑顔のジークフリートの代わりにルーセルミィが自慢げに胸を張って告げる。
「ボクとよーこちゃんの合作。…ね?」
「俺様髪フェチーv」
 さらりとしたジークフリートの髪の毛を一束取り、軽くそれにキスをする葉子。
「サラサラ最高だよねーv」
 葉子とルーセルミィは結託して楽しんでいたらしい。
 エスメラルダも楽しそうに眺めている。
「いいんです、ボクは……」
 はぁ、と溜息を吐いたジークフリートだったが飾り付けられていく竹を見て楽しそうだ。
 そんなジークフリートとルーセルミィに忍び寄る魔の手。
「おぅおぅ、そこ二人そんなに俺様の同盟に入りたかったか。そうかそうか。俺は来るものは拒まず、何があってもでっかい親父の包容力で受け止めてやっからよ。どうだ、お前さん方をいつでも『イロモノ変身同盟』に歓迎するぜ」
 今から飾り付けようとする『腹黒同盟パンフ』と『男と女のイロモノ色恋沙汰腹黒親父大辞典』を手にしたオーマが二人に詰め寄る。
「えー、それってちょっとねぇ……それにイロモノってどういうこと?」
「そうですね、イロモノっていうのは……」
 イロモノという言葉に少々不服そうなルーセルミィとジークフリート。
「まぁ、何時でも大歓迎って事だ。さてと、これ飾ったら一発派手に行くとするか」
 そんな様子を疾風は後ろの方で、くすり、と微笑みながら見守っていた。
 すると突然隣で大声が上がる。

「これ食べて良いの?」
 エスメラルダが指さしているのはテーブルの上に乗せられた大皿。
「もっちろん☆せっかく作ったのに食べてくれなかったら逆に悲しいんだけどな。食べて食べてー♪」
 お姉さんもドウゾ、とルーセルミィはレピアに小皿を渡してニッコリと微笑む。
 そして更に隣にいた疾風にもルーセルミィは小皿に料理を盛りつけて手渡す。
「ありがとう、それじゃ頂くわね」
「ありがとうございます。頂きます」
 驚きながらも疾風はその料理を口にする。
 それは冷えてはいたが美味しくて、真心の籠もった料理に思えた。
 口に入れて、美味しい、と声が上がるとルーセルミィは満足そうだ。
「あんた、こっちでも食べていけるかもね」
 エスメラルダに言われ、ルーセルミィは、んー、と考える。
「でも、裏方ってボク合わないかも」
 えへっ、と笑うとルーセルミィは他の人たちにも料理を分けるべくパタパタと動き出した。
 そしてレピアとエスメラルダと疾風の三人は心ゆくまでその料理を堪能した。


------<フィナーレ>--------------------------------------

「さぁってと、仕上げにやっぱりここは花火といくか」
「いいですね、風情があって」
 疾風がそれに賛同すると皆も頷く。
「こうやってだなぁ……そうだ、少し離れてろよ」
 ひょいといつもの具現能力で愛用の大きな銃器を取り出すと、ニヤリ、と笑みを浮かべたオーマは、皆が離れたのを確認すると星空へと一発撃ち込んだ。
 夜空に咲く大きな花。
 初めのうちは光が空に流れる美しい花火だったのだが、途中から何やら雲行きが怪しくなる。

「………恥………かかせ……ないで……くれる………死にたい……?」
 サモンの周りに冷徹なる空気が張りつめる。
 夜空には『親父道万歳!腹黒同盟&イロモノ変身同盟加入者大募集中!』という文字が。
「……ダ・ン・ナ?大募集しすぎじゃネェ?」
「全く……」
「凄い凝った花火です……ね」
「ねぇねぇ、どういう仕掛け?」
「あの……あれがイロモノというものなのでしょうか……」
「オーマ……相変わらずやること派手だね」
「師匠カッコいいーっ!」
「初めて見る仕掛けだね」
 様々な反応を見せる面々。
 そしてヤケに満足げなオーマ。
「よし、気分乗ったついでにここは一つ空の散歩といってみるか」
 全員まとめて遊覧飛行と洒落込もうじゃねぇか、とオーマはあっという間に巨大な銀色の獅子に変身すると皆の前に伏せる。
「ほらほらさっさと乗りやがれ。天の川までひとっ飛びだ」
「すっごいーい!なにコレなにコレ!師匠いつも大きいのに更に大きくなっちゃったよ」
 ほぅ、と冥夜は感嘆の溜息を漏らす。
「んじゃ、乗り込みますか」
 どこまでもマイペースなオーマに乗せられ、向かう先は空の旅。

 葉子とジークフリートと疾風は先にオーマの背に乗り、下から上がってくる皆をオーマの背へと引き上げる。
「ルーセちゃん、飛んだ方が早かったカネ」
 うーん、と葉子が言うと、いいのいいの、とルーセは葉子の手を掴む。
「さぁ、お手をどうぞ」
 疾風はレピアとエスメラルダと同時に引き上げる。
「あら、ありがと」
 くすり、と二人は微笑みながら疾風の手を取る。
 ジークフリートはリースとサモンを一人ずつ引き上げた。
「すごいねー、あ。でもサモンは見慣れてる?」
「……さぁ……」
 素っ気ない返事だったが、初めてであった頃よりは仲良くなれている気がしてリースは嬉しくなる。
 全員がオーマの背に乗ると、しっかり掴まってろよ、と言いながらオーマは空へと舞い上がった。
 大きな翼が羽ばたきどんどん上昇していく。
 月も星も近くなったような気がして、皆は空を仰いだ。
 その時レピアが、あ、と声を上げる。
「竹を流してやらなくちゃ」
「そういうこともするんでしたね、そういえば」
 疾風は頷き、オーマに告げる。
「先に竹を流してから空の旅は如何でしょう」
 そこでオーマは大きく周りこんで竹のある所まで飛んでいく。そしてその竹を咥えると流れる川へとそれを流してやった。
 流れる川へとそれを流してやった。
 竹に飾られた短冊や飾りに込められた想い。
 それらはゆっくりと流れ、そして空へと昇る。
 皆はオーマの背の上からその流れていく様を眺める。

「んじゃ、行くぞ」
 そう言うと再び空へと舞うオーマ。
「んー、気持ちいい☆」
 ルーセルミィは見下ろす風景を見て声をあげる。空など何時でも飛べるが、こうやって自分で飛ばずに高い場所から見下ろすのはそんなに多くはない。
「織女し 船乗りすらし 真澄鏡 清き月夜に雲起ちわたる…年に一度しか逢えなかったら俺なら他の女に乗り換え…の前に愛想尽かされそ」
 うひゃひゃ、と笑う葉子にルーセルミィが言う。
「えー、大丈夫だよ。ボクならそんなことないから♪」
「それはまた嬉しいネ」
 うんうん、と頷く葉子。

 レピアはバランス良く背の上で立ち上がると、リースとサモンと冥夜とエスメラルダを踊りへと誘う。
「まだまだ物足りない……踊りましょう」
「えぇっ。でも落ちちゃったら……」
 リースが声を上げるとレピアが言った。
「平気。こうやって抱きしめててあげるから」
 近くにいた冥夜を抱きしめ身体を密着したまま踊り出す。
 まんざらでもない様子で冥夜もレピアの踊りに合わせて踊り始めた。
「そうねぇ、落ちてもあそこに飛べる人たちいるし、大丈夫でしょ。それに空の上での踊りなんて滅多に出来ないわよ」
 エスメラルダもサモンとリースの手を取り踊り出す。

「皆さん、元気ですねぇ」
「でもこうして眺めていると幸せだなぁと感じますね」
 まったりとそんな光景を眺めている疾風とジークフリート。
 ジークフリートはその踊りにあわせるように歌を歌い始める。
 それは夜空に響いた。
 引きずられるように踊っていたサモンは、その手をそっと外しジークフリートの傍へとやってきて座る。
「どうしました?」
「………歌………続けて………」
 首を傾げたジークフリートだったが、すぐに歌を紡ぎ始める。
 その横でサモンは膝を抱えそっと瞳を閉じた。


 その騒ぎは夜明けまで続き、陽の光が世に溢れ始める。
 するとレピアはゆっくりと石化していき、ついには灰色の石像に変わってしまった。
「えっ……レピア?」
 今まで一緒に踊っていた冥夜はレピアに駆け寄る。
「あぁ、レピアはねこういう体質なの。……冥夜ちゃんとレピアの事連れて行ってくれるわよね」
「うん。もちろん。でも今日は楽しかった」
 満足そうに頷く冥夜。
 周りの面々も楽しんだようだ。
「また来年もやりたいね」
 えへへ、と笑った冥夜の笑顔につられ、皆小さな微笑みを浮かべた。




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■登場人物(この物語に登場した人物の一覧)■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

●1953/オーマ・シュヴァルツ/男性/39歳/医者兼ガンナー(ヴァンサー)副業有り
●2181/天護・疾風/男性/27歳/封護
●1125/リース・エルーシア/女性/17歳/言霊師
●1353/葉子・S・ミルノルソルン/男性/156歳/悪魔業+紅茶屋バイト
●2079/サモン・シュヴァルツ/女性/13歳/ヴァンサー
●1926/レピア・浮桜/女性/23歳/傾国の踊り子
●1411/ルーセルミィ/男性/12歳/神官戦士(兼 酒場の給仕)

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■□■ライター通信■□■
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初めまして、こんにちは。夕凪沙久夜です。
この度は七夕祭りにご参加いただきアリガトウございます。

先にお申し込み頂いた作品よりも前に七夕の方を納品させて頂きます。
すみません〜!
疾風さんを動かさせて頂いたのですが、こんな雰囲気で良かったでしょうか。
穏やかなお兄さんというイメージがしたので、のほほんとした会話が多かったように思います。
冥夜が気に入ってしまったようで、てるてる坊主作りを楽しませて頂きました。
ありがとうございます。


お申し込み頂いている方のお話も気合い入れて頑張らせて頂きますね。
今度は眼鏡キャラとしての描写もぜひ付け加えたく思っております。眼鏡フェチなので。(笑)
ありがとうございました。