<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>


生への渇望


------<オープニング>--------------------------------------

「最近、墓が掘り返されてるって話聞いた事があるかい?」

 エスメラルダが酒の入ったグラスを片手にそんな事を告げる。
 確かに最近そのような噂をあちこちで聞く。
 その噂話はここから北に暫く行った地域が発生源だった。
 しかし話はそれだけに留まらなかった。
 先ほど入ってきた新しい情報はそれがただの金品強奪のためではないと告げている。

「ただ掘り返されてるだけなら、金品強奪のための……と話はつきそうだけど、本人が居なくなっているっていうんだからね。しかも金品はなくなっている様子はない。そしてさっき日が暮れると同時に一つの村が襲われた」
「………生ける屍……アンデットか……」
 ビンゴ、とエスメラルダは大きな、そしてやるせない表情を浮かべる。
「感情がなくなっちまってるアイツラは生きている者達への憧れ、そして憎しみという想いだけに囚われている。ずっと抜け出せない悪夢にね」
 だからせめてひと思いに……、と呟いてエスメラルダは悔しそうに爪を噛んだ。
「そんなに遠い村じゃない。この街にやってくるのも時間の問題。彼らを安息という名の眠りにつかせてやってほしいんだよ。この地に繋ぎ止められた枷を外してやってくれないかね」
 そう言って、エスメラルダはぐるりと当たりを見渡した。 


------<暇つぶし>--------------------------------------

「ねぇねぇ、フィーリ。これ食べてもいい?」
 皿の上の肉を小さな手で指し示し尋ねるのは白銀の仔ドラゴンであるジークだ。
 そして問いかけられているのはパンの欠片を口に放り込んでいるフィ−リ・メンフィス。
 頷いてフィ−リはジークが食べやすいように皿を近づけてやる。
「いいよ」
「わぁーい、ありがとう」
 嬉しそうな声を上げてジークは肉にぱくりと食いついた。
「おいしいよ〜。フィ−リも食べる?」
 口の周りにソースを付けながら首を傾げるジークにフィ−リは微笑む。
「それじゃ残ってるほう食べるから」
「うんっ。残しておくね」
 そう言いながらジークはフィ−リの間の前にあるフルーツのプティングを狙っている。
 食べて良いか伺いを立てようとした時、近くから『アンデット』と言う声が聞こえジークとフィ−リはそちらに耳を傾けた。
 どうやら近隣の村がアンデットの群れに襲われたらしい。
 そしてそのアンデットの団体様はこのエルザードの街へ向かっていると。

「アンデットか…生きている者が羨ましくてゾンビになるだなんて理解に苦しむね」
「ねぇねぇ、ゾンビってあの死体が動き回るやつ?」
「そう。死んで楽になれたんだからそれで満足しておけば良いのに……。まぁ、俺には関係ないことだけど」
 はぁ、と溜息を吐いてフィ−リはジークが残しておいた肉を口に運ぶ。
「でもさぁ、こっちに来たらボク達も大変だよね。こうやって美味しいご飯食べれなくなっちゃうよ」
 パタパタと小さな羽をはためかせてジークが言う。
「そういう問題?」
「ボクには一大事だよぅ。ほら、そのプティングだって食べれなくなっちゃう」
 食べたいの?、と呆れたように言ってフィ−リはジークにプティングを差し出した。
 ちらっとアンデットの話をしている人物達を横目に見ながらジークは呟く。
「まぁ……暇つぶしには丁度良さそうだけどね。結構面白そうだから退治しに行ってみようかな。放っておいてどんどん増えたりしたらあまり良い外観じゃないだろうしね」
「え?行くの???」
 プティングを美味しく食しながら不思議そうな顔でジークが首を傾げると、フィ−リは大きな溜息を吐く。
「俺より行きたそうにしてたのはジークじゃない?…暇つぶしだよ、暇つぶし」
「うん、暇つぶしー」
 行こう、とフィ−リは黒山羊亭を後にする。

 外に出てフィ−リは空を見上げる。
 静かな夜だった。
 何処かの街がアンデットに襲われているとはとても思えないほどに。
 フィ−リは背に生えた黒い翼をはためかせ、漆黒の夜空に溶け込む。

「あっちって言ってたよね」
「うん。言ってた。でもその前に神父さんから聖水でも貰っていこうかな」
「そうだね」
 こくん、と頷くジークと共にフィ−リは教会へと向かった。


------<暇つぶし2>--------------------------------------

「おや、珍しいお客様ですね」
「こんばんは。聖水をもらいに来ました」
「聖水?……アンデットですか?」
 ステンドグラスが月明かりに輝き、色とりどりの影を落とす中、神父とフィーリは向かい合って話をしていた。
 静まりかえった夜の教会というのは実に不思議な雰囲気を湛えている。
「まぁ、暇つぶしに……」
「そうでしたか。急ぐんですよね?」
「それなりに」
 では少しお待ち下さい、と神父は何処かへ走っていく。
 その間フィーリはジークと共に教会の天井を眺めていた。
 キラキラと輝くステンドグラスは死んだら行く世界を表しているのだろうか、と。
「キレイだねぇ、フィーリ」
「そうだね」
 余りにも綺麗すぎて逆に儚いものに思えるのは気のせいだろうか。
 こんな綺麗な世界にアンデットたちはいたのだろうか。

 フィーリがそんなことを思いつつ眺めていると、パタパタと走ってくる音が聞こえた。
「これをどうぞ。特製です」
「…聖水に特製もなにもあるんですか?」
「もちろんです。とりあえずこれを持って。……気をつけてくださいね」
 頷いて聖水を受け取るとフィーリは教会の窓から宙に舞う。
「ちゃんと玄関から出てくださいって……」
 神父の声が遠くなる。
 高く高く、神父の言う神の居る場所により近付いて。
 フィーリはアンデットに襲われた村へと向かう。

 その村に近づくに連れ、真っ暗な中に金色の光があちこちに存在している。
「あれは……」
 高度を下げ確認する。
 フィーリが闇の中で目を凝らして見つめたのは、あちこちの皮膚が取れかかったアンデットだった。
 瞳だけが金色に光り、それが闇の中で光り輝く。
 暗闇の中でもあれがあれば平気なのだろう。
 闇の中でもあの光を目標に斬りつければ良かった。
「気持ち悪いねぇ」
 ジークの言葉を無視してフィーリは村の上空に向かう。
 金色の光はあちこちに散らばってはいるが、数からして200体以上はいるだろう。

「さてと、行こうか」
 フィーリは村の正門とは逆の入口から中に入る。
 入った途端、複数のアンデットに襲われ、四方から伸びる手を剣で切り裂いた。
 しかし背後から伸ばされた手までは斬ることが出来ず、力任せに服を引きちぎられる。
 すんでの所で交わしていなかったら、皮膚ごと持って行かれていただろう。
「フィーリ、危ないっ!」
 ジークの声でフィーリは振り返る。そしてそのまま剣を横に薙いだ。
 骨を断つ感触が手に伝わるが、アンデットには致命傷ではないのかそれでもフィーリを追ってくる。
「聖水、そうだよ聖水は?」
 フィーリはポケットの中に入れていた聖水を取りだし、迫り来るアンデット達に一振りした。
 すると白煙を上らせてアンデットの動きが止まる。
 そしてアンデットの呪いである青黒かった肌の色が土気色まで戻った。
 少量かかっただけで大丈夫のようだ。
「…これが特製ね」
 あぁ、そうかと呟いてフィーリは周りにいたアンデットにぱっとそれをかけて自分は後ろに飛び去る。
 堰き止める効果を発していた今倒れたアンデットたちのバリケードが破れ、そこから大量のアンデットが溢れてくる。
 かなり距離を開けたため、ちょっとの間だけ身動きが取れる。
 とりあえず剣だけでは無理だとフィーリは気づいたのか、剣に聖水を垂らした。
「しばらくはこれでなんとかなるかな」
 そう言ってフィ−リは迫り来るアンデットの群れを前に剣を構えた。
 一体ずつなど甘いことは言っていられない。
 一気に何体ものアンデットを斬り、そして聖水の力によって浄化させる。
 なんどか斬っているとやはり効力は薄れてくるのか、聖水をかける時間が必要となる。
 その間に迫ってこられるとフィーリに立ち向かう統べはない。
 あちこちアンデットに引っかかれた傷が膿を持ち始めていた。
 剣を握ると幾分傷む。
 こういう時回復魔法が使えればと思うが、苦手なのだから仕方がない。
「フィーリ、また来るよ」
 ジークがフィーリに告げる。
 その時、空から声が降ってきた。

「あ、先に来てた人かな?ボクも助っ人に来たよ☆」
 可愛らしい笑顔を浮かべたルーセルミィはフィーリの前に立ち、少し挑発的な笑みを浮かべレイピアを構えた。
 しかしフィーリを振り返った時には元の明るい笑顔に戻っている。
「先に傷治してあげたいけどちょっと待ってね。とりあえずこっちが最初v」
 レイピアに回復魔法である『命の水』を付加し、ルーセルミィはそのレイピアで斬りつける。
 ルーセルミィの素早い動きにアンデットはもちろんついて行けるはずもなく、あっという間に浄化されたアンデットの山が出来た。
 それでもルーセルミィめがけて喰いつこうとするものはいる。
「ちょっとー、触らないで欲しいんだけどー」
 ひょいっと避けながらルーセルミィは舞うようにレイピアを薙いでアンデットを浄化する。
「ま、こんなもんかな?」
 ひとまず周りにはアンデットがいなくなったことを確認して、ルーセルミィはフィーリに向きあう。
「酷い傷だね〜。アンデットにやられるとすぐに膿んじゃうから。今治すね♪」
 ルーセルミィは魔法を唱え、フィーリの傷を瞬く間に治してしまう。
 押し寄せる波のようにルーセルミィが立て続けにフィーリに対し行動を起こす。
 そんな行動…なぜ他人をこんなにも気に出来るのかが分からないでいるフィーリに対し、コロコロと変わる表情を見せるルーセルミィ。
「これで良し。それじゃ、作戦立てようね。一緒に動いた方が効率良いと思うんだ」
 ニッコリと微笑んだルーセルミィの提案にフィ−リは乗る。
「そうだな。とりあえず……」
「ボクが後ろから援護するから、キミは前線頑張って。キミの剣も聖属性にしてあげるしね☆」
 そう言ってルーセルミィはフィーリの剣に聖属性の魔法をかける。
「これで良し。聖水いちいちかけなくても大丈夫だとは思うけど」
「助かったよ」
「いえいえ〜☆それじゃ、アンデット浄化大作戦☆決行〜!」
 ジークが、フィーリ頑張れ、と可愛らしく応援し、そこから再びアンデットとの戦いが始まる。

「右だよ、フィーリ!」
 ルーセルミィと共に後方支援――主に応援だが――をしているジークがフィーリに声をかける。
 フィーリはその声で避け、そして振り上げるように下からアンデットを斬りつけた。
 崩れ落ちるアンデットには見向きもせず、どんどん前へと進んでいく。
「ねぇねぇ、キミのご主人様ってかなり好戦的だね」
 そういうのも悪くないけど、とルーセルミィはにこりと微笑むと、それを受けてジークは頷く。
「うん。だからボク心配なんだけどね」
「大丈夫☆今はボクが援護するからね」
 無茶な体勢から斬りつけては上手い具合にバランスを保って次の標的へと攻撃を仕掛けるフィーリ。
 その戦闘のセンスときたら天性のものなのではないか。
 右手側に押し寄せた時は器用に左手で剣を握り、アンデットを切り伏せる。
 なんか一緒に戦いたくなっちゃうよねー、とルーセルミィが呟く。
 確かに先ほどから見ている限りではフィーリは怪我などしていない。先ほどの傷は聖水をかけなくてはいけなかったからなのだろう。

「ちょっと一緒に戦ってこようかな」
 ルーセルミィは翼を広げふわりと舞い、フィーリの隣へと降り立つとレイピアを構える。
「えへっ☆来ちゃった」
 ボクも頑張らないとね、とルーセルミィは身の軽さを利用し自分めがけて集まってきたアンデットをギリギリまで呼び寄せ、その輪からくるりと飛び上がると回転しそのままアンデットを斬りつける。
 バタバタとアンデット化した人々は浄化されそのまま崩れ落ちる。
 二人はそして村の中央へと向かった。ふよふよとジークも二人の後を慌てて追っていく。

 空に舞う二人は白と黒の対極の翼を羽ばたかせ、上空から中央部分を眺める。
 そちらはまだ家から火が出ており、橙の光で染め上げられていた。
 そして中央にはアンデットによる死の宴。
 生きながらにそのまま血肉を貪られる人間の姿。
 家が焼かれその炎でその様を伺うことが出来る。闇夜に浮かぶ金色の目は闇の色。
 声など恐怖で出ないのだろう。

「最悪〜……趣味悪すぎ」
 うわー、と顔をしかめて心底嫌な顔をするルーセルミィ。
 それにあわせてフィーリも眉を顰めその光景を眺める。

「って、こんな悪趣味なの眺めてないでさっさと浄化しちゃわないと。ちゃんと戻るべき場所に帰してあげないとね☆」
 その声でフィーリも地上へと降り立つ。
 そして集まってくるアンデットに向けて剣を斬りつけた。
 すっと憑きものが取れたように倒れ込む人々。
 遠くの方では白狼が剣を口に咥えアクロバティックな動きを見せ、アンデットを浄化させていく。
 そして宙に二本の杖で魔法陣のようなものを描いてはそこから大量の霊魂を呼び寄せ操りアンデットを捕獲していくルイと、磔にされていた人の応急手当をするオーマ。
 アンデットの数もだいぶ減り、村には静けさが戻りつつあった。


------<闇の中の真実>--------------------------------------

 動いている全てのアンデットを浄化、そして捕獲完了する。
 全員が村の中央に集まってきていた。
 先ほどまで白狼の姿だった疾風はいつもの姿に戻り、変わり果てた村をぐるりと見渡す。
 火の勢いはだんだんと収まってきていた。すぐに鎮火するだろう。

 助けることが出来たのは結局十人だった。
 生き残った者達の話では、アンデットが村を襲ったその時点で村人はその村人たち十人を残し、全て喰われてしまったのだという。
「十人ですか……」
 数を数えていたアイラスが首を傾げる。
「十一人の間違いではありませんか?」
「いや……俺たちだけが隠れてたんだ……子供らは皆で遊びに出かけていたからそのまんまやられちまった……」
「それでは……こちらの子は一体?」
 日吉がアイラスの隣に立つ先ほど助けた少女に目を向け告げる。
 日吉は先ほど墓地で見つけた小さな靴の足跡を思い出す。それは丁度この少女位の大きさだった。
 見つからぬように扇に手をかけ、日吉はその少女に照準を合わせる。
 静かな静寂が満ちる。
 まるでその場の刻が止まったかのようだった。
 助かった男が告げる。

「そんなガキはうちの村にはいねぇ…」

 じっ、と皆の視線がその少女に注がれた。
 くすり、と少女が笑う。

「なんだ、つまんないの」
 あーぁ、と残念そうに少女は呟きそのまま羽もないのに宙に舞う。
 せっかくオモチャ出来たと思ったのに、とくすくす笑い闇に融けていく。
 それを日吉がくるりと舞いながら、魂鎮めの舞をくらわせる。先ほども少女はそれを受けても傷が付くことはなかった。だから先ほども見逃してしまったのだ。日吉の魂鎮めの舞は半径80メートルほど全体にその効力が放たれるというもの。それでも平気だったのだからとすっかり安心してしまっていた。
 日吉の攻撃と同時にオーマの銃口も火を噴く。
 しかし日吉の攻撃もオーマの銃も全く効果がなかった。
 透け始めた少女の身体は闇に完全に融け、全く浄化される気配がない。

「まったねー。…闇はアタシの領域。死はアタシの源…ちょーっと今回はこっちが全滅させられちゃったけど。次はアタシが勝つよ?」
 その時はこの姿じゃないと思うけど、と高笑いが闇の中から聞こえてくる。
 それは四方から聞こえてくるようで、場所の特定すら出来ない。
「あの子が今回の原因の……」
 日吉はぎゅっと手を握りしめる。
 見つけていたのにそれを目の前の子供と結びつけられなかった。墓から這いだした少女の足跡だと思ったのだ。
 そして日吉は死者の魂を愚弄するような行為に憤りを感じる。
「申し訳ありません。手がかりはあちこちに鏤められていたはずなのに」
 そう謝罪する日吉を責める者は誰もいない。
 自分たちも気づくことなく、そして今もまんまと逃げられてしまったのだから。

 まだ笑い声は聞こえている。
 フィーリは敵に逃げられたことで胸の中に不思議と満ちるもやもやとしたものを打ち払うべく、必要なくなった聖水の入ったビンを地面に叩き付けた。
 するとそこにのたうち回る少女の姿が現れる。
 すかさず逃げられないように、ルイは呼び出した蛇の霊で少女をグルグル巻きにしてしまった。
「おぅおぅ、ちょーっとヤリ過ぎじゃねぇかね」
 訳があるなら聞いてやる、とオーマが言うが少女は首を振る。
「苦しい……苦しい……」
「……あなたよりももっと酷い苦しみを味わった方々がたくさん居ります。それともあなたもまた、闇を流離う者なのですか」
 疾風の瞳は哀しみに満ちていた。
「死ねないんだ……長生きとかそういうんじゃなくずっと同じ死を生かされている。死がアタシで闇の中がアタシの世界。道はない。ずっと同じ場所を回っているだけ」
 苦しくてつまらないんだ、と少女は苦しみながら呟く。
 すると身だしなみを完璧に整えたルイが少女に一礼し告げた。
「わたくしで良ければあなたを導くことが出来ます。死があなたということならば、死人とも考えられます。ループを抜け出したいとお思いですか?」
 ルイの問いかけに少女は頷く。
 この自分の中だけの世界を壊してくれるのなら、と。
 繰り返される時は要らない。変化のない毎日は要らない。

 それならば……、とルイは先ほど集めたアンデット牢の前へと皆を集める。
 そしてその中に少女を入れた。
 牢といっても霊魂軍団で出来た牢だ。天井はない。
 西に傾いた月の光が微かにその牢の中を照らす。彼らを照らす最後の月の光。

「ちょーっと待った。俺様のビックでイロモノな技を餞別代わりにくれてやるよ。特別サービス一気にズガーン☆と一発な」
 そう言って具現能力の応用で悪夢ではない夢をアンデットと少女に見せる事に成功するオーマ。
 終わらない悪夢の中で見た夢を忘れてしまう位のとびきりの夢を。

 そしてルイの掲げた二本の杖の先がぽうっと色を放つ。片方は蒼、そしてもう片方は紅。
 それぞれの色を放つ杖を宙に向け、先ほどと同じように魔法陣のようなものを描いていく。
 二色の魔法陣のようなものが絡み合い、そして淡い光を放ち始める。
 それは柔らかく神々しいまでに美しい。
 牢の中に入っていた者達の身体から光り放つ球体が出てきては、その宙に浮かぶ魔法陣のようなものに吸い込まれていく。
 まるで蛍が浮かんでいるようにそれは綺麗だった。
「次に目覚めた時は、きっと深い闇ではなく輝く光の下でしょう。それまで暫し‥おやすみなさい」
 先ほどと同じ哀しい目をした疾風がそう呟く。
 その時、何処からか可愛らしい歌声が響いてくる。
 焼けた家の塀に腰掛けたルーセルミィだった。
 軽く瞳を閉じ、浸るように歌い続ける。
 その隣には塀に寄りかかったフィーリが立っていた。
 そのルーセルミィの声に少女は反応する。

「……知っている……」
「この地方の子守歌だってー」
 ジークがフィーリの肩に留まったまま告げる。
「子守歌……」
「もしかしたらお前さん、昔はこの土地で暮らしていたのかもな」
「懐かしい……」
「よかったですね」
「心穏やかにお休み下さい」

 少女は導かれるままに意識を手放す。
 再びこの地に戻ってこれることを願いながら。

 少女の身体から出てきた光る球はルイの導きの元、迷うことなく浄化された。
 歌い終わったルーセルミィが小さな溜息を吐き、登り始めた太陽を眺める。
「これがキミたちにできるボクの精一杯。ゴメンね…」
 呟いた言葉は朝焼けに溶ける。

 フィーリはそんな朝焼けに染まる空を眺めていた。
 静まりかえった村に温かな光が満ちる。
 再生の予感さえ感じられるその光に、フィーリは自分でも気づかないうちにそっと小さな笑みを浮かべた。




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■登場人物(この物語に登場した人物の一覧)■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

●1112/フィーリ・メンフィス/男性/18歳/魔導剣士
●1649/アイラス・サーリアス/男性/19歳/フィズィクル・アディプト
●1953/オーマ・シュヴァルツ/男性/39歳/医者兼ガンナー(ヴァンサー)副業有り
●2085/ルイ/男性/25歳/ソイルマスター&腹黒同盟ナンバー3(強制)
●1582/玉響夜・日吉/女性/21歳/戦巫女
●2181/天護・疾風/男性/27歳/封護
●1411/ルーセルミィ/男性/12歳/神官戦士(兼 酒場の給仕)

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■□■ライター通信■□■
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初めまして、夕凪沙久夜です。
この度はアンデット退治にご参加頂きありがとうございます。

フィ−リさんとジークさんの掛け合いが書いていてとても楽しかったです。
それと結構重要なところを押さえてくれていたりする感じだったのですが、如何でしたでしょうか。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

また何処かでお会い出来ますことを祈って。
ありがとうございました。