<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>


生への渇望


------<オープニング>--------------------------------------

「最近、墓が掘り返されてるって話聞いた事があるかい?」

 エスメラルダが酒の入ったグラスを片手にそんな事を告げる。
 確かに最近そのような噂をあちこちで聞く。
 その噂話はここから北に暫く行った地域が発生源だった。
 しかし話はそれだけに留まらなかった。
 先ほど入ってきた新しい情報はそれがただの金品強奪のためではないと告げている。

「ただ掘り返されてるだけなら、金品強奪のための……と話はつきそうだけど、本人が居なくなっているっていうんだからね。しかも金品はなくなっている様子はない。そしてさっき日が暮れると同時に一つの村が襲われた」
「………生ける屍……アンデットか……」
 ビンゴ、とエスメラルダは大きな、そしてやるせない表情を浮かべる。
「感情がなくなっちまってるアイツラは生きている者達への憧れ、そして憎しみという想いだけに囚われている。ずっと抜け出せない悪夢にね」
 だからせめてひと思いに……、と呟いてエスメラルダは悔しそうに爪を噛んだ。
「そんなに遠い村じゃない。この街にやってくるのも時間の問題。彼らを安息という名の眠りにつかせてやってほしいんだよ。この地に繋ぎ止められた枷を外してやってくれないかね」
 そう言って、エスメラルダはぐるりと当たりを見渡した。


------<唄を教えて?>--------------------------------------

「はーい、お待たせしましたー☆」
 料理をテーブルに運んだルーセルミィはにこやかな笑みと共に会釈をする。
 ルーセルミィは今日も相変わらず忙しい黒山羊亭の助っ人に来ていた。
 自分の働いている店も忙しいのだが、黒山羊亭の忙しさには敵わない。
 この店にはルーセルミィが気に入っている吟遊詩人もよく来る。
 目の保養と心の安定とを考えるとかなりいい環境にあり、ルーセルミィは頼まれると即承諾してしまうのだった。
 それに面白い話を入手出来ることも多いのだ。
 今日もルーセルミィのお目当ての吟遊詩人がやってきており、美しい歌声を披露している。
 店内に響き渡る歌声は、心の底にくすぶる靄も取り払ってくれるようだった。

「うーん、今日も良い声v」
 笑顔を浮かべながらルーセルミィは忙しそうにテーブルの間をぬって、ホールを動き回っていた。
 その時耳に入ってきたのは、近くの村でアンデットが発生したという話だった。
「アンデット……?」
 ルーセルミィは足を止めその話の続きを聞く。
 どうやら近隣の村がアンデットに襲われたらしい。
 そして次の標的はエルザードなのだと。

「ここに来るのはちょっと頂けないよねぇ……」
 ぽつりと呟きルーセルミィは皿を片づけに近くのテーブルへと向かう。
 途中、ルーセルミィはカウンターへと歩き出した吟遊詩人と言葉を交わす。
 くるり、と表情を一変させ明るい笑顔を浮かべて。

「やっほー!今日も聞きに来ちゃったv」
「ふふっ、ルーセくん。聞きに来たんじゃなくてちゃんとお仕事してるじゃないですか」
「まぁねー。そうそう、なんかさっきアンデット発生の話聞いちゃったんだけど……」
 すると吟遊詩人が微かに眉を顰め頷く。
「そうらしいですね。ここに来るのも時間の問題とか……」
「困っちゃうよね。どうしよっかなー…」
 首を傾げる吟遊詩人。
「ルーセくん…まさか行くんですか?」
「んー、だからどうしよっかなーと思って。ボクの職業って一応給仕もそうなんだけど神官戦士ってのもあるんだよ。ただボクがね、神官戦士になったのって、実はすっごく動機が不純だからねー」
 ただ大切な人の背中を護りたかったから、共に戦えてそして癒すことも出来る職業に就きたかった。
 その為にたくさんの努力を重ね、そして今に至る。
 しかしその相手は今此処には居ないが。それが酷く淋しい。

「でもそうだったんですか。とても様になっていたので、給仕の方が……」
「コレは趣味と実益兼ねてるからね。こっちももちろんボクの仕事だよ」
 ニコニコとルーセルミィは笑い、言葉を続ける。
「とにかくそんな訳でね、神官らしいお仕事なんて余りする気無いんだけど、…でも…死んでも囚われたままってのは辛い事だと思うから」
 うーん、と言いながらもルーセルミィの気持ちは決まっているようだった。
 愛らしい笑顔を浮かべ、やっぱり行ってくるね♪、と吟遊詩人に告げる。
 気をつけてくださいね、と心配そうな表情を浮かべる吟遊詩人にルーセルミィは含みのある笑顔を見せた。
「それでね、お願いがあるんだv」
 本当は一緒に来て欲しいけど危険いっぱいだから今回はあきらめるけど、と告げて。
「お願いですか?あぁ、だからそうやって上目遣いでお願い光線出さなくても平気ですから。ボクに出来ることならいくらでもやりますよ」
 吟遊詩人は苦笑しながらルーセルミィに続きを促す。
「唄をね、教えて欲しいんだ♪」
 ルーセルミィはニッコリと愛らしい笑顔で微笑んだ。


------<遅くなってゴメンね☆>--------------------------------------

 それからルーセルミィは吟遊詩人にアンデット発生地域の昔から伝わる子守歌を知らないか尋ねてみる。
「子守歌ですか?……そうですねぇ」
 何個か有るんですけど全部ですか?、と尋ねられてルーセルミィは頷く。
「だって、どれが有効か分からないし。やっぱりボクもやれるだけやらないと。それに唄を覚えるのは得意だしね」
 教えて教えて〜、と吟遊詩人に強請り、ルーセルミィは一緒に口ずさみ覚えていく。

 アンデットにもこの唄は届くだろうか。
 心から歌った唄はただ生を羨み、憎しみに染まった心に届くだろうか。

 思いが篭もっていれば大丈夫だとルーセルミィは思う。
 懐かしい気持ちを思いだしてくれればと思う。
 吟遊詩人の声に重ね合わせ、自身の歌声にその想いも乗せる。
 黒山羊亭に満ちていく、温かな子守歌。
 それをしっかりと覚えるとルーセルミィは、にっこりと微笑む。

「アリガトvボク頑張ってくるから。……あ、そうだ。戻ってきたら他の唄も教えてね」
「はい。…気をつけて」
「うん。行って来まーす☆」

 ルーセルミィは黒山羊亭を出ると夜空に舞う。
 白い翼は暗闇に映え、月明かりに輝く。
 新手の魔物と間違えられて先に行ってる仲間に打ち落とされませんよーに、と心の中で祈りつつルーセルミィはアンデットに襲われた村へと向かった。

「もうきっと他の人たち戦ってるよね〜。ボクの出番あるかな」
 しっかりと自分の手柄の心配をするところは見事だ。
 暗闇の中で無数に光る金色の物体が蠢いている。
「うわー、なんだろアレ。やっぱ……目?」
 村の一角でどうやら大量発生しているようだった。
 よしまずはアソコから、とルーセルミィは狙いを定め飛んでいく。
 そして高度を下げ近づいてみると、一人の黒髪の青年が傷だらけでアンデットに挑んでいた。
「わっ、大変」
 慌ててルーセルミィは近づいて黒髪の青年、フィーリに声をかけた。

「あ、先に来てた人かな?ボクも助っ人に来たよ☆」
 可愛らしい笑顔を浮かべたルーセルミィはフィーリの前に立ち、少し挑発的な笑みを浮かべレイピアを構えた。
 しかしフィーリを振り返った時には元の明るい笑顔に戻っている。
「先に傷治してあげたいけどちょっと待ってね。とりあえずこっちが最初v」
 レイピアに回復魔法である『命の水』を付加し、ルーセルミィはそのレイピアで斬りつける。
 斬った瞬間、呪いの象徴でもある青黒い肌が元の土気色へと戻っていく。
 ルーセルミィの素早い動きにアンデットはもちろんついて行けるはずもなく、あっという間に浄化されたアンデットの山が出来た。
 それでもルーセルミィめがけて喰いつこうとするものはいる。
「ちょっとー、触らないで欲しいんだけどー」
 ひょいっと避けながらルーセルミィは舞うようにレイピアを薙いでアンデットを浄化する。
 絶妙な間合いを取りつつ、ルーセルミィは側にいた最後のアンデットを斬り伏せた。
「ま、こんなもんかな?」
 ひとまず周りにはアンデットがいなくなったことを確認して、ルーセルミィはフィーリに向きあう。
「酷い傷だね〜。アンデットにやられるとすぐに膿んじゃうから。今治すね♪」
 ルーセルミィは魔法を唱え、フィーリの傷を瞬く間に治してしまう。
 押し寄せる波のようにルーセルミィが立て続けにフィーリに対し行動を起こす。
 そんな行動…なぜ他人をこんなにも気に出来るのかが分からないでいるフィーリに対し、コロコロと変わる表情を見せるルーセルミィ。
「これで良し。それじゃ、作戦立てようね。一緒に動いた方が効率良いと思うんだ」
 ニッコリと微笑んだルーセルミィの提案にフィ−リは乗る。
「そうだな。とりあえず……」
「ボクが後ろから援護するから、キミは前線頑張って。キミの剣も聖属性にしてあげるしね☆」
 そう言ってルーセルミィはフィーリの剣に聖属性の魔法をかける。
「これで良し。聖水いちいちかけなくても大丈夫だとは思うけど」
「助かったよ」
「いえいえ〜☆それじゃ、アンデット浄化大作戦☆決行〜!」
 ジークが、フィーリ頑張れ、と可愛らしく応援し、そこから再びアンデットとの戦いが始まる。

「右だよ、フィーリ!」
 ルーセルミィと共に後方支援――主に応援だが――をしているジークがフィーリに声をかける。
 フィーリはその声で避け、そして振り上げるように下からアンデットを斬りつけた。
 崩れ落ちるアンデットには見向きもせず、どんどん前へと進んでいく。
「ねぇねぇ、キミのご主人様ってかなり好戦的だね」
 そういうのも悪くないけど、とルーセルミィはにこりと微笑むと、それを受けてジークは頷く。
「うん。だからボク心配なんだけどね」
「大丈夫☆今はボクが援護するからね」
 無茶な体勢から斬りつけては上手い具合にバランスを保って次の標的へと攻撃を仕掛けるフィーリ。
 その戦闘のセンスときたら天性のものなのではないか。
 右手側に押し寄せた時は器用に左手で剣を握り、アンデットを切り伏せる。
 なんか一緒に戦いたくなっちゃうよねー、とルーセルミィが呟く。
 確かに先ほどから見ている限りではフィーリは怪我などしていない。先ほどの傷は聖水をかけなくてはいけなかったからなのだろう。

「ちょっと一緒に戦ってこようかな」
 やはり美味しいところを全部持って行かれてはたまらない。
 癒す必要がないのであれば前線に出てアンデットを浄化し、なるべく早い段階で片が付く方が良い。
 ルーセルミィは翼を広げふわりと舞い、フィーリの隣へと降り立つとレイピアを構える。
「えへっ☆来ちゃった」
 ボクも頑張らないとね、とルーセルミィは身の軽さを利用し自分めがけて集まってきたアンデットをギリギリまで呼び寄せ、その輪からくるりと飛び上がると回転しそのままアンデットを斬りつける。
 バタバタとアンデット化した人々は浄化されそのまま崩れ落ちる。
 ルーセルミィはフィーリと向かい合わせに降り立ち、両方からアンデットを追いつめる。
 その付近のアンデットを浄化し、二人はそして村の中央へと向かった。ふよふよとジークも二人の後を慌てて追っていく。

 空に舞う二人は白と黒の対極の翼を羽ばたかせ、上空から中央部分を眺める。
 そちらはまだ家から火が出ており、橙の光で染め上げられていた。
 そして中央にはアンデットによる死の宴。
 生きながらにそのまま血肉を貪られる人間の姿。
 家が焼かれその炎でその様を伺うことが出来る。闇夜に浮かぶ金色の目は闇の色。
 声など恐怖で出ないのだろう。

「最悪〜……趣味悪すぎ」
 うわー、と顔をしかめて心底嫌な顔をするルーセルミィ。
 それにあわせてフィーリも眉を顰めその光景を眺める。

「って、こんな悪趣味なの眺めてないでさっさと浄化しちゃわないと。ちゃんと戻るべき場所に帰してあげないとね☆」
 その声でフィーリも地上へと降り立つ。
 そして集まってくるアンデットに向けて剣を斬りつけた。
 すっと憑きものが取れたように倒れ込む人々。
 遠くの方では白狼が剣を口に咥えアクロバティックな動きを見せ、アンデットを浄化させていく。
 そして宙に二本の杖で魔法陣のようなものを描いてはそこから大量の霊魂を呼び寄せ操りアンデットを捕獲していくルイと、磔にされていた人の応急手当をするオーマ。
 アンデットの数もだいぶ減り、村には静けさが戻りつつあった。


------<闇の中の真実>--------------------------------------

 動いている全てのアンデットを浄化、そして捕獲完了する。
 全員が村の中央に集まってきていた。
 先ほどまで白狼の姿だった疾風はいつもの姿に戻り、変わり果てた村をぐるりと見渡す。
 火の勢いはだんだんと収まってきていた。すぐに鎮火するだろう。

 助けることが出来たのは結局十人だった。
 生き残った者達の話では、アンデットが村を襲ったその時点で村人はその村人たち十人を残し、全て喰われてしまったのだという。
「十人ですか……」
 数を数えていたアイラスが首を傾げる。
「十一人の間違いではありませんか?」
「いや……俺たちだけが隠れてたんだ……子供らは皆で遊びに出かけていたからそのまんまやられちまった……」
「それでは……こちらの子は一体?」
 日吉がアイラスの隣に立つ先ほど助けた少女に目を向け告げる。
 日吉は先ほど墓地で見つけた小さな靴の足跡を思い出す。それは丁度この少女位の大きさだった。
 見つからぬように扇に手をかけ、日吉はその少女に照準を合わせる。
 静かな静寂が満ちる。
 まるでその場の刻が止まったかのようだった。
 助かった男が告げる。

「そんなガキはうちの村にはいねぇ…」

 じっ、と皆の視線がその少女に注がれた。
 くすり、と少女が笑う。

「なんだ、つまんないの」
 あーぁ、と残念そうに少女は呟きそのまま羽もないのに宙に舞う。
 せっかくオモチャ出来たと思ったのに、とくすくす笑い闇に融けていく。
 それを日吉がくるりと舞いながら、魂鎮めの舞をくらわせる。先ほども少女はそれを受けても傷が付くことはなかった。だから先ほども見逃してしまったのだ。日吉の魂鎮めの舞は半径80メートルほど全体にその効力が放たれるというもの。それでも平気だったのだからとすっかり安心してしまっていた。
 日吉の攻撃と同時にオーマの銃口も火を噴く。
 しかし日吉の攻撃もオーマの銃も全く効果がなかった。
 透け始めた少女の身体は闇に完全に融け、全く浄化される気配がない。

「まったねー。…闇はアタシの領域。死はアタシの源…ちょーっと今回はこっちが全滅させられちゃったけど。次はアタシが勝つよ?」
 その時はこの姿じゃないと思うけど、と高笑いが闇の中から聞こえてくる。
 それは四方から聞こえてくるようで、場所の特定すら出来ない。
「あの子が今回の原因の……」
 日吉はぎゅっと手を握りしめる。
 見つけていたのにそれを目の前の子供と結びつけられなかった。墓から這いだした少女の足跡だと思ったのだ。
 そして日吉は死者の魂を愚弄するような行為に憤りを感じる。
「申し訳ありません。手がかりはあちこちに鏤められていたはずなのに」
 そう謝罪する日吉を責める者は誰もいない。
 自分たちも気づくことなく、そして今もまんまと逃げられてしまったのだから。

 まだ笑い声は聞こえている。
 フィーリは敵に逃げられたことで胸の中に不思議と満ちるもやもやとしたものを打ち払うべく、必要なくなった聖水の入ったビンを地面に叩き付けた。
 するとそこにのたうち回る少女の姿が現れる。
 すかさず逃げられないように、ルイは呼び出した蛇の霊で少女をグルグル巻きにしてしまった。
「おぅおぅ、ちょーっとヤリ過ぎじゃねぇかね」
 訳があるなら聞いてやる、とオーマが言うが少女は首を振る。
「苦しい……苦しい……」
「……あなたよりももっと酷い苦しみを味わった方々がたくさん居ります。それともあなたもまた、闇を流離う者なのですか」
 疾風の瞳は哀しみに満ちていた。
「死ねないんだ……長生きとかそういうんじゃなくずっと同じ死を生かされている。死がアタシで闇の中がアタシの世界。道はない。ずっと同じ場所を回っているだけ」
 苦しくてつまらないんだ、と少女は苦しみながら呟く。
 すると身だしなみを完璧に整えたルイが少女に一礼し告げた。
「わたくしで良ければあなたを導くことが出来ます。死があなたということならば、死人とも考えられます。ループを抜け出したいとお思いですか?」
 ルイの問いかけに少女は頷く。
 この自分の中だけの世界を壊してくれるのなら、と。
 繰り返される時は要らない。変化のない毎日は要らない。

 それならば……、とルイは先ほど集めたアンデット牢の前へと皆を集める。
 そしてその中に少女を入れた。
 牢といっても霊魂軍団で出来た牢だ。天井はない。
 西に傾いた月の光が微かにその牢の中を照らす。彼らを照らす最後の月の光。

「ちょーっと待った。俺様のビックでイロモノな技を餞別代わりにくれてやるよ。特別サービス一気にズガーン☆と一発な」
 そう言って具現能力の応用で悪夢ではない夢をアンデットと少女に見せる事に成功するオーマ。
 終わらない悪夢の中で見た夢を忘れてしまう位のとびきりの夢を。

 そしてルイの掲げた二本の杖の先がぽうっと色を放つ。片方は蒼、そしてもう片方は紅。
 それぞれの色を放つ杖を宙に向け、先ほどと同じように魔法陣のようなものを描いていく。
 二色の魔法陣のようなものが絡み合い、そして淡い光を放ち始める。
 それは柔らかく神々しいまでに美しい。
 牢の中に入っていた者達の身体から光り放つ球体が出てきては、その宙に浮かぶ魔法陣のようなものに吸い込まれていく。
 まるで蛍が浮かんでいるようにそれは綺麗だった。
「次に目覚めた時は、きっと深い闇ではなく輝く光の下でしょう。それまで暫し‥おやすみなさい」
 先ほどと同じ哀しい目をした疾風がそう呟く。
 その時、何処からか可愛らしい歌声が響いてくる。
 焼けた家の塀に腰掛けたルーセルミィだった。
 軽く瞳を閉じ、浸るように歌い続ける。
 その隣には塀に寄りかかったフィーリが立っていた。
 生前に身体に染みこんだ唄が全ての人たちの心を闇から救いますようにと。
 安らぎに導く鎮魂歌。
 そのルーセルミィの声に少女は反応する。

「……知っている……」
「この地方の子守歌だってー」
 ジークがフィーリの肩に留まったまま告げる。
「子守歌……」
「もしかしたらお前さん、昔はこの土地で暮らしていたのかもな」
「懐かしい……」
「よかったですね」
「心穏やかにお休み下さい」

 少女は導かれるままに意識を手放す。
 再びこの地に戻ってこれることを願いながら。

 少女の身体から出てきた光る球はルイの導きの元、迷うことなく浄化された。
 歌い終わったルーセルミィが小さな溜息を吐き、登り始めた太陽を眺める。
「これがキミたちにできるボクの精一杯。ゴメンね…」
 呟いた言葉は朝焼けに溶ける。

 生を紡ぐことはもう無理だけれど。
 暗闇に沈んだ心を引き上げてあげることしか出来ないけれど。
 けれど、そんなキミたちにも新しい世界はきっと広がるはずだから。
 柔らかな太陽の光は全ての者達を浄化する。
 朝が来るたびに、人々の心はリセットされて新たな物語を刻んでいく。
 再生の予感さえ感じられるその光に、ルーセルミィは目を細め心からの笑みを浮かべた。




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■登場人物(この物語に登場した人物の一覧)■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

●1112/フィーリ・メンフィス/男性/18歳/魔導剣士
●1649/アイラス・サーリアス/男性/19歳/フィズィクル・アディプト
●1953/オーマ・シュヴァルツ/男性/39歳/医者兼ガンナー(ヴァンサー)副業有り
●2085/ルイ/男性/25歳/ソイルマスター&腹黒同盟ナンバー3(強制)
●1582/玉響夜・日吉/女性/21歳/戦巫女
●2181/天護・疾風/男性/27歳/封護
●1411/ルーセルミィ/男性/12歳/神官戦士(兼 酒場の給仕)

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■□■ライター通信■□■
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こんにちは、夕凪沙久夜です。
この度はアンデット退治にご参加頂きありがとうございます。

某吟遊詩人(笑)は流石に連れて行けなかったので、唄を持って行って貰いました。
とても素敵な鎮魂歌だったと思います。
毎回アイデア賞を差し上げたい位に素敵なアイデアありがとうございますv
とても楽しかったですv
ありがとうございました!。