<PCクエストノベル(1人)>


運命を砕くもの‥不死の王・レイド
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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【1953/オーマ・シュヴァルツ /医者兼ガンナー(ヴァンサー)副業有り】

【助力探求者】
【なし】

【その他登場人物】
【不死の王・レイド】

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●闇夜の住人

時は深夜 お化けアワー
病院の扉をノックするものがいる。もちろん、お化けではない。

通りすがりA:すみません、ここ病院ですよね。急患です。お願いします。
オーマ: おう! 中に早く連れて来な! ‥‥またかよ‥。

破れた服、青ざめた頬。失われた意識‥
シュヴァルツ総合病院院長であるオーマ・シュヴァルツはベッドに寝かせた患者を診て、小さく舌を打つ。
外見は特に問題ない。大きな外傷は見つからない。
だが、服を切り裂かれ‥そして全身の血液を大量に失って運び込まれる。
そんな患者が最近急増していた。
この2週間で患者の数は両手の指を超える。

オーマ:一体何だってんだ‥っと、そんなことを言っている間はねえな。

慌てて処置に入った彼はテキパキと手当てを始める。
いかに外見がごつかろうと、服装が医者と思えないほど派手であろうと、彼の医者としての腕前は確か以上のものがある。
ややして、運び込まれた人物は‥ゆっくりとその目を開いた。

患者:‥う‥ん、ここは‥
オーマ:よお、気が付いたみてえだな!
患者:うわあ〜っ! た、助けてください。お願いです。レイド様‥
オーマ:レイド様、何を言ってるんだ? 落ち着け! ゆっくりと深呼吸をして‥そうだ‥大丈夫。ここにはお前さんを襲うものはいない。そう、あたりを見ろ。ここは、病院だ。
患者:病院‥。あ‥すみません。

強いが、優しい口調で語る彼の声は、失われていた血をゆっくりと脳内に回す。血が巡り、心を取り戻し‥患者はようやく自分の状況を理解した。
身体を起こし、頭を下げようとする患者を、オーマは制してそのまま寝かせた。

オーマ:今は‥身体を休めることだ。でも、一体何があったんだ?
患者:私にも‥解りません。突然、得体のしれないものに襲われて、血を吸われて‥意識が‥。
オーマ:得体のしれぬもの‥?
患者:黒い‥影。まるで‥伝説の不死王・レイドのような‥ヴァンパイア
オーマ:レイド? ヴァンパイア‥?

この患者は、もう大丈夫。だが‥
聞きなれないその名は、オーマの心に安堵とはまったく逆の何かを与えずにはいられなかった。

●戦闘? それとも勧誘?

オーマ:っと、ここか。奴のいるって場所は‥。でも、随分と‥まあ

巨大な銃を肩に担いで、オーマはその場所にやってきた。
あれからいろいろ調べてみたのだ。
ヴァンパイア・キング レイド 永遠の不死者 黒の王 闇の支配者
彼が長き眠りより目覚めた、という伝説はそこかしこで聞くことができた。
だが、封印の地より消えた彼の居場所など、知る者はいない。知ろうとするものもいない。
出会ったときは自分が死ぬときだ。と、人々は怯え、逃げ‥神に祈る。

オーマ:‥気にいらねえな

呟きながらレイドのことを捜すオーマ、その行動を何故と聞かれたら理由はこう答える。

オーマ:これ以上、吸血鬼事件をおこしてもらっちゃあ困るんでな。ちょいとなしをつけにいくんだよ。

もちろん嘘ではない。だが、それが全てでもない。
ありとあらゆる、本当にありとあらゆる手段を使って調べた結果‥彼の手元に一つの情報が入ってくる。
レイドの‥居場所だ。そして、彼はここにいる。

オーマ:ここは一つ、このオーマさまが人を襲わぬ様がっつりと腹黒イロモノ親父真心を伝道してやっか! 医者と腹黒同盟総帥etcの名に懸けて‥!

目の前の扉を壊さずに、手でゆっくりと押し開けて、かれはそこに入っていったのだった。


不死王レイドの居場所、と聞かれて人はどんな想像をするだろうか?
深山渓谷の奥の果てしない迷宮? それとも墓地や湖沼を背にする古き城?
だが、そこは、ごく普通の館だった。
もちろん、と言って良いのか人里から離れている。もちろんと言っていいのか古びた感じもしている。
だが‥普通の館だったのだ。
オーマの靴音の後に埃が舞い上がる。そして‥いくつかの階段の上、いくつかの扉の向こうに彼はいた。
古い上質な机に腰掛け、ワインを揺らすヴァンパイアロイヤル‥

レイド:やあ、お客人。待っていたよ
オーマ:よう! 邪魔をするぜ。この度は、ご招待ありがとうよ。

ワイングラスを傾け、彼は、レイドは優美に笑う。
身長を遙かに超えるような銃を担いだまま、オーマはニヤリと何かを抱く笑いをする。

レイド:我に何か、御用かな?
オーマ:ああ、用事は‥これだ!!

グオオン!
館全体がまるで地震のように大きく揺れた。
閃光と稲妻が決して大きくない部屋の中で弾け飛ぶ。
煙と、埃と炎が一面に舞い上がり‥治まった時、オーマはまたニヤリと笑う。
予想通りの者がある満足の笑みでそこにある。
彼が銃口を、向ける前と髪の毛一すじさえも変わらずにワインを揺らし佇む‥レイドの姿。

レイド:随分物騒なご挨拶だな。人のうちを尋ねるときには礼儀正しく、手土産でも持ってくるものだ。親がしっかりしておらぬと、子も育たぬものぞ。
オーマ:参ったな。まさか独身者に子育て論を語られるとは思ってなかった‥ぜ!

‥ぜ!の言葉と同時、オーマはきしむ床を踏み込んだ。巨体から想像もできないような素早さで、彼はレイドの身体に銃をねじ込んだ‥はずであるがその銃は空をすり抜け机に突き刺さった。
彼の目の前で霧散したレイドは瞬きの間にオーマの背後へと回りこみ、その頭に手を触れる。

オーマ:ぐわっ!

頭の中、脳が凍りつくような冷気を感じ、オーマは素早く後ずさる。
机に刺さった銃を槍の様に使ってレイドの手を払うと間合いを取った。

レイド:ほお、流石、異世界の不死者は丈夫なようだ
オーマ:おかげさんでな、おちおち死ぬわけには行かないんだよ。お互いに‥な!

再びオーマの銃が火を噴く。レイドは片手で作った結界でそれを弾くが、弾幕の向こうに今度はオーマの姿はいない。

レイド:ん?
オーマ:おーら、おらおら、こっちだよ! 

振り向いたレイドの頭の真ん中に再び銃の銃口が0距離で近づいていた。
ドコン!
放たれた三発目の爆発の直前レイドの姿は消失し、壁に巨大な穴が開く。

オーマ:同じ手はそうそうくらわねえぜ!
レイド:我もだ!

オーマの背中を取ったレイド、だが、それを待ち構えていたオーマの四発目の銃声。巻き上がる煙。
大きく開いた穴から風が煙を連れ去った時‥オーマとレイドは最初とまったく同じ位置でお互いの顔を見つめていた。

オーマ:あんたも‥流石だな
レイド:汝も面白い技を使うものよ。久々に退屈が紛れたわ。

机の上からワインの瓶を取るとレイドは赤いワインを静かに注いだ。グラスは‥二つ。もちろん、両方に。
ヴァンパイアロイヤル自らから差し出されたワインを、オーマはありがとよ! っとウインクすると一気に飲み干した。

オーマ:くあーっ! 美味いねえ。流石いい酒だ。
レイド:お褒めに預かり、光栄、と言っておこうか? で、用事は何だ? 我の館を壊すためだけではないのであろう?

干したグラスをオーマは握ったまま歩き出す。一歩、二歩三歩。
そして、レイドの前に立つとオーマは懐をがさぐさと探り、一枚のくしゃくしゃの紙を差し出したのだった。
銀の短剣で切りつけられる。魔法をかけられる。そんな想像をしていたレイドにとってオーマの行動は少なからず意表を疲れた。

レイド:なんだ?これは‥
オーマ:謹んで進呈するぜ。腹黒同盟勧誘パンフ。青眼鏡君特別イラスト付き、今なら特別にこれであなたも青眼鏡君。特製青眼鏡も付けてやろう。どうだ? レイド、お前も腹黒同盟ナンバー9、いや10だったかな? とにかく会員にならないか? いや、なるべきだ! 絶対になれ!!

レイドは、確かに意表を付かれた。想像も‥していなかった。意表を付かれ‥

レイド:くっくっくっ‥‥ハ・ハ・ハ‥、ワ〜〜ハッハッハッ! 
オーマ:ん? なんだよ。何か可笑しい事を言ったか?

いきなり笑い出したレイドに今度はオーマが意表をつかれ、声を上げた。十分可笑しいことは言っていたのだが。

レイド;面白い! 面白いよ。おぬしは‥。いきなり銃口を向けたかと思ったらいきなり勧誘か? 何をしでかすか解らぬ。何をするのかも想像もつかぬ。我が眠りについている間に世界はだいぶ面白くなっているようだ‥。
オーマ:おっ! そうか? なら入会決定だな。 腹黒親父を極めればお日光等問題無しに御天と様の元を怪しく徘徊可能だぜ、じゃ、ここに早速サインを。会員証を作‥
レイド:まて‥ 
オーマ:なんだ?
レイド:勘違いしてもらっては困る。我は、誰かとつるむつもりも無ければ、今の自分に不自由もしておらぬ。会員とやらはきっぱり断らせてもらおう
オーマ:おめえは、それでいいのか? 御天と様の下も歩けねえ、不死者とはいえ魔法にも、銀の武器にも弱いと知れ渡っている。そんな自分でいいのかよ

ピン! 
レイドが弾き返したパンフレットをキャッチしたオーマはレイドの目を見る。洒落にならないほど洒落で生きているオーマ。
だが‥その瞳の奥に光るものに、自分と同じ思いを知るものに、レイドは小さく苦笑した。

レイド:我は不死人どもの王として生まれ、果てしなき長きを生きてきた。生き血を啜る。それだけで迫害される永遠の夜を這いずる者。それが我らだ
オーマ:‥
レイド:だが、我は惑わぬ。悔いぬ。他者を羨まぬ。我と異なる我は我ではない。永遠が運命であるのであれば滅ぶまでそれを受け入れる。だから‥いいのだ。
オーマ:随分と丸いんだな。不死者っていうのはよお。

呆れたようなオーマの口調にレイドはフッと笑う。それは苦笑であったのか?それとも‥

レイド:千年を超える日々を思考と眠りの中で過ごせばイヤでもこうなる。人はこういうのを悟ったとでも言ったかな? 若いものには無理であろうが‥。
オーマ:滅びたかったら俺がほろぼしてぇやってもいいんだが?
レイド:くっ‥。そなたにはできぬよ。いかに力があろうともこの世界の事象は我の味方だ。それに‥
オーマ:それに‥なんだ?
レイド:そなたは優しすぎる。不殺主義などと抜かしているうちではまだまだよ。
オーマ:‥おめえの情報はどうなってんだ? なんで、そんなことまで知ってやがる!
レイド:さてな‥

小さく笑いながら二杯目のワインを注いだレイドは、さっきと同じようにもう一杯をオーマに差し出した。

オーマ:(こいつには、かなわねえな。ま、今日はお近づきになったってこと満足しておくか‥)

グラスを取ったオーマにレイドは自分のグラスを軽く向ける。オーマも、同じようにグラスを向けた。
チン! 
軽い音が部屋に響き渡り、二人は微かに微笑み会い‥そして同時にグラスを干す。
風が二人の髪を掻きあげ‥その額に浮かぶ汗と思いを拭っていった。

●ヴァンパイアコスプレウォズ

勧誘を断られたオーマは、用事が全て済んだ気がして部屋を出ようとした、が一応本命の理由がもう一つあったことに気付いて踵を返した。

オーマ:レイド! あんたらの生き方にケチをつけるつもりはねえが、人間を襲うのは止めねえか?

壁にあいた穴から下を見下ろすとレイドはまた小さく笑う。

レイド:そなたらは肉を食べるであろう。生きるための狩りをとやかく言われる筋合いは無い。
オーマ:そりゃあ、そうだけどよ‥。
レイド:だが、一つだけ安心させてやろう。今、エルザードを騒がせている吸血鬼は我ら不死者ではない。むしろ‥そなたの管轄だ。
オーマ:俺? 何故?
レイド:見るがいい。あれだ‥

手招きしたレイドの指差す先を見て、オーマはあちゃーと頭を押さえる。そこにいたのは‥ヴァンパイアコスプレのウォズ。
いかにも、吸血鬼でございという姿をしたウォズは‥何かに誘い出されるように館の前に現れていた。

レイド:私の復活を知り、怯えたもの者どもの思念とやらであの姿を取ったというところであろう。ほら、仕事だ。
オーマ:へいへい、人使いが荒い不死者だぜ。あらよっ! と。

行きは10分歩いた道を僅か5秒で逆行して、オーマはヴォズの前に立った。
と、同時にヴォズの頭上に雷が落ちる。

ヴォズ;ウガアッ!!

術の主が誰であるか、などと確認するまでも無い。
オーマは封印の術を完成させる。

オーマ:次があったらヴァンパイアコスプレは止めておけ。せめてバニーにっと、もう聞こえないだろうがな。

息をついて彼が見上げたところに、もうレイドの姿は見えない。
捜して礼でも言うところだが、今更上に戻るのも野暮。館に背を向け歩き出す。
だが、オーマは感じていた。
優しさと、強さと、苦笑と笑顔。
それを全て足したようなレイドの視線が、微笑が背中に確かに送られた事を‥。

●ヴァンパイアネットワーク

街に戻ったオーマの病院に、ヴァンパイアの患者が現れることは殆ど無くなった。
ある日、のんびりとした日々を仲間と共に過ごす彼はこんな噂を耳にする。

ソーンの闇の中には少なくない不死者が潜んでいると。
そしてささやかなネットワークが存在すると‥。
エルザードの街で何が起きているかを彼らは知っているのだと‥。

あの館に、今はもうレイドはいない。どこに住んでいるのかも解らない。
ネットワークの話が本当なら、オーマに会い、ウォズを封印するために彼は姿を現したのかもしれない。
だが、これだけは言える。
いつか、出会わなければならない時、レイドとはまた出会うことができるだろう。敵になるか、味方となるかまだ解りはしないけれど。
その時は‥

オーマ:同盟パンフに生写真、生サイン、生クシー親父ヴォイス、おまけに等身大フィギアと青眼鏡を付けてやる。だからレイド。お前も腹黒親父同盟にレッツジョインだぜ!

できるだろうか?
同盟NO1はやる気満々であるのだが‥。

レイド:諦めろ!

と言っても聞くような親父ではない事を、レイドはまだ知らない。