<東京怪談ノベル(シングル)>


ショット


 総勢七十名いるであろう盗賊のねぐらの前で、サラミスは一つだけ嘆息した。
 砦の規模は大きい。遮蔽物があり地理の理があるぶん、あちらの方が優勢かもしれない。ちらりとそんなことを考えたサラミスは、おかしそうに口許を笑わせた。そんなことはある筈もない。サラミスはほぼ最強のアンドロイドである。
 一部隊の部下を与えられていたので、七十対八という人数比だった。
 物陰から砦を見守っていたサラミスは、作戦実行の合図を全員に送った。
 部隊の雰囲気が変わる。そしてサラミス達は音もなく砦へ近寄り、入り口の蝶番を突然アサルトライフルで破壊して中へと侵入した。
 その後すぐ、縄を伝って二階の窓をプラスチック爆弾で爆破した部隊の半分が二階へ進出する。 冷静に、的確に。
 サラミスは心の中でつぶやいて、部隊員が攻防を繰り広げる砦の中へ足を踏み入れた。
 ダダダダダダ、マシンガンの連射音が響いていた。一瞬の隙に、小銃の音がマシンガンの音を掻き消した。パン、パン、とあちらこちらで銃声が聞こえてきている。
 サラミスは一つずつ部屋を調べながら、動く者があれば手元の小銃で息の根を止めた。一階の制圧は簡単だった。二階へ上がろうとした瞬間に、二階での情報が整理されて伝達されてくる。マシンドールならではの感覚であるが、二階より上の状況が理解できなかった。一階の人数は役三十人、二階は十五人全員射殺済みである。事態はサラミスにとって優勢に動いている筈だ、上へ上がった部隊員達に続くようにして三階へサラミスがあがる。
 途中から何人かの部下を追い越した。焦燥が募る中、三階の盗賊達の銃声が聞こえた。ピュンと自分のすぐ脇を銃弾が飛んで行く。サラミスは姿勢を低くして部屋に近付き、小銃につけた無反動砲四十四ミリにトリガーを切り替えて一発撃った。一室に飛び込んだ弾は大きな音を立てて爆破し、中にいる盗賊達を一網打尽にした。
「……進んで」
 やはり上に脅威がいるというのは考えすぎだったのかもしれない。
 部下を上に進ませて、サラミスは思った。
 そして七階まで進んだ彼女は、突然迷彩服に身を包んだ部下の死体を見ることになる。銃声らしき音はあまりしていなかったというのに、部下達はそれぞれ大きな穴を空けられて死んでいる。

「指揮官はお嬢さんかな」
 嘲笑うように誰かが言った。声に反応して振り返る。探知できていない影が、後ろに出現していた。どういうことだ? 部下の残りの人数は? 素早く計算し、そしてすぐさまサラミスは駆け出した。小銃を連発してもその男には通じないらしい。すぐに銃を捨て、接近戦にモードを切り替える。すぐに男の腕がサラミスを捕らえる……かのように見えたが、彼女はそれを避けた。そして手持ちのテグスを男の首へ一重巻きつける。素早く背後に回り、テグスごと男の身体を背負うようにして持ち上げると、男は生身の人間なのか、ぐふと小さな声を上げた。三度、同じ動作を繰り返す。首を三度絞めあげられては、生身では一たまりもない筈だ。それから男を放り出した後、サラミスは投げ出した小銃を片手に男の前に立った。「よくも、部下を殺してくれたな」
「……ぉ……ぉたがいさまだ」
 サラミスはふむとうなずく。
「その通りかもしれない。だが、死んでもらう」
 アサルトライフルの先からマズルファイヤーが散った。ドドドド、連射音がして男の身体に風穴が空けられる。男は暫く生きているかのように踊ってから、じっとりとサラミスを見上げながらその場で朽ちた。
 サラミスは後ろを振り返り、死体の数を確認した。
 一人……二人……。八人を認知して、全員のまぶたをそっと下ろす。
 作戦は成功。犠牲者は八名。
 生還者一名。
 
 ――end