<PCクエストノベル(1人)>


『ハルフ村〜オーマのるんるん温泉ダンジョン』
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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】
【 1953/オーマ・シュヴァルツ /医者兼ガンナー(ヴァンサー)副業有り】
【助力探求者】
 無し
【その他登場人物】
 御者その1
 土産物屋の店主
 ウォズ三姉妹
 支配人
 御者その2
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< 1 >
 聖都エルザードから、ひたすら南下する。道は、だだ広く退屈な草原を分断していたが、やがて、うさん臭い森を横に設置して伸びていく。
 馬車の後ろでは、大男が、狭い箱の中で長い手足を持て余していた。組んだ足先に揺れる靴は、馬車の側板に何度も触れて泥の跡をつける。髪が幌に触れそうなので、座席にすわる姿勢も猫背になった。
 道は小石だらけで、揺れが男の貧乏揺すりを隠した。
 喋ると舌を噛みそうな危険を冒し、景色に飽きた男が御者に話しかける。
オーマ:「ハルフ村へは、あとどれくらいだ?」
 この質問は八度目だった。

 妻も上司も。二人が美しいことは、確かにオーマ・シュヴァルツの自慢だった。だが、『美』に対して貪欲なのは美人だからこそか。
 ハルフ村は、最近温泉が出たことで急に発展した観光地だ。『美人の湯』というのもある。
 その湯に入って誰もが美人になってしまったら、世の中は混乱して大変だ。だが、今まで多くのエルザードの住人が浸かったが、聖都は平穏なままだった。めざましい効果があるとは、とても思えない。それでも女性たちは『美人の湯』が好きだ。オーマは、妻達から、ハルフ村限定販売『美人の湯の素』というシロモノの購入を頼まれたのだった。
オーマ:「御者さんよ。村には色々な湯が増えたって言うが。俺の温泉万歳気分を満たしてくれる、面白い湯は出来たかい?」
 買物のついでにひとっ風呂浴びて帰っても、バチは当たらないだろう。
御者:「そうすねえ。『美少年湯』『ロリコン湯』『巨乳湯』辺りが人気でしょうか。最近ではマニアの間で『オヤヂ湯』も盛り上がっています」
オーマ:「ほほう、『オヤヂ湯』か。『腹黒風呂』とか『イロモノ風呂』ってのは無いかい」
御者:「ありますかい、そんなの」
『では、俺が宿にでも進言して普及させるか』などと顎を擦りニヤけているうちに、村へやっと到着であった。

 馬車ターミナルの付近には、大小の土産物屋が並んでいる。藁葺きに木造でわざと鄙びた雰囲気に造られた店、モノトーンのシックな店構えの店、何故か猫の小物だけ売っている店。オーマの目当ては、緑色を基調にした温泉の素・専門店だ。
オーマ:「ごめんよー」
 壁には木製の頑丈な棚が据えられ、粉末タイプやサッシュタイプの商品が、効能別に整然と並べられていた。ショップというより薬局のような作りで、その本格的な雰囲気が『効きそう感』を誘うのか、通には人気の店だそうだ。
 オーマが店に入っても、『いらっしゃい』の言葉も無い。テーブルに肘をついた中年の店主は、深く椅子に座って鎮痛な面持ちで考えに耽っている。
オーマ:「どうしたい、おやじ。村の温泉、ただの湯に『温泉の素』を溶かしてることが、ついに発覚したか〜?」
 どこかの世界で本当にあった馬鹿らしい事件だ。オーマは軽いジョークのつもりだったが。丸顔で目も鼻も丸い店主が、キッと目を鋭く上げて瞳の形を三角に変えた。
店主:「お客さん、滅多なこと言わないでくださいよ!実は、昨夜から、どこの温泉も急に枯れてしまって。原因もわからず、本当にいきなりな出来事で。
 旅館の主人達は、今も村の集会所で緊急対策会議中です」
 突然沸いた温泉なのだから、突然枯れても文句を言う義理は無い。だが、宿を建て道を整え、食堂や飲み屋や土産物屋を造り、この村の温泉産業に投資した者達の心労は大きかろう。
オーマ:「そうか、すまんことを言っちまった。しかし、温泉が無いのは残念だ」
 素直に買物だけして帰れってことか。
オーマ:「おやじ、『美人の湯の素』を2箱くれ」
店主:「それが、売切れなんでさあ」
オーマ:「なにっ」
店主:「温泉に入れないなら、せめて『素』だけでもってことでしょうかね、買い占めて行った客がいてね。在庫の36箱、全部」
オーマ:「そいつはえげつないな」
店主:「話した感じは、悪い人達じゃなかったですよ。何せ『私たちが何とかしてみせる!』って、扉に向かいましたから。正義と勇気のご婦人達でしょう」
オーマ:「正義と勇気のご婦人達ねえ。・・・で、扉って?」
店主:「はあ。干上がった源泉近くの崖に、いきなり扉が出現しまして。その透明な扉の向こうには、洞窟が広がっているのが見えるのです。湯が沸かなくなったのは、その扉が怪しいというんで、そのお客さん達、調査に行くと言っていました」
オーマ:「そんな危険なこと!おまえさんは、か弱い愛すべき女性達を、止めもせずに見送ったのかっ?」
 オーマは身を乗り出した。小柄な店主の上に、天から覆いかぶさるようにドスの効いた声が降りて来る。店主は思わず首をひっこめた。
店主:「危険だからやめろ、なんて。あの人達を目の前にしたら、そんな言葉、思いつきませんよ・・・」

 その扉の前に屯する美女達は、みな2メートルはゆうに越えるという女戦士だった。野戦に耐えて来たらしい露出度の高い鎧。そこからはみ出た肩や腕の筋肉の小山は、艶光りして矢をも弾き飛ばしそうな強靱さだ。それぞれ、手に剣や斧、弓を握る。
 姉妹なのか、皆似た顔をしていた。目が大きく、かっと見開き、彫りの深い迫力の顔立ちだ。髪はみな赤毛で、扉の前にしゃがんで弓を抱く女は耳が出るほど短く、立って肩に剣を負う女の髪は肩に触れて揺れている。扉の前に佇む斧の女は、髪が腰まであった。
『正義と勇気のご婦人達』は、扉を睨んだままだ。
 つるりとした透明材質の、両開きのドアだが、何故か把手が無い。彼女達の誰が扉に手を押しあて、力ずくで引いてみても、ウンともスンとも言わない。
オーマ:「お嬢さんたち。異国の人達のようだな。ソーンの文字は読めないかい?」
 崖の影から様子を窺っていたオーマだが、助け船を出すことにした。
女1:「な、なんだお前は!」
女2:「やっ、おまえはヴァンサーだな!」
女3:「今私たちは、おまえと闘っているヒマは無いぞ!」
 オーマはヒュウと口笛を吹いた。妙だと思ったら、やはりウォズだったのか。
 ウォズは凶獣などとも呼ばれ、元々は異世界の生き物だが、時空の歪みか何かでソーンにも一部流れ込んで来た。姿形は様々で(姿を変えることもできるのが厄介だ)、ソーンでも害をなす危険な存在とされている。副業の多いオーマの、たくさん並んだ職業名のうちの『ヴァンサー』というのは、ウォズ専門の狩人のようなものだ。
オーマ:「それは奇遇だ。俺も闘う気は無いんでね。気が合うねえ」
 誰かに被害を及ぼしていたり、自分を襲って来たりしない限り、オーマは、誰とも闘うつもりは無い。ウォズでもモンスターでも凶悪犯でも。その決意はいつも同じだった。
 オーマは、二枚扉がぴたりと合わさった隙間近く、扉の腰の高さにある、掌大の板を、そっと押した。その板には『押す』と書いてあったからだ。
 すっと、扉の左側が自動的にスライドした。

< 2 >
 女たちは、それぞれ、髪の短い順から「ア。」「シュ。」「ラ。」と名乗った。ハルフ村には、美人を磨く為に温泉に浸かりに来たのだそうだ。そして美人を磨き上げた暁には、かっこいい彼氏や亭主をゲットするのが夢だと言う。
 どんな種族も人種も、『"女性"というモンスター』の想いは似ているらしい。
で、彼女達は考えた。『素』は購入したものの、やはり本物の『美人の湯』に入らなくてはご利益も少なそうだ。それに、仕事も(何の仕事なのだろう?)、この温泉旅行の為に、わざわざ長期休暇を取った。どうしても『美人の湯』に浸かりたい。
 温泉が干上がった原因を究明し、村を元の温泉パラダイスに戻したいのだとウォズ達は熱く語った。
オーマ:「なるほどな。おまえさんらのプリティな乙女心、この熱いオヤジのラブラブハートを胸きゅんにさせたぜ。でっかい者同志、俺も解決の為に手を貸そう。
 で、ものは相談だが、仲間になった誼で『素』を2箱売ってくれんか?」
 三人は顔を見合わす。そして、巨大な図体で、こしょこしょと内緒話を始めた。これは女子特有の反応だろうか。グローブのような掌が相手の耳を覆い隠す。掌も大きいが、耳も大きい。
ア:「1箱なら、いいだろう。私の分を譲ろう」
 オーマは『まあ、いいか、全然持ち返らないより』と、妥協する。
シュ:「ただし、二度と私たちに『でかい』と言うな。まあ、小柄では無いとは自覚しているが。ウォズの中では、そう大きい方ではないぞ」
 天を覆うほど巨大な類もいるので、そう言われればそうだが。だが乙女達は、そういうものと自分達を比較して安心しているのだろうか・・・。
ラ:「そうだ、女性に『でかい』は禁句だろう。デリカシーの無い男だ」
 凶獣のくせにデリカシーかと吹きそうになるが、そこは全ての女性に優しいオーマのことだ、「了解した。すまなかった」と素直に詫びた。
 
 魔のダンジョンかも知れぬ未知の洞窟を、まず斬り込み隊長・オーマが先頭に立って進んだ。岩肌がごつごつと突き出した壁は、溶岩が固まったかのように黒くて肌理が荒かった。微かに硫黄が臭う。
 だが、床は、まるで石を研磨したように平らで滑らかだ。人の手が入った洞窟のようにも見える。どんな仕掛けがあるかもしれない。五感を研ぎ澄ませて、オーマは注意深く進んだ。
 オーマは他の三人と違い、丸腰だった。だが彼は、敵が目の前に現れてからでも、腕に銃を抱えることができた。彼には、具現化能力・・・心に思い描いた武器を自由に出現させるチカラがあるのだ。
 オーマは、すぐにでも手に銃を準備できるよう、心構えしながら歩いていた。
オーマ:「うわっ!」
 いきなり、両壁から蒸気が吹き出した。四人は熱風を避けて床に這いつくばった。優秀な戦士達の行動は素早く、火傷を追った者はいない。
 うつ伏せのまま少し顔を上げると、あたりは湯気で煙り、霧に包まれたようになっている。
ア:「暑いっ・・・。まるで蒸し風呂だ」
 背の上では、まだ蒸気の吹き出す激しい音が聞こえる。オーマは汗でズレた小さな眼鏡を直す。そして諦めて外した。曇って使い物にならなかったからだ。
 アシュラ三姉妹も、広い面積の顔からたくさん汗を流している。
シュ:「毛穴が全部開く暑さだな」
 ラの鼻先に、小指大の甲虫の死骸が落ちていた。ダンゴムシのようだ。暑さでやられたのか、手足を縮めて腹を上にして倒れている。
ラ:「む、むしっ!ぎぇ〜〜〜っ!」
オーマ:「あ、ばか、こら!」
 蒸気を忘れて飛び上がろうとしたので、オーマが背中に覆いかぶさり辛うじて止めた。思わず「ワン・ツー・スリー!」とカウントを取りたくなる風景だったが、下になったのは、一応乙女。「すまん」と赤面したその頬の赤さは、気温のせいでは無かったろう。
 オーマは苦笑して、ピン!と指で虫の死骸を遠くへ転がしてやった。

 壁は間欠泉になっているようだ。音が止んだ隙に、四人はその空間を抜け出した。一気に先へと走る。
シュ:「ぎゃあ!」
 駿足で先頭に出ていたシュが、黒い泥に嵌まった。それは行き先全部の道を占領する、タールのような『ぬめりの沼』だった。
 シュの脛が、膝が、太股が、腰が・・・ずんずんと沈む。シュの周りの黒い泥だけが、ぼこぼこと不気味に泡を立てた。そこだけ水面が凹み、シュを吸い込もうとしていた。
シュ:「あ・・・あ・・・」
 シュは恐怖で体を強張らせ、茫然と沈んで行く。
オーマ:「手に掴まれ!」
 オーマが腕を差し出した。シュは我に返ると、必死の面持ちでオーマの肩にすがり付く。二の腕に赤い爪が食い込むのも構わず、オーマはシュを抱き止めた。
オーマ:「大丈夫か?」
シュ:「ああ、かたじけない。・・・あれ?」
 底無し沼だと思い込んでいた全員が、シュの胸の高さで沈没が止まったのに拍子抜けした。
シュ:「足の裏に底が触っている。プールのようになっているらしい。渡って大丈夫だぞ」
 残りの三人も次々に沼へ入った。四人が長身なので楽に立てるが、ソーンの普通の女性なら、顎スレスレの水位だった。
ア:「なんだか、泥パックのようだが・・・」
 四人は、重くて抵抗力のある泥を、力で分断して進んだ。泥はひやりと冷たくて、さっき背筋を流れた冷たい汗も忘れさせた。

 次に眼前に現れたのは、輝く水をたたえた湖だった。淡い水色の水は、うす暗い洞窟の中でも、何故か清浄な煌きに満ちて、湖面を水晶のように光らせていた。
 オーマが水に手を入れてみる。どろりとしたとろみを感じた。掌で掬うと、ゼリーのような固体がべたりと乗った。
オーマ:「行くか?」
 背後の三姉妹を振り仰ぐ。アが一人、後ずさりした。
ア:「このゼリーの中を進めというのか?」
 陽に焼けて赤銅色の顔が、今は蒼白になっている。
ラ:「姉は、子供の頃、母の作ったアボガドのコンソメ・ゼリー寄せに当たって、ひどい下痢をしたことがあるのだ」
シュ:「以来、ゼリーが皿の上でぷるんとするのを見ただけで、吐き気を感じるらしい」
だが、今さら戻れまい。オーマは、ぽしゃりと湖に浸かった。べったりゼリーが皮膚に張り付く。底は深くない。水面はオーマの臍辺りだ。
オーマ:「仕方ねえな。ゼリーに肌が触れなきゃ平気か?ほら、俺の背に乗れ」
ア:「え?」
オーマ:「おんぶしてやるよ」
 アは躊躇している。男性の背に負われるのが恥ずかしいのだ。
オーマ:「子供には好評なんだがな。それとも、スペシャル・サービスのお姫様風横抱きスタイルがいいか」
 アは破顔した。
ア:「いくらおまえが屈強でも、私のでかい体を横抱きは無理だ。すまんが、背を借りることにする」
オーマ:「おや。小柄じゃなかったっけ?」
 オーマの軽口に、アが笑い声を上げた。オーマは湖の中で軽く膝を曲げ、アが乗りやすいよう腰を屈めた。
 他の二名は、とぷん!ぷるん!と何事も無いように足から飛び込んだ。
シュ:「薄荷の香りがして、気持ちいいぞ」
 ゼリーの湖を歩きながら、姉妹の一人が言う。オーマは、両手でアのふくらはぎを支えながら(さすがに、子供を背負う時のように尻を支えるわけにはいかない)、深く息を吸ってみた。淡いペパーミントの香り。いや、気づいていなかったわけではないが、両肩に手を乗せる、アのコロンかと思っていたのだ。
ラ:「本当だ。それに、肌がしっとりして来た」
 オーマは眉を寄せる。
 毛穴を開かせる熱風。泥パック。ミントのゼリーパック(保湿剤入り)。なんだか、オチが見えたような・・・。

 そして。
 輝く湖を渡り切ると。
 白衣の女性が、4枚のバスローブを抱えて待ち構えていた。
白衣女性:「ありがとうございます〜。当社ラズベリー・ランデブーのお試しエステはいかがでしたでしょうか〜?マッサージの後に、アンケートご記入をお願いいたしま〜す」

< 3 >
 ハルフ村に突然温泉が沸いたのも、この異世界のエステ会社が、ソーンに進出する為の宣伝だったのだと言う。会社の営業担当の超能力者が時空を歪め、自分達の世界にある温泉源を、ハルフ村の空き地へとワープさせた。だが、ソーンと時間の流れが異なる為、お試しエステ・コースを造っている間に、村では温泉宿ができ、土産屋ができ、すっかり観光地として定着していたわけだ。
白衣女性:「皆さんがそのように温泉を楽しんでらっしゃるとは知らず。入口を作るのに泉が邪魔だったものですから。でも、勝手に源泉を止めてしまい、失礼しました」
 支配人室なのだろうか、事務机とソファセットが置かれた部屋に、オーマ達は通された。白い壁のいかにも事務的な部屋に、タオル地のバスロープを纏ってソファに深く座る戦士達の姿は、どちらかというと情けなかった。オーマは所在無げに、ずずっと野菜ジュースをすする。蜂蜜入りの冷えた野菜ジュースもサービスだった。
 アンケート用紙はソーンの文字で書かれていた。オーマは、歯切れのよい口調で姉妹に読んで聞かせ、記入方法も説明してやった。彼女達は素直で、わからないことを問う言い方もオーマへの敬意と尊敬がこもり、もしかしたらエルザードで待つ『あの二人』より純真かもしれないと思わせた。オーマは、その恐ろしい考えに首を振った。
ア:「温泉は、元に戻してもらえるのか?」
白衣女性:「もちろんですわ。お客様達に反感を抱かれては、商売になりませんもの。お客様の層を拝見しても、温泉にいらした方がそのまま弊社にいらっしゃるケースは多そうですし。でも、そうしますと、扉の位置を変えなくてはいけませんね」
 あの入口の自動ドアは、温泉が戻ると泉の中に潜ってしまう。
オーマ:「入口を二重にして、水が入らないようにすれば、温泉に潜って入店するのも面白いかもしれんぜ」
 野菜ジュースを飲み干して、ガラステーブルにコトリと置くと、にやりと支配人に笑ってみせた。
 オーマは三姉妹の前で口には出さなかったが。この異世界のエステサロンがハルフ村と繋がるってことは。店の反対側のドアから出れば、このナントカ・ランデブーの存在する、ソーンでは無い世界に出てしまうってことだ。もちろん、セキュリティは厳しいだろう。だが、知れば破ろうとする者もいるはずだ。
 オーマが敢えて言わなければ、ソーンでは気づく人は少ないかもしれない。

シュ:「もう一箱、私の分も譲ろう」
ラ:「私の分も持って帰ってくれ。世話になったな」
 ウォズ三姉妹は金は取らなかった。『美人の湯の素』を三箱譲ってもらい、オーマは再び馬車に乗って帰途についた。
 帰りの御者は少し俗な男で、話好きなようだった。
御者:「旦那。温泉街で迫力の美女三人とるんるんですかぁ。いやあ、羨ましい」
 御者は、三人がウォズなのを知らない。
オーマ:「まあね。三人、それぞれ、いいコだったぜ」
御者:「ひゃあ、ご馳走さんす。いや、ご馳走になったのは旦那かあ」
 御者の下世話な話を右から左へ流しながら、オーマは、温泉に浸かる為に村に残った彼女達のことを思う。美人の湯には、残念ながら小柄になる効果は無い。でも、三人はそれなりに可愛い女だという気はした。カッコイイ彼氏に夫か・・・。きっと何とかなるだろう。何とかなるものだ。

 肩にできた爪跡を妻に見とがめられて、オーマ自身に波瀾が起きるのは、もう数日あとのこと。

< END >