<PCクエストノベル(1人)>


【遅れて響く鐘の音】

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【2155 / ルーン・ルン (るーん・るん) / ピルグリム・スティグマータ】

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 新たな年が始まってしばらく経ったある日。
 ルーン・ルン(るーん・るん)は、いつものように気楽にのんきに、空中を散歩したり、気まぐれに地上に降りて来てみたりと、いつもと変わらない一日を送っていた。
 これから何をしようか、酒場に行ってピアノでも弾こうか、それとも料理でもして知り合いに配ってみようか、とあれ これ楽しげにくるくると頭の中で考えを転がしながら、悠々自適に道行きを続ける。
 他人の人生や世の中の動静などお構いなしだ。
 ルーンの自由を邪魔するのであれば、排除するのみである。
 だが、不意に地上から大きな、甲高い声がして、彼の歩みを止めたのである。

少年:「やい、ルーン!!」

 幾分乱暴なその物言いは、子供のものだった。
 そのまま視線を下に下げて、ルーンは足下に小柄な少年を見とめた。
 ふわっと地面に降り立ち、彼はその子供に声をかけた。

ルーン:「どうカしたのカイ?」
少年:「ルーンって、聖者様だったのか?!」

 その少年は、ルーンも知っている相手だ。
 子供らしい好奇心に満ちた瞳で、少年はルーンを、両拳を握りしめながら見つめ返した。
 だが、その瞳の奥には、好奇心だけでない色が見え隠れしていて、ルーンは少しだけ首を傾げた。
 それから、冷たい笑顔を浮かべた。

ルーン:「違うネェ♪彼は疾うに死ンだダろウ?」

 少なくとも、とルーンは思う。
(ココにいるオレはそんナ存在ジャナイヨ)
 すると、彼の瞳の中にある光が急速に輝きを失っていった。
 しゅんとして、うつむいてしまった。

少年:「・・・サンタが来なかったんだ」
ルーン:「サンタ?」
少年:「うん・・・みんなのところには来たって言うんだ・・・でも、俺の家には来なかったんだよ・・・」

 ぐす、と少年がすすり泣く声がした。
 ルーンは少し考えた。
 世界中の子供という子供のすべてに、サンタクロースはプレゼントを届けたはずだ。
 それは形あるものであることもあったが、兄弟の命を救ったり、寒さから身を守る術を与えたりというような、形のないものもあった。
 だから単に「形ないもの」を贈られたのではないか、そうルーンは解釈した。
 だが、子供にそれを説明して簡単にわかるものでもないだろう。
 ルーンは一瞬どう話そうか迷った。
 すると、少年はふとあることに気付いたらしい、ぱっと顔を上げ、ルーンに詰め寄った。

少年:「ルーンがなってくれよ!」
ルーン:「何ニ?」
少年:「サンタだよ!」
ルーン:「俺ガ?」
少年:「うん!なってくれよ、父さんの!」

 ナルホド、とルーンはその台詞で納得した。
 少年は、父親のサンタになってくれと言っているのだ。
 もしサンタが来ない理由が「父親のところに」来ないというのであれば当然なのである。
 なぜならサンタクロースは、子供のところにしか来ていないのだから。

少年:「父さんさ、鉱山で大怪我したんだけど、この前ようやく意識が回復したんだ!だけど・・・全然良くならなくって・・・俺、一生懸命、サンタにお願いしたんだよ、父さんを元気にしてくれって。だけど、サンタは来てくれなかったんだ・・・だから・・・」
ルーン:「意識が回復シタのハいつ?」
少年:「えっ?!えっと・・・去年のクリスマスだよ・・・」

 やはりサンタは行っていた。
 ルーンは理解した。
 だが、少年はまだ理解していない。
 仕方ナイ、とルーンは軽く肩をすくめた。

ルーン:「少年、キミの家に連れてッテくれルカイ?」
少年:「本当か?!うん、こっちだよ、こっち!!」

 少年に引っ張られるようにして、ルーンはルナザームの村のある小路に連れて行かれた。
 ルーンは、彼の話に同情した訳では決してなかった。
 単純に興味がわいただけの話である。
 大人に来る季節外れのサンタ――それも、聖者崩れの、と来れば、ルーンとしても興味深い、ただそれだけだ。
 それはひどく彼の嗜好に合っていた。
 少年の家は、小路にひしめき合って建っている平屋建てのひとつであった。
 朽ちかけた木の家で、どことなく寒々しい。
 少年は今にも壊れそうなその家のドアを勢いよく開け、中へと飛び込んだ。
 そこには申し訳程度の家具と、大きな水がめ、それにいくつかの食材を納めたボロ袋があるだけだった。
 その少し奥まったところに、やはり粗末なベッドがあり、ひとりの大男が横になっていた。
 見るからに頑強そうな、日に焼けた体である。
 だが今は、痛々しい限りで、足を天井から吊っていた。
 ルーンは少年の後から中に入り、大男の横に立った。
 大男は胡散臭げにルーンを見やる。
 残念ながら、そんな視線ですら、ルーンには気にもならなかった。

少年:「父さん、サンタ、連れて来たよ!」
父:「サンタだと?こいつがか?」
少年:「うん……見た目はそうは見えないかも知れないけど、サンタなんだよ!」
ルーン:「まァ、そういうコトデ」
少年:「父さん、何か欲しいもの、ないか?!」
父:「欲しいものだと?」
少年:「うん!サンタなんだから、何でもかなえてくれるんだよ、なあ、ルーン!」
ルーン:「そうだネェ」
少年:「父さん、何でもいいんだぞ、『金持ちになりたい』でも、足を…『足を治したい』でもさ……」

 ルーンは一貫して傍観者のように他人事を決め込んでいる。
 それに焦れて、少年は父親を急かしていた。
 だが、ルーンのその風貌は明らかに聖なる者とは異なる。
 直感で、正邪のどちらとも判別がつけられないことを感じた父親は、その視線から警戒を消さなかったが、少年の言うとおり、ひとつだけ口にした。

父:「そうまでおまえが言うなら、ひとつだけ欲しいものをお願いするぜ、聖者サマよ」
ルーン:「ナニを願うんダイ?」
父:「……こいつが一生貧しさに困らないように、してやってくれ」
少年:「と、父さん!?」
ルーン:「お安い御用ダヨ☆んじゃ、チョット借りてくネ☆」
少年:「うわ、何するんだよ、ルーン!!」
父:「お、おい、おまえ、どこに……」

 ルーンは少年を小脇に抱えた。
 それから問答無用で扉から外に出ると、そのまま宙に飛び出した。
 いきなり空を飛ぶルーンに、ごくりと唾を飲んで少年は押し黙った。
 このまま地面に落とされても困るのだ。
 ルーンは宙をあっという間に駆けて、国の西方、バーンリスリー山脈まで飛んだ。
 そこは人間が決して立ち入ることが出来ない聖域で、その険しさでも有名だった。
 そのたくさんある風穴のひとつで、ルーンは少年を下ろした。

ルーン:「ココをまっすぐ行くとネ、光った壁ニ囲まれた場所に出ルヨ。その壁カラ、好きなダケ宝石ヲ持って帰ルとイイ」
少年:「ルーン……?」
ルーン:「それジャ、俺はこれデ☆」
少年:「えっ、待ってくれよ、ここに置いてく気かよ?!」
ルーン:「ダイジョブだヨ。キミも、もう飛べるカラ☆」

 ルーンはそう言って、再び空へと舞い上がった。
 少年も顔を真っ赤にして、その後を追う。
 すると。
 少年の身体もふわりと持ち上がり、ルーンと同じように宙に浮き上がった。

ルーン:「ただネ、コレは、一時的なモノだからサ、キミがあの村に戻ったら、魔法はオシマイダヨ。ジャ、またネ☆」

 ルーンはもう後ろも振り返らずにそのまま飛び去った。
 そして、王都が近付いたところで、あることを伝え忘れたことに気付いた。
 そう、あの風穴の宝石は、すべてあの山を支配する、ある種族の姫君のものだったのだ。
 その許しを得なければ、持ち去ることは不可能なのだ。
 だが、ルーンはさして気にしていなかった。

ルーン:「まァ、彼なら大丈夫ダヨ☆」

 なぜなら。
 その種族とは、猿人の種族で、最初に見た男性を好きになるような魔法をかけられているのだ。
 しかも――

ルーン:「その魔法、かけたのハ俺だシネ☆王子様ニなれるヨ、きっとネ☆」

 そして、ルーンはそのまま、王都へと向かった。
 後に残った少年が、とてもとても熱心に口説かれていることも知らずに……


〜END〜