<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


『激戦!?愛しの聖筋界を守れっ!』


 生暖かい風が吹く晩の事だった。
 その少女は友人とおしゃべりをしているうちにすっかり帰りが遅くなり、暗い夜道を一人、急ぎ足で家へと急ぐところであった。夜道を少女が一人で歩いてはいけないと言われているが、少女の家まではそんなに遠くはないのだから大丈夫だと、気楽な気持ちでいたのだ。
「!?」
 背後で何かが動いたような気がした。いや、しかしただの動物かもしれない、きっと何でもないのだ。と、少女が再び歩き出そうとした時、前方より少女の目の前に、巨大な人影が現れた。
「俺の筋肉を見よーーーーーっ!!!」
「キャアアアアアッ!!!」
 気絶寸前の少女にその筋肉男は、己の筋肉の微動を見せつけ、満足した笑みを浮かべていたという。



「また被害者が出たらしいナぁっ!!!」
 新聞の記事を見つめ、オーマ・シュヴァルツが肩をプルプルと震わせている。
「一人歩きしている少女に己の筋肉を見せつけて気絶させるなんざ、ワル筋の連中の仕業に違いねぇ!」
「その少女を襲ったというマッチョ、貴方ではないでしょうね?」
 筋肉で覆われた体が何とも美しいオーマの横で、細身に落ち着いた雰囲気の男性、ルイがニヤリとした笑みを浮かべている。
「んなわけあるかっ。いいかよく見ろよ、今回の事件はこれが初めてじゃねぇんだ。今月に入ってから、ワル筋連中に教われた被害者は7人にも上る。また被害者が出るぜ?奴ら、この国をワル筋マッスルパワーで支配しようとしているに違いねぇ」
 オーマが怒りで力を込めるので今にも新聞が破れそうだ。
「つまり、人々を襲い続け、じわじわとそのワル筋パワーを人々に認知させ、この国を少しづつ乗っ取っていくと、そういう事でしょうか?」
「ああ、まったくもってその通りだぜ。連中とは、過去何度か対決したがな。まだ懲りてねぇみてぇだからな。俺が負けた事もあったが、ここいらで決着をつけねばなるまいと思っているところだ」
 ビタン!とオーマが怒り任せにテーブルに新聞を叩きつけた時、オーマ達が住む腹黒同盟本拠地兼シュヴァルツ病院(もどき)が小刻みに揺れ始めた。
「誰だ、こんな時に貧乏ゆすりしてるのは?!」
 しかし、オーマが叫んでも震えは静まるどころか、どんどん大きくなり、どっごーん!!!と、けたたましい音が響き渡り、病院の扉がバネ仕掛けのびっくり箱のように弾け飛んだ。
「て、てめぇはっ!!?」
「久しぶりだねえ、オーマ」
「我ら夫妻の事を、忘れたとは言わせまい」
 ガッツリとポージングを決めて、煙の中にシルエットを浮かべ、もわわわーんと姿を表す男女。
 そう、この二人こそ、過去3回に渡りオーマに挑戦をし続けてきたウォズ夫妻である。
 聖筋界はワル筋に充満されてこそあるという考えを持ち、オーマやその家族、知人達と戦いを挑んだ者達だ。
「はん、噂をすれば早速お出ましかい。性懲りもなく、人んち壊してまで登場するたぁ、俺のラブ筋肉が許すと思ってんのか」
 オーマが夫妻を睨み付けると、夫の方がむっきりとポーズを変え口を開く。
「それは、こっちの、セリフだぜ。この国は、俺達が、確実に支配を、している。同志達が、今、勢力を、拡大しているところだ。この素晴らしい筋肉を、見せ付けて人々に、姿や声を、植付けている、ところさ!」
 夫は言葉の単語ごとにいちいちポージグをするので、どうもセリフが切れがちである。
「やはり予想通りでしたね、オーマさん。新聞に載っていた記事は」
「あぁ、まったく関係のねぇ連中に筋肉見せ付けて、ワル筋をそいつらの頭にズッギュンインプットさせようとはな!」
 ルイに続けてオーマが言うと、今度は妻がテカテカに光るアニキの形をした人形をオーマへ投げつけた。
「っとと、何だ、こりゃあ?」
「マッチョ兄貴に人形みたいですね?おや、人形の頭に穴が空いてますよ?」
 ルイがマッチョ人形の頭を指差した。なるほど、確かにルイの言うとおり、人形の頭に穴があいていて、何かが穴に詰まっているような感触がする。
「人形の大胸筋を押してみな!」
 妻が目を見開いてそう叫ぶので、オーマは言われた通りに、人形の胸を親指で押した。すると、人形からムキッ★という音がし、中から一枚の紙が飛び出した。
「オーマさん、その紙に何か書いてあります」
「何だこれは…【タッグアニキ第三弾・伝説の腹黒筋ワル筋お年頃熟れ頃食べ頃うっふん☆聖筋界腹黒天下一大胸筋武道大会〜下僕主夫の番犬忠誠度はビビリマッスル☆】だと?」
 オーマがそう言い終わると同時に、夫が高らかに声をあげた。
「そうだ!この大会の決勝で、我等とお前達との決着をつけるんだ!いいか、一回戦なんかで負けるんじゃねぇぜ?決勝にて待っているからな、必ず、俺達のところまで、上がってこいっ!」
 それを聞き、オーマは口元ににやりと笑みを浮かべた。
「ワル筋如きで親父愛充満洗脳悩殺ソーンを一撃ズキュンしようなんざぁ、この偉大なるゴッドセクシーイロモノ筋腹黒エキスで親父愛無限返しにしてやるぜ☆」
「ふ、そうじゃなくちゃ楽しくないね!」
 妻もにやりと笑みを見せる。
「楽しみだな。さあ!待っているぞ!そして、晴れの舞台でお前達を負かせ、恥をかかせてやろうではないかっ!」
 ムキムキっと己の胸板を見せ付けて、夫婦は壊れた扉の横の壁を突き破り、壁に人型の穴を空けて去っていた。
「そもそも、決勝にいけるんでしょうかね…」
 ルイが壁の穴から外を眺めながら呟く。
「何、心配はいらねぇぜ。連中との対決は、今に始まった事じゃねぇしな」
 数十分後、オーマは病院内のあちこちを歩き回り始めた。
「タッグと言われたからにゃあ、相棒を連れて行かねばいけねえな。さて、どのヤングでナウな腹黒フレンドを強制アニキ収容して連れて行くか」
 あのフレンド、このフレンド、病院内を漂っている霊魂までをもアニキ収容しようとするオーマであったが、数秒後にルイに目をつけられた。
「何をしているんですか、腹黒親父バクテリアは」
「いや、タッグの相手を拉致…いや、探そうと思ってな。お、そうだ、ルイ、お前が来い。お前の神聖なる信条の元、あのワル筋どもを殲滅しようぜっ!!!」
 こうして、ルイは半強制的にオーマに武道大会に引き摺られて行くこととなった。



「ごきげんよう、オーマさん」
 会場に到着した二人に、最初に声をかけたのは白いドレスを着たエルファリア王女であった。
「これはこれは麗しい王女様。お目にかかれて光栄です、私はルイと申します」
 ルイが笑顔で、王女に挨拶する。
「あの大会以来か、王女さん。また見に来たんだな、この大会を」
「はい。王室公認の大会ですものね。私も毎回楽しみにしているのです。今回はタッグバトルだと聞きました。オーマさんも、ルイさんも、頑張って下さいね!」
「勿論です、王女様。それでは、ごきげんよう…」
 オーマとルイはエルファリア王女と別れ、タッグバトルが行われる舞台へと歩いた。
 そこは湖の上に作られた舞台で、リングのような舞台の下、4人のアニキ像が舞台を支えている。その表情は、それぞれ愛、勇気、友情、闘志の表情を現しているらしいが、オーマにもルイにもどれがどれだかわからなかった。このアニキ像は、この国で最も有名な彫刻家に作らせた偉大なる作品らしい。
 湖のまわりの陸地に、見学人がパラパラと座って、地面に寝転んだり昼寝したりしながら漢達の熱き戦いを見学している。
「すでに、戦いは始まっているみたいですね」
 ルイの言うとおり、舞台の上ではマッチョなアニキ達がすでに戦いを繰り広げている。雄たけびを上げて、相手に筋肉を見せ付ける赤い褌のアニキ。その見事な腹筋に目を奪われている相手側の青い褌のアニキを捕らえ、もう一人の赤い褌のアニキがたちまちのうちに敵アニキを湖に投げ落としてしまう。
「かなり激しい戦いのようだな。ルイ、気を抜くんじゃねえぜ?」
「私は物事を考えるのは得意ですが、ああいう戦いはどうでしょうか」
「勝負ありました!次は、オーマ&ルイ対ムッキー&プロテイン!」
 ひときわ目立つ高台から、エルファリア王女が手を上げている。
「さあ、いくぜ?油断するなよ」
 ついにオーマとルイの出番になったのだ。湖にかけられた橋を渡り、舞台へと上がる二人。相手はマッチョの二人組み。体格ではオーマは決して負けてないが、相手は体中に油を塗っている為、技をかけるのは難しいかもしれない。
「ああいうのって反則にならないのでしょうか?」
 相手の体を見つめて、ルイが言う。
「ここで負けるんじゃないぞ、オーマ・シュヴァルツ!!!」
 ふいに後方から声がした。そこには、今戦いを終え、余裕の表情をしているウォズ夫妻が立っていた。
「ふん、てめぇらにそんな事言われなくても、負けたりはしねえんだよ。俺の聖筋筋界親父愛ドリーム浪漫筋が、ここで負けるわけねぇんだからな!」
「始めて下さい!」
 すぐにエルファリア王女の声が響いた。
「ルイ、肉弾戦は俺に任せろ。お前は頭脳戦でいけ」
「ええ、わかっておりますとも」
 王女の声と同時に、黄色い褌姿のアニキがオーマの方へ走りこんでくる。もう一人の、緑の褌のアニキはルイをマークしているのだろう、ルイとオーマの間に割り込んだが、攻撃してくる様子はない。
「ふふふ、何と言う事でしょうね」
 ルイはふいに、緑褌アニキを見て笑い出す。
「何がおかしい!?」
 アニキがルイをにらみ付ける。
「褌の紐が取れて、見えてしまってますよ。体に似合わず、大した事ありませんねえ」
 ルイがにやりと笑う。
「何っ!?」
「いまだっ!!」
 緑褌のアニキが自分の腰に目をやった瞬間、オーマが黄色い褌のアニキを無視して緑色の褌のアニキの体を後ろからをつかみ、豪快なパワーで湖へと落とす。どっぼーんと、湖にしぶきがあがり、水面に緑の褌が浮かび上がった。
「勝負あり!そこまで!」
 どうやら、一人が離脱したら試合は終了らしい。
「ふ、男のプライドを崩す作戦成功だな」
 自信満々に、オーマがまだ浮いている褌を見つめて言う。
「単純な方が相手でしたので良かったです。次もうまくいくといいのですが」
 しかし、ルイの心配をよそに、オーマとルイはその見事な連携プレーにより、次々と戦いを切り抜けていった。
 敵は全てが逞しいアニキ達であったが、オーマ達の腹黒イロモノラブパワーの前には太刀打ちできず、オーマ達はついに決勝の舞台へと辿り着いた。
「やはりきたな!」
「ふん、おめぇらもな」
 対するは、予想通りウォズ夫妻であった。彼らもまた、その性悪なワル筋パワーで、アニキ達を押さえつけてここまであがってきたのだろう。
「約束通り、決勝に辿り着いたぜ。この舞台で、腹黒イロモノ親父愛をてめぇらに教えてやるぜ!」
 オーマがそう言うと、自信満々にウォズの夫が答えた。
「上等!!」
「それでは、決勝戦、始めて下さい!」
 ウォズ夫妻は、動きを封じようとしたのか、一気にオーマ達の方へと走り寄ってくる。
「敵といえども、女性と戦うのは疑問ですが、この場合は仕方ありませんね」
 きっと敵をにらみつけるルイ。夫妻の動きを目で追い、見事に飛び上がって鮮やかな動きで二人の後ろ側へと降り立つ。
「しまった!こんな方へ飛ぶのではなかった。まずい!!」
 ふいにルイが、目を大きく開いて慌てた声を出した。
「作戦失敗か、ほそっこい兄ちゃん!」
 ウォズ夫が、ルイの方へ振り返り、その割れた腹筋でルイにボディープレスをかけようとする。
「ええ、作戦失敗も作戦ですから」
 その細い体のどこにそんな力があるんだと思えるほど、ルイは軽々と夫の体を支えて弾き返す。もう少しで夫を水面に落とせるところであったが、妻がいち早く夫の腕を掴み、水面落下は間逃れていた。それでもルイの態度は、冷静沈着そのものであった。
 オーマはそれぞれの動きを目で追っていたが、やがてにやりと笑うと、夫妻をじっと視界に置いて言う。
「てめぇらとは色々あったよなあ、何度も何度も戦ったぜ」
「ああ、そうだ、そして我らは敗北した。いや、惜しい事もあったが」
 夫がそう言い返し、オーマに足の筋肉をバネにした頭突きを食らわせる。
「っとと、今のは聞いたぜ。鍛え上げた筋肉でなきゃ出せねぇ技だ」
 ぐらりとオーマの体がよろめいたのを見て、妻がオーマの腕を掴んで湖へ落とそうとする。
「そうはさせません!」
 寸前のところで、ルイが湖に落ちそうなオーマを拾い上げた。
「っと、わりぃなルイ」
「ここで負けるわけにはいかないですしね」
 オーマは再び舞台の上へと足をしっかりとつけた。遠くでは、エルファリア王女が心配そうな表情でこちらを見つめている。
「筋肉を愛する者には変わりねぇのに、何で俺達、戦ってるんだろうな」
 連続するウォズ妻のブッチャー攻撃を避けつつ、オーマが言う。
「それは愚かな疑問さ!あたし達は共存は出来ないんだよっ!」
「そうか、それは寂しい話だぜ。仕方がねぇ、俺も本気出していくか」
 そう言ったとたん、オーマの体がみるみるうちに変貌し、翼のある巨大な銀色の獅子の姿に変わる。
「こ、これは!?」
 さすがにこの姿には、ウォズ夫妻も驚きを隠せないようだ。
「ちょいと能力使わせてもらったぜ。この姿をさらしたからには、早いところ決着をつけ」
 突然、ベキベキっという音が聞こえた。
「何でしょう、今の音は。下から聞こえたような」
 さらにメキメキっという音。
「おい、ルイ。何かしたのか?」
「いえ、私は何も」
 ルイがそう返事をした瞬間、バキバキバキっという音と共に舞台が傾き、オーマ達は舞台ごと湖に転落した。湖に落ちた時オーマは、舞台を支えていたアニキ像がひび割れて、傾いていくのを見た。
 こうして、4人は仲良く湖に没っしていったのであった…。



「柱が重みで壊れてしまったようです。残念ですが、この勝負はお預けですね」
 湖から引き上げられたオーマ達4人は、タオルを体に巻き、エルファリア王女の前に座っていた。
 オーマは今は元の姿に戻っているが、どうにもやりきれない気分でいる。ルイは相変わらず落ち着いた態度で、王女の話を聞いている。ウォズ夫妻はルイの横にいて、たまにオーマの方を見ては、にらんだような視線を送りつけていた。
「ですが、4人ともよく戦いました。その戦いを称えて、特別に記念品を与えましょう」
 エルファリア王女が家臣に声をかけると、鎧を着た兵士が一人一人に箱を手渡した。
「こ、これはっ!?」
 箱を開けたオーマの目に、見覚えのあるアニキの絵が飛び込んできた。
「湖の舞台を支えていたアニキ像は、この絵を元にして作られました。この絵は、我が王室に使える宮廷絵師、マッルスン・ムッキーニが3年の年月を費やして描いたのです。ウォズの奥様には愛、旦那様には勇気、ルイさんには友情、そしてオーマさんには闘魂の表情を現したアニキ絵画を差し上げます」
 にっこりと笑う王女、オーマは闘魂の表情をしたアニキの絵画を見つめた。アニキがイスの上で気合の入ったポーズをしている絵だ。宮廷絵師のマッスルン・ムッキーニと言えば、その落書きだけでも何十万という価値がつく、天才画家だ。特にアニキ絵画では、他国からも高い評価を受けていると聞いた事がある。
「持って帰って、病院内に飾っておきましょうか。皆、元気になるかもしれませんね」
 ルイの手にある友情の絵画は、二人のアニキが滝のような涙を流しながら抱き合っている絵であった。
「まったく、何てことしてくれたんだい!」
 ウォズ妻がオーマに一歩近づき、目を吊り上げている。
「悪かったな。まさか舞台が崩れるとは思ってなかったんでな」
「まあ、いい、妻よ。勝負が、少し、延びたと、思えばいい。また会う時を、楽しみにしている、ぞ」
 ポーズを次々に繰り出しながら、ウォズ夫が言うと、夫妻は土煙を上げて、オーマとルイのそばから去っていった。
「また襲来してくるんですかね、あの夫婦は」
「何、そん時はまた勝負すりゃあいいのさ、楽しみがまた増えたぜ☆」
 ルイの呟きに、オーマはにやりと笑って答えてみせた。(終)



 ☆ライター通信★

 いつも有難うございます!新人ライターの朝霧青海です。
 今回の物語、相変わらずの筋肉オンパレードで、書いているうちに頭の中が筋肉色に染まりました(笑)
 物語はどんなものにしようか迷ったのですが、タッグでということでしたので、某筋肉超人漫画のようなノリのタッグマッチにしてみました(笑)戦いはかなりコミカルに、書いていて楽しかったです。私もこんな試合を見てみたいと思いつつ(ぇぇ)ルイさんは冷静沈着に描いてみました。肉体で戦うよりも、頭脳を使って、という方向で重点的に描いてみましたが、少しでもルイさんらしくなっているといいです♪
 それでは、今回は本当に有難うございました!