<PCクエストノベル(1人)>
++ 大空の向こうに ++
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【冒険者一覧】
【 1953/オーマ・シュヴァルツ /医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
【助力探求者】
なし
【その他登場人物】
【NPC/謎のヴァンサー】
【NPC/飲み仲間達】
【NPC/情報屋】
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:: 導き ::
???「……知っているか」
彼は唐突に口を開いた。
いつからそこに居たのか、ごく自然な口振りで以ってオーマ・シュヴァルツに語りかける。
オーマは酒の入ったグラスを硬質な音を響かせながら卓の上に置くと、口の端を引き上げ、にっと笑った。
オーマ「何の話だ…?」
相手は丈の長いローブを纏ってフードを深くかぶり、顔すらも見せなかった。
???「……空中都市」
相手の発したその言葉に、オーマはぴくりと手を揺らす。
その様子を見て取った相手は、フードの陰に見える口唇の両端を引き上げると、おもむろに手を上げて頭を覆う布をするりと取り払った。
オーマ「……おまえは?」
艶やかな黒い髪を長めに切り揃えた男――オーマは自身の過去の記憶を辿ったが、この男に関する情報は一切思い起こせなかった。知り合いではない、しかし同業者・ヴァンサーであるという事は薄らと漂うその「匂い」から微かに読み取れた。
謎のヴァンサー「その空中都市の中に…ソーンの物ではない都市がある」
オーマ「…なんだと? ……その話は本当か、おまえ…」
ほんの数瞬だった。瞬きをしただけの一瞬――オーマの視界から男は消え失せ、舞い上がる砂塵だけが視界に残った。
オーマ「…………」
どこへ行ったのか―――その男は名前すらも名乗らずに「消えて」しまったのであった。
飲み仲間A「オーマさん、どうしたんですか? 急に大人しくなっちゃって…」
飲み仲間の一人が酒瓶を片手にオーマに笑いかける。
オーマ「なぁ、おまえら、今ここに居た男がどこに行ったか知らないか?」
飲み仲間B「男?」
オーマ「長いローブを纏った、黒髪の男だ」
飲み仲間A「……夢でも見てんじゃないんすか? そんな男来てないでしょう? それよりもっと飲みましょうよ。それとももう限界ですか〜??」
気さくに笑いかける男をまじまじと眺めるように見つめると、オーマは宅に置いたグラスを手にとり、立ち上がって一気に残りを飲み干した。
飲み仲間達「「「おぉ〜〜っっ!!」」」
オーマは沸き上がる歓声ににやりと笑うと、グラスを飲み仲間の胸部の辺りに押し付けるようにして返した。
オーマ「俺はちょっと用事が出来たからよ…今日はちぃとばかし早めに上がらせて貰うぜ?」
飲み仲間C「えぇ〜っマジッすか!? オーマさん、これからがいい所なのに〜」
オーマ「悪ぃな!」
オーマはそのまま店を後にすると、俄かに駆け出した。
オーマ「具現で、自分の幻影を造ったって事か?」
――もう居ない事はわかっている、それでも彼はローブを纏った男の姿を探した。
知らない顔だった――でも、本当に知らないのかと言われれば、そうとは言い切れない。
オーマ「……どこかで会ったか?」
静かな夜の通りに、オーマの声だけが沈みこんでいった。
:: 審査 ::
情報屋「ふむぅ…旦那はいつも無理難題をふっかけラァ。ちったぁこっちの気分も考えてくれやしネェかねぇ…?」
薄暗い小路に歪な笑い声が響く。
情報屋「でも、マァよぉ…その手の情報ってぇモンはよぉ、最近出入りが激しいんだよねぇ…質もピンキリだしよぉ」
オーマ「あぁ、そうだな…その手の事で、いい感じの新しい情報は入ってねぇのかい?」
情報屋「そうさねぇ…お得意様の旦那はぁ近頃「お疲れ」のようでサァ、顔色も優れねぇしよ…医者がそんなんじゃいかんだろぉ。ちぃとばかし休んでいったらいいんじゃネェのかい?」
オーマ「………全く医者に向かって余計な世話だぜ…でも、まぁよ、忠告ありがとよ」
オーマは踵を返して来た道を戻ると、そのまま通りを曲がり、一見の寂れた宿屋へと入っていった。
暖簾代わりの布を手の甲で払い除け、部屋の中を眺め見る。
店主らしき人物の姿を見てとめた彼は、そのまま中へと入っていった。
???「そのまま右へ曲がり奥へ進まれよ」
オーマはその言葉ににっと笑みを浮かべると、相手の指示通りに右奥へと入っていった。
奥の潜まった部分――そこにはそれとわからぬ隠し部屋がある。
彼は棚に手を伸ばすと、奥まった部分に置かれている布をかぶった燈篭を除け、その下にあるボタンを押した。
がこんっ
どこか奥の方で何かの向きを切り替えるような大きな物音が響くと、彼はそのままふっと闇の中へと消えていった。
オーマ「面倒な仕掛けだなぁ、おい」
暗闇に落とされたオーマは身を屈めて着地する。
足の裏に捕らえた地面からは、微かに溝の匂いがした。
情報屋「仕方が無いだろォヨ。旦那の欲しがってる情報はいつも一級で困るサァ。おいそれと公道で話せるようなシロモンじゃあネェからよぉ」
オーマ「公道……なぁ」
オーマは鼻の頭を軽く掻くと、鼻を掠める嫌な臭いに顔を顰める。
オーマ「ちったぁ掃除したほうがいいぜ? この臭いじゃ客が逃げてっちまう」
情報屋「こんな店に泊まりに来るのは鼻の良い旦那のような奴か、いわく付きの商売をやってる奴等だけでサァ、きれいにする必要なんてネェよぉ。それにヨォ、こっちの方が集中できんだろォが…何かが「紛れ込んだら」すぐに見っけられっからよぉ……」
オーマ「へっ…そうかい、で? よっぽど良い情報なんだろうな?」
情報屋「あぁ〜そりゃあ安心してくれていいぜぇ? ちょっと高くつくがねぇ……」
オーマ「常連様にゃ優しくしとくもんだぜ? ちったぁ安くしろよ」
情報屋「へっへっへ……まぁまぁ、いいからこっちへ来なよぉ、旦那」
いびつに口を歪めた情報屋ににやりと口の端を引き上げて見せたオーマは、ぴちゃり…と水音の響くその部屋を、重厚な靴音を響かせながら彼の方へと近づいていった。
:: 漂う場所 ::
落ちた空中都市―――嘗て人は自らの力を過信し、巨大な魔法の力で空に都市を築き上げたという。
魔法の暴発で湖に沈んだという「それ」は、今も山々に囲まれたこの湖の底に眠って居る。
オーマは登山ルックで山の上からその湖の真横を通り過ぎた。
オーマ「山ってぇのはいいよなぁ…喋る言葉も嫌な事も、全部吸い込んでくれちまう。大声で叫んだって物ともしねぇでガンガン響かせてくれてよ…しまいにゃ余りの小ささに掻き消してくれちまう。んでもって俺みてぇなちっぽけな奴等は自信持って明日へと向かえるってぇ寸法だ」
一頻りのぼやきを終えたオーマは微かに漂う具現の波動を感じ取り、いよいよか…と、心底嫌そうな表情をその顔に浮かべた。
オーマ「こういう肝試しみてぇのはあんまし好みじゃねぇんだよな」
オーマは瞬間、その波動の濃くなったのを感じ取り、すぅっと大きく息を吸い込んだ。
オーマ「行くぞオラァッ!!」
彼の叫びを繰り返す山彦に乗せて、オーマは具現の力を波打たせるように放った。
強く、時に緩やかに――返す山彦の響く音色のように――穏やかに。
山彦は投げ掛けては返してくる。
空間を捩じるように組み込まれた具現の波動を察知して――
オーマは其れに乗せて、細やかな力の緩急をつけながら「波」を広げてゆく。
湖に広がる波紋のように、ひいては返す波のように。
オーマの声も、具現の波動も――やがてそれは辺り一面に広がり――幻の空を、広がる波紋と共に払拭した。
ヴヴヴ……と擦れたような音を耳に残しながら、拡がってゆく真の空――その中に、「それ」はあった。
オーマ「こいつは…想像以上にでかいな……」
ぼんやりとして呟くオーマの言葉に反応したかのように、彼の見上げた浮遊する巨大な岩石が此方の姿を捉えたような気がした。
オーマ「……拙い、か!?」
言葉を発した時には、既に彼の姿は山の中には無かった。
:: 彼の人は ::
オーマ「ここ……は………」
一瞬で変わった周囲の風景に、変貌を遂げているとはいえ、微かに見覚えのあるその風景に、オーマは呆然とした様子でそれを見回した。
そして、嘗て知ったその都市の名を口にする。
オーマ「ウォズヴィーラ……」
それは八千年前、ゼノビアでの異端殲滅戦争終結時起きた或る事象と共に消滅した、空中大陸ゼノスフィアの1つだった。
―――失われた筈の楽園、ウォズヴィーラ。
嘗ては多くの人々を住まわせ、ゼノスフィアの中でも一際栄えた街として栄華を誇り――賑やかな街並みだった。
オーマ「こいつ……具現同化してやがるぜ……」
唸るような息遣い――響く断続的な呻く声――微かな思念と、所々微かに見える「街」の形。
この都市全体が【ウォズ】と具現同化していた。しかしながら、不思議な事に何故か攻撃色を見せない。
オーマは戸惑いながらも嘗ては美しかったその都市を眺めた。
強固に都市を守る鉄くずが蠢き、ブロックの一つ一つから生命の息吹を感じる――
うぞり、と微かに蠢く足下に気を取られ、彼は微かに眉をぴくりと動かした。
都市全体の何もかもが一つ、素材も何も関係なく、ただ一つ、唯一の命ある存在としていっしょくたの塊となり、形を成している。
???「本当に来たのか」
オーマは視界の端に捕らえたローブ姿にフードを深く被った人物の姿を見て取ると、そちらの方へと向き直る。
案の定そのローブ姿の男は酒場にてオーマに、今も浮遊するこの空中都市の情報を教えた人物であった。
オーマ「……おまえは…会いたかったぜ?」
オーマはにやりとした笑みを浮かべると、男を射竦めるように見詰めた。
オーマ「酒場で言ってたのはここの事なんだろ?」
謎のヴァンサー「……そうだ。よく来たな」
オーマ「そりゃあよ、あんだけ意味深なことを言われたら来ざるを得ねぇだろが」
謎のヴァンサー「……そうか」
謎のヴァンサーは強い風にローブをはためかせると、深くかぶっていたフードを払除けてその艶やかな黒髪を無雑作に掻き上げた。
謎のヴァンサー「あれだな……お前達がこの聖獣界に飛ばされてから――ウォズだけでなく、ヴァンサー達も時折召喚されている」
オーマ「あぁ…ありゃあ具現の狭間にでも巻き込まれたのかね」
謎のヴァンサー「さぁな……お前が「引き寄せている」のかも知れんぞ」
オーマ「……そいつは一体どういう事だ?」
謎のヴァンサー「お前がゼノビアとソーンを繋ぐ掛け橋になっているのではないか?」
オーマ「……………まさか、だろ?」
謎のヴァンサー「……可能性の話だ。こう言われればおまえも少なからず不安を覚えるだろう?」
ククク…と声を低めて笑うその男は、不意にそれまでの無表情とは打って変ってその顔に、満面の笑みを浮かべた。
謎のヴァンサー「俺が誰だか……気になるか?」
オーマ「………あぁ」
謎のヴァンサー「会ったことがあるとは、思うか?」
オーマ「わからねぇ……でもよ、知らねぇ筈なんだが……どっかで知ってるような、そんな気がするんだ。……済まねぇな」
謎のヴァンサー「………そうか」
謎のヴァンサーは微かに悲しげな微笑を湛えると、静かに同化しきってしまっているその都市を闊歩し始めた。
攻撃色を見せぬ、ウォズと具現同化した都市を、オーマはどこか複雑な心境で見詰めていた。
オーマは離れてゆく彼の後を追うと、そのまま町の中心部へと向かって歩いていった。
:: 輝くもの ::
謎のヴァンサー「俺は嘗てお前と共に戦った」
オーマ「……ヴァンサーとして?」
謎のヴァンサー「そうだ……異端殲滅戦争…あの最中で、俺はお前と共に……」
オーマ「…………」
オーマは脳裏に数多くの同士の姿を思い浮かべると、それらしき人物を思い出し、途端に首を左右に振う。
謎のヴァンサー「俺の家族は、この都市に住んでいた」
オーマ「ここに……おまえの家族が…?」
謎のヴァンサーは「あぁ」と言ってこくりと首を頷けると、オーマに背を向けて都市の中心部から周囲をぐるりと一望する。
謎のヴァンサー「異端殲滅戦争が終結したあの時……俺は、死んだ」
オーマ「…………あぁ」
謎のヴァンサー「望んだ場所は、いつもここだった」
オーマ「……家族に、会いたかったんだろ」
謎のヴァンサー「そうだな……」
オーマ「俺も、その気持ちはわかるぜ? 家にも地獄の番犬こと麗しい美人なかみさんとよ、そりゃあクールで滅茶苦茶に可愛い将来有望な愛娘が居るんだよ…」
謎のヴァンサー「家には、妻と…五歳になる息子……それに、生まれたての赤ん坊が居た」
オーマは微かに目を細めると、男の背中をじっと見据えた。
謎のヴァンサー「帰りたかった……戦争なんて、やめて――家族の元に帰りたかった」
オーマ「それで、魂だけは此処に来ちまったって事か?」
謎のヴァンサー「でも、此処へ来ても……誰も、俺を待っていてくれる者は無かった。異端殲滅戦争終結時の「あの」衝撃に、ヴォズヴィーラはこの異世界へと飛ばされ……長き時を経て目覚め……気付けば、俺も……」
オーマ「【ウォズ】と同化していた……?」
謎のヴァンサーはオーマの問い掛けに真摯な表情を向けると、頷きもせず、答えもせずにただ「封印を望んでいる」とだけ、静かに告げた。
オーマ「なぁ…おまえ……」
謎のヴァンサー「長き時を経て……自分が自分として動く事ができる時間も…限られてきている。此処に、生きるためのエネルギーは存在しない。あらゆるものを具現で包み、隠し……支えてきた。長く生きれば――あの三人が、私に会いに来てくれるかもしれない――もしかしたら、いつかあの大地へ帰れるかも知れない……そんな事ばかりを考えていた。
……俺は、馬鹿だ」
オーマ「そんな事……ねぇよ。おまえはここで、たった一人でこの聖獣界を守ってくれていたんだろ? 帰りたい、衝動に包まれちまった【ウォズ】としての意識の中でも……具現の力を使って、おまえの居る「空」を封印して……一人で、頑張ってきたんだろうがよ!」
謎のヴァンサーはオーマの言葉に表情を和らげて微笑を浮かべると、静かに「そうかも知れないな」と囁くように声を洩らした。
謎のヴァンサー「しかし、もう分離は不可能だろう……俺は、この都市に執着しすぎた。この【ウォズ】と共に……お前の力で封印してくれないか?」
オーマ「諦めんのはまだ早いぜ……? 俺が、何とかしてやるからよ」
男は悲しげな表情を浮かべて首を左右に振った。
風でふわりと浮き上がったローブの裾から、微かに男の足が見えた――
オーマ「お前……足が……」
先程から自由に街中を動き回っているかのように見えた男の足は、地面から離れる事を許されずに、周囲の風景と一体化していた。
足だけが、周囲の瓦礫と「具現同化」しているのである。
謎のヴァンサー「もう、無理なのはわかっている。「同化」する……なんて……都市も、瓦礫も…私でさえも……全てこの【ウォズ】と具現同化してしまった……離れ…られ、ぬ……」
オーマ「諦めるな!! この俺様が力を貸してやろうってぇんだぜ!? おまえが諦めたら何とかなるモンもどうにもならなくなっちまうんだよ!!」
謎のヴァンサー「お前は…強い。俺は……その強さに惹かれていた……でも」
オーマ「でもも、くそも……ねぇ、んだ…よ!!」
オーマは爆発的に巻き起こる風と共にその姿を若かりし頃、そう…異端殲滅戦争に於いて活躍していた頃の姿へと変貌させると、男の足下に屈み込んでその足を掴み、力を注ぎ込んだ。
謎のヴァンサー「久しいな……その姿で、お前は修羅の如くに戦っていた……強かった」
懐かしさに浸った様子で独り言のように男は呟いた。
オーマは顔を歪め、彼の具現の力を弾き、吸収していくような反応をその身に受け止めながら、それでもじわりじわりと同化を解いてみせようと、力を注ぎ込み続けた。
額に汗が浮かび、指先が震える。
謎のヴァンサー「やめろ、オーマ……食い物にされるだけだぞ……」
オーマは男の言葉に返答も返さずに、力を注ぎ続けた。
彼の言う通りに、吸い込まれるだけの力は、一気に彼の力を食い物にせん勢いでもって強制的に放出されていく。最早、彼は朦朧とする意識の中で、彼の意思とは関係なしにあらゆる想いの力が吸い出されていくかのような感覚を覚えていた。
謎のヴァンサー「お前を呼んだのは間違いだったか……大人しく封印などしてはくれぬか……諦めるな、か…お前、変ったな。
安心しろ……誰も近付けさせはせん……もう、二度と……誰かが苦しむ様など……死ぬ所など…俺は……見たくは、ないから…な……」
オーマ「…じゃあ、何故俺を呼んだんだ!!? …おまえは、力を貸して欲しかったんだろ…? こんな所で朽ち果てちまうのが嫌で、俺の協力を求めて……」
謎のヴァンサー「ちがうさ…なぁに……ただ…ちょっとばかり昔話をして、ひたりたかった…ただ、それだけの話さ………」
男が柔らかな微笑を浮かべながら、オーマの肩に手を置いた。
バチンッッ
何かに弾かれて――オーマはその程度の衝撃ではありえないほどに、宙を斬って遥か彼方へと吹き飛ばされた。明らかに敵意の感じられない具現の力――ただ、彼を遠ざけようとする、その想いだけが伝わってくるような。
吹き飛ばされたオーマの視界。
勢いに任せて流れゆく風景は、その動きを止める術を持たない彼の体ごと、そのままヴォズヴィーラの大地が途切れる所まで運んでいった。
重力の衝撃に従い、オーマの体は不意に下降を始める――
オーマ「あぁ……そういや、おまえ……「偽装」が上手かったっけか……たいした具現能力者だったよなぁ……」
脳裏の片隅に微かに蘇る記憶――あの謎のヴァンサーは、確かにオーマの戦友だった。
彼が楽しそうにする家族の話も、オーマはちゃんと聞いていた。
生まれたての赤ん坊の話も、小さな息子の話も……
オーマ「嫁さんがすげぇ美人なんだ、なんて話もしたくれたよな……」
呟く声も、今は届かない。真っ青に輝く空には、浮遊する大地なんて物はどこにも見当たらなかった。
微かに感じた具現の波動も、今はなく――それは彼が、完全にオーマの前から姿を消して、一人旅立ってしまった証だった。
大地に仰向けに転がるオーマの脳裏に、最後に見た彼の笑顔が焼きついている。
???「……ありがとう、オーマ」
微かに、風が草木を揺らす。オーマには、その音に紛れて彼の声が聞こえた気がした。
オーマ「一人で、格好つけてんじゃねぇよ……馬鹿が………」
太陽光に反射して、輝くもの――それが、一人孤独な戦いを続ける道を選んだ彼のための唯一の餞だったのかも知れない。
―――FIN.
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