<PCクエストノベル(1人)>


 過程


-----------------------------------------------------------
 今回の冒険者
【整理番号 / 名前 / クラス】
【2598/ゾロ・アー/男/12才(実年齢783歳)/生き物つくりの神】
------------------------------------------------------------

 1.答えを求めて

 噂は風に乗り、どこまでも広がっていくものだ。
 そして、広がる間にどんどんと膨らんでいくものでもある。
 だが、遠見の塔に住むファルディナス兄弟の噂が決して誇張では無い事を、ゾロ・アーは自分の体験として知っていた。彼らは真の賢者だ。
 今、ゾロ・アーは、遠見の塔のすぐそばで佇んでいる。彼は再び遠見の塔を訪れようとしていた。
 賢者たちに尋ねたい事は幾つかあった。
 何故、自分がソーンに呼ばれたのだろうか?
 何よりも不思議な事だった。
 また、聖獣が動物の姿をしている事は当然ゾロ・アーも知っているが、人も動物の一種である。ならば動物の一種たる人の形をした聖獣も居るのではないだろうか?
 ファルディナス兄弟、特に兄のカラヤンであれば、疑問に答えてくれるであろう事を、ゾロ・アーは期待していた。
 ゾロ・アーは、遠見の塔を見上げる。
 
 ゾロ・アー:「今度は、塔に入るよ…」

 彼は、つぶやいた。

 2.遠見の塔へ

 涼しさを通り越して、冷たい風が吹いている。塔の門は閉ざされていた。
 ファルディナス兄弟の意にそぐわない訪問者に、塔の門が開く事は無いが、意にそぐう訪問者が来てもすぐに門が開くとも限らなかった。
 塔の門が開くまで、のんびりと過ごす覚悟が必要だった。ゾロ・アーは、野宿の支度を始める。
 小さなテントや保存食は、賢者の館で地味に支給された物を持ってきた。それで十分だと思った。
 塔の入り口が近い所で、ゾロ・アーはテントを張り、夜に備えた。
 やがて夜が来て、朝が来た。
 塔の門は開かない。ゾロ・アーは静かに待った。
 一週間程過ぎると、賢者の館で準備してきた食料が無くなったので、ゾロ・アーは自分で食料を集めなくてはいけなくなった。食べ物が無くなった位で街に帰っていたら、ファルディナス兄弟に笑われてしまう。
 ゾロ・アーは、土くれから熊を造りだして、一緒に近くの森で食料を集める事にした。
 塔を少し離れた所には、小さな森があった。
 土くれから生まれたばかりの熊だったが、森で木の実などの食料を集めることを本能的に知っていた。
 ゾロ・アーと熊は、昼間は木々の間で木の実を集め、夜はテントで一緒に寒さをしのいで過ごした。
 そうして、塔の門が開いたのは、ゾロ・アーが塔にやってきて21日目の事だった。

 3.カラヤンの声

 門が開く事に、何の飾りも無かった。
 単に、昨日は閉じていた門が、今日は開いていただけであった。

 カラヤン:「門は閉じたり開いたりすれば、それで良いよ。他には何もいらない」

 カラヤンの声が聞こえた。
 テレパシーの一種なのだろうか?頭の中で声が聞こえた。

 ゾロ・アー:「『相手を拒みたければ、壁があれば良い。
        相手を通したければ、何も無ければ良い。
        どちらでも無い時は、門を置いて閉じたり開いたりすれば良い』
        確か、あなたのあなたの言葉でしたね」
 カラヤン:「うん。
       待ってるよ、生き物作りの神、ゾロ・アー」

 ゾロ・アーは、頭の中でカラヤンに返事をした。それから、熊に別れを告げて、自らは塔の門をくぐった。熊は近くの森へと去っていく。きっと、これからは森の熊として、静かに暮らす事だろう。
 
 ゾロ・アー:「聖獣とは何でしょう?
        何故、よその世界から様々な存在を引き寄せるのでしょう?」

 塔の階段を登りながら、ゾロ・アーはカラヤンに尋ねる。

 カラヤン:「全ての物は、ただ、そうであるとしか言えないよ。
       聖獣は夢と現実の狭間で、そこに存在する者を、守護する者。
       そういう存在であり、これからもそういう存在であるという事だよ」

 守護する者…それは、確かにその通りだとゾロ・アーは思った。
 彼は質問を変えてみる事にした。

 ゾロ・アー:「では、何故、俺はここに呼ばれたのでしょう?
        聖獣は、俺に何を求めているのでしょうか?」

 自分を守護するデーモンの意図が、ゾロ・アーにはわからなかった。
 
 ゾロ・アー:「俺の能力は、命無き物に命を与える事。
        その力で何を成せと、聖獣は考えているのでしょうか?
        大地を恵みで満たす事でしょうか?
        世界を脅かす物と戦う為の命を作り出す為でしょうか?」

 カラヤン:「聖獣が求めるのは、結果では無くてその過程。
       あなたが、あなたであるという、その過程だよ。
       あなたはあなたの意志で、この世界に何かを成せば良い」

 カラヤンの返事は、いつも早い。予め、質問の内容を知っているかのようだった。
 
 ゾロ・アー:「俺が何かを成す事でなく、何を成そうとするか…
        それを聖獣は求めていると?」
   
 カラヤン:「そう。そして、それはあなたが選ぶ事」

 ゾロ・アー:「選ぶ事も、聖獣が求めている事の内と?」

 カラヤン:「選び、そして自らの過程を歩めば良いよ」

 カラヤンの言葉に、ゾロ・アーは頷いた。
 ゾロ・アーは、静かに塔の階段を登る。やがて、ファルディナス兄弟の部屋の扉が見えてきた。ゾロ・アーは、扉を開ける。
 
 ゾロ・アー:「もう一つ、聞かせて下さい。
        聖獣は、様々な動物の姿をしています。ならば、動物の一種たる、人間の姿をした聖獣は居ないのでしょうか?」

 直接、ファルディナス兄弟と対面したゾロ・アーは、もう一つ質問をした。
 
 カラヤン:「私とて、世界の全てを知っているわけじゃないよ。
       ただ、少なくとも私の知る限り、人の姿をした聖獣は存在しない」

 理由はわからない。と、カラヤンは言った。
 なるほど…
 ゾロ・アーは頷いた。
 それでも、幾つかの疑問に関して話を聞けた。
 明確な答えをもらえたわけでは、無かった。
 ただ、そうした答えを求めていく過程の全てが、聖獣の求めている事なのだろう。
 ここに来た事は無駄足では無かったと、ゾロ・アーは思った。
 それから、しばらくファルディナス兄弟と話したゾロ・アーは、塔を後にした…
 
 (完)