<PCクエストノベル(2人)>


探索デート? 〜麗しの瞳〜

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【冒険者一覧】
【整理番号/名前/クラス】

【2721/マーオ・ラルカイム/冒険者】
【2725/ゾーラ・ドキース/異界職】
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【序章】

麗しの瞳。それは、全ての者を魅了することのできる魔法と言われている。
もしその魔法に捕らわれてしまえば、その効力からは決して逃れられないと言われている。
体の大きさも、意志の強さも関係ない。ただ、手にするために必要なのはその心に潜む「勇気」が必要だと言われており、その他の情報で確かなものはないということだ。
聖都エルザードの一角にある酒場では、今その話で盛り上がっていた。
マスター:「へぇ、前からチラッと噂は聞いていたけど、麗しの瞳なんてほんとにあるんだねぇ」
旅人:「いやぁ、でも俺も実際目にしたわけじゃないし、人づてに聞いた話だから正確な情報とは言えないよ」
マスター:「でもその魔法にかかった人たちはたくさんいるんだろう?」
その話しを、カウンター席に座って琥珀色の飲み物を口にしていた女性が一人、興味津々に耳をそばだてていることなど、マスターと旅人は気づいていない。
この女性の名はゾーラ・ドキース。
真っ赤な瞳に黒いつややかな髪、そして豊満なボディをした女性だ。
マスター:「で、その麗しの瞳って、どこにあるんだい?」
旅人:「いやだなマスター。そんなの聞いてどうするのさ? さては皆に教えてやろうって魂胆だろ。まぁ俺には興味のない話だから構わないけど。このエルザードから南西にある、小さな三角地帯。そこにあるっていう話しだぜ?し・か・も、タダじゃ手に出来ない。人並み以上の勇気が必要だって言う話しだ」
そこまで聞いた女性は、何かを思いついたように顔をあげる。そしてガタンッと席を立ち上がり、そのままツカツカと酒場を後にしたのである。
ゾーラ:「麗しの瞳ですって? わたくし、それが是非とも欲しいわ! 絶対あのお方と一緒に麗しの瞳の散策に出ることにしましょ! これはデートよ!」
強くこぶしを握り締め、闘志にみなぎったような眼差しで興奮している。
歩く足はゾーラの言う「あのお方」の場所へ、迷う事無くむかっているようだ。

【第一章】

ゾーラ:「いいじゃな〜い、一緒に行きましょう〜? わたくし、あんたと一緒に行きたいのよ」
空が透き通るように青く晴れた昼下がり、聖都エルザードの中央広場で、ゾーラはダダをこねるようにして通り過ぎる姿が見える。
前を行く男性に対して必死に追いかけては甘えたように訴えている。
彼が、ゾーラの言う「あのお方」なのだろう。
マーオ:「………」
ゾーラの前を歩いていた男性の名前は、マーオ・ラルカイム。
眩しいほどの金色の髪に優しい緑色の瞳をした無愛想で寡黙な男だ。
ゾーラ:「麗しの瞳、捜しに行きましょうよぉ〜! わたくし、アレがどうしても欲しい! お願いだから一緒に来て?」
ゾーラのその言葉に、マーオの動きが止まる。
なにか感じたのだろうか。マーオは無言のままゾーラを振り返った。
マーオ:「………麗しの瞳…?」
短くそう呟いた。少しは興味を持っているのだろう。
ゾーラ:「そうよ! その麗しの瞳がどうしてもわたくし欲しいのよ! 絶対に!」
マーオは強引に迫るゾーマを見つめる。
マーオはそんなゾーラに対して特に嫌がる様子も無くただ黙って小さく頷いた。
ゾーラ:「本当?! 嬉しいわ! じゃ、今から早速行きましょ」
しめしめ…と言わんばかりに微笑を浮かべるゾーラ。これでマーオとの「デート」は成立したと思っているようだ。
こうしてマーオはゾーラに引きずられるように聖都エルザードを後にした。


何もない平原をマーオとゾーラは、噂に聞く麗しの瞳を捜して歩いている。
ゾーラ:「酒場のマスターとどこかの旅人が話すことでは、エルザードから南西の三角地帯に麗しの瞳があるといっていたわね。それから人並み以上の勇気。まぁ、わたくしなら問題ないわねぇ」
マーオ:「………」
ゾーラは勇気というよりはどうしても麗しの瞳を手にしたいと思う執念があるのだ。
そんなゾーラとは打って変わり、マーオは相変わらず無表情のまま。
ゾーラに強引に連れてこられたのにも関わらず文句の一つも言わないのは、ゾーラが好きだからと言うわけではない。ただどうしてもお願いをしてくる物は与えたいと思っているだけなのだ。
ゾーラ:「やっと探索できるのね。あんたと一緒ならどこだって楽しいわ!」
マーオ:「………」
ゾーラはこの状況をとても喜んでいるようだ。マーオの前を、その豊満な体を弾ませながら平原を歩いている。しかしマーオはゾーラが楽しげにしている姿には目もくれず、どこか遠くを見ているようにボーっとして歩いていた。
特に何を考えている風でもないのだが、これがマーオなのである。その時ふと、何かの気配を感じ取った。
ゾーラもマーオも、その気配に感づいたようだ。辺りを窺うように視線を巡らせる。
前方からふいに黒い影が迫ってくるのが見えた。
一匹ではない。見る限り2匹はいる。
羽根の生えたガーゴイルのような魔物が、こちらを目掛けて飛んでくるのだ。
ゾーラ:「わたくし、こういうのあんまり好きじゃないのよねぇ…。頼んだわ」
そう言うとゾーラはマーオの背後に隠れた。
マーオの顔は無表情ながらもその目に光る鋭い眼差しは確実に魔物を捕らえている。
手にした銀魔刀をゆっくりと構え、魔物を睨み付けた。
二匹のうち一匹はマーオの傍を駆け抜ける。
マーオはそれを見逃さずに銀魔刀を振り下ろしいとも簡単に一刀両断にする。
隙をついてもう一匹の魔物がマーオに飛び掛る。
マーオはその場を慌てて飛びのくも、頬に軽い傷を負う。
上空に舞い上がった魔物を睨みつけるように見上げる。
すぐさま魔物はマーオ目掛けて急降下をしてきた。
マーオはその魔物の落下を利用して銀魔刀を目の前に立てて構えると、勢いづいた魔物は己を操作しきれずそのまま銀摩刀の餌食になった。
一瞬にして魔物を排除したマーオを見ていたゾーラは、うっとりとその姿に見入っていた。
心底マーオに惚れ込んでいるようすである。
ゾーラ:「さすがね〜。わたくしが見込んだだけはあるわ〜」
銀魔刀に付いた魔物の血を振るい落とし、ゆっくりと鞘に納める。そしてちらりとゾーラを振り返るとふっと視線をそらした。
マーオ:「………行こう」
ゾーラ:「もう、何でそんなに不機嫌そうなのかしら?」
無愛想に短く呟くとマーオはスタスタと歩き出す。
マーオは決して機嫌を損ねたと言うわけではない。無愛想なだけに勘違いされることも多いようだ。

【第二幕】

麗しの瞳を求めて平原を長い間歩き回り、酒場で聞いた場所までやってきた二人。あたりを見回してみるが、それらしいものは見当たらないようだ。
短い草が生えそろい三角のような形になってだだっ広く地面に広がっているだけ。
それ以外に何もあるようには見えない。
ゾーラ:「おかしいわねぇ…。この辺りだって聞いたのに…」
ゾーラはあたりをきょろきょろと見回し、右へ左へ移動して麗しの瞳のありかを探している。
マーオは物思いにふけったようにじっと空中の一点を見つめていた。
マーオ:「………空間が歪む…」
何かを察知したのだろうか。マーオが小さく呟いた言葉を、ゾーラは聞き逃さなかった。
ゾーラ:「空間?」
不可解に思ったゾーラは眉を潜め空中を眺めた。
その時、突然グニャリと目の前で何もないはずの空間が曲がった。
それは言い知れぬ強い魔法の力が、空間に歪を生んだのだ。
ゾーラ:「もしかして…、これが麗しの瞳?!」
ゾーラは背後に感じる寒気を覚えたのか、体を包み込むようにした。
曲がった空間が一度元に戻る。そして再び歪みだしたかと思うとその中央から一つの目玉のような形が浮かび上がった。
???『お前たちの勇気を、示してみせよ…』
どこからともなく、そんな言葉が聞こえてくる。
そしてその次の瞬間、目玉のように見えるそれが大きく広がりすっぽりとゾーラたちを包み込んだのだ。


真っ暗な闇。手を伸ばしても全く見えないほどの暗がりに閉じ込められたゾーラとマーオは、しばらくその場に佇んでいる。
一体どんな勇気を試されているのだろうと、マーオは考えているようだ。
麗しの瞳を手に入れたいと強く望んでいたゾーラは、視線だけを辺りにめぐらせている。
暗闇に飲まれたまま何もせずに長く時間が経った。
ふいにどこからか人々の叫び声が聞こえてきた。
二人は同時にその声がした方を振り返ると、赤く光る物を目の当たりにした。
赤い光。そう思っていたのはおびただしいほどの血液。ドクドクと真っ暗な闇の中から溢れ出しヒタヒタとマーオとゾーラの足元を濡らし始める。
ゾーラ:「一体…?!」
マーオ:「ゾーラ、あれ…」
マーオが何かを見つけた。
ゾーラがマーオの見つけたものに視線を巡らし、それを目の当たりにする。
おびただしいほどの血液が溢れ出る場所から、大きな何かの塊が見えるのだ。
それは次第にハッキリと目の前に現れた。
ゾーラ:「!」
その塊を見たゾーラは一瞬青ざめた。
ゾーラの目に見えていたものは、かつてその力であまたの人間達を死に追いやった事がある。その時の様子のようだ。
多くの人々が苦しげにうめき、赤く濡れた腕を懸命に伸ばして助けを請う姿。
再びこの目にすることがあろうとは、ゾーラ自身考えてもみなかったようだ。
突然、視界で何人もの死者がうごめいていたかと思うと、ボッコリと大穴が空く。
死者たちはその大穴の下で必死に腕を伸ばし、助けを求めている。
マーオ:「ゾーラ…」
身動きを取れず、足元の崖下でうごめく無数の死者たちを見下ろしているゾーラ。
ふと顔を上げたとき、反対側にもこちらと同じような陸地があることに気づいたようだ。
しかもそこには光る何かがある。
マーオ:「あれ、きっと麗しの瞳なんじゃないかと思う…」
マーオがその光るものを指差して淡々と言った。
しかし、反対側に渡るための橋などどこにも見当たる様子はない。
ゾーラはキッとマーオを見ると、覚悟を決めたようだ。
ゾーラ:「わたくしは行くわ! もちろんあんたも一緒よ!」
そう言うとゾーラはマーオの腕をガッチリと掴む。
どうやら恐怖を感じているようだ。掴んだ手がかすかに震えている。
マーオ:「………」
ジリ…と足を崖のギリギリまで踏み出す。
しかしそこには何もなく、ただ死者の魂たちが動いているだけ。
マーオ:「道…あるのかな?」
ゾーラ:「あるわ! 絶対あるの! 行くわよ」
ゾーラとマーオは勢いよく何もない真っ暗な空間に足を踏み入れた。
ふっと何もない感覚に囚われ体が下に落ちる感覚に襲われた。

【第三幕】

はっと意識を吹き返したゾーラとマーオは、先ほどと同じ何もない三角地帯にたっている。
先ほどの情景はどこへやら、まったく分からないといった風だ。
確かに何もない空間へ踏み出した。そのまま下に落ちるような感覚に囚われた気がしたがそれだけでその後の記憶はなくなっているようだ。
ゾーラ:「わたくし、麗しの瞳は手に出来なかったのかしら…」
マーオ:「……ゾーラ。これ」
ふと、マーオがゾーラに何かを手渡す。
どこでどう手にしてきたのかはわからないがマーオは何かをあの暗闇から掴み取ったようだ。
手渡されたのは小さな硝子球のようなもの。よくよく見れば、それはあの空間の歪みの中に見た瞳のような形にも見える。中にはさまざまな色の半透明な何かが入っていた。
太陽に透かしてみるとパンッとそれは砕け散り、中に入っている粉のような物がゾーラにまんべんなく降り注いだ。
???:『何もない場所へ踏み出せる勇気、しかと見受けた。受け取るがいい』
ふと、暗闇で聞いたことのある声が聞こえてくる。
どうやらゾーラは麗しの瞳を手にすることができたようだ。
ゾーラ:「わ、わたくし、麗しの瞳を手に入れたのね?」
その言葉にマーオは無言で頷いた。
ゾーラ:「やったわ! わたくし手に入れたのね! 今回の探索デートは大成功よ!」

ゾーラは嬉しさに小躍りしながら喜びを表していた。
その傍でマーオはただぼんやりとしているのだった。