<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


『初めまして!マイベストパートナー』



「ちょっと、店内でもめるのはやめてくださいっ!他のお客様もいるんですからねっ!」
 アルマ通りは普段から活気に満ちた通りであったが、その日はそれに輪をかけて賑やかであった。いや、賑やかというよりも、騒々しいと言った方が正しいかもしれない。
「聞いてるんですか!」
 白山羊亭の看板娘として知られているルディア・カナーズは、顔を真っ赤にして店内で言い争いを続けている屈強な男達の間に、果敢にも割り込んで争いを止めようとしていた。
「邪魔だっ!!」
 しかし、ルディアの小柄な体は、男の太い腕により、簡単に弾き飛ばされてしまう。
「もう一度言う。この仕事は俺達が引き受けて、俺たちが解決したんだ。だから報酬も俺たちのもんだ!」
「それはこっちのセリフだ。お前たちより先に、我らが先に依頼を受けていた。お前たちは後から邪魔をしただけだろう」
 そう言って、額に傷のある長身の男が、荷物を子分に沢山持たせた、がっしりとした体格の男の顔をにらみ付ける。
「どっちでもいいから、さっさと出ていってーーーーー!!!」
 ルディアの叫び声は男達の争い声に混じって、白山羊亭の外まで届き、道を歩いていた人々が何事か?というような顔をして、店を覗き込んでいた。いつもはルディアの楽しそうな声に溢れている白山羊亭だから、尚更おかしいと感じたのだろう。
 しかし、いまにも殴り合いを始めそうな男達に恐れをなしているのか、誰一人としてルディアを助けようとはしない。店に先ほどまでいた他の客達も、今ではどこかへと消えてしまっていた。
「いい加減にしないと、国王様に言いつけますよーーーーー!!!」
 そのルディアの悲痛な叫びも、すぐに男たちの怒鳴り声にかき消され、争いは一行に収まる事はなかった。



「ネタネタネタっ♪どこかに特ダネ落ちてないかしら?」
 ギャゼット・ハーミーズは、愛用の賢梟筆とメモ帳を持ち歩き、聖都エルザードを歩き回っていた。
 特ダネにかける情熱は人一倍…いや、一倍どころか、二倍も五倍も、十倍もあるギャゼットだったが、このところどうも、これ!という特ダネに当たらない。何か特ダネに嫌われるような事したかしらと、町を歩きながら真剣に悩んでいた。
「誰からも必要とされる紙面作りを目指すには、新鮮なニュースが必要不可欠よね」
 何かハプニングでも起きないかしらと思いながら、ギャゼットは町をくまなく見回した。
「私だって、日々燃えるようなネタ探しに奔走してはいるけれど。一人で情報を集めるには限りがあるし、記事作りに専念出来ないのよね」
 天から特ダネが降ってくればどんなにいいことかと、あり得ないような事まで現実に起こりやしないかと、期待すらしてしまうほどギャゼット悩んでいた。
「黙っていても、ネタが向こうから舞い込んで来てくれる様な状況を作るには、どうしたら良いかしら?」
 ギャゼットがふうっと息をついた時、横から太ったおばさんが飛び出し、あやうくぶつかりそうになった。
「おっと、ごめんよ!けど、こっちも急いでるんだ。大変な事だよ、ああ大変、大事件だよ!」
「大事件!?」
 おばさんは真剣な表情をして汗をかいていたが、ギャゼットは大事件、という言葉を聞いて顔を輝かせてしまった。
「何かあったの?」
「泥棒だよ、高い金出して買ったもんを、盗まれちまった!!!」
 おばさんは投げるようにして、早口で言うと、腹の肉をぷるんぷるんと揺らしながら走り去っていく。
「大事件と聞いちゃあ、大人しくはしていられないね!」
 おばさんの大きな尻を見失いないようにしながら、ギャゼットは後を追いかける。
「いた!まてーーーい!!!」
 急におばさんが大きな声を上げて、前方に向かって威嚇をしたので、ギャゼットは少しだけ驚いてしまった。
「泥棒、どこかしらっ!?」
 しかし、おばさんは確実に威嚇をしているのに、どこを見てもおばさんから逃げるような人物の姿は見当たらない。
「まさか、透明人間じゃないはずだし」
 ギャゼットは顔をしかめながらも、おばさんを追いかけた。
「ったく!手を焼かすんじゃないよ、このドラ猫!!!」
 おばさんが黒い猫を手で掴み上げ、その口に加えられている魚をもぎ取った。
「この魚はねえ、今年入ったばかりの新鮮な魚なんだよ!あんたの口に入れてやるほど、安いもんじゃないのさ。いいかい、もう悪さするんじゃないよ?」
 おばさんが猫を地面に下ろすと、猫はにゃん☆と一声鳴き、通りの奥へと消えてしまった。
「何よ〜、何でこんな漫画みたいなオチになるわけぇ?」
 家へと帰っていくおばさんの背中を見つめながら、ギャゼットはまたため息をついた。
「んー、あの猫が、エルファリア王女様が飼っている猫、なんて事にして記事にしたら、結構いい話題になりそうだけど、そんなガセネタ書いたら、王女様に迷惑がかかるものね。あーあ、まったく、どうしてこう、平和なのかしら!」
 ギャゼットはさらに歩き、アルマ通りへと入っていった。
「アルマ通りって言ったわね、ここ。あまり来たことなかったけど、いいネタあるかしら」
 ギャゼットはこの通りに期待を寄せていた。
 しかし、通りに入ったとたん、いつもは賑やかだと聞いている、通りの様子が違う事に気づいた。駆け出しとはいえ、事件を追いかけているギャゼットは、すぐにそれが何かの事件が発生しているからだと感じたのだ。
「何だろう、あの人だかり」
 白山羊亭と書かれた店の前に、人が沢山いて、店の中を見つめている。
「白山羊っ!ま、まさか、店の中で大量の山羊が発生しているとか?」
 とある事情で、山羊が苦手なギャゼットであったが、勇気を出して店の中を覗いてみた。



「さってとー、隣国の後継者争いの新しい情報を知りたい人、よっといでー!ただし、こんな情報滅多にないから、お金はたーんと用意しておいてよね!その代わり、聞いたら絶対に役に立つ情報ナンバー!、このボクが保障しちゃうもんねっ♪」
 少年のような可愛らしい外見の少女、ヴィネシュア・ソルラウルは、手に持った新聞でばんばんっ!と樽を叩き、天使の広場で行き交う人々に威勢の良い声を上げていた。
「そこのお兄さん、ねえ、情報買わない?ねえ!」
 ヴィネシュアは懸命に道行く人達に声をかけるが、皆ちらちらをこちらを見るぐらいで、立ち止まる人はごくまれであった。たまに立ち止まり、ヴィネシュアの話を聞く人が現れたかと思えば「そんなことよりも、明日の天気が知りたい」とか「自分の恋人がどこにいるか知りたい」とか、個人的な情報ばかりを求められるのであった。おかげで、せっかく仕入れた貴重な情報も、ほとんど見向きもされない。
「おっかしいなー。こういう情報はさー、貴重だと思うんだよねー。だって、今後を左右するような大きな出来事だもん。皆、興味ないのかな?」
 ヴィネシュアは自分で集めた情報を集めたメモに、視線を落とした。
「でも、こういう情報を欲しがっている人は、絶対に、どっかにいると思うんだよね」
「なあ、ボウヤ。その情報売ってくれない?」
「ボウヤじゃないって!」
 そう叫んでヴィネシュアが声の方向を振り向くと、美しい顔立ちの、スマートな男性がにこりとしてヴィネシュアを見つめていた。
「私は、国と国との外交関係を研究している者でね。キミのその情報とやらに、興味があるんだ。これで、お願いできるかな?」
 身なりも立派なその男性は、ヴィネシュアがバシバシと叩いて皆の注目を集めていた樽の上に、袋一杯の金貨を置く。
「えーっ、こんな…う、ううん。ボクが自分で掴んだ情報だもん、この金貨と充分つりあうね。じゃあ、教えてあげるよ、隣国で起こった大変な騒動の事」
「お願いするよ」
 男性は、美しい顔に笑顔を浮かべて、ヴィネシュアに返事をした。この顔立ちに身なり、きっと、どこかの貴族かもしれない、とヴィネシュアは思っていた。
「隣国の国王様がお亡くなりになった事は知っているよね?その後継者争いに立ったのが、国王の息子達3人だった。その争いは今でも続いているんだけど、噂では真ん中の息子が、次期国王になるって話だよ」
「へえ、そうなのかい?世間では、長男が継ぐと噂だよね?」
 男性が首をかしげるのを見て、ヴィネシュアはにやりと口元に笑みを浮かべた。
「そう!だから、家臣達は長男に媚ってるわけなんだけど、実はこの長男、男色の気があるって言うんだよ!」
 メモを見ながら、ヴィネシュアが話を続ける。
「極秘でね、夜な夜な男の恋人に会いに行ってるところを、目撃した人がいるんだよね。そして末っ子は国王である父親に甘やかされて、国を引っ張っていくには相応しくないって話だから、一番真面目な次男が次期の国王じゃないかってワケ。それを見抜いている人は、次男にくっついていってるよ。今に、この兄弟の勢力もひっくり返るね!」
 ヴィネシュアは得意になっていた。男性は、笑みを絶やさず、けれども真剣な表情でヴィネシュアを見つめていた。
「よくそんな細かい事情まで調べたね。凄いと思うよ。もう少し聞きたいんだけど、ごめん、人と待ち合わせしているんだ。有難う、可愛い情報屋さん」
 そう言って、男性は町の人ごみの中へと消えていった。
「これは比較的、安い方の情報なんだけどな。核心に迫るのは、これからが本番…ま、いっか。お金もらったし」
 樽の上へと目を移し、ヴィネシュアは金貨の入った袋を持ち上げた。が、先ほどの袋の重みはなく、袋は中でカサカサと軽い音を立てていた。
「ちょっと、何?!」
 急に不安に包まれ、ヴィネシュアは急いで袋を開けた。
「や、やられた!!」
 袋の中には、金貨はどこにもなく、葉っぱが数枚入っているだけであった。
「あいつ、変な術使ってボクの情報、盗んでいったんだ!」
 ヴィネシュアは天使の広場中を駆け回って男性を探したが、男性の姿はどこにもなかった。少し遠くに行ったのではないかと、アルマ通りにまで走ったが、そのうちに、自分の未熟さが嫌になってきるのであった。
「やっぱり、自由すぎるのは良くないのかなあ」
 アルマ通りをとぼとぼと歩きながら、ヴィネシュアは呟いた。
「自由にやってるのは楽しいんだけど、情報屋として固定のお客サンを獲得する為には、どこか落ち着ける所があるといーなって思うんだよね。そうだよ、固定のお客サン」
 ヴィネシュアはまわりを見回した。先ほどまでは少し落ち込んでいたが、ひとつのアイディアが浮かび、たちまちのうちに、いつもの元気さを取り戻す。
「でも、ボクってば『カヨワイオトメ』だし、世間体的にも一人でお店を始めるのは不安かも?」
 にこりと笑って、ヴィネシュアは通りを弾むように歩き出した。
「ってワケで、どこかにタダで手伝ってくれそうで、扱い易そうなヒトはいないか探してみよーっと♪」
 通りを歩き出したヴィネシュアは、やがて人だかりが出来ている店へと辿り着いた。特にこの店に用事があったわけではないが、歩いているうちに人々が、その店の方向へ流れていくのを見て、自然にそちらへ足が向いてしまったのだ。
「何?トラブル?」
 ヴィネシュアは人々の間へ押し入り、店の中に足を踏み入れた。



「もう、いい加減にしてっ!!!」
 ほとんどヒステリック状態になったルディアが、男達の争いを止めようとしている。
「女は黙ってろ!!」
 男が振り上げた拳がルディアの頬にあたり、ルディアはキャ!と声をあげて、地面に倒れた。
「ちょっとー、女の子に手をあげるなんて酷いんじゃない?」
 人だかりの中から、ヴィネシュアがまったく動じない表情で男達に一歩近寄っていく。
「何だ。ここは子供の遊び場じゃねえぞ!」
 物凄い剣幕で睨みつけるので、ヴィネシュアの後ろにいた者達から悲鳴があがった。
「怪我したくなかったら、引っ込んでな!」
「そりゃあ、ボクは見かけだけの強さなら、キミ達に負けているかもしれないけど」
 ヴィネシュアがにこりと笑うと、懐からメモ帳を取り出した。
「情報なら誰にだって負けないよ?ねえ、キミ、おととい奥さんに喧嘩して、引っかかれたでしょう?」
 ヴィネシュアは笑って、長身の男の額の傷を指差した。長身の男は、ぎくりとした顔でヴィネシュアを見つめた。
「それにさ、キミもだよ」
 続けてヴィネシュアは、長身の男と言い争いをしていた、がっしりとしたもう1人の男に言う。
「部下が沢山いるみたいだけど、キミの趣味は」
 ヴィネシュアは薄い笑みを見せ付ける。
「その鞄の中には、キミのものとは思えない物が入っているんだよね!」
 ヴィネシュアの言葉が気になったのだろうか、部下の1人が鞄を開けた。
 うぉーとどよめきが起き、鞄の中からとんでもなく可愛らしい着せ替え人形セットが転がり落ちてきた。
「凄い…」
 長身の男が目を丸くしている。
「お前の傷だってどうだよ!」
 顔を真っ赤にして、がっしりとした男も言い返している。
「ねえ、それどこで調べたの?そんな個人的な事まで知ってるなんて、凄いわね!」
 人ごみの中から、今までずっとこの騒ぎを見つめていたギャゼットが顔を出した。
「ボクの情報網は凄いんだから!」
 得意顔で、ヴィネシュアはギャゼットに答えた。
「じゃあ、もしかして、もっと大きな事件の事も、よく知っているのかしら?」
「そんなの、ボクの得意分野だよ!ボクに任せれば、遠い国の噂話だって、持ってこれちゃうよ!」
「凄い!」
 ギャゼットが顔を輝かせた。一方、男達はヴィネシュアの言葉にしっかりやる気を失ってしまい、依頼の報酬を巡っての争いなどすっかり冷めてしまったようで、ルディアに何かを言って頭を下げ、店の外へと出て行ってしまった。
「有難う、助かったわ」
 ルディアがヴィネシュアとギャゼットのところへ来て、深々と頭を下げた。
「ボクの情報が役に立ったってワケだね!」
 ヴィネシュアがブイサインを見せる。
「何かお礼をしたいと思うのだけど、あいにく大したものはなくて…ただ、この白山羊亭には、様々な国や地方の、色々な情報が集まってくるわ。もし良かったら、貴方の今後の活動に、ここを役立ててくれない?沢山の人が来るから、貴方の情報を欲しがる人も、来ると思うの」
 ルディアのその話を聞き、ヴィネシュアは心が躍るほど嬉しくなった。
「へえ!ここってそういう場所だったの?いいじゃん、ボクが探していた場所だよ、まさに!」
 そう言ってヴィネシュアは店を見回した。
「あなた、お名前は何て言うの?」
「ん?ヴィネシュアだよ。ヴィネシュア・ソルラウル」
 ギャゼットにそう言われ、ヴィネシュアは元気よく答えた。
「私はギャゼット・ハーミーズ。新聞記者をやっているわ。あなたの情報量には驚いたわ。それでね、こうして出会ったんだもの、一緒に仕事をしない?あなたのような人がそばにいてくれたら、私、物凄いスクープ記事を書けそうなの」
 にこやかにギャゼットが言う。
「んー、そーだねー。ボクも、情報に飛びついてくれるヒト、探してたしー。いっちょ、やってみる?」
「喜んで!よろしくね、ヴィネシュアさん」
「こちらこそー、よろしく〜♪」
 こうして、ヴィネシュアとギャゼットはコンビを組んで、世界のありとあらゆる情報を扱った情報局を始めることとなる。
 ヴィネシュアとギャゼット、ベストパートナが誕生した瞬間であった。(終)



 ◆ライター通信◇


 始めまして!新人ライターの朝霧青海です。今回はシチュノベを発注していただき、有難うございました。ソーンは、まだまだこれから活動していく分野なので、かなり緊張しながらの執筆でした。
 お二人の初めての出会い、ということで、情報屋らしく(?)色々な事件に巻き込まれながらもコンビを組む、という流れにしてみました。最初は、何事もなく平和な白山羊亭のたまたま居合わせた二人が、食事をしつつ話をしていくうちに気があって、一緒に仕事を…というような話にしようかと思ったのですが、あまりにも文章に強弱がないので、二人ともトラブルに巻き込んでしまいました。一応コミカルなのですが、ところどころ真剣だったりします。ですが、かなりライトなノリのお話になっているかなと、思います。
 PCさん達の性格を掴む為、過去OMCや設定などをじっくり読んでみました。うまくキャラが文章に出ていればいいなーと思います。
 それでは、今回は本当に有難うございました!