<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>


++  六つの吐息――水色の吐息  ++


《オープニング》

 男は突然現れた。


 白く曇った可笑しな眼鏡。

 古びてくすんだ灰色のトランク。

 誰かに踏まれたのか、折れてところどころほつれた帽子。

 鮮やかな彩色のきれいな襟巻。

 男は黒山羊亭の中へ入ってくると、トランクを足元に置き、何も羽織っては居ないのに、まるで外套でも脱ぐかのような仕草をして見せた。

 徐にポケットから薄い空色をした懐中時計を取り出すと、それで時間を確認する。


「さて、お時間のようですね」

 男はそう言うと、ゆったりとした微笑を湛えて足元に置いたトランクを持ち上げた。
 彼はそれを、どさっと大きな音を響かせながら卓の上に放る様に置くと、丁寧な手つきで閉じられた蓋の鍵を開ける。
 男がトランクを押し開けると、エスメラルダは興味深そうにその中を覗き込んだ。

「……いらっしゃい。貴方は…?」

「はじめまして、お嬢さん。私は「めいり」吐息を扱う旅商人ですよ」

「吐息……?」

 男はこくりと頷くと、トランクから取り出した色とりどりの、ふわりと柔らかそうな印象を与える光の塊を次々と卓の上へと並べてゆく。

「揺らめく 吐息たち
 一の吐息は真っ白 何にでも染まるお色。
 二の吐息は真っ黒 全てを悉く埋め尽くすお色。
 三の吐息は真っ赤 貴方の体に流れるお色。
 四の吐息は橙 暖かな陽射しのお色。
 五の吐息は水色 たゆたうこの時密やかなるお色。
 六の吐息は空白の吐息 ここには決して何も無い。
 今日はお集まりの皆様に、吐息に篭められた夢を見て頂くべくこのような物を用意させて頂きました」

 男はただただ柔らかに微笑んでいる。

「さぁ、お好きなお色をお選び下さいますように…」




――夢を見せます――

 今日 これから起こる事によって 貴方が どのような状況に 陥ったとしても
 貴方は ただ 夢を見ているだけ
 さぁ 怯えずに お手にとってご覧下さい。

 それとも 貴方は 逃げますか?




 男はくすりと笑って囁くようにそう告げた。




《吐息の選択》

「アイラスのやつはもう行っちまったのか?」
「おや、お知りあいでしたか? これは残念…一足先に吐息の世界へと行ってしまわれました」
「おう、そうかぃ…それにしてもおまえさんよ、吐息商人なんざ珍しいなぁ」
「左様で御座いますか…やはりこの辺りではまだ知られていないのですね」
「おう、俺だって始めて見たぜ?」
「ふふ、そうですか……ようこそ御出で下さいました、どうぞゆっくりと御覧下さい」
 めいりは彼に謎めいた微笑を向ける。
「…ところでお兄さん、お名前をお伺いしても……?」
「おう、俺か? 俺はオーマ・シュヴァルツってぇモンだ」
「「オーマ・シュヴァルツ」さん…ですね? 畏まりました。それでは早速ですが吐息をお選びください。吐息は六つ。この六つの吐息の中から―― 一つだけ、お選びください」
「おうよ、そこなんだよな、そこが問題なんだ」
「おや? どの吐息になさるかお悩みでしたか」
「おうおう、そうなんだよ。此処はいっちょ燃えよ歌えよ讃えよ猛るお色気メラマッチョ腹黒オーラ親父愛色☆の真っ黒にするべきか、下僕主夫ビビリ筋ナイトメアナマ絞り悶絶事件宜しくな紅色番犬ハニー色☆な真っ赤にするべきか……うぅ〜む」
「何やら由々しき自体を想像させられてしまいましたが…」
 オーマはそのまま悩ましく暑苦しくお悩みマッチョダンシングだ。
「あっれ〜〜〜〜〜〜〜????? お〜まみ〜っけ☆」
 オーマの悩む背後から、明るい声が投げかけられる。
 オーマが振り向くと、そこにはよく知った友人二名の姿が在った。
 一人はシキョウ。もう一人は―――好んでこんな所には足を運ばないであろう男、ジュダ。
「ジュダジュダもいっしょなの〜〜〜〜〜☆☆☆だからオーマもいっしょいっしょであそぼ〜〜〜〜????? ねっねっね〜〜〜???? シキョウのおねが〜い☆」
「おう、シキョウじゃねぇか、おまけにジュダ付きってか〜運命を感じるねぇ」
「………俺は感じないが」
「うんめい〜〜〜おぴんくももいろのうんめいなの〜〜〜〜☆☆☆」
「……………………………シキョウ」
 一体何処でそんな単語の組み合わせを学習してくるのか………ジュダは眉間に何か詰まったように感じながらも元凶っぽい男に向けて、じろりと冷たい視線を放つ。
「なんだよジュダ……言いたい事がありやがるならはっきりきっぱり言えってんだ、そしたらすっきりちゃっかり心置きなく腹黒同盟に入れんだろうがよ!!」
「そんな物には入らん」
 きっぱりとそう言い放つジュダの袖口を掴みながら、シキョウが赤い瞳をきらきらと輝かせている。
「うわ〜〜っ☆うわ〜〜〜〜〜〜っっ☆★☆きれ〜だねきれ〜だね☆ジュダジュダ〜〜☆☆」
「…………あぁ、そうだな」
 ジュダの向けた視線の先には、シキョウが居る。
 彼はすぅっと目を細めると、どこか優しげな雰囲気を湛えた。

「ようこそ御出でくださいました。私は「めいり」吐息を扱う旅商人ですよ。どうぞゆっくりと御覧下さい」
「めいりちゃんの「といき」ってうふ〜んあは〜〜んおいろけまんさいなの〜〜〜〜〜?????」
「……………シキョウ」
 ジュダはシキョウに掴れていない右手で額を押さえつけると、吐息を覗こうと顔を出したオーマの額をその手でがっと捕らえた!!!!
「ぅっうぐっっ!!?」
「……………………貴様、少しは言動を慎んだらどうだ」
「す…済まねぇ、……ジュダジュダ」

 ごりゅっ☆

「なにいろにしよっかな〜〜☆」
「………シキョウの好きな色を選ぶといい」
「えへへ〜〜〜☆」
 めいりはくすりと微笑んでそんな二人の姿を見詰めていた。
「所で可愛らしいお嬢さん、お名前をお聞きしても……?」
 めいりのその言葉にシキョウは大きな瞳からきらきら〜っと星やらハートやら満載で彼を見詰める。
「あのねあのね〜〜シキョウはね〜シキョウっていうの〜〜〜〜☆☆☆シキョウのことおんなのこだってすぐわかった〜〜〜〜???? シキョウねシキョウね〜〜〜〜? すっごくすっご〜〜〜くうれしいの〜〜〜〜☆☆」
「おやおや…そうでしたか? 大丈夫ですよ、私はすぐにわかりましたからね。…「シキョウ」さんですね…貴方は?」
 めいりはそのまま視線をジュダの方へと向けると、じっと向けられる視線から目を逸らさぬままにこりと微笑んだ。
「……ジュダ」
「「ジュダ」さん…ですね。畏まりました。それではお好きな吐息をお選びください。吐息は六つ。この六つの吐息の中から―― 一つだけ、お選びください」
「おうじゃあよ、シキョウはどの色がいいんだ?」
「いろ〜?いろ〜〜??あれれ〜〜でもでもでもシキョウのかみのけなぐりーんぐりーん☆なのとかないんだね〜〜??めいりちゃんのいけず〜〜☆☆」
「おや……確かに、シキョウさんの髪のお色はご用意しておりませんでしたね……それでは、また次回にお持ちいたしますよ。取って置きの「緑色」の吐息を……」
 めいりがそういって柔らかに微笑むと、シキョウはえへへ〜☆と笑う。
「やくそくやくそく〜〜〜☆☆うそついたらはりせんぼ〜んの〜〜〜ますっ☆☆☆あれれ〜〜〜???? でもおはりせんぼんものんだらいたいいたいよ〜〜〜〜?????」
「そうですね、それでは私が約束を違えぬように気をつけると致しましょう」
「うんうんうん☆じゃぁおやくそくね〜〜〜っめいりちゃん」
「えぇ、ではシキョウさん、他に好きなお色は御座いませんか?」
「じゃぁじゃぁじゃぁね〜〜、えっとえとえと〜シキョウのおうちにいっぱいいっぱいざぶーんとかしてた『みずいろ』でいいかな〜〜??(わくわく♪♪)」
 シキョウのラヴラヴエフェクト炸裂中v
「皆様は如何でしょうか?」
 めいりはオーマとジュダの方に視線を向ける。
「おう、俺達はかまわねぇぜ。なぁ、ジュダ」
「あぁ……構わないが」
 二人の同意を得て、めいりはちらと吐息の方に視線を向ける。
 彼は眼鏡を少し指先で持ち上げると、加減興味を抱いた様子で三人の顔を見遣る。
 めいりの傍らには、指名を受けたらしき吐息――水色の淡い光の珠のような物がその場所で、何かもわもわと漂っているような様子を見せた。
「……………」
 ジュダが加減目を細めると、めいりはくすりと微笑んで首を横に振った。
「なんの害も御座いませんよ――これは夢をみせる吐息」
「なんかよ……まるで言葉に反応を見せたみたいに感じたんだが」
「ねっねっね〜〜〜っ☆すごいねめいりちゃん☆といきちゃんもいきてるの〜〜〜????」
 彼らの言葉に意味深な微笑を浮かべためいりは、両手を大きく広げて囁くように言った。
「吐息は私の扱う至高の生き物――どうぞ私の持ち物が貴方がたの助けになる事もあるかもしれません。選択する吐息やお客様によっては…「心の問題」もありますしね……此処は一つ…運試しという事で、どれか一つをお選びください」
「え〜〜〜っめいりちゃんのおもちものからなんかもってくの〜〜〜???? じゃぁじゃぁシキョウそのお帽子がいい〜〜〜☆☆☆」
「帽子……此れで御座いますね?」
 めいりは頭に被った折れてところどころほつれた帽子をくるりと一回転させて取り、それをすっと彼女の方に差し出した。
「えへへ〜〜〜〜☆☆ありがと〜めいりちゃ〜ん☆」
 彼女はそれを受け取って自身の頭に深々と被った。
「………おや?」
 途端にめいりは首を傾げる。
 それまで折れて所々ほつれていた帽子が、彼女の頭にのせられた途端に可愛らしいうさ耳帽子へと変化してしまったからだ。
「……不思議な事もあるものですねぇ」
「じゃあ俺はこの外套だな」
 めいりが不思議がっているのを横目に、オーマはめいりが先ほど脱いで置いた外套を選び取る。
 決して何も在りはしないその場所から、オーマはその外套を取り上げた。
「おや、よく見つけられましたね?」
 めいりはくすりと微笑んだが、それも束の間――めいりは再度不思議そうな表情を浮かべた。
 なぜならば、オーマがひらりと羽織ったその透明な外套が――何故か「下僕主夫親父愛上等☆腹黒☆夜☆露☆死☆苦★」とかゾクの様に金銀ラメガッツリ刺繍されたイロモノ特攻服ver.になっていたからだ。
「おやおや……これはまた………不思議な事もあるものですねぇ」
「この男に世間一般とやらの常識は通じぬからな」
 ジュダがはっきりきっぱりとそう言いきると、彼がまだ持ち物を選んでいない様子なのを見て、シキョウがぱたぱた☆と歩み寄ってきた。
「ね〜ね〜ジュダジュダ〜〜〜☆☆シキョウがジュダのおもちものえらんだげるね〜〜〜っ☆☆☆」
「あぁ……構わない」
 ジュダがそう返答を返すと、シキョウはるんるん鼻歌を歌いながらめいりちゃんの持ち物を品定めし始めた。
「あ〜〜〜っっそれそれそれ〜〜〜〜っそれがい〜い〜〜☆☆☆」
 シキョウの様子を見てオーマは首を傾げつつ彼女の指差すそれを見遣った。
「おや、この時計でしょうか? シキョウさん」
 めいりはにこりと笑いかけると、内ポケットから空色をした懐中時計を取り出した。
「うんうんそれそれそれ〜〜〜〜〜☆☆☆めいりちゃんの「かいちゅうどけい」☆」
「懐中時計……では此れをどうぞ」
 彼は懐中時計をすっと彼の方に差し出す。
 ジュダはそれを受け取ると、その手に握った懐中時計を見詰め、微かにその空気を和ませる。
「おや、「懐中時計」に何か想い入れでも……?」
 ジュダはくすりと微笑む男に向かって微かに首を縦に振う。
「これには……既にシキョウの「想い」が篭っているようだな」
 ふっと笑うジュダの手の中に収められたその懐中時計には、可愛らしいかなうさちゃんマークがしっかりくっきりと入っていたのだった。
 お揃いですか? 一応お揃いですか、それ。
「むぷぷ…か〜わいいぜ〜??? ジュダジュダ」

 めしゃっ☆

 何の音かなんて、誰にもいえない。

 めいりはすっと目を細めてくすりと笑った。そう。端から見ればこのやり取りも「微笑ましい光景ではない」とは決して言い切れない。
「さて、大変結構です。貴方が選択する夢が…どうかそのお心に響きますように……」
 めいりは両手を肩の前辺りまで持ち上げると、見せた手のひらをくるりと返してそのまま口元で軽く交差させ、ゆっくりと自身の胸に押し付けた。
 そうして彼は軽く顎を引き、何かを念じるかのように瞳を閉じる――彼ら吐息を扱う旅商人とやらの風習なのだろうか――

「たのしみだね〜〜〜〜っ☆」
 シキョウのその言葉にめいりはふっと瞳を開いた。
 彼女に顔を覗き込むような仕草でそう問い掛けられたジュダは、柔らかに目を細めて小さく頷き返す。
「……………あぁ」
「おう、何だかんだいってよ、俺だって楽しみなんだぜ?」
「貴様は端から此処で悩んでいたのだろう? そのまま赤でも選んで染まってくるがいい………真っ赤にな」
「おぁっ!? ジュダてめぇ、いつから見ていやがった!!?」
「あのね〜〜〜っオーマがおうでをくんでね〜〜〜??? うんうんいいながらすっごくなやんでたの〜〜☆☆☆シキョウとジュダジュダはね〜〜〜? あそこのおまどからじ〜〜〜〜っっとみてたんだよ〜〜〜〜〜????????」
 マヂデカ。

 めいりは三人のやり取りを見てまたしても微笑ましく思ったのか、くすくすと笑っていた。

「では……そろそろ始めますよ、御三方」

「わ〜〜い」
「おう、楽しみだぜ、なぁ」
「………黒も捨てがたいだろうな。闇は永遠……貴様を永遠の闇に封じておくというのもまた……一興。害が無くていい」
「おぅ〜いジュダジュダ〜☆もどってこ〜ぃ」
「安心しろ……此処に居る」
 そういいながらも、オーマの顔面にすーっとジュダの魔の手が迫る!!

 彼は両手で何か――そう、「水色の吐息」を丁寧に持ち上げると、其れに向けてふぅっと自らの息を吹きかけた。
 その息は目の前に立つ彼らのもとにも届けられ、何か水色の淡い光のようなものが彼の周りを取り囲む――光だけではない、何かが存在する事はわかった。ただそれ以上にそれが「何なのか」という事だけはどうしても理解できない。
「な……何だ?」
「あ〜れ〜〜〜???」
「っ……………」
 三人は小さく呻き、微かに足を後退させる。


 ――――吐息の見せる夢の世界へ 貴方をご招待いたしますよ……「オーマ・シュヴァルツ」さん、「シキョウ」さん、「ジュダ」さん


 めいりは彼らの「居た」場所に向かってそう囁いた。

 くすり くすり

 彼は ただ ただ 笑う。
 そして再び、小さな声で囁いた。

 どうかご無事で。




《水》

「ね〜ね〜ね〜〜〜????? ジュダジュダここど〜こ〜〜???」
「……………………小島、だな」
「何でまたこんなバカでっけぇ海のど真ん中にぽっかり浮いちまってんだか」

 気がつくと三人は小さな島に居た。

 ぱらりら ぱらりら ふぉんふぉんふぉん☆

 こんな和やかな場所にゾク仕様の金銀ラメラメオーマさんは「世☆露☆死☆苦★」似合わねぇ。
 それでも貫禄たっぷり焼けた肌にグラサンからちらりと覗く鋭く赤い瞳――似合うと言おうかと思ったが、ここは是非シャバに帰れ。
 そうです。山姥は山さけぇれ(ヤマンバは山に帰れ)。んだんだ(そうだそうだ)、けぇれけぇれ(帰れ帰れ)!!
 ……おっとこれは大変失礼をば致しました。どうやら吐息に別の思念が混じってしまっていたようです。(byめいり) 


「おっアイラス発見したぜ、シキョウ」
「あ〜〜〜〜っ☆ほんとだ〜〜〜〜☆☆☆」
 シキョウは砂の上に仰向けに寝転んだアイラスの姿を視界に留めると、ジュダの手をきゅっと掴んで駆け出した。
 ジュダは手を引かれるがままにシキョウと共に砂浜を駆け出す。
 うふふあはは☆何とも微笑ましげな光景ですが。
 悲しいかな夢の世界すら侵食されているようだ―――何故駆け出した二人の背後からきらりきらりと瞳を輝かせたオーマと共に、楽しそうなナマモノが……オーマよりもジュダを激しく追いかけているような気がする―――
 オーマとわっさわっさと走るその毛むくじゃらのナマモノは……追いかけっこではなくランニングデッドヒートを繰り広げているのだ。

「な……なかなかやるじゃねぇか!!」
 じゅるじゅーる
「へっ!! いいぜ、どっちがいかしたア・イ・ツ☆を先に捕まえられるか競走だぜ!!!」
 じゅるりーら
「あぁ、いいぜ……!!! その勝負、受けて立つ!!!!!」
 大変です皆様、ジュダさんへのラヴを競って二人がめらめら徒競走です☆
 腹黒同盟本拠地への永住権を賭けて競いやがってますv

 めくるめく桃源郷への第一歩です☆

 じゅるりらっきしゃーーーーーーッッ!!!?

 じゅっっと妙な音をさせて褐色の毛並もっはもはな怪生物が、妙に細長い舌をジュダジュダ目掛けて流星がきらりの如くに放った!!
「ぅっ……!!?」
 ジュダは絡みついた「それ」が何であるのかが一瞬理解できずに硬直した。
「あ〜〜〜〜っ☆☆☆オーマのおともだちがとんでくるよ〜〜〜????」
 シキョウの言葉の直後、振り向いたジュダの視界に一寸した衝撃映像が飛び込んできた。
 まるで「太いゴムの端を口に噛まされ、その端を持った友人Aがそれをいいだけ引っ張って非常にもそれを友人であろう相手に向かって手を離し、狂喜乱舞の鼻血物☆ラヴDEATHゲーム」を繰り広げるが如くに、ジュダに向かってゴムの端を加えたナマモノが向かってくる!!!(しまった逆だ!!)
 思わず身を交わ―――せるわけもなく、猛烈腹黒愛のナマモノアタックを真っ向から受けた彼は、うじゅるうじゅると迫上がるように上へ上へと波打る舌を一瞬滅してやろうかと思ったんじゃないかな〜? と後日オーマ談の丸秘話はさて置き、それを引っぺがしてぽいっとオーマ目掛けて直球勝負で愛の押し売りを投げ戻す。
 しかしそこは悲しいかなゴムの習性。伸びては戻り。戻っては伸び。
 結果毛むくじゃらで何処に目玉があるのかすら分かりはしないおさげのナマモノの接吻を幾度となく何度も何度も繰り返し繰り返しリピートでフルに受ける事となった。
「狙ってたのか? いやぁ、そんなに気に入るとは思わなかったぜ、ジュダ。勝負は勝負だしな、いいぜ、永住権獲得だ」
 じゅるるずびーっ
 ナマモノ大喜び☆きゃーっこれでジュダ様の愛は永遠にアタシのものよVvと燃えに萌えまくっているご様子だ。
「……………貴様…ふざけるのも…」
「じゅだじゅだかわい〜ね〜〜〜☆☆シキョウもなでなでしてもい〜い〜〜〜????」
「………構わないが…やめておいた方が良いだろう」
「え〜〜〜??? なんでなんでなんで〜〜〜〜〜〜???????」
「………シキョウ、サーリアスを起こしてやろう」
「うんっ☆」


 一枚の木の葉がアイラスの頬に舞い落ちた。
 アイラスはゆっくりとした手つきでそれを手で押さえると、指先で摘まんでくるりと回転させる。

「不思議なものですねぇ……これが吐息の見せる夢だなんて…とてもそうは思えないのですけれど」

 彼がすぅっと両の瞳を開くと、目の前に何か――緑色の柔らかな物が――


「アイラスだぁ〜☆☆☆」

「……ぇ?」

「こんな所でねむねむね〜む〜〜おねむ〜なの〜〜??? だめだめだよ〜アイラス〜〜シキョウとあそぼう☆ねっねっねっねっね〜〜〜〜〜〜〜??????」

 アイラスの目の前にあどけない少女の笑顔が広がる。

「………シキョウさん?」
「おまえさんもよ、アレだな。そよぐ波風に心踊りマッスル☆草木の旋律に酔いしれマックス人面草を筋肉抱き締め隊…」
「オーマさんまで……」
「不服か? 何だったらよ、アレだぜ……心躍る未来の腹黒同盟員特選部隊筋★波もあれよ海も荒れよという間につむじ風のジュダとはこいつの事よ…も付きマッチョ☆」
「…………………黙れ」
 ジュダの肩には何やら毛むくじゃらのナマモノが激しく纏わりついている。
 何だかぴろぴろと細長い舌のような物で……舐められているような気がしないでもない。
「………ジュダさんまで……」

 アイラスは微かに困ったような表情で微笑みながらも、微かに安堵したような瞳で彼らを見詰めた。
 いつも、そこにある場所―――それは、きっと変わらずそこに在る。
 そんな風景こそがきっと、最後まで人の心の中に残るものなのだ。

「おう、アイラス! おまえさんもちとこっち来て…ぅゎぶっっ!!?」
「観念しなさいっ!! この世に生まれ出でた事を心底後悔させて や る わ よーーーーッッ!!?」

 麗しのユンナ様怒りのドロップキック☆

 ふしゅぅ…と煙を上げて砂の上に倒れ伏すオーマ。
 その上でユンナは髪をすしゃっと指先で振り払い、満足そうに麗しくも黒々とした笑みを浮かべた。
 その背後で――
「……これは一体何なんだろう…おかしいな…? おかしいよな??? 六択だろ? 何で六分の一の確率でいつもの如くにあのおっさんと同じ夢を選んだんだ………????????? 大丈夫なのか、大丈夫なのか!!? 俺??????」
 呆然とした様子でオーマ達の姿を見詰めるユーアがいた。




《選択の是非》

 いつもいつもとても騒がしい場所。

 それでも安心できる場所。

 流されるままに共にその場所に在るけれど。

 今思えばそれはとても愛しい。

 とても 大好きで。

 とても 大切な場所。

 無くしたくはない とても重要な場所。

 皆がその事に気がつける日が いつか 来ればいい。

 思いの強さは違っても

 大切に そう思える



 ――――――そんな日が いつか 来ればいい



 時を 止めて

 このままずっと

 押し寄せる波は 心の中 いつまでも在り続ける

 それでも

 今 この時を――――止めて



 心の中に 誰かの声が響いた。
 誰の声だったかはわからない。
 もしかすると それが 吐息の持ち主の声だったのかもしれない。


 小さな水音と共に 風のそよぐ音がした。
 耳をきるさらさらとした砂の音は どこか 遠く。

 ゆっくりと―――ゆっくりと

 体が動かなくなる感覚があった。

 ひらりと外套の裾が揺れる。

 ――――あぁ、そうか……時の中に……埋め込まれるのか

 時を止める事。
 それは同時に 何をも変えられなくなる事を指し示す。
 善くも悪くも 時の流れを止めるという事は――そういう事を云うのだ。

 時が 止まればいい。
 あの時 ああしていれば。
 時間が 戻れば良いのに。

 戻せぬからこそ価値のあることなのだ。
 行く先々でぶつかる壁は――時の流れがなければ乗り越える事すらできない。

 ふぅっと息を吐く。
 オーマの身体は、そのまま時を止めた――想いも、全て。




「「時」は「心」に想いを刻む……とても幻想的でしょう。
勿論「夢」ならば……この様に如何様な時でも留めておく事も可能ですが――」

 めいりはくすりと微笑みを零す。
 そう。時が流れるからこそ数多の思いが生まれる。
 そう。時の流れを感じる事が出来るからこそ、人はその先へと進んでいける。

「そうだな…俺もそう思うぜ」

 彼は小さく言葉を洩らした。
 何時の間にか自身の体はソファの上に横たえられていた。
 今は目に見えるものが全てでしかないけれど――時が流れるからこそ この心に生まれ出でる大切なものだってある。
 オーマ・シュヴァルツは自身の手をじっと眺め見た。

「水色の吐息は……貴方のお心によく響く夢をみせてくれたようですね」

 めいりはそう言ってくすりと微笑む。
 ゆったりとした微笑。
「まさかあのままで済むとは思っていないでしょうね……!!?」

 めりっ☆

 オーマの横っ面に超一級ボクサーのものかと思ってもおかしくないような見事なパンチがメガヒットする!!
「ユ……ユンナ、おめぇ……」
 やっぱり止まってていいかも!!?
 オーマは目の前で強い具現の匂いを発している女性を見詰めながら、思いっきりそう考えた。
「頑張れオーマ〜〜☆☆ももいろのせかいがまってるんだよ〜〜〜〜☆☆☆」
 あぁもう訳分からん!! オーマは身を翻してするりと上司の攻撃をかわすと、今だナマモノになめなめされているジュダジュダを盾にした!!
「………貴様、何の真似だ」
「おぉ友よ、やはり持つべきものは友よ☆お前が盾になってくれればそのナマモノも益々お前に惚れ直すぜ!!」
「…………………」
 ジュダはひょいと左手でナマモノを掴み上げると、小さな声で「やれ」と呟いた。
 途端にナマモノはその口から妙に長い舌だと思っていたが更に更に伸びるんですかそれ!!? といった感じの勢いでしゅるしゅると伸びに伸びたナマモノのぬるりと滑る舌にその身を絡み取られた!!!
「うぉおおおおっっ!!? この裏切りモンがーーーっそれでもお前は明日の聖筋界を担う腹黒お友達候補かーーーーっっ!!!?」
「………安心しろ。骨くらいなら拾ってやらんでもない……貴様の態度次第だ」
 くっくっく……明日の友は今日の敵。
「がんばれがんばれ〜〜☆☆おーま〜☆☆☆あすのともはきょうもてき☆あしたもてきなんだよ〜〜〜☆☆☆」
 ある意味大正解☆!!?
「えぇえええっ何だそれーーっっ!!?」
「あんた う っ さ い の よ ーーーーーっっ!!!?」

 どっごーーーーん!!!


 目に見えるいつもの光景。
 時の流れの中で手に入れた場所。存在。
 彼は聞き取れないような小さな声で呟いた。
 ――俺はこの時間こそをとても大切に思っているんだけどな――と。


「想うよりもこれからが肝要ですよ、オーマ・シュヴァルツさん」


 彼の言葉にゆっくりと身を起こしたオーマは、目の前に笑いながら佇む仲間達の顔を見遣り、くすりと微笑んで嬉しそうにこくりと頷いてみせる。
 水色の吐息は、柔らかに彼の中でゆっくりと溶かされた。
「残念ながら…どうやら私の外套はお役には立てなかったようですね」
 めいりが嬉しそうにそう呟くと、オーマは首を振って羽織っていたゾク仕様の外套を脱いで彼に手渡す。
「おう、まぁよ……いいんじゃねぇのか? 時を止めるっつぅのも悪くはねぇけどよ、俺は……流れ続けている方が好きだぜ…そういうもんだろ?」
「――そうですか、お気に召して頂けましたか…それは何よりです」
「あぁ、あんがとよ……楽しかったぜ」
 めいりはその言葉に柔らかに微笑み、すっと手を伸ばして彼の喉元に触れた。
 何かを掬い取るような仕草を見せると、それを握り締めてゆったりとした微笑みを零す。

「またのお越しをお待ちしておりますよ――オーマ・シュヴァルツさん」




――――FIN.


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 【1649/アイラス・サーリアス/男性/19歳/フィズィクル・アディプト&腹黒同盟の2番】
 【1953/オーマ・シュヴァルツ/男性/39歳/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
 【2082/シキョウ/女性/14歳/ヴァンサー候補生(正式に非ず)】
 【2086/ジュダ/男性/29歳/詳細不明】
 【2542/ユーア/女性/18歳/旅人】
 【2083/ユンナ/女性/18歳/ヴァンサーソサエティマスター 兼 歌姫 】
 ※エントリー順です。

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、オーマ・シュヴァルツさん。いつもお世話になっております、ライターの芽李です。
 このたびは旅商人「めいり」の吐息のご購入、誠に有り難う御座いました。
 水色の吐息はご堪能いただけましたでしょうか。
 お望み通りにメラマッチョ☆ゾク仕様で寄って集って一丁上がり〜です。笑
 少しでも楽しんで頂けていれば幸いです。

 この度は各吐息ごとの別納品となっております。もしご興味が湧かれましたら一読してみるのもまた一興かと。笑
 御参加ありがとうございました。いつかまた、お会いできる日を楽しみにしております。それでは。