<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>


『エルフに恋した鬼』



◆オープニング

 ある日、残虐な鬼の一族の末裔である、心優しき若者・清蔵丸は、池に落ちたエルフの少女・ラズリを助け、彼女に恋をした。しかし、それを見た、清蔵丸の一族に両親を殺された青年・ラーウェルは、清蔵丸がラズリを食い殺そうとして池に落としたのだと思い、清蔵丸を追っ払った。
 時は流れ、ラズリとラーウェルは結婚する事となった。ラズリを助けた鬼の若者の存在と、その思いを知らないまま。本当の事を告げる事が出来ず、また自分の一族の残虐さを恨み、辛い日々を過ごしている清蔵丸は、ラズリへの思いを伝える事が出来るのだろうか?



 オーマ・シュヴァルツは、エルザード城へと向かっていた。すっかり顔なじみの城の門番は、快くオーマを受け入れ、城の中へと案内をする。
「オーマさん、今日はどんな御用で?」
 城の門番の1人がオーマに問い掛けてきた。
 がっしりとした筋肉に覆われたオーマは、自分が城の兵士だと言っても違和感がないほどだ。過去何度も城へと立ち入り、オーマ達腹黒筋肉達が対する大会では、エルザード城の姫までもが見に来るほどだ。
「ここに若い兵がいるはずだ。ラーウェルっつたか」
「ラーウェル?あの兵士に何か?」
 門番は、とても不思議そうな顔をしていた。
「黒山羊亭んトコから、ちょいと依頼を受けたもんでな。そいつに用事がある。少し借りるが」
 城の廊下に足音を響かせながら、オーマは言った。
「ちょっとした人間関係のこじれの修復に来たんだ、この俺の腹黒セクシー筋肉ゾーンに触れれば、そんなこじれも消えるだろう」
「セクシーゾーンですか?」
 門番の奇妙な返事が聞こえた。
 やがて、門番はオーマをひとつの扉の前へと導いた。
「今、ラーウェルは休息をとっているところです。あいつ以外は皆出て行っていますので、部屋にはあいつしかいませんが」
「ちょうどいい。じっくり話をしなきゃいけないんでな」
 オーマはそう言って、扉をノックした。中から、やや低めの男性の声が聞こえ、扉が開けられる。
「うわっと。誰だ?」
 その若い兵士は、オーマを見て驚いたようであった。
「新しい、兵士の人か?」
「ラーウェル、この方はオーマさんだ。この城にも馴染みがある方でな。お前に話があるらしいぞ」
「オレに?」
 ラーウェルが首をかしげた。
「じゃあ、私はこれで」
 門番はオーマ達に頷いて見せた後、その場をすぐに立ち去っていった。
「さてと。ちょいと、お前の結婚話の事を聞いたもんでな」
 部屋の中にあるテーブルに腰掛け、オーマはラーウェルに話し掛けた。
「オレとラズリの話を?それがどうかしたのか?」
 ラーウェルは顔をしかめて返事をした。
「結婚はめでてえことだが、その前に知っておかねばならない事がある」
 オーマはとても真面目な表情で、ラーウェルの顔を見つめた。
「オレが、何かを知らないって事か?」
 オーマはラーウェルに頷いてみせた。
「今日は、ソーン腹黒商店街セクシー大胸筋夏祭りが開かれる日だ。そこにお前を誘おうと思ってな」
「何だ、その名前の祭りは」
 ラーウェルが顔を引きつらせているので、オーマはラーウェルを連れ出すためにも、まず自分から席を立ち上がった。
「腹黒連中や、筋肉愛好家達が舞う熱い祭りだ。お前と是非交流して欲しいヤツがいるんでな、その祭りで会ってもらおうかと思っている。ラズリも呼ぶつもりでいるが」
「ラズリを?けど、祭りはいいんだが、それは一体誰だ?そいつが、オレやラズリに、関係しているって言いたいのか?」
 ラーウェルはまだ、首をかしげていた。
「お前は池でラズリを助けた。そして、その池で鬼を追っ払った」
「ああ、確かにそうだ。けど、何でそんな事知ってるんだお前」
 目を丸くして、ラーウェルが答えた。
「けど、もう一人、ラズリを助けたヤツがいる。そいつがお前達と是非話をしたいと言ってるからな」
「そんなのがいたのか?!全然知らなかった。だけど、どうして今更」
「それは、祭りに来ればわかる」
 そう言って、オーマは少し無理やりだがラーウェルを城の外へと連れ出した。
 ラーウェルは真面目な上に、かなり理屈っぽい性格なのだろう。オーマが、いくらここで説明をしても、なかなか納得しないと思い、実際に清蔵丸と合わせた方が早い気がしたのだった。
 ところが、ソーン腹黒商店街の入り口についたとたん、そこに広がる腹黒空間な風景を目の前にし、ラーウェルはそこから一歩も先に進まなくなってしまった。
「なあ、オーマさん。やっぱり、この祭りはオレ向きじゃないよ」
「何いってやがる。城の兵だろうが」
 オーマは横目でラーウェルを睨み付けた。
「何ていうか、あのただごとじゃない中に入って行ったら最後、2度と出てこれなさそうな気がするんだよ」
 額に汗を浮かべて、ラーウェルがソーン腹黒商店街に入っていくのを拒むので、オーマは仕方なく、ラズリが溺れたという池の方へと行く事にした。そこなら、話を聞けるとラーウェルも納得し、二人は町を出て林を越えて、池へと向かったのであった。



「ん?あれはアイラスじゃねえか」
 池にたどり着いたオーマは、こちらに顔なじみの人物が近づいてくるのに気がついた。
「オーマさん?」
「よぉ、アイラスじゃねえか。この腹黒相方めが」
 オーマの腹黒相方であるアイラス・サーリアスは一人であった。アイラスは青い髪の毛にメガネ、温厚な表情の持ち主であった。
「俺は城に行って、今兵を連れてきたところだ」
「では、この方がラーウェルさんですか。ちょうど呼びに行こうと思ってたので、助かりました」
 そう言って、アイラスがオーマの手元へと視線を向ける。
「オーマさん、その布は一体?」
 アイラスがそう言うと、オーマはラーウェルに聞こえないように、こっそりと耳打ちしてきた。
「この布でな、鬼を桃色変装させて、ラズリ達にわからないように姿を隠そうかと」
「それは、どうなんでしょうねえ?素直に出て来てもらっても大丈夫じゃないかと。まあ、桃色も面白そうですが」
 眩しいほどの桃色を放つ布に、アイラスは目を細めていた。
「一足先に、清蔵丸に会って手紙を書いて頂いたんです。そろそろ、清蔵丸さんが手紙を書き終わった頃でしょう。迎えにいってきますね」
 この服使わないのか、と残念思いながらもオーマは、アイラスの背中をじっと見つめ、鬼が来たら、まずはどう話そうか、と考えていた。



「アイラスもこの依頼を受けてたんだな」
 アイラスが林の中へと消えた後、オーマは池の水面を見つめながら言った。
「なあ、ここまで来たのはいいが、何をするつもりなんだ?オレ、半分ぐらい、わけがわからないで連れて来られた感じなんだが。それに、ラズリもいないみたいだし」
「ラーウェル、俺は今でこそ、お前のいる城の連中に信頼されて、城とは顔なじみになっているが」
 ラーウェルの言葉をさえぎる様にして、オーマが呟いた。
「かつて、俺は異端と呼ばれ、忌み嫌われた事があった」
「何の事だ?」
 オーマは少しだけ言葉を止めると、一息ついてから話を続けた。
「忌み嫌われた者同士、理想の場所を作りたいと思ったりしたもんだ。そんな俺にも、守りたいと思う物が出来てな。命を奪ったり、奪われたりしたこの俺に、だ」
「何だか良くわからないが、オーマさんも色々あったんだな」
 そう言って、オーマを見てラーウェルが目を伏せた。
「だからこそ、異端と呼ばれていた者の気持ちはわかる。皆に忌み嫌われた者の中にも、そうでない物もいる事を、お前にも知って欲しい」
「それは、どういうことなんだ?」
 ラーウェルのその問いかけに対し、オーマは視界の先に見えた者へと指を指し示した。
「あっ?!何であの鬼が?!」
 アイラスに連れられて、真っ赤な瞳に鋭い牙を持った鬼が、こちらへと近づいてきた。その外見からそて、その鬼が清蔵丸に違いない。
 しかし、ラーウェルは驚きの声をあげて、腰につけていた剣を抜き、清蔵丸に飛びかかろうとする。
「お前ら、一体何を企んでる!!!」
 ラーウェルがそう言うのも無理はなかった。
「まあ、ちょっと落ち着けや」
 オーマがその逞しい筋肉で、ラーウェルの体を抑えていた。
「話をする機会だけでもくれ。この鬼にも、話したい事があるんだからよ」
 しかし、ラーウェルと清蔵丸の間に会話は無かった。沈黙が続く中、しばらくすると、林の道から二人の女性が姿を見せた。
「ラーウェルさんもいますわ!」
 エルフの女性が声をあげ、小走りに池まで走っていった。その後ろには、若い女性もいる。しかし、オーマの手前で彼女のその足取りは止まる。エルフは清蔵丸に視線を漂わせ、何かを戸惑っているようであった。
「あなたラズリさんですね。これは、あなたへの手紙です」
 そのエルフの女性が、ラズリである事はすぐにわかった。
 二人に話し掛けながら駆け寄ったアイラスが、ラズリに清蔵丸から受け取った一通の手紙を手渡した。ラズリは眉を寄せてそれを受け取ると、ゆっくりと用心しながら、手紙を開けた。 ラズリが手紙を読んでいる間、アイラスとその女性が何かを話している。
 オーマは、とにかくこの場をもう少し明るくしないと、と思い、ラーウェルと清蔵丸に今まで自分が遭遇した腹黒空間の話や、マッスルな友人の話などをがっつりと話したが、二人はあまり聞いていないようであった。
 アイラスと女性は、手紙を読み終わり目を伏せているラズリを連れて、池まで歩いてきた。
「お。やっと全員揃ったってわけだな」
 オーマが全員の顔を見回し、にやりとした笑みを見せる。
「初めまして。私はみずねと申します」
 女性はすぐに、皆へと笑顔で自己紹介をした。
「さてと、これからが重要だな。3人とも、いきなりこんな展開になってびっくりしてるんだろうが、これは真実だ」
 オーマは一息入れると、話を続けた。
「一大陸の在りし命全て奪った男でさえも、愛を手にする事が出来た。一で全を決めるは腹黒ナンセンスだぜ」
 オーマは、過去の自分を思い出しながら、話を続けた。
「大事なのは全と、共に何よりも互いと想い絆だ。俺も誰かを守りたいと心に誓った事がある。異端的存在の俺がな。お前達がどうなるかはお前達次第だが、俺は結婚は祝福するつもりだ」
 オーマの中で、異端と呼ばれていた時代の自分の姿が甦る。それを感じた時、オーマは目を細めて、自分に視線を向けているアイラスやみずね達を見つめたのであった。
「僕は」
 今まで黙っていた清蔵丸がやっと口を開いた。
「僕は、あの残酷な一族の末裔である事は変わりないんだ。水に映ったこの姿もほら、自分でも恐ろしい。だから、ラズリさんとラーウェルさんが誤解をしてもしょうがないと、ずっと思っていたんだ」
 清蔵丸は、ラズリが手に持っている手紙に視線を向けていた。
「でも、オーマさんやアイラスさん、みずねさんの親切を無駄にしてはいけない。せめて真実を知ってほしいんだ」
 清蔵丸がいうと、今度はラーウェルが眉間にしわを寄せて答えた。
「そうだ!オレの両親は、てめえの一族に食い殺されたんだ!てめえが例えいいヤツだったとしても、オレはてめえらのした事を許せねえんだよ!」
 ラーウェルは肩を震わせながら怒鳴りつけた。ラーウェルの気持ちは、オーマにも良くわかった。
 確かに彼の言う通り、清蔵丸の一族がラーウェルの両親を食い殺した事実は変わらない。それが人間の感情、というものだろう。
「今後の事は、皆さんが決める事ですけど」
 みずねが池に一歩近づき、皆へと優しく語りかける。
「私も、アイラスさんも、オーマさんも、真実を知って欲しい、そして出来る事ならラズリさん達、良いお友達になって欲しいと思っています。今から、私の力でこの池の水が見ていた過去を、映し出しますね」
 みずねは池の淵に立ち、手をかざした。すると、池に今とは違う服を着た、ラズリの姿が映し出された。池の映像には、帽子が浮かんでいるのが映し出されている。そして、ラズリはその帽子を取ろうとして手を伸ばしたかと思うと、急に額を抑えて、崩してそのまま池へと転落した。
「これは、あの時の?」
 ラズリがみずねへと顔を向けた。
「私、風に飛ばされた帽子を取ろうとして、急にめまいを起したんだった」
「そうです。あの時の事を、この池の水が見ていた記憶を、今私の力で映し出しているのです」
 そうみずねが答え終わると同時に、池へと駆けつけてくる清蔵丸の姿が映し出された。
 清蔵丸は躊躇する事もなく池に飛び込み、半分気を失いかけているラズリをかかえ、自らも池の水草に足を取られそうになりながらも、やがてラズリを陸へと運んでいた。
「あなたが、私を」
 驚きの表情のまま、ラズリが清蔵丸を見つめた。
「溺れている人を助けるのは、当然だからね」
 映像に目をやりつつ、清蔵丸が微笑んだ。真っ赤な目と鋭い牙は変わらないけれど、その表情には、残酷な鬼の一族の血は、少しも感じさせなかった。
「鬼が、彼女を突き落としたんじゃなかったのか」
 ラーウェルは池を見つめたまま、静かに呟いた。やがて、池の水に鎧を着たラーウェルが映し出された。
 ラーウェルは鬼よりも恐ろしい形相で清蔵丸を追い払い、ラズリを抱きかかえ介抱する。そしてラーウェルはラズリを抱きかかえたままそこを去り、水面から姿が見えなくなってしまった。
「私を助けてくれたのは、清蔵丸さんだったのね」
 ラズリが目を細めて呟いた。しばらくすると、再び池に清蔵丸が映し出された。
 清蔵丸は池をじっと見詰めたまま、やがてぽたぽたと涙を落とし始め、自分の顔についている牙や角を引っ張ろうとし、その痛みで顔をゆがませていた。
「もう、泣かなくてもいいんですよ、清蔵丸さん」
 ラズリが清蔵丸に言う。
「この手紙に書いてある、貴方の思いは良くわかりました。とても丁寧な字を書くのですね」
 そう言ってラズリが手紙を開いたので、オーマはその文面をそっと除いた。
 そこには、ラズリに対する思いがたった数行のみで書かれているだけであったが、その文字はとても美しく、それだけを見たら、清蔵丸が残酷な鬼の一族である事は、まったくわからないだろうと、オーマは思った。
「だけど、今ごろこんなの見せられても!」
 ラーウェルが急に声を上げた。
「どうしろって言うんだ?ラズリを助けたのはその鬼かもしれないが、だからどうしろって言うんだよ。ラズリをその鬼の嫁にしろって言うのか?」
「いえ、そういうわけではありませんよ。それを決めるのはあなた達です。僕達は、もつれた糸をほぐすだけですから」
 アイラスが答えた。
「ラズリ、お前はどうなんだよ。この事実を知っても、オレの事好きか?」
 ラーウェルがラズリに言う。
 しばらく沈黙が続いた。風がまわりの草木を揺らす音だけが聞こえていた。
「せめて」
 沈黙を破ったのは清蔵丸であった。
「お友達になって欲しいんだ。僕、こんな姿だから、友達は一人もいない。一人でいる事は、とても寂しい事なんだよ」
 清蔵丸のその声は、とても寂しそうであった。
「そうは言ってもさあ」
 ラーウェルはまだ納得のいかないような顔をしていた。
「私はお友達になりたいです。命の恩人のあなたと」
 ラズリが真面目な表情で答えた。
「清蔵丸さん、私、あなたに助けられた事は良く覚えてないんです。それはとても残念な事ですけど、でも良かった。みずねさん達がいなければ、大事なことを知らずに終えてしまいそうでした。ラーウェルさん、私もあなたの事を愛していますわ。それは今後も変わらないと思うの」
 ラーウェルの方を向き、ラズリが言う。
「これから、皆でどこかへ行きませんか?そうですね、綺麗なところがいいですわね。きっと気持ちも変わってくると思うの。ラーウェルさん、この人は、あなたの妻の恩人なんですもの。私、それでもあなたに対する愛は、変わらないの。私は、命の恩人ということじゃなくて、あなたを愛している」
「そうか。そういうことならなあ」
 少し照れくさそうに、ラーウェルが答えた。
「それなら、良い場所を知ってるぜ?」
 オーマが、自信たっぷりにラズリに答えてみせた。



 オーマの案内のもと、ラーウェル達とアイラス、みずねは、池から少し離れた川へとやってきた。
 そこにつく頃には、すでの夕暮れになっていたが、川には蛍が沢山舞っていて、とても幻想的な風景が広がっているのであった。
「とても綺麗な場所ですね」
 みずねが嬉しそうに目を細めていた。
「さてと、ちょっと作戦があるんだ。耳、貸しな?」
 ラズリ達から離れると、オーマはアイラスとみずねにそっと耳打ちをした。
「これから俺がちょいと変身して、あの3人を襲うからな。それであいつらがどうするかで、本当に大切なものが何かに気づくだろう。いや、もうほとんど気づいているかとは思うけどな」
 二人にそう言って、オーマはラーウェル達に気づかれないようにして、川にある草むらへと近づき、その中へ音を立てないようにして入っていった。
 やがて、オーマは草むらから、50m以上はある翼の在る巨大な銀の獅子の姿になり、ラズリ達の前へと姿を現した。ラズリは悲鳴をあげて地面へと力なく崩れ、ラーウェルもその巨大さに驚いたのか、動きが止まってしまった。
 ところが、清蔵丸だけはやたらに冷静で、オーマに近寄ると、落ち着いた声で答えた。
「あの二人は幸せになる人達なんだ!僕は犠牲になってもいい。それが残酷な事をしてしまった僕達一族の運命だと思っているから、覚悟は出来ているよ!」
「駄目です、清蔵丸さん!逃げてください!」
 ラズリがやっとの事で声を上げる。しかし、清蔵丸はラズリ達に振り向きもしなかった。
「早く逃げて。最後は、誰かを守って命を終えたい。それが僕の願いなんだよ、僕の、鬼の一族としての!」
「てめえ、清蔵丸!かっこつけてるんじゃない、その怪物追っ払う事が先だろうが!」
 ラーウェルはそう叫ぶと、オーマの前へと踊り出た。
「ラズリを守るのはオレだからな!ここでてめえが死んだら、オレは一生てめえに感謝しながら生きなきゃいけない。けど、死んだヤツにどう感謝しろって言うんだ?相手が生きてなきゃ、感謝も形にする事が出来ないだろうが!」
 腰につけていた剣を抜き、ラーウェルが身構えた。
「こい、化け物!この鬼は臆病だ、やるならオレをやれ!こいつは逃がしてやれよな、てめえに少しでも心があるんなら!」
 そろそろいいかと思い、オーマは3人の前で変身を解き、もとの姿へと戻って見せた。
「オーマさん!!?」
 ラーウェル達が同時に声を上げた。
「これで自分達の答えが出るだろ?」
 落ち着いたに優しさも乗せて、オーマはラーウェル達に背中を押すように言った。
 蛍の光がラズリ、ラーウェル、清蔵丸を淡い光で包み込んでいた。アイラスとみずねもやってきたので、オーマは二人ににやりとした笑みを見せた。
「ま、鬼にも色々なヤツがいるってことだな」
 ラーウェルが言う。
「あんな言葉をかけてもらったのは初めてだよ。僕を逃がしてやれなんて」
 清蔵丸は、とても嬉しそうであった。
「オーマさん、みずねさん、アイラスさん。私達の為に、本当に有難うございました。何か大切な事を、教えられた気がします」
 ラズリはそう言うと、オーマ達に向かって頭を丁寧に下げたのであった。



 数週間後、ラズリとラーウェルは天使の広場にある教会で結婚式を挙げた。そこに、オーマやアイラス、みずねも招待された。
 その観客の中に、清蔵丸もいた。鬼の一族の外見はそのままであったけれども、清蔵丸の姿を見て怖がるものはいなかった。それは、清蔵丸がとても穏やかで、楽しそうにしているからであった。心まで穏やかであるから、まわりの人にもそれが伝わり、清蔵丸の姿を恐ろしいものと感じさせないのかもしれない。
 その後、ラーウェルが城から別の町の警備を命じられ、ラズリと共に二人はその町へと引っ越してしまった。
 しかし、清蔵丸もまたその町へ行き、かつては人々の命を奪った武器の技術を、そこでは町の人々を守る技術として役立てている事を手紙で知り、オーマはほっと一安心するのであった。(終)



◆◇◆ 登場人物 ◆◇◆

【0925/みずね/女性/24歳/風来の巫女】
【1649/アイラス・サーリアス/男性/19歳/フィズィクル・アディプト&腹黒同盟の2番】
【1953/オーマ・シュヴァルツ/男性/39歳/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】

◆◇◆ ライター通信 ◆◇◆

 オーマ・シュヴァルツ様

 シナリオ参加ありがとうございました!新人ライターの朝霧青海です。
 今回は、ソーンでは初シナリオとなったのですが、楽しく書くことが出来ました。オーマさんのプレイングが、オーマさんらしくてとても楽しかったのですが、全体的の流れにそうようにと、ギャグの部分は少々控えめにして、言葉を残しつつ、話を書いてみました。ソーン腹黒商店街、凄く気になったんですけどね(笑)ただ、シリアスなところは、きちんとオーマさんの過去を交えながら、描させて頂きました。
 まだまだ、ソーンは未開拓のジャンルでありますので、これからもシナリオを出していきたいと思っています。また、今回のシナリオは、他参加の方とリンクしていた描写となっています。他の参加者様からの視点の物語も是非御覧ください。
 それでは、どうもありがとうございました!