<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>


古城へ………


 あんた、あの山の麓の古城を知ってるかい?
 何でも昔は真っ白に輝くようなそれは綺麗な城だったんだってよ。
 今でも、あそこにはその当時の幽霊達が夜な夜なパーティーを開いてるって話だ。
 腕に覚えがあるなら、探検しに行くのもいいんじゃないのか?
 お宝もさぞたんまりあるだろうぜ。




 山頂に万年雪を頂く山の麓に立つ城ブランシア。遠目には白亜の古城に見えるそれが、幾年の年を重ねてきたのか知る者は数少ない。
 伝承を確かとするならば、ガルガンドの都市が今の形をなす以前からそこにあったと、ある吟遊詩人は言い伝える。
 茨に囲まれた古き城への道を確保しようと挑むのは、青き髪に青き瞳のほっそりとした青年と、小麦色の鍛えられた筋肉がまぶしいマッチョ親父の対照的な二人だった。
「古城の幽霊のパーティーですか?」
 面白そうでね。レンズの奥の柔和なまなざしを緩ませるのはアイラス・サーリアス(1649)。
「何だか面白そうだからいってみっか!」
 なにやら、周りにぞろぞろとマッスルアニキやSM女王様やおかまやイロモノな霊魂軍団をぞろぞろと引き連れたオーマ・シュヴァルツ(1953)に、牧歌的な毎日になれた村人達は明らかに引いている。
「この手の依頼の基本は情報収集からですよね」
 文献や伝説を予め調べておいた、アイラスの情報からはどこかに茨の道を通らずにあそこまでの道があるらしいという曖昧な情報しかえられなかった。
「相当古いお城みたいですけど………」
 今でも住んでる方はいらっしゃるのでしょうか?細かい情報は現地の人間聞くに限るとばかりに、アイラスは通りすがりの村人に声をかけるのだった。
 一方そのころ……
「ちっとばっかり聞きたいことがあるんだけど」
 本人いたって温厚に尋ねているつもり……らしいのだが、ムキッとポージングをしながらの質問純朴な村人Aは腰を悲鳴をあげて腰を抜かした。
「あの山の城について、知ってることを教えてくれねぇか?」
 フンッと今度は鍛え抜かれた大胸筋を誇示するように、詰め寄る。
「ひぃ〜!?」
 白昼の悪夢、オーマにターゲットとして選ばれたてしまった哀れな村人に合掌。


「時々村の酒屋と食料品屋に注文があって、やり取りがあるようですので……」
 まだ生きてあそこで暮らしている人がいるんですよね。
「いつも女中の嬢ちゃんが支払いやら、注文品を取りにくるって話だしな」
 合流したアイラスとオーマは互いの情報を交換し合った。
「でも、あまり村の人たちとは交流が無いみたいですね」
 二人がいくら聞いても、アイラスが入手していた隠れ道の情報は出てこなかった。その過程で善良なる村人何人がショックで行動不能になったかは目を瞑るとして。
「とりえず、行って見なきゃわからねぇってことか」
「そうですね、行ってみましょう」


 古城への道を確保するためのアタックにアイラスはいたって軽装だった。
ガンガルドからは3日ほどかかったがそこから徒歩で1日といえば重装備で行くほどのものではない。
「最低限の食料と水があればだいじょう………て、オーマさんその荷物はなんですか……?」
「パーティーがあるらしいからそれようの衣装と、食料と、医薬品を持ってきてみたぞ」
 鮮やかな鳥の羽で飾られた妖しい仮面とひらひらふりふりにスパンコールで飾られたエプロン。袋に『ぷろていん!筋肉密度120%』とかかれた袋。すべてがピンク色で統一された医療道具………
「確かに噂には幽霊のパーティーってありましたけど……」
 オーマがジャンと広げて見せた、新婚の新妻も今時着ることがないような、フリルたっぷりのエプロンからアイラスが目をそらす。
「準備は抜かりなく用意しておかないと、後で何が起こるかわからねぇし」
 準備万全と爽快に笑うオーマの白い歯がまぶしい。
「万全すぎるような気もしますけど……」
 いったい、あの鮮やかなピンク色の医療器具の数々は何処で作られたものなのだろうか……その辺は考えてはいけない。
 磨かれた筋肉の前に常識は通用しないのだから………

 半日ほど歩いて二人は茨の壁の前にたどり着いた。
 ちなみにオーマの取り巻きは村で大人の事情により今回は村でお留守番である。
「このぐらいの茨なら……ドラゴンバスターで切れますね」
 太さは子供の手首ほど。常識的にはありえない太さではあるが、手持ちの剣で切れそうなことを確認してアイラスは安心する。
「茨をかきわてて進むのは流石に大変ですしね」
「ちょっとまったー!!」
 剣を取り出したアイラスの腰に筋肉親父がすがりついた。
「ちょっと待ってくれ、一寸の虫にも一分の魂!」
「な、なんですか突然」
 暑苦しいですから離れてください!男泣きに涙を流しながらすがりつくオーマに免疫のあるはずのアイラスもあわてる。
「たった一本の茨にだって魂はあるんだぜ!」
「でも、このままじゃ二人とも通れないんですけど………」
 僕達あのお城に行くためにここに来たんですよ。
「いやダメだ、アイラスここは聞き分けてくれ男には決断しなきゃならねぇ時もある……だけど今はそのときじゃねぇぜ……」
 もっともらしいことを言っているようだが、オーマの言っている内容はめちゃくちゃである。
「いえ、でも……」
「ここは、俺に任せてくれ!」

    親父パワーMAX筋肉ラヴモード発動……

「俺の愛よ届け―――!」
 ぐわばっと、オーマが立ちはだかる茨に親父愛の抱擁をぶちかました。
「ぐわ!?いい棘だ……だが…俺の愛筋肉はこんなものじゃ傷つかねぇぜ!!」
 一度は茨の棘をもろに受け、ひるんだもののかまわずオーマは茨に向かってフライングボディーアタックのごとく飛び込んだ。
 すると……如何なる魔法か、一度は筋肉親父の抱擁を受けた茨はオーマを避けるように道を開けた。
「す、すごい……これはもしや伝説の筋肉魔法……」
 いや、そんな魔法ないから……ただ単に筋肉の抱擁が茨の気に召さなかっただけであろう。
 抱きつこうとする、オーマに避ける茨。アイラスのドラゴンバスターの出番も無いままに見る見るうちに、ブランシア城への道が開けていった。

 二人が城の入り口にたどり着くころにはとっぷりと日も暮れ、宵闇に包まれていた。
「やっぱり誰か住んでますね」
 いくつかの部屋に灯された灯りが住人の存在を告げていた。
「おんや〜」
 お客さんかい?
「城の連中は年寄りばっかだからな、朝にならないと門あけてくれねぇぞ」
 通りかかったランタンを手にした黒い外套の人物が気安く、城を見上げる二人に話しかけてきた。年よりは早寝早起きこれ世の理。
「この近所の方ですか?」
「あぁ、裏山に住んでんだ」
 なんなら今晩は俺らの塒に来るかい?
 悪い人物ではなさそうだし、夜露は体に毒である。ありがたい申し出に二人は外套の主の後に大人しく従った。
 二人が案内されたのは、山の麓に掘られ横穴の入り口。
「ようやってるなぁ!」
 ひょいっと、外套のフードを上げて現れたのは真白な骨の頭。
「わぁ!?」
「おぉ!!」
 アイラスは突然の事に驚き、オーマはその骸骨の歯並びの良さに目を輝かせる。
 焚き火を囲んでいるのも腐りかけた死体やら、下半身の透けたものやら……
「幽霊のパーティーの噂は本当だったんですね」
 最初は驚いたもののアイラスは感嘆の声を上げる。
 横穴の入り口の前で奇妙な酒盛りは始まった。
 幽霊達が口にしているものは、人間達といたって変わらない普通の酒に食べ物。
 そこにオーマの差し入れ、僕主夫特製丑三つ時爆裂弁当が加わって宴も酣となる。
 しっかり腹黒同盟勧誘パンフをその場に集った死体たちに配ることを忘れていなのは流石だ。
 見た目はけばけばしいピンクの謎の物体が多く含まれた爆裂弁当に幽霊達も大喜びだ。
「久々の客だからな!今夜は無礼講で行くぜ!!」
 二人を案内した骸骨が外套を脱ぎ捨て
「見よこの素晴らしき骨格の数々!」
「おぉー!すげぇだが俺も負けねぇぜ!!」
 オーマも上着を脱ぎ捨て、フンヌっと腕の筋肉を誇示してみせる。
「やるな、兄ちゃん!」
「おうよ!」
 謎の幽霊のパーティーはいつの間にか『ビバ漢祭り』に変わりつつあった。

 二人のお陰でブランシア城への道も無事(?)開け、冒険者達とブランシア城の面々との交流が盛んに交わされる様になるのはこの後の話である。
 今はただブランシア城への道を切り開いた勇者(?)と幽霊達の宴が繰り広げられていた……。



【 Fin 】



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


【1649 / アイラス・サーリアス / 男 / 19歳(実年齢19歳) / フィズィクル・アディプト&腹黒同盟の2番】

【1953 / オーマ・シュヴァルツ / 男 / 39歳(実年齢999歳) / 医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】


【NPC / ディース】


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■         ライター通信          ■
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始めまして、またはお久しぶりです。
ライターのはるです。
私のソーン初依頼となります『古城へ………』への御参加本当にありがとうございました。
これから、ソーンでもいろいろと活動してまいりますのでまた是非ブランシア城へ遊びに来て下さいませ。