<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


地下室の聖歌

朝方に教会を訪れた美しい髪の女性。彼女はシルフェといった。
エレメンタリス特有の毛先が透ける青い髪を持ち、瞳はそれと同じくした深い深い青。しばらく人が訪れなかったサイリア教会に、一輪の花が咲いたよう。
・・・青い青い幸福の花だ。
ロゼがその幸福に縋るように懇願すると、シルフェは落ち着いた調子でこう返した。


「まぁ、それは大変。では、わたくしがちょっと覗いて参りましょう。」


シルフェに臆するという言葉は皆無のようだ。長年教会に住むロゼでさえも近づくのを躊躇う場所へ、あたかもコンビニへ行くかのような感覚で出発を示した。あまりのあっさりさに、思わずロゼもぽかんとする。


「地下室への道はここですか?では、行って参りますね。」


地下室の入り口は、祭壇の裏にある。危険な場所ということで、一般の人が近づかないように隠してあるのだ。しかし、どういう訳かシルフェはその場所を一発で当ててみせ、ロゼが「気をつけて」なんて言葉を掛ける前にひょいと中へ入ってしまっていた。
後に残るは、ぽかんとした神父・ロゼ 25歳。



◆◆◆◆


地下室は、上とは比べ物にならない程埃が積んでいた。もはやこれは雪と呼ぶに相応しい。靴で床を踏みしめると、ざくっと音がする。ひょっこりと気軽に顔を覗かせたシルフェは、ざっと地下室全体を見渡す。暗がりが何処までも続いているようで、果てがわからない。
とりあえず、壁にかかったランプに火を灯し、地下室へ数十年ぶりの光を与えた。



うおおおおっおおぉお!!!!!!!!!



刹那、呻くような声が地上に響く程の大音量で起こった。光を好まない何かが地下室に蔓延るのか、それはけたたましく成る。地上でコーヒーの準備をしていたロゼは当然カップを引っ繰り返し、モップを再びとらなければならなかった。しかし、シルフェに別段驚いた気配は無い。


「まぁ、びっくり。何の声かしら・・・?」



・・・
そう言ったのはワンテンポ遅れた声の静まった頃だった。



ランプが生み出す光によってある程度地下室を一望できるようになった。やはり果てはわからないが、明らかに地下の方が地上よりも広いのは確かだ。あの小さな教会のどこにこんな地下があると想像できようか、埃の雪上の長い道のりをシルフェはゆったりと歩いていく。
地下室の壁はほとんど本棚で埋まっていた。そして床には無造作に積み重ねられた本であったり、机であったり・・・。ベッドさえも見受けられるので、ロゼも知らない遥か昔には地下で生活する者があったのだろう。今では埃と蜘蛛に蝕まれてしまっているが・・・。



―――― 天使 唄え 眠る フェレット 我は 永久に 生きて・・・



細い、男の声だろうか。突如聞こえ始めた聖歌。ロゼが言う通り、真夜中に始まった。闇に混じる歌声はどこまでも不気味で、積み上げられた本たちが不自然に揺れる。

・・・揺れる?


「まあ、祭祀用の品ではないのかしら。仲良く揺れて楽しそう。」


壁一杯に並べられた書物は、穏やかで不気味な聖歌に合わせるようにゆらりゆらりと揺れている。まるでリズムでも取るかのように。これを見たのがロゼならば、泡を吹いて失神なんてシチュエーションは確実だ。しかしシルフェにかかればこんな恐ろしいシチュエーションも一言で学芸会になる。
シルフェは近場にあった一際よく揺れる本を手に取り、さっと埃を掃った。砂埃のように埃が一度宙に舞って、シルフェのではない小さなくしゃみがひとつ出た。そのくしゃみはシルフェのものではない、どういうことか、くしゃみの主は手にした本だった。


「あの、本のどこに口があるんですか?」


シルフェは少し首を傾けて、本の表面を一度撫ぜる。汚らしい本は、くすぐったそうに身を捩り、紙を擦るような音を出した。気にするな、そう言ったようにも聞こえる。今度は反対側に首を捻り、「はぁ、でしたら気にしませんけれど。」なんて言った。本はそれに満足したらしく、再びシルフェの手中で揺れ、聖歌の二番を歌い始める。


「それで、どうして毎晩歌を?」


いよいよ本題に切り出す。本は揺れることを止めず、シルフェの手からゆったりと浮かび上がると、本棚に戻った。代わりに別の一冊の本がシルフェの前に現れ、そこに自動的に文字が浮かぶ。
完成された文字を読み、シルフェはにこりと微笑んだ。


「では、ロゼ様に早速お願いしてきますね。」


軽やかにターンして、その美しい髪を翻した。少し透けた髪の向こうに、喜び舞い上がる地下の物たちが見えた。もとあったようにランプを消すと、闇が再び広がった。しかし一層大きく聖歌が響く。心なしか、元気や希望に満ち溢れているかのような、混じりけの無い歌である気がした。


◆◆◆◆



「どどどどうでした!?な、なんだか聖歌が一層大きくなってるんですけど!しかもコーラスまでかかって!!」


地上に戻ったシルフェを迎えたのは、恐怖で少しひっくり返ったロゼの変な声だった。ロゼの後ろには、約束のコーヒーが入れられたカップと、オシャレなティータイム用の机と椅子。シルフェは本に微笑んだようにふんわりと微笑み、その机に近づいた。ロゼは慌てて椅子を引き、彼女をエスコートする。シルフェは白いカップをすっと持ち上げ、一口飲むと、「美味しい」なんて言ってなかなか本題に触れない。その間に聖歌はさらにヒートアップして、ついにはドラムやベースのような音も混じる。一体どのように音を出しているのか・・・そもそも聖歌がそんな曲だったかどうかも怪しくなってきた。


「地下室もちゃんとお掃除して欲しいからって地下室に安置されていた本の皆さんが歌ってたんですよ。」


シルフェは突然答えた。もはや聖歌では無くなってきている歌に注意をひかれていたロゼは、突然の解答に思わず自分用のコーヒーを落としかける。


「悪いものじゃないんですって聖歌を歌ってアピールされてたんですね。」


ロゼさんには逆効果でしたけど。そう言って苦笑いし、シルフェはすっとコーヒーを飲み干した。つられてロゼもコーヒーを一気飲みにする。彼女のペースに飲み込まれていたロゼは、この教会に起こっていた事態をなかなか把握できずにいたが、コーヒーの何とかという成分が頭を活性化させたらしい。ように自分が今まで地下室の掃除を怠って来たのがすべての発端らしい。これを飲み終えれば早速掃除に取り掛かろう。
空になったカップを受け皿につけたのは、些かロゼの方が早かった。


「有難う御座いました、シルフェさん。これで夜も眠れそうです!」


愛用のモップを一度くるりと回してみせ、深々と頭を下げた。シルフェは淡々と教会をでる支度を済ませ、微笑んだ。


「ロゼさんはモップさばきが素晴らしいそうですから、本の皆さんも楽しみになさってますよ。」


聖堂をゆったりと歩いて、教会の扉を開ける。扉を半分開けて、片足を少し外に出した。


「またお暇な時にでもいらして下さい!今度は天界のような美しさの地下室をお見せします!それから今度は紅茶も用意しておきますね!!」


シルフェは微笑んで、その大きな扉を閉じた。ロック化した聖歌が響く中、印象的なブルーをその背景に残して。ロゼは閉じられた扉に再度深くお辞儀をして、モップを握り返す。


「よし!やるぞ!!」


勇んで地下室へ飛び込んだ!


・・・と、同時に腹痛でばたりといった。


埃の雪に顔を埋め込み、賞味期限には気をつけようと思った。
すでに新たな場所へと旅立った、お腹の丈夫なシルフェには・・・知る由も無く。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

PC

【2994/シルフェ(しるふぇ)/女/17歳/水操師】

NPC

【ロゼ(ろぜ)/男/25歳/神父】


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■         ライター通信          ■
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初めまして、今日和。ライターの峰村慎一郎です。
この度は有難う御座いました。

シルフェさんのふんわりした感じを出せて、・・・いるでしょうか?
髪の毛の設定がとても綺麗だなっと思って、頑張って表現しましたっ。
なんだかこんなお姉さんが欲しいです^^

有難う御座いました、また機会がありましたら
宜しくお願いします。

峰村慎一郎