<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


『ハロウィンパーティーをやろう!【準備編】』



「うわあ、本当にオイラ達に協力してくれるの!?」
 霧の図書館のある森に住む双子の子悪魔、ルノは図書館の主・美霧(みむ)の話を聞き、今回の依頼を受けた者達を見て、両手を挙げて喜んでいた。
「ありがとうございます!アタシ達も、出来る限りの協力をするわ」
 ルノの姉のリノも、皆へと軽く頭を下げた。
「『ハロ筋』か…それは全ての在りし筋肉マニア達が、美筋を暑苦しく誇示する仮装で家々を回り、美筋を崇めさせ供え物をさせる親父愛催し…だったな?」
 オーマ・シュヴァルツ(おーま・しゅう゛ぁるつ)は、双子へニヤリを笑みを投げかけた。
「ハロウィンって、そういうお祭りだったかしら?」
 カミラ・ムーンブラッド(かみら・むーんぶらっど)は、オーマの話を聞き、きょとんとした表情で首を傾げていた。
「まあ、それはともかくとして。野菜を粗末にしている人なんて幾らでもいるっていうのに。よりによって、一生懸命育てた子どもの所に出て来てそんなこと言うなんて、性格の悪いオバケね〜」
 と、カミラは眉間に眉を寄せて、双子の方へと顔を向け、小さく息をついた。
「食べられるのが嫌だって、当のカボチャが言うのなら話は別だけど。カボチャ達だって、育ててくれた人がいたからこそ大きくなれたんでしょう?」
 不安そうな双子を見つめ、カミラが二人を安心させるようにして、穏やかに笑ってみせる。
「一度受けたお仕事は、最後まで責任持ってやるのが私のモットー。リノちゃん、ルノ君、安心して。私がそのカボチャを説得してあげる。楽しいハロウィンにしたいものね。それにね、カボチャだって、折角立派に育っても誰にも喜んでもらえずにそのまま腐ってしまうより、楽しく使われたり美味しく食べて貰える方が嬉しいって思うんじゃないかしら?」
 カミラの言葉を聞き、双子は顔を見合わせて、少しだけ笑顔を取り戻していた。
「仲間を思う気持ちに、かぼちゃも人間もない。放ってはおけぬ」
 アレスディア・ヴォルフリート(あれすでぃあ・う゛ぉるふりーと)は、落ち着いた口調で皆へと言った。カボチャにもそれなりの考えがあったのだろう。だが、やり方に問題があるのではないかと、アレスディアは感じていた。
「誰かを力で押しのけてのハロウィンなど、心から楽しめまい?」
 真面目な表情のまま、アレスディアは双子からカミラ、オーマへと視線を移しながら呟いた。
「ああ、そうとも」
 アレスディアの視線に答えるかのように、オーマは自信に満ちた表情を浮かべた。
「そんな一撃大胸筋浪漫ズキュン行事を中止とは、腹黒イロモノ下僕ゴッド親父美筋信条にかけて阻止するぜ?意見は全員一致ってわけだ。早速、オバケがいる畑へビバノンノンGO!」
「そうですね、私もオーマさんの意見に賛成です。物事は早い方がいいですよ、カボチャが、子供達の育てたカボチャをどこかへ隠してしまう可能性もありますしね」
 カミラが、オーマの意見に頷きながら答えた。
「決まったな。そういう事だ、双子の子悪魔達よ。私達を、その畑へ案内してくれ」
 アレスディアは双子の方へと視線を戻した。
「うん、早速案内するよ!」
 ルノがようやく、元気な笑顔を見せた。
「畑は、アタシ達の家のそばにあるの。そんなに大きな畑じゃないけど、毎年沢山の作物が取れるのよ」
 アレスディア達は、リノとルノの案内の元、カボチャのオバケが出るという畑へと歩き始めた。



「ほう、ここがお前達の畑か。なかなか立派じゃねえか」
 森の中にある双子の子悪魔の畑は、まわりを木の柵が囲い、丸太の物置小屋も作られていた。中央には、麦藁帽子を被った案山子まで置かれており、子供が作ったにしては上出来であった。
「ルノと協力して作ったの」
 リノが畑を指差して答えた。畑には、沢山のカボチャがゴロゴロと転がっており、どれも鮮やかなオレンジ色で艶もあり、収穫には丁度良い時期だろう。
「で、オーマさん。その格好は何ですか?」
 カミラは眉をしかめて、オーマを見つめていた。
「おう、これはな、カボチャを説得する為の格好だ。より良い効果が得られるはずだぜ?」
 オーマは、自分の頭にカボチャを被り、より大胸筋を全開にし、腰にはグラビア宜しくなセクシーカボチャ乙女柄エプロン着用していた。
「インパクトという点では凄そうですが」
 カミラがオーマの頭から腰まで視線を流した。
「そういう武装も必要だったのか?まあ、それはいいとして。あれがあなたらが作ったカボチャなのだな?」
 アレスディアは、その畑の中央にある、ひときわ大きなカボチャへと視線を向けていた。
 大きさは、1メートルはあるだろうか。他のカボチャは大きくてもせいぜい50センチ程なのに、そのカボチャはその倍程の大きさはある。子供達がそれを懸命に育てて来た姿が、アレスディアの頭に浮かんでいた。
 だからこそ、リノもルノもこのカボチャを収穫する事が出来ないのを、嘆いているのだろう。
「それで、そのオバケはどこに行ったの?」
 アレスディアはそう言ってまわりを見回した。オーマも一緒にあたりに視線を漂わすが、おかしなものは何ひとつ見つからない。
「おかしいな。図書館へ来る前は、あの大きなカボチャの前でこっちを睨んでいたんだ」
 ルノが悪魔のしっぽを振りながら、大きなカボチャの前へ歩いていく。
「もしかして、気分が変わってどこかへ行っちゃったとか?」
 カミラがそう言った時だった。カボチャの陰から、突然ボロを着たパンプキン頭の怪物が飛び出し、ルノを睨み付けたと思うなり、その目から光を発した。
「ルノ!」
 リノが叫んだ時にはもう遅かった。光を浴びたルノの姿はどんどん縮み、悪魔のしっぽが生えたオレンジのカボチャになってしまった。
「おお、何て言う事だ。あのパンプキンオバケ、相当自分の仲間を守りたいらしいな」
 アレスディアは嘆いたように呟いた。
 ここへくる前に霧の図書館にいた時は、アレスディアは武装をしていたが、今はその武装を解いてしまっている。このカボチャの説得に、武装は必要ないと感じたからであった。
「どうしよう、ルノがカボチャになっちゃったよ!」
 リノが今にも泣きそうな顔をして、オーマの顔を見上げている。オーマはリノの頭に手を優しく置くと、畑へと一歩、足を踏み出した。
「安心しな、子悪魔娘。俺が弟も、カボチャもどうにかしてやるからよ。それに、他の連中もいるんだしな。その為に俺達はここへ来たんだからよ」
 パンプキンのオバケは、自分でカボチャにしたルノを見下ろした後、アレスディア達の方へと顔を向けた。
 その顔はジャック・オー・ランタンそのもので、目や鼻や口がぼんやりと輝いている。紫色のボロボロの服を着ており、ユラユラとした動きでこちらへと近づいてきた。
「来た!」
 リノはオバケを怖がったのか、オーマの後ろに隠れてしまった。
「子悪魔がオバケを怖がってどうする。とにかく、ヤツには親父愛説得が必要だな」
 オーマは、カボチャ頭のまま、けれども鋭い視線でカボチャのお化けの姿を見つめた。
「カボチャのオバケよ、俺は腹黒同盟のオーマってもんだ。まあ、ここはひとつ穏やかに宜しく頼むぜ」
 腹黒同盟のパンフレットを渡しつつ、オーマがカボチャに笑いかけた。
「親しみを込めて、カボチャの格好をしてみたんだ。俺は悪いようにはしないからよ」
「そうよ。あなたが仲間を思う気持ちはわかるわ。でも、この子達はあなたの仲間を、頑張って一生懸命に育て上げたの。その頑張りを、どうか認めてあげて?」
 カミラはオーマへと言葉を続けた。
「食物は人に食べられる。だが、それはただ食べられるだけではない。味は喜びを与え、栄養は健康を与える。種は次世代に命を繋ぐ。あなたらの仲間達は、別の生命を育んでいるのだよ。そこに、決して無駄なものはないはずだ」
 パンプキンのオバケの顔を見つめ、アレスディアは声を上げた。
「アタシ達、毎日カボチャが大きくなるのを楽しみにしていたの!花が咲いて実が出来た時は本当に嬉しかった。だから、最後まで大切にしたいの。そりゃあ、食べたりするけど、でも、食べるからには無駄になんてしないわ!」
 しかし、カボチャのオバケは必死で叫んだリノへと光を発し、今度はリノをカボチャへと変えてしまった。
「育ててくれた子供にまでこんな事するなんて。まったくもう、いよいよ真面目に説得する必要があるわね。皆さん、ちょっとの間このオバケを頼むわ」
 カミラはそれだけ言うと、手で印を作って呪文の詠唱を始めた。何かの魔法を使うつもりなのだろう。
「やれやれ、頑固なオバケだな。食べられたとは言え、その命は決して、無駄になっているわけではないのだよ?」
 アレスディアがカボチャへと言うが、カボチャの表情はまったく変わらない。いや、もともと表情が変わらないのかもしれないが。
「食べるは命奪うでは無く、命想い分け合い共に生き紡ぐ事。それは全ての理でもあり、そうして命紡がれて来たらこそ、今の全てが仲間もオバケ自身も存在するのではないのか?」
 アレスディアの言葉に繋げるように、オーマがカボチャへと言葉を投げかけた。
「本当の気持ちを聞いてみましょう」
 呪文の詠唱を終えたカミラが、オバケに向かって腕を振り下ろした。とたんに、今まで黙ったままこちらを見つめていたオバケの中から声が響いてきた。
「あんた達はそう言うが、私達の気持ちを知っているのか?収穫され、飾り物にされたり、食べられてしまう悲しい運命を」
「確かにそうかもしれないけど」
 魔法をかけ終えたカミラが、カボチャへと近づいた。
「だからって、それならこれからどうするつもりなの?このままカボチャを守り続けていく気?このカボチャは、このままにしておけば腐ってボロボロになるだけよ?私は、お仲間のカボチャが、そんな風になるのを望んでいるとは思えないけど」
 カミラがそう言うと、カボチャはさらに近づき、目から光を発した。気に入らない者は、全部カボチャにしてしまうつもりなのだろう。
「おっと!危ない!」
 オーマがカミラとカボチャのオバケの間に滑り込んできて、大胸筋から親父愛具現ビームを発した。
 カボチャの光とオーマのビームが空中でぶつかり合い、それたカボチャの光が空中へと消えていく。
「あ、案山子が!」
 カミラが目を丸くし、笑いそうになっていた。反れたオーマのビームは奥にある案山子へとぶつかり、そのビームの効果によってマッスル化してしまったからだ。
「ムキムキな案山子だな」
 アレスディアもそれを見て苦笑してみせた。
「何だ、今のは」
 さすがにオバケも驚いたような声を出した。
「俺の親父愛具現ビームを食らった奴は、喰らうともれなく3分間マッスル化するんだ。おかしな光放つなら、今度はてめえがあの案山子のようになるんだぜ」
「何故、私の邪魔をするのだ。私は仲間を守りたいだけだと言うのに」
 カボチャが叫んだ。
「それは、あなたとカボチャ達の為だからだ。ここのカボチャ達は、畑に埋もれたままでは誰に喜ばれることもなく、土に還っていくだけだぞ?そんな一生を、カボチャ達は望んでいるかな?」
 アレスディアが畑のカボチャを指し示した。
「確かに、仲間を失うのは辛い。だが、それは無意味に失われるのではない。誰かに喜ばれ、役に立ち、そして新しい命を生む。それがここのカボチャ達の役目だ。双子達もそれを願っているはず。ご理解いただけぬだろうか?」
「しかし、そんな事わからないではないか。ここのカボチャはそう言ったわけではないだろう」
 アレスディアが説得しても、カボチャのオバケはまったく聞き入れない。オーマはその様子を見て、霧の図書館からここへ来る時に用意したらしい袋をつかむと、その中に入っていた肥料を畑へとばら撒いた。
「何をする気だ!?」
 オバケが驚きの声を上げた。
「ま、見てな。カボチャの気持ちは、カボチャに話してもらおうぜ?」
「なるほど。私も同じ事を考えましたから」
 オーマが肥料を撒くと同時に、カミラも続けて魔法を使った。すると、畑のカボチャが急に動き出し、何やら声が聞こえてきた。
「子供達を元に戻して上げて。あの子達は、ボクらをここまで育ててくれたんだもの」
 カボチャのひとつが、オバケに呟いた。
「そうよ。この子達は、私達を子供の様に大切にしてくれたの。雨が降ったら傘をつけてくれた。風が吹いたら、まわりに大きな壁を作って、飛ばされないようにしてくれたわ」
「しかし、お前達はいずれ食べられたり、くり貫いて飾りにされてしまうのだぞ?」
 カボチャのオバケが、オーマとカミラの力で口が聞けるようになったカボチャへと尋ねた。
「ボク達は、食べられても終わりじゃない」
「そう。私達は他の者の命をつなぎ、そして喜ばせる。誰かの役に立ちたい。このまま腐っていくのは、嫌なのよ」
 カボチャ達が答えた。それを聞いて、オバケはすっかり黙ってしまった。
「オバケよ。カボチャ達の方がわかっているようだな」
「楽しいハロウィンがもうすぐやってくる!ねー、カタイ事言わないでさー、皆で楽しもうよー。誰かの役に立てるなんて、なかなか出来ない事だしさー」
 オーマの頭につけているカボチャが突然声を出した。どうも、それはただのカボチャではなく、人面のカボチャらしい。
「そうなのか?私は間違っていたのか?カボチャ達を守ろうとしていただけなのだが」
「間違ってはいないと思うけどねー。たださー、もっと皆の気持ちを考えればいいんじゃないー?気楽にいこうよ、気楽に。子供達はハロウィンパーティーやるみたいだしー、オバケさんも一緒にやろーよ」
 人面のカボチャやアレスディア達に説得され、オバケはしばらくの間黙っていた。下を向いて、何かを考えたようにぶつぶつ言葉を発していたが、やがて畑の方へと向いた。
 その瞬間、カボチャになっていたリノとルノが元の姿へと戻った。
「わかった。お前達の言葉、カボチャ達の言葉を信じる事にしよう。ただし、その気持ちに嘘をついた時には、私は決して許さないが」
「大丈夫よ。楽しいハロウィンをやると、約束するわ」
 カミラがにこりとカボチャのオバケへと笑ってみせる。
「わかってくれて何よりだ。無駄にしない営みが、一番大切だからな」
 アレスディアもオバケに答えた。
「ま、そういうことだ。一緒にパーティーやらねえか?お前がいれば、いよいよ本格的なハロ筋が出来そうだしな!」
 オーマが力強く叫ぶ。
「いや、私は別の役目が出来た。カボチャを無駄にしている者を見つけて、お仕置きをしなければならない。私がカボチャに変えるべきはそいつら」
 カボチャのお化けは、それだけ言うと、森の奥へと消えていった。
「ふむ。あまりやりすぎないようにな?」
 森に消えたオバケにアレスディアが叫んだ。
 オバケがいなくなった後、アレスディア達は双子の収穫を手伝い、沢山のカボチャを荷台へと積み、家へと持ち帰った。中でも大きなカボチャはかなりの重さがあり、それを家まで持ち帰った双子は、とても喜んでいた。
「皆、本当に有難う!これで、楽しいハロウィンが出来るわ!」
「パーティーの準備が出来たら、また霧の図書館で連絡するからさ!楽しみにしててくれよな?」
 楽しそうにしているリノとルノの表情を見て、アレスディアは一安心し、またハロウィンのパーティーを楽しみに待つ事にしたのであった。(終)



◆登場人物◇

【1953/オーマ・シュヴァルツ/男性/39/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
【2919/アレスディア・ヴォルフリート/女性/18/ルーンアームナイト】
【1988/カミラ・ムーンブラッド/女性/18/なんでも屋/ゴーレム技師】

◆ライター通信◇

 アレスディア・ヴォルフリート様

 ソーン初のゲームノベルへの参加、ありがとうございます。ライターの朝霧青海です。
 季節ものならやっぱりこれしかない!と思い、ハロウィンシナリオを始めてみました。ハロウィンは大好きなので、張り切って執筆してみました。全体的にはカボチャの気持ちは間違ってはいないのですが、でも、大切にしている人の気持ちも見て、というニュアンスで書き進めてみました。
 アレスディアさんは説得メインでノベルを書いてみました。命をつむぐためにカボチャは食べられる、けれどもしれは決して無駄でない、というアレスディアさんの気持ちが、少しでもノベルに出ているといいなあと思います。
 次回はパーティー編をリリースします。この話の続きになりますので、宜しければご参加下さいませ。それでは、どうもありがとうございました!