<PCクエストノベル(1人)>


湯けむりソーンぶらり旅

〜 ハルフ村 〜
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【冒険者一覧】
【整理番号/  名前  / クラス 】
【0929/ 山本建一 / アトランティス帰り 】

【助力探求者】
 カレン・ヴイオルド

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●温泉地に訪れて
 聖都エルザードより、南北に流れる河を南に上ること約5日。
 緑深い大地の中に、小さな村が存在する。
 まだ名が知られる以前の頃、村の人々は林業や漁業で細々と生活を営んでいた。川沿いに村はあるものの、周りを囲む森のおかげで他の村との交流はなく、ほぼ自給自足の生活を強いられていた。生活は決して豊かでは無かったが、それでも彼らは平凡で幸せな日々を送っていた。
 村が大きく変わったのは、数年前の出来事がきっかけだった。
 ある日、いつものように野良作業をしていた村人が奇妙な現象と出会った。
 村へと流れこむ小川から白く濁りながら湯気が立ち昇らせ、辺りに硫黄臭い独特の薫りが漂わせていたのだ。
 もしや……と思い、彼は上流へ上がっていくと、川岸からボコボコと暖かな湯が湧き出ていた。
 触ろうと思ったがとても熱く、触れることも困難だ。
 これは天の恵みか悪魔の仕業か……最近、数度にわたり地震が起きていたことに彼ははたりと気がついた。
 とりあえずはこのことを村の仲間達に報せよう、そう思い、彼は水で程よくぬるめられた湯を瓶に注ぎ入れ、村へと戻っていったのだ。
 
健一「この事件が、このハレン村にある温泉の、最古の源泉地の発見だとされています。最初は毒の水だとか大地の精霊の怒りだとか囁(ささや)かれていたそうですよ。……当時はまだ、温泉という概念があまり広まっていなかったんですね」

 のんびりと足湯を満喫しながら、山本健一(やまもと・けんいち)は同行者であるカレン・ヴイオルドに語りかける。
 カレンはじっと健一の話す言葉に耳を傾けていた。
 彼女もこの村の歴史や文化についてはいくつか知ってはいたが、先見の明がある健一にはとてもではないが敵わない。
 天界という、高度文明の知識があるのとないのとではこうも違うものかと、こういう時に感じさせられるな、と彼女は心の中でそっと呟いた。

健一「最初は調理用や飲食用に使われていたそうですが、ジ・アースの方に教わり、怪我人の湯治に使われるようになったそうです。当時はかなり画期的な提案だったようで、その後一気に広まっていき、今日のような賑わいへと発展していったようですよ」
カレン「確かに、湯に身体を付けるというのは……ソーンではあまり馴染みがない行為ですからね。正直私も聖都に来るまでは、精々水浴び程度でしたから」
健一「普通はそうでしょうね。天界でも、庶民がお風呂に浸かり始めたのは……実はそんなに昔のことじゃないんですよ」

 元来、入浴という行為は医療を目的とすることが多かった。
 趣味や日常習慣としてなじまれるようになるには、湯が豊富に使えるという豊かな文明が必要だろう。
 
健一 「こんな風に観光目的でお風呂に入るというのは、一大イベントだった時代もあるそうですよ」
カレン「なるほど。では、こうして温泉を楽しめるのを存分に味合わなくてはもったいないですね」

 そう言いながら、カレンは傍らに置いてあった『ハレン村温泉まんじゅう』をひとつ口に運んだ。
 口の中にくちどけのよい爽やかな甘さの餡の風味と、程よく練られた皮の風味が広がっていく。
 一緒に茶を味わえば、極上の一時を楽しめるだろう。
 
カレン「あとは、良い音楽でもあれば最高の場所ですね」
健一 「そうですね。とはいっても……ここに楽器を持ってくるのは少し難しいですから、鳥達の歌で我慢するしかないなさそうです」

 健一は苦笑いを浮かべた。
 彼らが良く持ち歩いている弦楽器は、水に弱い。特に、様々な成分が混入している温泉は特に厳禁とされている。温泉地帯、特に湯船の近くはどうしても湿度が高くなるため、弦が緩んだり、弦を張る時につかうペグが錆びついたりしてしまう。
 そのため、今も大切な楽器達は全て宿に保管してもらっていた。
 最近、この村で悪さをする輩が増えているという話をふと思い出し、健一は心配げに宿の方を見つめた。
 
カレン「どうかしましたか?」
健一 「いえ、ちょっと宿の方がどうなってるかなと気になっただけです」
カレン「ああ、そういえばそろそろ夕食の時間ですね。一度戻りましょうか」

 村にふらりと立ち寄り見つけた小さな宿。
 裏庭に露天風呂もついた、歴史ある由緒正しい宿らしい。

 宿へ向かう途中、健一は視線を感じてその歩みを止めた。
 
カレン「どうかしましたか?」
健一 「……後ろの2人。先程から私達をずっと付けているみたいです」

 振り向かないように、と言葉を添えて、健一は手荷物をぎゅっと抱え直した。
 恐らく、彼らの狙いはこれだろう。大した中身は入っていないが、この世界では容易に入手が困難なものもあるため、持っていかれては大変だ。
 彼らは歩みを速めさせ、少しづつこちらとの感覚を狭めている。
 彼らをこらしめるチャンスは一度。失敗すれば、逃げられてしまう。
 
健一 「次の角を曲がりましょう」

 道の先にある小道へさしかかると、2人は素早くその影へ隠れた。
 追ってくる男達が角を曲がってくるや否や、鋭い一撃を放った。
 突然のことに抵抗することなく、男達は身体をくの字に曲げてその場に倒れ込んだ。
 もだえる男達を見下しながら、カレンは侮蔑(ぶべつ)した眼差しで睨みつける。
 
カレン「人の物を狙おうだなんて、行儀が悪いですよ」
健一 「……でも、ちょっとやり過ぎましたでしょうか……」
カレン「この位で丁度良いですよ。こうでもしないとこういう輩は反省しませんよ」

 優しいんですね、とカレンはくすりと笑みをもらした。
 
健一 「しつけは程々が丁度いいのですよ」
カレン「ふふ。厳しいお言葉ですこと。それで、この者達をどうしますか? このままにしておいても良いですが……」
健一 「そうですね……」

 痛みにもだえながらもじろりと見上げてくる男達の傍らに健一は腰を下ろした。
 にこりといつもの笑顔を見せ、爽やかに告げる。
 
健一 「この辺りで最高の眺めが期待出来る温泉はありませんか? 出来れば美味しい食事もセットで頂けると嬉しいですね」

●白濁の秘湯
カレン「森の奥にこんなに良い場所があったんですね」

 村の裏手にある薄暗い森を進んでいくと、開けた場所に出た。
 大きな一枚岩の先は崖になっており、ソーンの世界を一望出来る。うっすらともやの彼方に見えるのは聖都エルザードだろう。その特徴である白亜の城が青い空を背景に、燦然(さんぜん)とそびえ立っている。
 健一が何より目を引いたのは、崖の傍に作られた温泉だろう。
 岩を何かの力でくりぬかせ、その中に湯を注いでいる形式のものだ。石造りの湯船はよく見かけるが、こうした一枚岩の造りの物は珍しい。

健一 「まさに絶景とは、このことを言うんでしょうね……」

 この辺りでは珍しい、「竹」と呼ばれる樹木の中をくりぬいて作り上げた筒から、白い湯がとうとうと湯船に注ぎ込まれている。
 あふれ出た湯は石のすき間から細く滝のように崖向こうへと降り注がれていた。
 
カレン「これは……」

 カレンは岩風呂の傍にあった草を摘み採った。
 表面を指の腹でこすり、少しだけ滑らかにさせた後、そっと唇へと運んでいく。
 素朴な草笛の音色が辺りに響き渡った。水の波打つ音と折り重なり合い、優しいハーモニーを醸し出している。
 
健一 「懐かしいですね。それじゃあ、ボクも……」

 それに習うように、健一も草笛を吹き始める。単調ながらもお互いに個性ある音色に、自然と笑みがこぼれた。
 
カレン「これなら、風呂の湯を気にせず音楽が楽しめますね」
健一 「たしかに」

 ここの道案内もしてくれた男達が、大きな皿を掲げてやってきた。
 皿には取れ立ての川の幸が調理されて並べられている。

カレン「有り難うございます。どれも美味しそうですね」
健一 「では、早速ご相伴に預かりましょうか」
カレン「それならお風呂に入りながら……というのは如何でしょうか? 折角ですものね」

 茶目っ気たっぷりの表情でカレンは言う。
 きょとんとする健一にカレンはさりげなく手を差し出した。
 
カレン「さ、絶景の景色と美味しい料理と温かな湯を楽しみましょう」

おわり

------<ライターより>------------------------------
ご依頼大変有り難うございました。

これからという所で終わってみました(何)
ここから先はご想像にお任せ致します(闇笑)

それでは、また別の物語でお会い出来ますことを楽しみにしております。

(文章担当:谷口舞)