＜聖獣界ソーン・ＰＣゲームノベル＞
『ハロウィンパーティーをやろう！【お祭り編】』
その夜、霧の図書館はハロウィンの飾り付けをされ、いつもと違う姿を闇の中に浮かび上がらせていた。
入り口には骨や悪魔の羽で出来た飾りが並び、ドアのわきに、双子の子悪魔・リノとルノが育てた大きなカボチャで作り上げたジャック・オー・ランタンが堂々と飾られていた。
一時、双子のカボチャ畑が、カボチャの化身であるオバケに占領され、この巨大なカボチャも収穫の危機にあったが、協力してくれた者達のおかげでこの危機を乗り越えることが出来た。
リノとルノはこの大きなカボチャを家に持ち帰り、数週間かけてジャック・オー・ランタンを完成させ、霧の図書館の館長である美霧の許可を得て、ここにジャック・オー・ランタンを飾り付けたとのことであった。
霧の図書館を背景にし、ジャック・オー・ランタンは黒猫や小さな羽根の悪魔、ゴーストや骸骨達に囲まれて、不気味に輝いていた。
「いよいよこの日がやってきたな！」
「これも、皆さんがアタシ達を助けてくれたおかげだわ。本当にありがとう！」
双子の姉・リノは可愛らしい笑顔を見せた。弟のルノは、先が３つに分かれた槍、トライデントを手にし、イタズラな笑みを見せ付ける。
「良かったな、無事にハロ筋を迎えることが出来てよ」
カボチャのオバケから畑を取り返した者の一人である、オーマ・シュヴァルツ（おーま・しゅう゛ぁるつ）は、まわりを見つめながら子供達に笑顔を見せていた。
「今夜はハロ筋。それは、全ての在りし筋肉マニア達が美筋を暑苦しく誇示する仮装で、家々を回り、美筋を崇めさせ、供え物をさせる親父愛催し。それを、今ここで始めるってわけだ。で、兄貴達はどこにいるんだ？」
オーマは何かを探すように、きょろきょろとまわりを見回している。それを見て、双子は不思議そうな顔をしていた。そんなオーマに、横からユンナ（ゆんな）が顔をしかめて答えた。
「いやね、何言ってるのよオーマ。ハロウィンは、あんたみたいな筋肉バカを崇めるのではなく、この世の美の理たる存在を尊び敬い、在りし全ての美しさを奉げ賜うものなのよ」
遠い昔からの、オーマの親友の一人であるという、ユンナは誇らしげに笑いながら答えた。
「美しきもの？それは、美筋のことだろ？」
「だからそうじゃないでしょう。そうね、例えば、この私と・か・を・ね？」
オーマの問いかけに、ユンナはさらに目を細めて自慢げに答えていた。
「そうではないと思うのだが」
今まで静かにオーマとユンナのやりとりを聞いていたジュダ（じゅだ）が、眉をひそめて言葉を口にする。
ジュダもオーマの親友であるという。それを聞いても、オーマ、ユンナ、ジュダは強い絆で結ばれていることには違いないだろう。
「ハロウィンか。人という者は何時の時も『其れ』」に意味を求め紡ぎ行くモノ。だが、貴様達の『其れ』は些か如何かと思うが、な」
ジュダが、オーマとユンナの顔を交互に見つめながら苦笑する。
「何だ、何が言いたいんだ、ジュダ」
オーマがそう言うと、ジュダは首を軽く横に振った。
「いや、ハロウィンは筋肉や美の祭りでは」
「ハロウィンの醍醐味は、やっぱりよそのお宅を回って歩くことよね〜♪」
オーマ達の後ろで、カミラ・ムーンブラッド（かみら・むーんぶらっど）がリノやルノと楽しそうに話をしていた。先日の畑の話しから始まり、今日この日を迎えるまでの事を、子供達から聞いては、またそれを違う話につなげたりしていた。
「私はもう、子供とは言えないけど、一緒に回らしてもらっていいかしら？」
「もちろんだよ、お姉さん！ハロウィンを楽しむ気持ちに、年齢なんて関係ないもんね！」
リノが、カミラへ嬉しそうに答える。
カミラもまた、オーマやアレスディアと一緒に畑を守った者であり、魔法を使って大活躍をした。おかげで、カボチャもすっかり納得したようで、この日を迎えるのをカミラも楽しみにしていたのであった。
「ありがとう。そうよね、皆で楽しむのが一番いいわよね？ね、アレスディアさん」
オーマやカミラと一緒にカボチャのオバケを説得した女性ナイト、アレスディア・ヴォルフリート（あれすでぃあ・う゛ぁるふりーと）へと、カミラが話しかけてきた。アレスディアは後ろの方で図書館の壁に寄りかかり、皆から少し離れたところで振舞われたカボチャのジュースを静かに口にしていた。
「あら、どうしたの？お祭りに参加するんじゃないの？」
カミラがそう尋ねると、アレスディアは小さく首を振った。
「私は、祭りの方は良い。私が先の依頼を手伝ったのは、カボチャの気持ちを放っておきたくなかったが故」
アレスディアがそう言うと、ルノが残念そうな表情を見せた。
「何だー、アレスディアねーちゃん、お祭りには出ないんだなー」
「今ならわかるであろう？あのカボチャとて、悪気があったわけではない。仲間を思ってのおと。そんなカボチャと、リノ殿、ルノ殿が争い、どちらか、または双方が傷つくのを見たくはなかった。私の思いは、それだけなのだよ」
アレスディアが、ルノに優しさの混じった口調で答えた。
「私は、皆が楽しんでいるのを見るだけで十分だからな。祭り自身は遠慮させて頂くよ」
「まあ、行かないって言ってるのを、無理に連れ出すわけにもいかないわよね？」
ユンナがアレスディアを見つめながら言う。
「私はお祭りの方へ参加させて頂きますよ。楽しそうですしね」
夜空に冷たく輝く月を見つめながら、音楽を奏でていた山本・建一（やまもと・けんいち）が、そこで音楽の手を止めて答えた。
「準備の方には参加していませんが、楽しそうなので参加したいと思いまして」
「建一殿か。私の分まで、楽しんで来るといい。私はここで、美霧殿と祭りの様子を見ていることにするよ」
アレスディアが建一に呟いた。
「そうですか。では、行かせてもらいますね？」
建一はにこりとして答えた。
「行こうよ行こう！建一にーちゃん。今夜はハロウィン、皆で賑やかに騒ぐお祭りさ！」
竪琴を持ったままの建一の手を、ルノが引っ張る。
「さて、そろそろ出発の時間ではないか？あまり遅くなるのも、相手に失礼というものだろう。いや、どっちが失礼になるか、わかったものではないが」
ジュダはそう呟くと、オーマとユンナの間で視線を交差させていた。
「何―、それ、まるで私が相手の家で失礼な事するみたいじゃないー？」
「そうではないのか？」
細い目つきをしたユンナにジュダが返事をした時、図書館の反対側から、けたたましく、沢山の何かがこちらへやってくる音が轟いてきた。
「ジュダ様―！ただ今、親衛隊到着しました！貴方がいるのなら、例え火の中水の中！ハロウィンの夜を、命をかけておともしますよー！」
オーマがその人面草＆霊魂軍団に軽く手を上げて見せた。
「おう、てめえらも来たか」
図書館の前に、人面草やら霊魂やらが勢ぞろいし、その視線は皆ジュダの方を向いていた。皆、とても情熱的な表情をしている。
「こ、これは何なの？」
カミラは人外な生き物達を目にして、やっとのことで言う。
「こいつらは、俺んとこにいる連中だ。ジュダの親衛隊でな。見かけはびっくりするかもしれねえが、熱いハートの持ち主だぜ？特にジュダのことになるとな」
オーマがそう答えると、ユンナがジュダを軽くつついて笑う。
「迷惑になりそうなのは、どっちかしらねえ？」
しかし、そのユンナの視線が、親衛隊を睨み付けているような気がするのは、カミラだけではないかもしれない。
「２人が立派に育てたカボチャを、皆に見てもらう折角の機会だもの。私達も一緒に楽しまなきゃね」
「そうですね。そうでないと、お祭りになりませんし」
カミラの言葉に、吸血鬼の仮装をした建一が、竪琴で音楽を奏でながら答えた。
「カボチャオバケを感心させられるぐらい素敵なパーティーにしましょうねって、あの子達に伝えてきたわ。あの２人は、別のお宅に遊びに行ったみたい」
特に仮装はしていないが、代わりに魔法を使う事が出来る。カミラはその魔法で、子供達の危機を救ったのであった。建一は前回の、カボチャのオバケに会いに行った時はいなかったが、今日はそれに関係なく、一晩中お祭りをやる日である。カミラは、今日は二又の尻尾を持った仔猫のリリスも連れており、気分は魔女のようであった。
「ミイラ女のガラリさん、どんな人かしらね。凄くシャイな人みたいだけど」
カミラが、図書館でミイラ女のガラリのところへ行くと行った時、建一も同じ場所へ行くと言ったので、二人は一緒にその家へ向かう事にしたのであった。
ガラリは聞いた話によるとかなりの恥かしがりやで、恥かしさのあまり、ベッドである棺の中に閉じこもってしまう事もあるのだという。
森をずっと歩き、木がややまばらになってきた場所に、その家はあった。まるで小型のピラミッドのような、レンガで出来た三角すいの家。窓はひとつだけぽっかりと開いており、これだけ見ると別の国にでも迷い込んだかたのようであった。
「まさにピラミッド。ミイラといえば、ピラミッドですしね」
その家に顔を向けて、建一が言う。
「わかりやすいわね。さ、早速尋ねてみましょ」
カミラは建一と一緒に、そのピラミッドの家の前へと歩き出した。どこに入り口があるのかと迷ったが、三角すいの後ろの方に、小さな扉がついているのを見つけたので、その扉をカミラが３回、小さく叩いた。
「トリック・オア・トリート！」
と、カミラが叫ぶ。
「こんばんわ！ハロウィンの夜を楽しみましょう」
カミラの言葉の後に、建一も続けた。しかし、中からはまったく返事がない。疑問に思ったカミラが、もう一度扉を叩いたが音すらも聞こえない。
「もしかして留守とか？」
「留守なら、しょうがないですね。別の家に行きますか？」
建一がそう答えた時、リリスがみゃお、と鳴いた。その声が気になったカミラが扉へと顔を向けると、扉は音も無く開き、中から白い人形が姿を見せた。いや、人形ではない。それは、包帯を全身に巻き、オドオドとしてあまり動きを見せない、ミイラ女のガラリであった。
「あら、ガラリさん。こんばんわ！」
元気良くカミラが言う。
「あ、あの、その、こんばん、わ」
ガラリは、カミラの顔から視線を外して言う。
「初めまして、ガラリさん。私はカミラ。双子の子悪魔のリノちゃんとルノ君と一緒に、ハロウィンの夜を楽しんでいるところよ」
「是非、お菓子を頂きたいところですね」
建一が優しく言うと、賑やかな音楽を奏で始めた。先ほどから建一の演奏をずっと聞いていたが、なかなかの腕をしている。カミラも、思わず聞きほれてしまうほどであった。
「お、お菓子ですか？あ、でも、私、ちょっと恥かしい」
ガラリはそう答えて、顔を手で覆って隠してしまう。顔を隠しても姿は見え見えなのだが、その態度を見ていても、ガラリは相当なシャイなのだろう。しかし、建一の演奏には耳をそばだてているようで、何となく場が和やかな雰囲気になっているのを、カミラも感じていた。
「とても、お上手です」
顔を隠しながら、カミラが小さく呟いた。
「有難うございます、ガラリさん。では、お菓子をいただけますか？」
音楽を奏でながら建一が尋ねると、ガラリがわずかに頷く。
「今、持ってきます、から」
ガラリは家の奥へと行き、数分後に戻って来た。とても恥かしがりやではあるが、親切で素直な性格なのだろう。しかし、戻ってきたとたんに、ガラリは部屋の奥にある、黄金の棺に閉じこもってしまった。
「ど、どうしたの？」
その様子を目にしたカミラが、驚きの声をあげた。
「私、お菓子を買い忘れていました。はずかしいー！！」
ガラリはすっかり、閉じこもりになってしまった。穴に入りたい気分とは、まさにこのような事を言うのだろう。
カミラは建一と顔を見合わせると、家の中へと入り、静かに、かつ優しい声で棺に語りかけた。
「そんな、気にしないで？」
「でも、こんな恥かしい思いをしたの、久しぶりです」
ガラリの声が、棺の中から響いてきた。
「失敗なんて誰にでもある事ですよ」
建一が再び音楽を奏でた。それは、先ほどとは違い、とても落ち着きのある音楽で、カミラも不思議と、リラックスした気分になった。
すると、棺がわずかに開き、ガラリが顔を見せた。
「ごめんなさい、私、自分から恥かしい事を」
「いいのよ、本当に。気にしないで？」
カミラがそう言うと、ガラリがどことなく楽しそうな声を出した。
「でも、お菓子をあげられなかったのだから、私はイタズラをされないといけないですね」
音楽には、不思議な力がある。ガラリは、いまだ恥かしがってはいるものの、随分カミラ達に馴染んで来ているようであった。
「そうね、じゃあ、こんなのどう？」
カミラは指を振ってガラリに向けた、とたんに、ガラリの包帯が色とりどりの、カラフルなものへと変わった。
「そう、このイタズラ」
「素敵です、こういうの。お菓子はないですが、これをあげます」
ガラリはカラフルな包帯を少しだけ切り取り、それをカミラの首へとかけた。記念に、ということなのだろう。
「有難う、ガラリさん」
カミラは優しく微笑んだ。
「私のイタズラは曲ですね。さて、どんな曲しましょうか」
そう言って、建一はコミカルな音楽を演奏し始めた。イタズラどころか、それはそれで素敵なプレゼントのようにも聞こえる。同じようにガラリも思ったのだろう、表情は包帯で隠れてわからないが、何となく楽しそうであった。
「それじゃあ、そろそろ行くね」
「ガラリさん、今度はお菓子を用意して置いてくださいね」
しばらく３人で音楽を楽しんだ後、カミラはカラフルなままのガラリに別れを言って、建一と共に図書館へと引き返した。
「皆、ご苦労だったね。さあ、パーティーの準備は出来ているよ。アレスディアさんが手伝ってくれたんじゃよ」
カミラ達が霧の図書館に戻って来る頃には、すっかり図書館の前の会場は賑やかな宴会場となっていた。何時の間にか近所に住んでいる者達も集まっており、リノとルノが育てた巨大なジャック・オー・ランタンを見て、驚きの声をあげていた。
「良かったわね。あのカボチャのおばけも、喜んでくれているわよね。だって、皆がこんなに喜んでいるんだもの」
ガラリのカラフルな包帯を腕に巻いているカミラが、リノとルノの頭を優しく撫でて、ガラリのところでの話を聞かせていた。
「皆さん、戻ってきましたね。これからお菓子を集めて、ハロウィンパーティーを始めましょう」
と言って、建一が和やかに、先ほどとはまた違う賑やかな音楽を奏で始めた。
「オーマ、筋肉ばっかり追いかけてたりしなかったでしょうねー？」
何となく、さっきよりも化粧が濃くなったようなヴァンパイアクイーンのユンナが、オーマに語りかけた。
「まったく、女というものはいつでも…。しかし、皆楽しそうだ。俺も、しばらく楽しむとするか」
建一の演奏に合わせてユンナが歌を歌いだしたので、ヴァンパイアキングのジュダはユンナの歌に合わせ、守護聖獣舞わせ興を添えていた。まわりから拍手が置き、よりいっそう会場が賑やかになる。
その会場のはじの方で、図書館の主の美霧とアレスディアは、静かに話をしていた。何のたわいもない雑談をしていた。そんな話をしながら、皆がパーティー楽しんでいる姿を見る。
「やーい、ひっかかったー！」
リノとルノは本来の性分を取り戻したのだろう、会場内の食べ物にいたずらでカエルやら蛇やらを忍ばせては、会場内に悲鳴をもたらせていた。さすがは、小…子悪魔と言ったところだろうか。
「よーし、じゃ、いくぜ！」
オーマが下僕主夫の腕によりかけたハロ筋南瓜料理差し入れした後、具現能力応用し、銃器から具現を打ち上げ花火を作り出した。
「カボチャの形ですね」
オーマはカボチャや蝙蝠、ガイコツと言ったハロウィンの花火を次々に打ち上げる。皆が歓喜の声を上げ、空を見上げていた。
「マッスルアニキの花火まであるぞ」
アレスディアがそれを見て手元の飲み物を落とし、たまに打ちあがるハロ筋仕様の花火を、顔を引きつらせながら見つめていた。
それでも、皆が喜んでいた事には違いない。来年もきっと、楽しいハロウィンを楽しむことが出来るであろう。（終）
◆登場人物◇
【0929／山本建一／男性／19／アトランティス帰り（天界、芸能）】
【1953／オーマ・シュヴァルツ／男性／39／医者兼ヴァンサー（ガンナー）腹黒副業有り】
【1988／カミラ・ムーンブラッド／女性／18／なんでも屋／ゴーレム技師】
【2083／ユンナ／女性／18／ヴァンサーソサエティマスター 兼 歌姫 】
【2086／ジュダ／男性／29／詳細不明 】
【2919／アレスディア・ヴォルフリート／女性／18／ルーンアームナイト】
◆ライター通信◇
カミラ・ムーンブラッド様
前回に続き、ハロウィンのゲームノベルへの参加、ありがとうございます。ライターの朝霧青海です。
恥かしがりやのガラリさんの描写、なかなか楽しませて頂きました（笑）カミラさんのイタズラ、イタズラとは言ってもかなり可愛らしいものなので、ノベルの方にもそれを出してみました。楽しい雰囲気が出てればいいな、と思います。
それでは、今回は本当にありがとうございました！
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