<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>
「戯れの精霊たち〜水〜」
町を出てかなり歩いた先に、『精霊の森』と呼ばれる森がある……
腹黒同盟でそんな噂を聞いたオーマ・シュヴァルツは、早速そこに出向くことにした。
どんな場所に隠れているか分からない腹黒原石。そんな人間を見つけるためには、労力など惜しまない『腹黒同盟総帥』オーマである。
――その森は、どうやら常緑樹の森らしい。みずみずしい木々が目に優しい。
のんきに森を進んでいくと、やがてほったて小屋に行き着いた。
そこでオーマは、意外な展開に直面した。
「精霊がいるってのか? ここに?」
小屋にいた青年に、有無を言わせずこの場所へつれてこられ。
眉をひそめてオーマは、クルスと名乗った長身眼鏡青年に問うた。
「そう。泉と川のそれぞれにね。普通の人間には見えないけど」
クルスは、「僕は特殊だから」と肩をすくめる。
「ここにいるってのか」
オーマは泉を凝視する。
……泉の水面はことのほか静かで、何の気配もない。
川の流れはひどくのんびりとしていて、耳に心地いいせせらぎがそこに在るだけだ。
「それで……そいつらに外の世界を見せるために、俺の体を貸せ、ってんだな?」
「そう。彼らをその体に宿らせてほしいわけ。それでね、注意としてこれをやると彼らの特性を受け継ぐから多少の影響もあって――」
「よしきた!」
青年の説明を最後まで聞くことなく、オーマはその広い胸をどんと叩いた。
「この聖筋界ゴッド腹黒イロモノ下僕主夫親父の大胸筋セクシーボディで美筋ランデブー★してぇってわけだな?」
任せろシュヴァルツ当筋比無限大増量でラブボディをギブユー、とノリノリで大胸筋を張る。
クルスは説明するのをやめ、代わりに言った。爽やかに。
「はりきってるとこ悪いけど、あんまり汗はかかないでね。水の精霊は水気なくなると死ぬから」
「なに!?」
一瞬がーんとショックを受けたオーマだったが、
「……いや! そこんとこは愛情で充分カバーしてやるぜ!」
「あはは。精霊死なせたら僕が報復するから覚悟しといてね。筋肉抽出とかしてみる?」
またもや爽やかな笑顔。
オーマはその笑顔に、心から惹かれた。
(おおお、何という黒さ! こいつぁ勧誘しなけりゃ損だ!)
しかし今は、とりあえず精霊とやらのほうが重要だろう。
「水の精霊ねぇ……どんなやつらなんだ?」
「うーん。とりあえず川が男で泉が女、かな。無理やり人間的に言えばだけど」
「そうか……泉の女を聖筋界へご招待! ってのも惹かれんだが、先に男だな、男!」
「精霊に筋肉はないよ?」
爽やかに言いながら、クルスは「じゃあ、川の精霊セイーに決定。どうぞよろしく」
とふわりと微笑んだ。
意識が重なる瞬間はひどく重く、体やら心やらをすべてぎゅっと押しこまれたような窮屈な感覚。
しかし、ほんの数秒のことだった。日頃鍛えてあるオーマは平気な顔で復活し、頭の中にぼんやりと『いる』何かに向かって豪快な挨拶をする。
「よう! お前がセイーとかってヤツか? 俺はオーマってんだ。よろしくランデブー★」
『……意味分かんねえ……』
ひどく無愛想な、少年のような声が、頭に響く。
「自分でも言っててよく分からねえからなっ! いやー、なんつーか嬉しいもんだぜ」
『……なんで?』
「ん? まあそりゃあ後で説明してやる」
上機嫌で鼻歌さえ歌うオーマ。ふと思いつき、傍らのクルスに訊いてみる。
「こいつの声は精神感応だな。てことは、今お前には聞こえてねえのか?」
「僕は特殊だって。全部聞こえてるよ――ただ、他の人には見えないし聞こえないからね」
クルスは眼鏡をかけ直しながら、
「ま、あんまり口に出してしゃべると、ひとりでしゃべってる怪しい人に見えるだろうから、ほどほどに」
「ふっ。俺は他人にどう見られようと許せる広い心と大胸筋の持ち主……!」
「そうだね。ふだんから怪しそうだモンね、キミ」
――オーマはますますこの眼鏡青年を勧誘したくなったが、セイーを楽しませるのが先だと我慢した。
さて。
『精霊の森』を出て、まずはどこへ行こうかね、とオーマは考える。
とにかく愛する町へ戻って、それから……
『外ってヘンなとこだな』
頭の中で、感情に乏しい精霊の声。
――こいつに友達を作ってやらなきゃあな。
そう考えたオーマの頭に思いつく場所は、ひとつしかない。
「ちょうど秋祭りをやってんだ。そこに行くぞ」
『マツリ……?』
「楽しいぜ? ほら行くぞさあ行くぞ!」
そうして直行したのはオーマ行き着けの――
通称『腹黒商店街』。
今日はいつもよりも活気があった。というか、ふだんから異常に活気のあるこの場所が、さらに暑苦しくなっている。
あちこちにのぼりが立ち、垂れ幕がかかっている。ぴ〜ひょろまっちょ、ぴ〜ひょろろ。と意味不明な音楽が流れていた。
『あれ、何て読むんだよ』
セイーが訊いてくる。どうやら垂れ幕の字らしい。
「あれか? 『秋の腹黒感謝悶えアニキ祭り』」
『ハラグロ……モダエ……アニキ……?』
「はっはっは。怖がんな怖がんな! そりゃもう楽しい祭りだからな……!」
「オーマさん!」と人気者オーマに、あちこちから声がかかる。みんな決まってマッチョだ。
馴染みの顔に、「おう!」と返事をしていくオーマ。
――なぜか、不思議な現象が起こっていた。
それに気づき、オーマは嬉しそうにふっふと笑う。
「やはり。ここの連中にはお前の姿が見えてやがるなっ!」
『……んな馬鹿な』
しかし疑いようはない。友人たちはたしかに「オーマにぼんやり重なって見える正体不明な存在」にも声をかけるのだ。
『――嘘だろ?』
信じられない、というようなセイーの気配に、オーマはにやりと笑う。
「ふ……腹黒ミステリー筋の加護があるこの商店街に、不可能はねえってやつよ!」
つっこみは腹黒ナンセンス。聖筋界は無敵だ。
それからオーマは友人たちに、セイーを紹介した。川の精霊だと聞いても、彼らはまったく驚かなかった。さすがマッチョたちは一味違う。
気のいいアニキたちの他に、なぜかしゃべる人形動物イロモノ大集合のこの場所では、精霊なんぞの『異質さ』はたしかにちっぽけだ。
オーマが、「こいつもこれから俺らの仲間になんだ。よろしくな!」とセイーを紹介するたび、同盟員たちは「ヨロシク!」とむきっと筋肉を浮き出して挨拶。
「お前も、これぐらい鍛えなきゃいけねーぞ。セイー」
『………』
セイーが真剣に悩む気配がする。意外と素直だ。
商店街のあちこちで交わされる、腹黒同盟のコミュニケーション。筋肉のぶつかりあいは自然と発汗をうながしたが、商店街は湿度高く暑苦しく、セイーの体にはまったく問題ないようだ。
……別の意味で疲労しているような気配もしたが。
「おいおい、まだバテるなよ。これから屋台店で遊びに行くぜ」
『まだあんの!?』
精霊の悲鳴をよそに、オーマは絶好調で屋台へ直行した。
『美筋マニア脳天射的』
――早い話が、射的。
段差のある台にたくさん置かれた的にあてると、それに書かれた商品がもらえる。
『これ、このヘンなので射つっての?』
セイーは興味を示したらしい。そのとき、オーマは体に違和感を感じた。
射的用銃にかける指先がうまく動かない。
「……ん? もしやお前が動こうとすると、俺の体も勝手に動くのか?」
『クルスに説明されなかったのか?』
「そういや説明を聞きそびれたな。まあいい、ちょっとじっとしてろ? まず見本を見せてやる」
銃の扱いならお手のものだ。たとえオモチャであろうとも。
ぴしゅ ぴしゅ ぴしゅ
一回三発までの弾を、オーマは見事目的のものにぶち当てた。
――洗剤
――ほうき
――エプロン
よしよし、とオーマは商品を受け取り満足してうなずく。
「ありがてぇな。ほうきはこないだ一本折っちまったし、エプロンもそろそろ新しいのが欲しかったところでよ」
エプロンは大男オーマにさえぴったりの大サイズだ。どう考えても、オーマのために用意されていた商品である。
『よく分かんねえけど。それもらったら嬉しいのか、あんた』
「下僕主夫なら当然の選択だ!」
それからオーマはもう一回分の代金を払い、三発の弾を屋台の親父から受け取った。
「ほれ。今度はお前が射ってみな?」
『いいのか!?』
弾んだ声に、オーマ自身表情がほころぶ。
体が、完全にセイーの支配に切り替わった。
こうなると自分のほうがじっとしていることになる。射的のおもちゃ銃を構えるのにも苦労しているセイーに、手を貸さないよう抑えるのももどかしい。
セイーの放った弾は、二発はずれた。
そして三発目にして、ようやくひとつを打ち落とした。
――洗剤(詰め替え用)
「うおお……っ! 偉いぞ、セイー!」
主夫は涙を流さん勢いで喜んだ。
あまりの喜びように、セイーは少しひいたようだったが――やがて、ほんの少しだけ、
笑ったような、気配がした。
『ラブボディゲッチュし隊悶絶抱擁魔筋お化け屋敷』
――これは何だか、ふつうのお化け屋敷じゃなさそうだ。
色々経験させてやりたい。そう思ったオーマは中へ直行……
狭い通路。お化け屋敷らしく、どろどろ不気味に薄暗い内装。壁にはりついてんのは海草かなんかかと思ったら、
『恐怖の屋敷にいらっしゃ〜い。怖がっていってねぇ〜ん』
……水商売風の色っぽい声音でしゃべる、『苔』が混じってやがった。
『あんな苔、見たことねえよ……』
“苔”はさすがによく知っているセイーが、ぞっとしたような声音でつぶやいた。
通路を進むと、第一の扉。
わざわざ張り紙がしてある。
“この世で一番怖い鏡”
――入った先にあったのは、巨大男のオーマさえ等身大で映れそうな大きな鏡。
それを真っ向から見たとたん、オーマはうっとうめいた。
その鏡に映っていた自分の姿が――
『あん? あれ、あんた?』
鏡には映ることができないセイーが、のんきに『あんた筋肉なくなると、あんなひょろっちくなるんだな』
――鍛え上げた筋肉すべてがそげおちたような。
背だけが高い、ひょろひょろオーマの姿が、そこにあった。
「ぐおお……っ! こ、こんな姿を映し出すとは……っ!」
世界一見たくない姿だ。たしかにこの世で一番怖い鏡だ。
どんな魔法使いが作ったか知らないが、褒めてやる……いや、褒めたくない。
「知りたくなかった……あんな自分の姿は見たくなかったぜ……」
ぶつぶつと半ば放心状態で次の部屋へ向かうと、今度のドアの張り紙は、
“この世で一番怖い世界”
――なんか嫌な予感。
部屋に入ったとたん。
両側から、一斉に飛び出しおどりかかってきたのは――
「またかーーーーー!」
さっきの鏡で写し取ったのだろうか? 大量のひょろ筋オーマが襲ってくる。正体不明な水っぽい草を全身に引っ付けて。
その中に、あの水商売苔もいたらしい。
『あらん。逃げちゃいやん』
――オーマは逃げた。必死で逃げた。
本当は逃げるなんてのはシュミじゃない。しかしアレが人形なのか、それとも変装、もしくは変化した生き物なのか判別がつかない。
俺は絶対不殺主義だっ! と心の中で訴えていたが、本当はひょろ筋な自分を見たくないだけだったのかもしれない。
頭の中で、セイーがげらげらと笑っていた。
結局、お化け屋敷ではオーマが全精力を使い果たすはめになってしまった。
セイーは楽しそうだったが、「良かったな」と言ってやる気力さえなくしてしまったオーマであった。
商店街を歩き続けていると、からんからん、とよく聞く鐘の音が聞こえてくる。
福引だ。
『あれ、なにやってんだ?』
「やってみっか?」
箱の中からくじを引くタイプの福引だった。どうやるのかを説明し、
「ほれ。お前が引いてみ?」
オーマはセイーに体の支配権を貸した。
にこにこと愛想のいいオヤジが差し出す箱の中に、セイーはおそるおそる手を差し入れる。
そして、大量のくじをわしづかみにして手を出した。
『……バカ。一枚だけだっつの』
「そーなのか?」
困った顔をするオヤジに詫びを入れ、もう一度やり直す。
そして引き直したくじで、当たったものは――
『やあやあ! そこの筋肉くんに重なっているカワイイ誰かさん! 僕とデェトしないかいっ?』
熱ぅ〜い視線とともにそんなことをまくしたてる……
「人面草かよ……」
屋台オヤジからにこにこ愛想よくそれを渡され、オーマはぼりぼり頭をかいた。
人面草は、筋肉オヤジたちよりもずっと熱い――暑苦しい視線を振りまいて、道行く人間・男女構わず『お茶しましょっ』『一晩僕とご一緒しましょうハニー』と手当たり次第ナンパする。
うっとおしいことこの上ない商品だった。
『………』
セイーが黙り込んでいる。
オーマも「いいもん当てたな!」と言えず、無言のまま人面草を自分の懐にしまいこんだ。
他にもゲームは盛りだくさん。セイーに体を貸して本人にゲームをやらせれば、思った以上に楽しそうな気配がオーマにも伝わってくる。
屋台に売っている食い物はお祭りらしい多種多様さだった。ちなみに当然のごとくプロテイン配合。
モノを「食べる」経験がない精霊には、食事はかなり興味深いらしい。
『あれ、食べる。――ヘンな味。あ、あれは? そーいやあっちはなに』
……こいつはものすごい移り気だ。
オーマは呆れた。欲しいと言ったものを半分も食べきらないうちに、次のものを欲しがる。「ゆっくり全部食え。食料は逃げねえよ」と言ってやっても聞きゃしない。
おかげで、残りは全部オーマが食うはめになる。
元々体がオーマなのだから、結局すべて彼の胃袋の中なのだが。
――そういえばこいつは川の精霊だっけか。
川の流れは決して止まらないものだ。セイー自身、そういう性質なのかもしれない。
楽しい時間は早く過ぎてゆくもの……
――夕陽が落ちてくる。
「もーそろそろ、お別れになっちまうってか?」
満腹、満足。大きく伸びをしながら、オーマはセイーに語りかける。
『そーだな』
ぶっきらぼうな中の、かすかに寂しそうな声が、何だかいとおしい。
「よし。最後に出血聖筋大サービスだ」
オーマはにやりと笑う。
町から離れ、人里離れた草原へ出る。近場に人間の気配がないことをたしかめてから――
ふぅっ――
体中に力をこめる。そして――解放した。
銀の輝きが、大男の体を包み込み――そして。
オーマの姿が消える。
代わりにその場に現れたのは、翼持つ巨大な銀の獅子。
『……あんた、変貌できんのか』
セイーが驚いたようにつぶやいた。
『おう。今なら……空も飛べるぜ』
獅子の姿となって、ますますセイーの意識が近くなったような気がする。
ばさり。翼をはためかせ獅子は地を蹴った。
地上が遠くなり、空がぐんぐんと近くなってくる。
セイーがぼんやりと空を眺めている気配がする。普段、森の中からでは空がよく見えないのだろうか。
鮮やかな紅い夕陽は、それはそれは見事な色だったが――
『セイー。下、見てみろ。地上』
促されて、精霊が見下ろした地上……
穏やかな緑の草原。少しだけいかめしい形の山脈。
――世界は一色ではない。
そしてひとつの形だけではない。
言葉にできない色や形が、そこに広がっている。
彼らがいた街はひときわにぎやかな色合いを持って、そこに在る。
ソーンという世界を、夕陽が照らし、空が包み込む。
『どうだ。これが俺の愛するソーンだ』
オーマは静かに囁く。
セイーは言葉を失っていた。
獅子は笑って、翼を大きくはためかせ、ある場所の上空へと移動した。
そこは――海。
『お前は知らねえだろ。あの海が、すべての川と泉の源だ』
『………』
『ソーンの在りし想い……お前もこの世界の住人だ、セイー』
そう言ってから、オーマは感慨深く海を見下ろした。
『水は生命の源……お前は水の精霊。お前がいなきゃ、俺たちもいねえんだよなあ』
だからな、と彼は笑った。
だから、お前が自分の体に宿るなんてことが、嬉しかったんだ、と。
『………』
セイーは長い間、無言だった。
けれど、太陽が海と重なり、海の青と夕陽の赤がまじりあい――
世界が輝いた、そのときに、
ぽつりと。精霊はつぶやいた。
――きれいだな。
銀の獅子はあざやかな夕陽を、そしてやがて静かなる月光を受けて輝きながら、夜の夜中まで大いなる空を翔け続けた。
水の精霊を、宿したまま。
■□■□■
別れは名残惜しいこと。
けれど永遠の別れじゃない。
「別に、二度と同じことができないわけじゃないんだけどねえ。そんな顔しないでほしいな」
夜遅くに森に戻ってきたオーマたちを見て、クルスが困ったように笑う。
上機嫌で帰ってきたつもりだったオーマは、あん? と眼鏡の青年に「俺の顔がヘンか?」と訊いた。
「いや、キミじゃなく。セイーがね」
「………」
自分の中にいる精霊は、どんな顔をしているのだろう。それが分からないことだけが、残念だ。
分離はあっという間に終わった。
詰まるほどにあった水分の気配がぬける。完全に自分の体に戻ったというのに、なぜかこちらのほうが違和感があるように思えて、オーマは楽しげに笑った。
「ははっ。結局、俺のほうが楽しませてもらったのかもしれねえな」
分離してしまった今、精霊の姿はオーマには見えない。
なあ、とオーマはクルスのほうを見て、懐から紙を取り出した。二枚ほど。
『腹黒同盟勧誘パンフ』
「これ、お前とセイーにな。セイーに渡しといてくれっか」
「セイーに?」
クルスは眼鏡を押し上げて、「それなら直接渡したらいいよ」と言った。
「あん? どーやって」
「そこが僕の力の真骨頂でね」
クルスは川に向かって――おそらく、セイーのいる場所に向かって、指をつきつける。
ふわ……とその指先のまわりに、たくさんの光の粒が発生した。
行け。青年の囁きとともに、輝く粒がいっせいに指差す方向へと翔ける。粒子は、やがて何かの輪郭を飾るように――
――擬人化《インパスネイト》。
粒がまばゆく輝いた。
次の瞬間には、川面にひとりの少年が浮かんでいた。
「……セイーか?」
オーマはその仏頂面な少年を見つめる。人間の形はしているが、体が透き通るような水の色。
しかし、表情はたしかに分かる――
オーマは豪快に笑った。
「ははははっ! お前、何照れてやがんだ? セイー」
セイーは作り慣れていなさそうな表情で、むっつりとしてそっぽを向いた。
「よっしゃよっしゃ! お前にもこれでパンフを渡せるな。受け取れセイー!」
ずいと差し出す紙切れ。セイーは逡巡したような気配の後、手を差し出してきた。
手渡すと――
パンフはあっという間に、びしょ濡れになった。
「あちゃ」
そーかそーだな当たり前だな。頭をかきながらオーマは笑う。
「お前、分かってんなら言えよセイー」
『……自分の手で受け取ってみたかったんだよ』
無愛想をよそおっても、表情のゆるみは隠せていない。
ぐしゃぐしゃになったパンフを両手に持つセイーに、オーマはもうひとつ取り出す。
……相変わらず熱〜い視線を周囲に送りまくる、人面草。
「ほれ。これはお前が責任もって森で育てろよ」
『はっ!? 何でだよ!』
オーマはにやりと笑った。
「言ったろ? 水ってのは、どんな生き物にとっても生命の源なんだよ」
オーマは意気揚々と森から帰っていく。
その後姿を見送ってから、セイーはクルスに言った。
『……なあ。筋肉って俺も鍛えられんのか?』
「……お前、立派に教育されてきたんだなあ。セイー」
なお、本当に森で育てられることになった人面草については――
森ではナンパする相手を見つけられず、しおれ気味とのうわさがあるが、詳細は不明である。
【END】
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【1953/オーマ・シュヴァルツ/男/39歳(実年齢999歳)/医者兼ヴァンサー】
【NPC/セイー/男/?歳(外見年齢13歳)/川の精霊】
【NPC/クルス・クロスエア/男/25歳?/『倉庫』管理人】
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■ ライター通信 ■
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初めまして!初心者ライター笠城夢斗です。
このたびは初・ゲームノベルへのご参加、ありがとうございました!
遊び心満載のプレイングでしたので、本当に遊びすぎました;しょっぱなからえらく長くて申し訳ありません。
書いていてとても楽しかったですv
本当にありがとうございました!
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